連続かき氷小説『アイツはゴーラー』4

不定期連載『アイツはゴーラー』
アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(25)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(19)を誘い出し、美味しいかき氷探しの旅を始めた。

主演舞台を見事に務め上げたマリモ。スケジュールに余裕が生まれ、タテルとのかき氷旅は本格的に再開した。
「タテルさんって足立区に住んでいますよね?」
「そうだけど」
「足立区にいいかき氷屋さんありますよね」
「ああ、椛屋とか?」
「そうです椛屋さん。そこ行きたいです」
「いいけど…足立区なんかに来てくれるの?」
「何を心配してるんですか?」
「荒川以北の足立区は修羅の巷よ。都心のお嬢様には危なすぎると思う」
「そんな危険な街なんですか⁈」
「外務省から退避勧告が出てる」
「冗談よしてくださいよ。行きますよ全然」

お嬢様マリモには全く縁のない街、足立区梅島。駅に降り立ったマリモを、1台の車が拾う。
「タテルさん、車運転するんですね」
「一応免許は持ってるからね。でもだいぶ久しぶりの運転だ」
「大丈夫ですか…?」

南に下ること約800m。買い物の予定もあったのでショッピングタウンカリブに車を停め店に向かう。
平日だったためそこまでの混雑ではなかった。並んでいる間にメニューを決め、入店時に現金またはPayPayで会計する。この店の名物はフルーツ盛りだくさんのかき氷。白桃やマンゴー、パインといった夏の果実が名を連ねる。さらにミルクやヨーグルト、杏仁といったベースも選べる。迷う2人。
「俺はパッションフルーツが気になるな」
「面白そうですね。でも私は白桃にします」
「いいチョイスだと思う。でベースはどうする?俺は杏仁にする」
「じゃあ私も杏仁で」

かき氷屋といえば全体的に空調が弱めだが、ここは特に弱い。というか無いに等しい。暑い中、かき氷を待ちわびる気持ちがはやる。
「足立区危ないって言ってましたけど、今のところ全然大丈夫じゃないですか」
「油断すると危険がやってくる。気は引き締めておけよ」
「どんな危険があるのですか?」
「自転車が多いとこ。みんな自分の世界に入り込んで漕ぐから平気でぶつかってくる」
「それうちの近所でもありますよ」
「みんな電話口で怒鳴ってるとこ。足立区民は理性より感情が先行する」
「いやいや…」
「夜の公園では根性焼きが行われる」
「根性焼き?」
「火のついたタバコの先端を皮膚に押し当てるんだ」
絶句するマリモ。
「近所の公園では未だ平然と行われているぜ」ゆっくり解説の魔理沙のように淡々と喋るタテル。
「急に怖い話、やめてください」
「それが足立区というものさ」

恐怖で寒くなってしまったところにかき氷がやってきた。まず杏仁ミルクだけかかった部分を掬う。
「うわっ!口溶けいいですね」
「ホントだ。杏仁の味も濃くて、これ単体で食べ切っちゃうよ」
タテルは続いてパッションフルーツをかける。しかしこれがものすごく酸っぱかった。杏仁の甘さを以てしても消せない酸の強さに、顔を歪めてしまう。

一方のマリモも悩んでいた。上に載った桃のせいで、真ん中をくり抜き外側の氷を中央に寄せて食べるという作戦が通用しない。おまけに皿の縁が低く、これでは外側に崩落する危険性が高い。結局マリモはまた雪崩させてしまった。

「いやあ今日は難しかったね」
「美味しかったけど、まだまだ理想のゴーラーには程遠いですね」

カリブに戻り買い物をする2人。
「マリモちゃんこういうところ来ないよね」
「そんなことないですよ。私そこまでお嬢様じゃないです」
「そういえばキャビア食べたことないとか言ってたよな」
「高級なものはあまり食べません。タテルさんとは違うんで」

「おいテメェ!何だその態度は⁈」突如こだまする客の罵声。足立区名物、店員に対する公開処刑である。
「マリモ、これが足立区の脅威だ。周りへの迷惑を顧みない人でなしの自己満。俺らの心をすり減らすガ○ジだ」
「タテルさん、口汚いですよ」
「すまんすまん、足立弁が出てしまった」
「何ですか足立弁って。やめましょうよそういうの」
あのアイツですら苦言を呈するコイツの自虐ネタ。

「この辺にもう1軒ありますよね、かき氷食べられるところ」
「あぁ、ケーキ屋さんのかき氷?」
「そうです!」
「俺も昔はよく行ってたな。久しぶりに行くか」

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