連続百名店小説『みちのく酒びたり』第9陣(村上屋餅店/五橋(仙台))

女性アイドルグループTO-NAの特別アンバサダー・タテルは、メンバーのカコニと共に東京テレビの旅番組に出演する。JR東日本のフリーきっぷ「キュンパス」で各地を回り、浮いたお金で食事などを楽しむご褒美のような企画。
☆旅のルール
1泊2日の旅で支払った金額(キュンパスの代金除く)の合計が、キュンパスにより浮いた運賃と±1000円以内であれば旅の費用全額を番組が負担。±5000円以上であれば演者が(キュンパス含む)全費用を負担。ただし移動の運賃は一切調べてはいけない。

  

盛岡駅に到着し、在来線(田沢湖線)ホームから新幹線ホームに乗り換えるという貴重体験を遂行する。はやぶさに乗り込み、仙台までは40分弱の乗車である。

  

「カゲとカコニにクエスチョン。将棋の八大タイトルのうち、現在最も多くのタイトルを保持しているのは」
「藤井聡太さん!」
「ですが、囲碁の七大タイトルのうち、現在最も多くのタイトルを保持しているのは?」
「囲碁はわからないですね。カゲさんはご存じですか?」
「えーっと、井山裕太さん」
「言うと思った。残念、今は二冠で2位です」
「あちゃ〜、アップデートできてなかった」
「正解は、これから会いに行くとしましょう」
「最強の囲碁棋士が、仙台にいらっしゃるんですか?」
「会わせていただけるんですね。それは楽しみです」
「実はその人と俺、浅からぬ関係があるんだ」
「えっ⁈どんな関係なんだろう…」

  

定刻より遅れて15:45、仙台駅に到着。ここからずんだ餅の名店「村上屋」までは約1kmの道のりで、その途中にある河北新報本社に寄り道する。

  

そこに居たのは、2025年4月18日現在七大タイトルのうち4つを保持している囲碁棋士・一力遼 棋聖 名人 天元 本因坊。棋士の傍ら、一族の経営する新聞社「河北新報」の記者としても活動している。そんな一力四冠、実はタテルの中高の同級生である。
「そうなんですか⁈」
「はい。学校に行けない日が多くて、あまり話したことはないんですけど」
「中学の時から前途有望なスター棋士だったからね、そりゃ大忙しよ。偶に来ても俺の分際では話しかけられない」
「いやいや、タテルさん学校ではすごく人気者だと伺っていました」
「人気者だったんですねタテルさん」
「そうなのかな。まあ好き勝手ばっかしてたけど」
「タテルさん、高校の時は何度かお話ししたことありますよね」
「しましたね。俺の一番の友達は将棋ができて、そこきっかけで喋ったことは。まあ全く他愛もない話でしたけどね」
「同級生が囲碁のトッププレーヤーだなんて、鼻高々ですね」
「本当に自慢の同級生なので。以後お見知りおきを。囲碁だけに(笑)」

  

少し場が冷えたところでボーナスチャンス「囲碁ボール」が発動する。五目並べとゲートボールを組み合わせたニュースポーツ。公式ルールはもう少し複雑であるが、今回はシンプルに五目並べのルールそのままで実施。タテルチームと一力四冠、先に五連を作った方が勝利。それぞれが10球ずつ打っても決着がつかない場合はその時点でより長い連を作っていた方の勝利である。タテルチームは勝利すれば5万円、負けた場合はその時点での最長の連が四連なら1万円、三連なら5千円、それ以外ならボーナス無しとなる。

  

ゲートボールが下手すぎて泥仕合になることを避けるため、3回ほど練習を行う。
「狙った位置にボールを置くのが難しいですね」
「五目並べが得意でもゲートボールの感覚が掴めなければ勝てない。半ば運ゲーですね」

  

いざゲームを始めてみると、タテルチームはカゲが司令塔となってボールの配置を指示するがその通りに嵌まらない。一方の一力四冠も思い通りにボールを置けない。互いに9球打ち終え、両者共に三連がやっとという状況である。
「あの玉を奥に押しやったら、私たち五連になりますよ」
「ここ決めたいね。よし、俺に任せろ」

  

「しまった、力加減がバカすぎた!」
せっかくできていた三連を崩してしまい、壁に突っ伏し落ち込むタテル。
「はあぁ〜ごめん!ホント申し訳ない」
「まだわかりませんよ」

  

願いも虚しく、タテルチームは記録二連で敗北。ボーナスは獲得できなかった。それでも最後は笑顔で、一力四冠の苗字に因み人差し指のみを立てるポーズをして記念撮影である。

  

「カコニの『1ポーズ』、なんかジワるね」
「ファミレスで恥ずかしそうに『1人です』と店員に伝える女」
「真面目な人だから余計に。それにしてもこうして同級生と会えるなんて、感無量ですよ」
「タテルさんもご立派になられて。お会いできて嬉しかったです」
「気軽に言うことでなかったら申し訳ないけど、七大タイトル全制覇目指して頑張ってください!」

  

河北新報本社を後にし、急いで村上屋へと向かう。次の店の予約時間を鑑みて、スタッフが一足先に行って列に並んでいた。
「すみませんね、東テレの旅番組でスタッフをこき使うなんてタブーを」
「本当ですよ。でも今から並んでたら絶対に間に合わなかったです」

  

平日夕刻にも関わらず、持ち帰り・イートイン双方に行列が発生。3人の目当てであるイートインはテーブル4卓のみ(しかもうち2卓は2人用)であり、かなりの待ちを覚悟しなければならないのである。
「20分待ちました。まもなく空きそうですよ」
「ありがとうございます。並んで下さったスタッフさんには餅奢ります!」

  

一方イートインの一行は3種類の餅を楽しめる三色餅を注文。客が同じタイミングで入れ替わり注文のタイミングが被ったため、提供までは少し時間がかかる。
「サインがたくさん飾ってありますね」
「俺たちもサイン書こうか?いらないかな?」
「サインですか?欲しいですお願いします!今色紙持ってきますね〜」

  

サインを書き終わったところで餅の登場。まずは仙台ならではのずんだ(この店における正式表記は「づんだ」)から。豆感と青みのあるずんだ独特の味わいが堪らない。粗挽きかつ量もたっぷりで、それを弾力のある餅が確と受け止める。

  

それ以上にタテルの心に残ったのはくるみ餅。みたらしのような旨味と透き通ったフルーティさが共存しており、胡桃という食材のポテンシャルを活かした餅となっている。
これらと比較するとごま餅は霞んでしまう。黒胡麻はドロっと仕上げてもらった方が力を発揮しそう(出来るのかな?)。

  

「ふぅ〜、これは良い店に来ましたね。仙台の顔、と言って間違いないでしょう」
「持ち帰りたいくらいだな。でも硬くなっちゃうもんね」
「また仙台に来たら食べに行きましょう」
「そうだな。あ、もう5時10分前、ちょっと急がないと!」

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です