連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.008:ノーブルのおさむらいさん(バー ノーブル/関内)

ヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ(cv.レジェ)。ポケンモマスターを夢見て旅を始める。最初の手持ちポケンモになったのは、優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴ(cv.タテル)であった。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ムゲンシャ(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)

  

スミレのポケンモ達は普段家でどう過ごしているか、覗いてみよう。ムゲンシャは基本的にカビンゴの腹の上で、スーミュラは基本的にスミレと同じベッドで寝ている。一足先に起きたスミレが朝9時くらいにポケンモ達を起こすのだが、ツンツンしたり「付き合おう」と言ったりするなど、ぶりっ子タイプの技を駆使する。昼間はポケンモハントに勤しみ、帰ってくるとカビンゴは足だけ洗って家に上がり寝る。夕食の時間になると食べ物の匂いを嗅ぎつけ起きて、スミレ一家・他のポケンモ達と共に食事をする。その後カビンゴは眠そうにしながらもスミレに体を洗われ、小屋に入って一足先に眠る。でもスミレがしきりにちょっかいを出してきて、その度にカビンゴは夢の中でエロスに触れ恍惚の表情を浮かべる。

  

このように、スミレは手持ちのポケンモに愛情をたっぷり注いでいて、それは良いことではあるのだが心配な点もある。ポケンモトレーナーを始めて1ヶ月が経とうとしているのに、手持ちポケンモが3匹というのはかなり少ないものである。
大抵のトレーナーはこの時期に6匹集めてチームを編成し、トレーナー歴半年未満の人たちが最初に参加する公式ファイト「ビギナーズコンペ」に向けた準備を進める。トレーニングを積んで、進化できるポケンモは進化させておかないとコンペを勝ち抜けない。だがマイペースなスミレはファイトのことなど気にもしていなかったようである。

  

ある日、夕食を終えて寛いでいたスミレにママが声をかける。
「スミレちゃん、ビギナーズコンペに出すポケンモ、そろそろ確保しておいた方が良いんじゃない?」
「ホントだ。ここ最近キューティーコンクールのことばっかり考えてたから…」
「スミレちゃんは争い事とか嫌いだもんね。でもファイトを経験しないと、ポケンモちゃんは退屈しちゃうわよ」
「そうだった。ちゃんと準備しないとだね…」

  

するとカビンゴがすっくと立ち上がる。
「僕、カクテルが飲みたいンゴ」
「いきなりどうしたの?」
「バーにはダーク派のポケンモがいるンゴ。マジカル派対策にうってつけンゴ」
「ビギナーでダーク派持っている人って珍しいし惹かれる。でも私まだ18歳なの。バーに入ることはできない」
「じゃあママが行こうか?カビンゴちゃん、それでもいい?」
「問題ないンゴ。スミレママさんも僕の大事なトレーナーだンゴ」
「ありがとうカビンゴちゃん。そしたらどこがいいかな。この辺たくさん名店があるんだよね。シーガーディアンクラブ、スリーマティーニクラブ、カサブランカクラブ…」
「少し離れたとこだけど、ノーブルクラブが一番評判良いみたいね」
「ノーブルいいじゃん。あそこはお侍さんがいるんだよね」
「お侍さん?」
「そうよ、すごくシェーカー捌きの良いお侍さんがいるの。カッコいいポケンモ揃いのダーク派だからね、トレーナーさんもそれなりにクールなのよ」
「よし、ノーブルに行ってらっしゃいカビンゴちゃん」
「ンゴ!」

  

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スミレ役のレジェが、スミレママの声も兼任する。
「レジェは何もかもがお母さん似だよね。甘々な声色、優しい雰囲気、お嬢様らしい所作…」
「そうですね。劇中のスミレママ、本当のママみたいですごくシンパシー感じます」
「スミレとスミレママ、どうやって演じ分ける?このセリフ言ってみてよ、『カビンゴちゃん、お侍さんがいるよ〜』ってやつ。仮にスミレちゃんがバーに行ってたとしたらどう発声する?」
「ほらほらカビンゴちゃん、お侍さんがいるよ〜」
「でも実際はスミレママが行きました。はいアクション!」
「ほらほらカビンゴちゃん、お侍さんがいるよ〜」
「同じじゃねぇか!」
「ごめんなさいごめんなさい!キャラが似通っているもので…」
「何の問題も無し。同じの方が可笑しくて面白いじゃん」
「それなら良かったです!」
「よし、じゃあ続きいってみよう」

  

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夜のカンナイタウンに繰り出したスミレママとカビンゴ。気温が低かったため、カビンゴもジャケットを着て出かけたが明らかにサイズが小さすぎてお腹が丸出しである。土曜の夜であったが、雨が降っていたため飛び入りでも入り込める隙があった。

  

「カビンゴちゃん入れる?」
「入れるンゴ。お気遣いありがとうだンゴ」
「良かった入れた。さすがね、柔らかい体して」

  

例によってボケット団がその様子を目の当たりにした。
「おいミッチー、アザトガールのカビンゴと甘々ママニャ!」
「ホントだ。何で2人でいるんだ」
「カビンゴのお世話に疲れてママに押し付けたんじゃないの?」
「めっちゃあり得る!あんな甘々スミレにカビンゴのお世話なんて無理だったのよ」
「最低ね。私たちに引き取られた方が、カビンゴも幸せだろうに」
「よぉし潜入しに行こう」

  

「すみません、満席でして…」
「そんな…」
「入れ替わりは発生するので待てば入れます。お待ちになりますか?」
「お願いします!」
「は、はい…」

  

「ほらほらカビンゴちゃん、お侍さんがいるよ〜」
「ンゴッ⁈」
「怖がらなくて大丈夫だよ〜、優しい人たちだよここの店員さんは。みんな気さくに会話してくれるんだ」

  

ボケット団がいることなど夢にも思わないスミレママとカビンゴは、この店オリジナルのカクテルで、全国大会や国際大会で優勝を果たした作品に注目する。
「グレートサンライズ、レオン、オーチャード…」
「この3つを順に飲んでいく人も多いですね。どれも甘めのカクテルなんですけど、良かったら是非」
「レオンの組成は何ンゴ?」
「ラム・パッションフルーツリキュール・紫蘇リキュールです」
「オリジナリティありそうだンゴ。飲んでみるンゴ」

  

「パッションフルーツのコク深い甘みに紫蘇の香りが溶け込んで…うっとりするね」
「飲み応え抜群だンゴ」
「カビンゴちゃんって、お酒飲むとどうなるのかな?」
「普通の飲み物と何か違いあるンゴ?」
「お酒は普通の飲み物と違って気分を高めてくれる飲み物なんだ。でも飲みすぎると、ヒトは目が回ったりあらぬことをしたり眠り込んだりしちゃうの。カビンゴちゃんはその辺どうなんだろうな、って思った」
「よくわからないけど、多分大丈夫だンゴ。僕の胃は菌やウイルス、そして毒ですら容易く分解するンゴ」

  

つまみとして供されるのはカナッペのようなもの。上に載っている具が分厚く満足感がある。
「カビンゴさんのトレーナーですか、すごいご立派で」
「いえいえ。娘が育てているカビンゴちゃんなんです」
「娘さんがですか」
「未成年なんで来れないんですよね。トレーナー初めてまだ1ヶ月経ってなくて」
「それでカビンゴさんを?すごいですね。お手入れもしっかりされていて」
「可愛くて仕方ないんです」
「ンゴォ!」
「ありゃ万歳しちゃって、嬉しいの!」
「すっかり仲良しですね」

  

続いて季節のフルーツを使ったカクテルを所望するカビンゴ。モヒートとの組み合わせが珍しいと踏み、葡萄のモヒートを選択した。どっしりとしたラムにミントの香り、そして粗く潰した葡萄の実の存在感。カビンゴは少し頬を赤らめながら万歳した。
「次頼まれたお酒、結構強めなのでチェイサー用意します。空いたモヒートのグラスに水注ぎますね」
「なるほど!残ったミントと葡萄を最大限楽しみつつチェイサーとしても機能する、一石二鳥ですね」
「素晴らしいンゴ」

  

「では我々自慢のダーク派ポケンモ・ハムライピをお披露目しましょう」
「ハムピッピ!」
「ファイトよろしくお願いします。相手はこちらのカビンゴちゃんです」
「ピッ…」
「強いポケンモだ、って怖気付いていますね。でも我々が自信を持って送り込むポケンモですから、手強いと思いますよ」
「熱いファイト、させてもらいますよ」

  

No.35 ハムライピ ダーク派
さむらいポケンモ
自称サムライ王国の国王。目には目を歯には歯を、をモットーとしている。女の子の見た目をしているが全部オスである。

  

漸く入店を果たしたボケット団。しかし彼女達はカクテルについてよくわかっていないようである。
「ラムとかウォッカとか色々あってわからん!」
「そんな時はニャー特製パリゴリンルーレットで決めるニャ!ドゥルルルルルルルル…マティーニに決定ニャ!」
「すみません、マティーニを3つで!」
「…かしこまりました」

  

スミレママとカビンゴは裏手に移動し、いよいよハムライピとのファイトを開始する。家にいるスミレが電話口から技を指示する。
「カビンゴちゃん、とびのりよ!」
「ンゴ!」
「さすがカビンゴさん、かなりのダメージ喰らいました…でもここでは終わらせません、いけハムライピ、ダークウェーブ!」
「ンゴゴゴゴゴ…」
「強烈ね。さすがノーブルのハムライピ、手持ちに加えたい欲が出てきました」
「カビンゴちゃん、おおあくびで眠らすわよ!」
「ンアァァ!」
「強い…これはもう完敗ですね。ハムライピ、差し上げましょう」
「ちょっと待ったァ!」
「ぼ、ボケット団のお三方⁈何でここにいるんですか⁈」

  

「何でここにいるかと言われたら」
(以下略)

「こんな一方的な戦いでポケンモを得るなんて、甘いにも程がある!」
「堂々と勝負した結果です、口挟まないでもらえますか?」
「そうですよ、我々も堂々と送り出す心づもりです」
「知らないね。ポケンモファイトをママ任せにするなんて前代未聞よ」
「ズルにも程があるニャ!だからそのハムライピはニャーたちのものだ!」
「ついでにカビンゴもいただきね」

  

網に囚われたハムライピとカビンゴ。
「残念でした〜、甘々アザト母娘」
「ヘロヘロ〜」
「おいサッチー、フラフラしないで早く運び出してよ」
「マティーニは目が回る…はぁ」
「そんなことするなら置いてく!ドラネコ、一緒にカビンゴを運び出すわよ!」
「…重いニャ!サッチーにも協力してもらわないと無理ニャ!」
「ハムハム、ハムハム…」

  

網を噛みちぎったハムライピ。カビンゴと共に脱出する。
「嘘でしょ?どうしていつもこうなるの…」
「カビ、ンゴ!」
飛び乗りを受けたボケット団は、酔いも醒めて逃げ出していった。
「いやーんばかーん!」

  

勝利の美酒としてオーチャードを戴く。最後に吹きかけられるローズの香りが人を虜にする。ピーチとカシスの甘さが強いが、ベースであるウイスキーの度数が高いので調子に乗ると危ない。
「なんかポワポワしてきたンゴ」変ににやけるカビンゴ。
「あらまあ。これが『酔う』って感覚だよ」
「楽しいけど危ない予感がするンゴ。お酒はほどほどにするンゴ」
「それが良いと思うよ」

  

3杯飲んで5400円。ヨコハマシティのバーの名店は軒並みお値打ちなものである。
「ハムライピ、スミレさんの言うことはちゃんと聞くんだぞ」
「ハムラッピ!」
「全体的に甘めのカクテル続きだったけど、今度は辛口系も味わいたいンゴ。最高の夜をありがとうだンゴ」
「楽しんでいただけて何よりです。ハムライピのこと、よろしく頼みました。スミレさんのポケンモマスターへの道、応援しております」
「今夜はありがとうございました」

  

帰り道、酔っ払ったカビンゴはおねむであったため自らカプセルに入ることを所望した。無事家に帰るとすぐスミレに体を洗ってもらうが、その最中から眠りこけてしまう。
「お疲れ様。ありがとね、新しいポケンモちゃんゲインしてくれて」

  

ママの協力もあり漸く4匹目の手持ちポケンモを手に入れたスミレ。しかし次が第1シーズンの最終話である。それまでにあと2匹手持ちを揃えチームを組むことはできるのか、乞うご期待。

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