連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』23杯目(こうかいぼう/門前仲町)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

一方の京子は冠番組『キョコーフロ』の収録(3本録り)があった。しかし案の定表情が冴えない。そこへ綱の手引き坂メンバー・ヒナがやってきた。
「京子さん、元気ないですね…」
「タテルくんと喧嘩したんだ」
「そうなんですか⁈『僕たちはキョコってる』、いつも楽しみにしてますけど」
「ヒナちゃんいっつも観てくれてるよね。でももうおしまいかも」
「そんな悲しいこと言わないでください…」目に涙を浮かべるヒナ。「早くタテルさんと仲直りしてください!」
「そうだよねごめんね…」

  

収録が始まると、京子はいつも以上に言葉数が少なかった。
「お前今日おとなしいな。誰かと喧嘩したか?」フトーフロが問う。
「めっちゃしました。一緒にYouTubeやってるタテルくんと」
「あぁラーメンのやつね。あいつホンマ鼻につくことばっか言うよな」
「マジでそう。自分のことしか考えてないんだから」
「よくやっとるわ。もうやめたらええねん」
「でもやめられないです。いつも楽しみにしてくれるメンバーの子がいるから…」
「そうなんや。なら続けりゃええやん」
「えっ、どっちなんですか?興味持ってください」
「ワシらそこまでの付き合いじゃないから」

  

「フトさん冷たすぎます、こっちは真剣に悩んでるんですよ」
「笑い生まれたからええやん。ほら、次は超大物ゲストだよ。切り替えて切り替えて」

  

2本目の収録が始まるとスタッフサイドに、明らかにスターのオーラを醸し出している、「フラッシュの点滅にご注意ください」と書かれたプラカードを持った人がいた。
「え⁈ちょっと待って!元MAPSの風間さんじゃないですか!」
「ウソ⁈ガチの大物じゃないですか!」
「あ、おはようございます。土曜夕方16:30からやっております『キャスターな風間』の番宣で来ました」
「番宣かい!」
「いやでもありがたいですこんな深夜の番組に来てくださって」
「ということで今日の企画は、『25年に渡り国民的アイドルグループを引っ張ってきた風間さんに、芸能界のイロハを聞いてみよう』です!早速ですが京子さん、何か聞きたいことは?」
「あの今喧嘩中で」
「あら、誰と?」
「一緒にラーメンのYouTubeやってるタテルさんと喧嘩してて。どうやったら仲直りできますかね?」
「いきなりプライベートの話するんだね」驚く風間。「どうして喧嘩なっちゃったかな?」
「一緒にソラマチに買い物に行って、私が服を見ていたらタテルさんがいつの間にかいなくなって。でタテルさんが戻ってきていきなりキレて」
「最低やなタテル」フトーフロが茶々を入れる。
「会計も品数多かったり商品追加したり伝票書いたりで時間かかって、タテルさんに急かされました。そこでもうカッチーンってなってお別れ」
「そんな急かすなら金払えってタテル。児嶋さん見習おうぜ。文句言わず見守ってお金だけサッと払うのがスマートやん」手厳しいフトーフロ。
「えー、払わなければダメ?」風間が疑問を呈した。「俺はタテルくんの気持ちもわかるけどな」
「えっ?」
「興味ないことに付き合うのはしんどいよ」
「たしかに!タテルくんファッションとか興味なさそう。服装ワンパターンだもん」突如納得した京子。
「まあタテルくんも一声かけてその場を離れるべきだった。タテルくんはその気持ちを表現するのが下手なだけだと思うよ」
「はい…」
「そういえば京子さんとフトさんもよく揉めると聞きました。僕自身最後は喧嘩で解散した身だからあまり偉そうには言えませんが…」

  

お互いの嫌なところさらけ出せる者同士が一番仲良いんですよ。

  

「喧嘩したってそれ絶対本気じゃないから。本気だとしたら口にするのも嫌なはずです。仲良くやってくださいとは言いません。辞めないでくれ、とだけ言っておきます」

  

「うわっめっちゃ感動しそうです」
「感動『しそう』って何やねん。してくれよ」ツッコむフトーフロ。
「いやぁ面白いねキョコーフロ。俺毎週観ます。TVerも回します」

  

次の日京子は門前仲町にいた。某女性政治家もお気に入りだという『こうかいぼう』のラーメンを食べに来ていた。お昼時で12人ほどの待ち。奥にはテーブル席も2卓あり、団体客はそちらへ回される。ついでに言えばこの店は食券制ではなく後払い制。ラーメン屋らしくないシステム達である。
「(タテルくんなら、ここでビールとか頼むのかな。私に勝って奢ってもらえる時に、調子こいてビールまで頼んじゃって、私がそれに怒って…)」

  

「毎日食べられるラーメン」と謳っているこちらのラーメン、スープのベースは魚介豚骨である。しかし味に深みがない。煮干の苦味が立っており、旨味がすぐかき消されてしまう。たまたま調子が悪かっただけなのか?珍しくネガティブな感想に支配される京子。
結果として麺もスープと調和せず、チャーシューは嫌な硬さが残っていた。ラーメンとは毎日食べるものではなく、多くて週に2杯くらいフルスロットルのものをいただくのが最高の楽しみ方ではないだろうか。

  

「(あれだけ好き勝手辛口評論していたタテルの気持ちが初めてわかった。文句言わずに食え、と思っていたけど、いなくなるとやっぱり寂しい…)」
物足りなさを覚えた京子は、西船橋方面へ向かう東西線に乗った。

  

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