連続百名店小説『もう泣かないクイズアイドル』第1問:雨の中でもクイズしようぜ!(たがた/静岡)

午前10時、静岡駅南口に降り立った、人気女性アイドルグループ「TO-NA」のメンバー・コノと特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)のタテル。
「さあ始まりました。目指せ予約困難店!プレッシャーSTEADYの旅、第2弾!」
「イェーイ!エッサッサー!」
「はい決まりました、コノのお決まりの挨拶でございます。これでいつも楽しいラジオが始まります」
「月曜の夜は是非ニホン放送で会いましょう」
「おっと番宣はそこまでだ。さあ今回は1年ぶりのクイズ修行でございます。前回は土壇場まで縺れ込みましたが見事金沢の予約困難レジェンド寿司にありつけました」
「悔しいことも嬉しいことも沢山で。何回も泣いてしまって申し訳なかったです」
「ホントよく泣いてたよね。涙腺ガバガバだったもんねあの頃は」
「あの頃は、ですね。安心してください。もう涙脆いとは言わせません!」
「おっ、いいねえ。そうなんです、今のコノは簡単には泣きませんからね」
「今回も泣きません。悔し泣きなど以ての外です」
「頼もしくて良いね。では早速ルール説明です」

  

・静岡市内にある食べログ百名店を1軒満喫する度に1問、プレッシャーSTEADYへの挑戦権を得られる。
・「満喫」の基準として、各百名店においては番組が定めたメニューを食べなければならない。
・クイズを実施する場所は1問毎にくじで決定。静岡市内の主な観光地がピックアップされている。
・出題場所に到着後、タテルとコノ以外に周りの人を6人集めたら出題。回答順はコノ→タテル→一般の方々6名→コノ→タテル。順番は適宜変えても良いがアンカーは何があってもコノかタテルにすること。
・今回の旅は2ラウンド制。それぞれのステージで条件をクリアすれば、隣の市である焼津の予約困難店にて食事ができる。
第1ラウンド 通常問題 クリアノルマ:3問 タイムリミット:2日目正午 ご褒美:なかむら(天ぷら)
第2ラウンド 上級問題 クリアノルマ:1問 タイムリミット:3日目18時半 ご褒美:温石(日本料理)

  

「日本料理!京都人としては是非食べておきたいですね」
「なかむらさんは同じ静岡県内の超有名天ぷら店『成生』から独立、早速予約が取りにくくなっている新進気鋭の名店です。そして温石さんはなんと食べログの星4.5超え!国内35軒しかない食べログGOLD受賞店でございます」
「平たく言えば、星の数ほどある飲食店の中でトップ35に入る、ということですよね。それは是が非でも訪れたい」
「その分クイズも難しくなっているかもね。心してかかりましょう。さあ早速1軒目行きましょう!開店まで20分切ってます、急ぐよ!」

  

静岡駅南口から速足で歩く2人。生憎この日は雨が降っていたが構わず線路沿いを西へ爆進する。勤労者総合会館の角を右に曲がって暫く進んだところに現れたのが最初の目的地、そば百名店の「たがた」である。

  

開店5分前に到着。列ができていてすぐさま並ぼうとしたが、コノが記帳台の存在に気付く。
「記帳してから並ぶみたいですよ」
「サンキュ!危なかった、1人だったら気づかないで並ぶところだった」

  

2人は4組目というポジション。平日の昼間で開店前から並ぶのだからやはり人気店である。開店と同時に案内されたのは先頭3組までであった。2人は中の椅子でメニューを吟味しながら待つことになった。
「ああ、次のどら焼き屋に間に合うか怪しい…」
「さっき言ってましたね、12時ら辺から焼き始めて1時間くらいしか販売してないって」
「わかんないんだよね。12時半からかもしれないし11時半からの可能性もある。これって、たがたの分のクイズを後回しにして、先にどら焼き食べに行くのアリですか?」
「ナシです。クイズを消化してから次の百名店へ行ってください」
「そっか…引いた出題場所によっては間に合わない可能性もあるね」
「待ち時間勿体無いので、先引いてもいいですか?」
「いいですよ」
「じゃあコノ、引いてください」
「任せてください!どら焼き屋さんに近いところ、お願い!…駿府城公園です」
「駿府城公園は…やった!近いよ!」
「ワンチャン行けるかもですね!」
「よし、そうなったらメニューを決めよう」

  

かけそば1杯サクッと食べて次に行きたいところであったが、ここでのスタッフ指定メニューは、2千円のたがたおすすめ蕎麦。蕎麦が2杯登場し天ぷらもついてくるため、地味に時間を消費する。

  

「こうなったら酒飲みたいな」
「え、本当に?もう飲むんですか?」
「1杯くらい、飲んだ内に入らないよ。なんかここでしか飲めなさそうなものがある」
「私は遠慮しておきます。変なミスするといけないので」

  

10分弱で席に案内され、そそくさと注文を済ませる。
「タテルさんおつまみまで頼んで、完全に晩酌モードですね」
「蕎麦屋来たら蕎麦以外のつまみも食べたいでしょ。蕎麦味噌も惹かれたけど、せっかく静岡に来たから地元産の海苔にしてみました」
「訊いてないです」
「コノ、クイズも勿論大事だけどこれはグルメツアーだ。地元の美味いもの沢山紹介してこそこの企画が成立する」
「…羽目外しすぎないでくださいよ」
「そう簡単には外れないから、安心して」

  

タテルの選んだ静岡生海苔の佃煮。上には小さい板海苔が覆い被さっている。市井の海苔とは段違いの香り高さに惚れ込む。

  

そこへ美裡という日本酒が登場。実はこの店の主が酒蔵と協働開発したものであり、米も拘り抜かれた地元産ササニシキを使用。口当たりはさらっとしつつも辛口の喉越し。米の旨味がその中に確と溶け込んで居る。

  

「コノはクイ筋力、鍛えてきた?」
「クイ筋力って何ですか?」
「至極真っ当な問いだね。俺が今勝手に作った言葉だから」
「そりゃわかる訳ないでしょ!クイズの対策ならしてきましたよ。静岡だから魚介類の漢字、問われそうだと思って予習しました」
「なるほど、当たりをつけた訳ね。良い作戦じゃない?」
「良かった!あと静岡に纏わる偉人も調べました」
「予想通りの問題、来るといいね」

  

ここで塩が2種類運ばれる。蕎麦用の塩はイタリア産、天ぷら用の塩は静岡産と使い分けているらしいが、塩の違いを解ろうとする心の余裕は無かった。

  

最初に登場したのは、蕎麦粉で揚げた野菜天ぷら。蕎麦粉による餅感が野菜に少し載る。素材よりも衣との一体感を味わうつまみである、とタテルは捉えた。

  

間も無く1品目の蕎麦が登場。福井産の蕎麦粉を使ったもりそばである。何もつけずにささっと戴くと、やはり蕎麦の香りがちゃんとあって良き。塩をつけると甘みが出る。一流の蕎麦のセオリーに忠実な仕上がりとなっている。
「蕎麦打ち名人のコノ、この蕎麦はどうだ?」
「そりゃもう自分のと比べちゃダメですよ。蕎麦の香りが心地よいです」
「つゆとかつけないで完食しちゃうね」
「いや、つゆも使いましょうよ。せっかく用意して下さったんですから」
「冗談冗談、つゆも使うよ。ほんのちょびっとつけて、濃口の出汁の香りを麺に埋め込むイメージで」
「どっぷりはつけないんですね」
「つけないよ」
「私も同じです」
「気が合うね。みんな平気で浸すから辟易してたんだ」
「タテルさんは素材原理主義者ですもんね」
「そうなりつつあるかな。まあ今回のゴールは和食だから、素材を味わうつもりでいるべきだろう」
「任せてください。わたし京都の女なので」

  

2品目の蕎麦は黒姫産蕎麦粉の蕎麦を冷かけに仕立て、そこにシーズンが始まったばかりの生桜海老を載せた一品。蕎麦の香りはマスキングされているようだが、海藻の滑りによりつゆにとろみがついていて蕎麦によく絡む。桜海老もほのかに甘みがあり、春の到来を実感する。

  

「よし、お会計をしよう。クレカでタッチ決済…およよおよよ」
「手元震えすぎですよ。焦ってます?」
「そうみたいだな。一旦深呼吸して…」

  

何とか会計を済ませ外に出ると、雨脚が強まっていた。駿府城公園まで1kmの道のりを、靴下を濡らすのも厭わず爆進する。

  

「桜咲いてる!お濠の色とのコントラストが美しいですね」
「泣いてない?大丈夫?」
「ここははい、大丈夫です!」
「前回ね、まだ最初の店に着く前なのに海見て泣いてたから」
「感受性は失ってませんけど、流石に涙流す訳にはいかないですよ」
「良い心掛けだ。じゃあ公園の中に入るか」

  

幸い雨脚はだんだんと弱まり、人を集めようとする頃にはすっかり止んでいた。クイズに参加する一般市民には1人1,000円の商品券が支給される。恥を晒したくないと尻込みする者もいたが、人の多い場所であったためあっという間に参加者6名が集まった。

  

第1問 国語 魚の読み方を答えなさい
「予習したところだ!これは激アツ!」

  

①金魚
②飛魚
③秋刀魚
④太刀魚
⑤岩魚
⑥柳葉魚
⑦細魚
⑧氷下魚
⑨年魚
⑩馬鮫魚

  

「⑥で。ししゃも。やった!」
「じゃあ⑦。きやまゆうさく」
「ボケないでください。神連チャンの観すぎです」
「失敬。したかっただけだ。真面目に⑩、さわらです。よっしゃ!」
ボケ回答をしておきながら、いきなり超ファインプレーをかましたタテル。やはりコイツは只者ではない。

  

その後も一般市民がファインプレーを連発。①⑨を残してコノのターン。
「⑨を1回だけ試してみます。いわし。ああ違うか。じゃあすみません①できんぎょ!」
「いやぁわかんねぇな⑨。まあ試してみるか、あゆ」
これがなんと大正解。第1問を見事クリアした。
「タテルさん、もしかしてわからないフリしてました?」
「してた。アユの漢字は5通りあるからね、全部押さえておいたよ」
「すごい…香魚でアユ、はわかっていたんですけど、一枚上手でしたね。サワラもびっくりです」
「あれはたしか山下真司さんが読めなくて悔し涙流した漢字、ということで印象に残ってる」
「強すぎます。アンテナの張り方から違いますね」
「西大后の漢字オセロ観てた身からすりゃ余裕っすよ。次はどんな難問で鼻高々になれるか、楽しみっすね〜」
腹立つほど余裕綽綽の態度をみせるタテルであった。

  

その他正解
②とびうお ③さんま ④たちうお ⑤いわな ⑦さより ⑧こまい

  

NEXT

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です