連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』20杯目(黒須/神保町)

*このお店は現在閉店しています。

  

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。
ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

アイドルとしての京子はもちろん好きだが、タテルが一番知ってもらいたい京子の魅力は歌である。どうにかして京子の声の素晴らしさを皆に楽しんでもらいたい、なんてことを考えていると対決の時間がやってきた。

  

「次の対決は体内時計10秒ピッタ止めです。ストップウォッチのスタートボタンを押して目を伏せ、10秒だと思ったタイミングでストップボタンを押してください。10秒に近かった方の勝ちです」
「来た!私の得意分野」
「俺勝ち目ないじゃん」

  

先攻はタテル。記録は10秒59であった。
「まあこんなもんじゃね?できれば50は切りたかったけど」
そして後攻、京子。
「記録は…」

  

10秒02!

  

「無理だってこれ。凄すぎでしょ」
「ということでタテル、本日2度目のお支払い!」
「あ〜あ、これでまたフレンチ1軒諦めだ…」

  

ランチタイムのピークを少し下るくらいの時間だったため、40人ほどの大行列を避けることはできなかった。遅い時間を狙えば待ちなく入れることもあるが、いずれにせよ2人でいれば、話す内容が尽きない限り何時間でも待てそうな気がする。
「京子がアイドルを楽しんでるなんて意外だ」
「え?どうしてよ?」
「キミって一匹狼っぽく見える。だからすぐ辞めてソロ歌手になるのかな、って」
「いやいや、グループでいた方が居心地良いな。それよりタテルくんの方が一匹狼ぽくない?相方のO-JIMAさんと一緒にいるの、見たことない」
「コンビでのオファーがないから、あまり一緒に仕事しないんだよね。俺にはグルメの仕事が来るし、オージマにはヨガの仕事が来る。ホンジャマイカみたいな感じ」
「じゃあもしかしてタテルくん、オージマさんよりも私といる時間の方が長い?」
「その通りだな」
「…なんか複雑」
「そういえば最初、京子の方から俺に声かけてきたよね?どういう意図だったの?」
「ラヲタ友達が欲しかっただけ。ラーメン好きなメンバーがいなくて寂しかったから。でもまさかYouTuberになるとは思わなかった」
「トップアイドルの京子と2人でYouTubeやれるなんて、正直夢見心地。声かけてくれて嬉しかった」

  

そうこうしているうちに順番が回ってきた。タテルが頼んだのは焼豚塩蕎麦。右に添えられた牡蠣のペーストは、常盤台のスープメンを彷彿とさせる。薄切りの焼豚としなやかな麺が一流の一体感を生む一方、スープの力が弱く感じた。牡蠣のペーストを溶かせば当然牡蠣の旨味がスープを支配するが、それでもコスパを含めたスープメンの衝撃には勝てない。外国人の店員はあまり気がきかないし、行列に並んでまで食べる1杯とは思えなかった。

  

帰り際、タテルはチャンネル登録者数10万人突破記念としてあるものを発注した。1週間後、その「あるもの」が基地に届いた。
「ジャーン!梅グループで『カラオケ十八番』買いました!」
「え⁈すごい!」
「これで京子の歌声を視聴者に届けます!」
「めっちゃ嬉しい!実はあの後改めて考えたけど、いつかは立派な歌手になりたいなって」
「おっ」
「中森明菜さんや松田聖子さんみたいに、アイドルとしても歌手としても一人前になりたい。やっぱり私、歌が好き!」
「いいねその心意気」
「じゃあ次の対決は、カラオケ対決!」
「おいおい、また俺負けるパターン」

  

しかしこのカラオケを巡って2人の関係に危機が訪れることを、2人はまだ知る由がなかった。

  

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