妄想連続百名店小説『彩とLOVE AFFAIR』1.Aja(クイーンアリス/みなとみらい)

グルメタレント・TATERU(25)が、モデルとしても活躍するアイドル・彩花(24・綱の手引き坂46、通称「アヤ」)と繰り広げる、夢のような禁断の横浜デート。全7話。

  

ベイ横浜ホテル東急の地下。タキシード姿のタテルは衣裳室の前で待機していた。
「ねぇまだ?もしや立てこもろうとしてないでしょうね」
「ソンナコトナイ!もうちょっとだから!」
「11時半だからね予約の時間」

  

「お待たせ!」

  

空色のドレスに身を包んだアヤのお出ましである。
「うわぁ!めっちゃ素敵!さすがアヤ、ドレスが似合うな〜」
「褒めてもらえて嬉しいです」
「ダメだ俺もうノロけそうだ…」
「しっかりしてくださいよタテルさん」
「いけねいけね。それではキミを、アリスの世界へとお連れしましょう!」

  

エレベーターで3階に行くと、不思議の国への入口が見えてきた。
「さあアヤ、入るんだ」
夢の中へ入っていく2人。モデルとしても評価の高いアヤは、立派なドレスを備え鬼に金棒であった。既に夢の中にいた人々から、羨望の眼差しを向けられる。
「わぁ、スーパーモデルのアヤだ!顔小っさ!カワイイ〜」
「でも後ろにいるのは誰?ぶっさいくだな、アヤちゃんの邪魔になってる」
「だいたいアリスの世界でパパ活すな」
タテルは酷い言われようだった。ここは夢の世界ではなかったのか。

  

「これがメニュー。プリフィックスコースっていうやつで、前菜・魚料理・肉料理・デザート、自分の好きな品を選べる」
「なるべく量が少なくて、カロリーが低いやつがいいな…」
「夢の中で美意識なんか持ち出すな。好きなもの食え、そうした方が思い出になるぞ」
「タテルさんは気にすることなんて多くないから…」
「いいんだいいんだ、自分の好きに正直になるんだ。思う存分食ってくれ」
「タテルさんの熱には負けるわ。食べたいの食べる」

  

「互いに選んだ品、内緒にしてみよう。カブったら面白いね」
そうして選んだ前菜は、2人ともサラダであった。結局健康志向のチョイスでカブった2人。

  

「あ、めちゃくちゃ美味しい!はかた地どり、薄いように見えて旨みが濃い!」
「ドレッシングは芥子入り?めちゃくちゃ鶏と合う!」
「またクルミと揚げじゃがいもの食感がいいね」
「エビも身が締まってていいね。これ毎日食べていれば、カニちゃんみたいな人気モデルになれるかも」
「キミならなれるさ」
「嬉しい!あ、下には野菜がいっぱい!ブロッコリーにインゲン、スナップえんどう、葉物…」
「みんな違った『青さ』がある。アンミツさんが『青って500色あ・る・の』って言ってたけど、その通りだなぁって。アヤはどの青が好き?」
「私はインゲンかな」
「俺もだ。ブロッコリーやスナップえんどうはちょっと我が強い。まあそういうアンバランスも含めて、この品は芸術なんだよな」
桃のカクテルを手に、2人はサラダの素晴らしさを捲し立てた。

  

次にやって来たのは、スモークサーモンを浮かべたヴィシソワーズ。夢の中で飲むヴィシソワーズは、朧げな味で印象には残りにくい。

  

続いて魚料理。2人はまたしても、鱈のパン粉焼きブイヤベースソースで選択が一致した。鱈は厚くふっくらとした身ではあるが、淡白であり味が染みない。上部のパン粉焼きと一緒に食べれば味がつくが、それがないと無味である。夢と現実のはざまに返されたかのような朧。

  

「アヤ、スマホは料理の写真撮るときだけ!」
「ごめんなさい」
「ここ夢の中だから」
「ついエゴサしちゃって。私のこと執拗に+▼☆▲とか言ってくるアカウントあるんですよ」
気になったタテルはアヤのスマホを覗きそのアカウントを確認する。最初こそ胸が締め付けられたが、一呼吸置き冷静に事を分析する。
「それってさ、絶対君のこと好きで言ってるよね。本当に嫌いなら無視するはず。だいいちキミのどこが+▼☆▲なんだ。本気でそんなこと言う奴いたらおつむ△×□だろ」
「…」

  

肉料理が来た。牛フィレ肉が2皿だ。
「あ!またそろった!」
アヤはアリスからアナへと変貌した。
「2人だからぁ〜」
「とびらあけてぇ〜…ラララ」

  

「お、ちょうどいいお肉の柔らかさ。ブランド牛じゃないけど美味いや」
「わさび味がいいですね。安心します」
「ペンネは普通かな。あれこのトマト、めっちゃエスニック!」
「トムヤムクンの味しますね」

  

最後はデザート。アヤはモンブラン、タテルは謎の品を頼んだ。
「タテルさんのなんだろう?」
「あコレ?ぜんざい」
「ぜんざいいくんですね。タテルさんらしいな」
「どういうことよ?」
「変わり者が好きなんですよね?絶対これ選ぶと思ってました。他の選択肢は全部『家でも食える』とか言うんでしょう?」
「惜しい。『ケーキ屋で買える』だな」
「そんな変わらないじゃないですか!結局タテルさんが一番現実主義…」
「ほら早く、栗の味が飛ぶぞ」
タテルは会話を無視してぜんざいを食べる。

  

「小豆の代わりにレンズ豆か…豆の皮が食感のアクセント。ベタベタした甘さがないからフルーツとよく合う。ココナッツジェラートを合わせるのも最高だ」
「タテルさん嬉しそう。いつもジョプチューンで怖い顔ばっかしてるのに、さすが高級店パワー」
「マンゴスチンはキミにあげる。モデル界の『女王』になってほしいから。俺はしもべの洋梨でいい」
「初めて食べますマンゴスチン。…味よくわからない」
「冷凍ものだからな…雪の女王はムリだ」

  

夢の時間が果てる。アリスの世界ともお別れだ。
「はぁ、終わっちゃった…このドレスともおさらばね」
「ここからはもう現実だ。いっぱい仕事して、お金たくさん稼いだら、また夢の世界が待っている。違う夢を毎日のように見れたら、楽しくない?」
「そうね、頑張るわたし」
「んでアヤ、この後はどうするつもりなんだい?」
「メイと遊ぼうかな、と思ったけど…」
「夢の続き、見たくないか?」
「え、どういうこと?」
「あんなこと言ったけど俺、正直まだ夢を楽しみたい。キミと一緒にいる、というその夢を」
「タテルさん…いいよ、付き合う」
「やった!うれしいたのしい大好き!今夜はホテルで▼△*+×□▲☆しよう」
「何それ意味不明。まさか変なこと企んでないでしょうね」

  

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