連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』24杯目(吉左右/木場)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

木場駅で降りたタテル。次の目的地・吉左右まではやや距離がある。川を越え東陽三丁目の交差点を右に曲がって少し行った先、右の路地を覗き込むと人だかりがあった。

  

進んでみるとそこに、京子がいた。タテルは迷った。絶交した以上絡みに行くことはない。でも確かにあの人気アイドル京子はそこにいて、このまま立ち去るのも勿体ない気がした。恐る恐る近づいてみると、京子もタテルを察知し、列を離れタテルの方に向かってきた。
「あのさ、京子」タテルはぶっきらぼうに声を上げる。
「いいか、君の本性教えてやるからよく聞け!」

  

君は独善的で文句が多く、ハマったと思ったらすぐ飽きてリアクションうるさくて大喜利やる気ない、物知らなすぎるのに博識ぶる、○○好きとか言うけど嘘くさい、絶叫マシンは頑なに拒否する、でたらめな造語を生み出す、メイクで小さい目を大きくしてもらえたらたまたまチヤホヤされただけのおっさんくせぇ肌荒れガサツ一重低身長プリンセスだ!

  

「バーカ!」
屈し泣きそうになる京子だったが、意を決して反撃した。
「タテルくんだって本性教えてあげるから良く聞け!」

  

あなたも独善的で文句が多く、いい男ぶった自慢話が気持ち悪くてファッションセンスがゼロで、 言葉遣いも汚くてあからさまに嫌な顔をする、わけのわからない動きをする、いつもタイミング悪くて待たされる、ちょっと小説じみたもの書いてみたらたまたま上手くいっただけのこだわり強すぎポンコツめんどくさがり汗かき短足自己中豚野郎なんだよ!

  

「バーカ!」
「うわぁ!」
罵り合った2人は強く抱きしめ合い号泣した。
「ごめんよ、やっぱり京子がいないとダメだ俺…京子のその醜さが面白くて好きなんだよ」
「私もタテルくんのその醜さ、愛してる。タテルくんの食への情熱、本当に尊敬してるし」
「俺も京子の歌やダンスに対する努力、めっちゃ知ってる。だから応援したくなる。姫愛しければツギハギまで愛し、だね」
「何そのことわざ。タテルくんらしいわ」
「お並びの皆さん!俺らは世界一仲の良いカップルYouTuberだって、ここで宣言します!」
「やめてよ恥ずかしい…でもそういうところが本当に面白い」
「そろそろ閉店ですけど、お2人は並ばれますか?」
「あごめんなさい、並びます並びます」

  

閉店ギリギリまで列の延びる店。帰ってきたドラえもんをやっていた時間を含め、40分くらいの待ちとなった。
「あぁ、まくし立てたから喉渇いた」タテルは入口で水を汲みその場で飲んだ。
「タテルくん、席ついてから飲もうよ」
京子も水を汲むが、表面張力ギリギリまで入れてしまった。
「カウンターの後ろ狭いな。こぼすといけないから少し飲んじゃお」
「あれ?京子だって飲んでるじゃん!」
「ホントだ!アハハハハ」
「もう、京子ったら」2人は完全に仲良しに戻っていた。間違いなく喧嘩前より仲良い。

ラーメンがやってきた。こちらもベースは豚骨醤油で、京子が先ほど食べたこうかいぼうのものと似ている。しかしこちらははっきりと濃さがあって、でもくどさはない。麺も良質なスープを纏い一体感を生んでいた。チャーシューは特徴が薄いが、味玉は薄そうに見えてお淑やかな旨さがある。

  

「ごめんな…俺勝ってはしゃぎすぎた」
「私もごめんね…勝手にいじけちゃって」
「俺さっき西葛西でラーメン食べたけど、やっぱ物足りなくて」
「私もさっき門仲で食べたラーメン、美味しくなかった」
「京子が『美味しくなかった』なんて言うの珍しいね」
「やっぱ2人で食べるから美味しいんだ。これからはもう1人で食べない」

  

「大石田さん!」基地に戻った2人は開口一番謝罪の弁を述べる。
「ご迷惑おかけし大変申し訳ございませんでした!もう仲直りして超絶仲良しになったので安心してください!」
「いやぁ良かったです。2人とも、もうちょっと我慢覚えましょうね。じゃあいつも通り撮影と編集やります」

  

「京子です!」
「タテルです!」
「僕たちは〜キョコってる!」
「世界一仲の良いラーメンカップルYouTuber、今日も楽しくやっていきましょ〜!」
お互い嫌なところを知ってもなお同じ画面に映れる2人。伝説のYouTuberを目指し、今日もラーメンを語りゲームに闘志を燃やす。

  

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