連続百名店小説『海へ行こうよ』Sixth Step:gravity(タンハー/高座渋谷)

売れないグルメタレント・TATERU(25)が、綱の手引き坂46のメンバー・ヒヨリ(20)と共に、小田急江ノ島線沿線を歩きつつ名店を巡る『鉄道沿線食べ歩き旅』。

  

「高座渋谷駅はすぐ近くを東海道新幹線が走っています。見えるかな?あぁ、防護壁で見えないか…」
鉄道好きとしてのリポートを忘れずにするタテル。一方のヒヨリはボーッと歩くのみだった。
病院を越えちょっとした緑を越えNGスーパーを越えると大きな団地が現れた。異国情緒にあふれるいちょう団地。こんなところに百名店があるとは到底思えない、と思うのは人間の性である。敷地を横切り辿り着いた店は、店というより小屋であった。中にはベトナムの食品が所狭しと並べられていて、中央に置かれた大きなテーブルで食事をいただく。

  

ヒヨリの顔色は一段と悪くなっていた。タテルは某戦場カメラマンも命を救われたというファンタオレンジを棚からとってヒヨリにあげた。
「食欲はあるか?」
「あまりないです」
「とりあえずフォーとチャーハンのセット頼むから、ちょこちょこずつ食べて」

  

レジにいるベトナム人店員に注文を伝えるタテル。少し近寄り難い雰囲気がして躊躇ったが何とか伝えられた。一方のヒヨリはテーブルに突っ伏したままだった。

  

タテルはベトナムコーヒーを飲む。氷が多くて飲んだ気があまりしない。そしてまもなく生春巻きとフォーがやってきた。

  

生春巻きはレモングラスか何かの香りを効果的に使い野菜のフレッシュさを引き立たせている。エビと肉が入っているので物足りなさもないし、濃い味噌ダレとフライドオニオンで深みが生まれる。ただのサラダ以上に存在価値のある生春巻きである。
フォーは薄味で塩分補給には向いていない。卓上の調味料で味変を試みたが、ヌクマム(=辛いナンプラー)はニオイが独特で少し戸惑った。それでも牛肉にはちゃんと味がついていて、結果的には美味しかった。

  

今どきギャル女子としての威厳にかけて生春巻きこそ1切れだけ食べたものの、フォーには手が伸びないヒヨリ。いよいよ危険ではないかと思いつつも、やはり頑なに大丈夫だと言い張っていたためタテルは何もできなかった。

  

遅れてチャーハンがやってきた。1粒1粒が際立っており、中華のチャーハンとしてもレベルは高い。そこにフライドオニオンの食感と香ばしさがプラスされさらに美味しい。こんな場所でいただける代物とはとても思えないのである。

  

とても大丈夫とは言えないヒヨリだったがこのまま旅を続けることにした。長後駅までの道のりはこの旅史上最も難解で何回も道を間違えてしまった。余計な歩きが頻発したことにより、長後駅に着くとヒヨリはついに限界を迎えてしまった。タテルはヒヨリを近くのベンチに横たわらせる。
「熱を逃がしたいから靴と靴下脱がすよ…えっ⁈靴擦れしてるじゃん」
「ずっと痛かった…」
「何で早く言わないの!こりゃ完全に熱中症だよ」

  

病院に行って手当てを受けるヒヨリ。タテルとスタッフは当然医師に叱られる。
「何で無理させたんですか⁈」
「言っても聞かないんです」
「明らかに調子悪いんだから、無理にでも連れて来ないと。それにこの靴擦れもひどい。この状態だと重篤な感染症引き起こしますよ」
「…」
「あなたたちのやったことは、一歩間違えれば見殺しです。本人がどうとかじゃない」
何も言い返せないタテル達。

  

幸いヒヨリは回復し、その日のうちに帰京することも叶った。さらに帰京サイコロを振ると2が出たため、前のような厳しい縛りもなくなった。しかし海までは未だ遠い。

  

ゴール江の島まで15.1km

  

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