連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.005:キューティーコンクールへのみち(レ・ビアン・エメ/石川町)

ヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ(cv.レジェ)。ポケンモマスターを夢見て旅を始める。最初の手持ちポケンモになったのは、優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴ(cv.タテル)であった。

  

スミレの目指す「ポケンモマスター」とは、単に世界一ファイトに強いトレーナー、ということではない。見た目の美しさを競う「キューティーコンテスト」で賞を獲ることも重要な目標である。だからスミレママは毎朝「可愛く頑張ってきてね!」と送り出すし、スミレは懲りずに鏡の前で長時間自分磨きする。

  

「ンゴ…」
「あカビンゴちゃん、お腹空いた?」
「いや、スミレさん何やってるか見に来たンゴ」
「自分磨きだよ。今日も私は可愛い、って鏡の中の自分に語りかけているんだ。カビンゴちゃんもやってみる?」
「ンゴ…」
「恥ずかしがらなくていいんだよ。じゃあスミレがいっぱい褒めてあげる!ふっくらして寝心地の良いお腹、高級絨毯のような肌触りの毛、ムラムラルージュの使い手に相応しい官能的な赤紫色の体、猫みたいな耳。どこを見ても可愛すぎる〜」
「照れるンゴ…」
「野生味が強いのも良いけど、キューティーコンテストで上位に行くためには、内面も綺麗にしたいね」
「何をすればいいンゴ?」
「お洒落な食べ物を食べるといいのかな。ラムボールも中華も良いけど、もっと見目麗しいものを摂取したいね。どっかいいとこないかな…」

  

「スミレくん、スマホイトダだ。耳寄り情報があるぞ。イシカワタウンのレビアンエメに、キューティーコンクール入賞者の作る美しいケーキがある。おすすめはシャルロットだ。是非食べてみてほしい」
「ケーキ食べながらキューティーコンクールの話を聞けるなんて最高だね。明日行ってみようか」
「ンゴ!」

  

翌日、イシカワタウンを目指しチャイナストリートを進んでいたスミレとカビンゴはあるチラシに目を奪われた。
「足つぼマッサージで心も体もキレイに…受けてみたい!」
「ンゴ?」
「足の裏を揉んでもらうんだ。血の巡りが良くなって、体全体が健康になるんだって。でもカビンゴちゃんには関係ないか」
「カビンゴさんにも施術可能ですよ」店員が言う。
「特にカビンゴさんは体が重たくて足裏が硬くなりがちなので、揉んでほぐしてあげるのがおすすめです」
「キレイは足元から。カビンゴちゃんも受けてみようか」
「ンゴ!」

  

施術担当者は武闘派ポケンモのヤサツボ、マーイタ、ヨナミネンから選択できる。ヤサツボは名の通り優しい施術をしてくれるが、ヨナミネンは人間業と思えないくらいの力で足裏をえぐってくると云う。
「美を追求されているということでしたら、真ん中のマーイタくらいが良いかもしれませんね。ちょっと痛い方が効果ありますから。そしてカビンゴ様は相当硬い足をされていますから、ヨナミネンでないと手の施しようがございません」
「なるほど…」

  

==========

  

「いた〜い!」
左の素足を揉まれ痛がるレジェ。リアルな痛い演技を録るため、足つぼを実際に受けながらのアフレコである。
「これどこが悪いんですか⁈」
「腰ですね」
「腰かぁ!いつも鏡の前で同じ姿勢とり続けてるから…」
「足は全体的に柔らかいんですけど、結構冷たいですね」
「冷え性なんです。真夏でも靴下履いて出かけること多くて。ああ痛い!そこは何ですか⁈」
「首です」
「もっと体動かさないとな…」

  

「ンゴオォォォー、痛いンゴ!」
ヨナミネンの激痛コースを体験させられたタテルは悶絶していた。
「心臓です。運動不足ですね」
「食べて寝るだけだもんな、そりゃ弱るンゴ…」
「足が硬いというのは良くないですね。血行が悪いし怪我もしやすい」
「健康的で綺麗なカビンゴになる道、容易くはないね。でも私がいれば大丈夫だよ」
「ありがとうだンゴ…」

  

No.67 マーイタ 武闘派
あしつぼポケンモ
施術の強さは川口春奈が受けていた足つぼマッサージと同じくらい。健康になりたいのならこれくらいの痛みは耐えるべき。

  

==========

  

No.68 ヨナミネン 武闘派
あしつぼポケンモ
世界一痛い足つぼは格闘家や力士ですらはだしで逃げ出すほど。リアクション芸人とは心と心で通じ合える。

  

身も心も綺麗になったスミレとカビンゴは高速道路の高架をくぐりイシカワタウンに到着した。海辺のヤマシタタウンやチャイナストリートと比べると地味な街並みに見えるが、坂の中腹に麗しき外観の店がある。
「これがレビアンエメか!綺麗〜!」
「ンゴンゴ!」

  

中に入ると、イートイン席には誰も座っていなかった。休日になればチャーミングな人々で埋め尽くされるものと思われるが、平日はゆったり美を謳歌することができる。

  

「はぁ、余計なもののないゆとりある空間。整然と並べられたケーキ達。流石キューティーコンクールの入賞者」
「食べたいケーキ沢山で迷ってるンゴ」
「3つまでね。それ以上食べると美に逆効果になっちゃうからね」
「ンゴ…」
「大丈夫。いつでも来れるから」

  

イートインでは飲み物を頼むことになるが、ケーキとセットで50円引きとなる。スミレはコーヒーを注文し、それはやはり清澄な味わいであった。

  

この店の象徴であるスイーツ「シャルロット」を戴くカビンゴとスミレ。季節のフルーツを盛り込んだババロアを、棒状のクッキー(メレンゲに近いかも)を何本も立てて包み込む。この日(註:取材日は4/5)はオレンジで、余計な甘さを加えていないオレンジ本来の味をババロアから感じられる。しなっとしたクッキーが作品を縁取る。カビンゴは2口かけてじっくり味わった。

  

1人の女性が入店してきた。
「今日からお世話になります、キラリです!」
「へぇ〜、この店の新しいスタッフさんか」
「それにしても綺麗な人だンゴ」
「キラリさん、お待ちしておりました。パティシエのサヨコでございます。私と一緒に美しいケーキを作りながら、キューティーコンテストに向けて美を磨いていきましょう。ポケンモちゃんは一旦バックヤードで預かるのでまずはケーキ作りから」
「あの人もキューティーコンクール目指すんだ…」
「ライヴァルになるンゴ」
「すごいお綺麗な人…相当努力しないと勝てないね」
「そうそう、アンタみたいな甘々アザトガールには無理ね」
「ぼ、ボケット団?何で居るんですか⁈」

  

「何で居るんですかと言われたら!」
「答えてあげるが世情なり!」
「ディストピアの中にユートピアを」
「人類みなピースフルであるために」
「不器用でヘタレな悪を貫く」
「ちょっと憎めない敵役」
「ミッチー!」
「サッチー!」
「陸海空を駆け回るボケット団の二人には」
「ヴィンソンマシフ白い明日が待ってるぜ」
「ニャンちゃって!」

  

「ミッチー殿、バックヤードからポケンモ攫ってきたニャ!」
「さすがドラネコ!これさえあれば私たちがキューティーコンクール優勝だね」
「あのすみません、そのポケンモはうちのスタッフのものですが…」販売スタッフが注意する。
「うっせぇ!無防備に置いておく奴らが悪いんだ」
「そんな大事なポケンモなら肌身離さず持っておくべきよ」
「食品作ったり食べたりする場所に連れ込んじゃいけないことくらいわかりますよね?」
「理屈臭い」

  

「一体何の騒ぎですの?」パティシエサヨコが飛び出してきた。
「ボケット団が私たちのポケンモを強奪しようと…」
「いけませんね。いくら悪が相手でも、挑発するような物言いをしては品位に欠けます」
「え…失礼いたしました」
「ここは私に任せなさい。ボケット団の皆様、そちらのポケンモは我々が愛情込めて育てた大切な仲間でございます。是非ご返却を…」
「バカが。丁寧に対応されても返しませんよ」
「バカで失礼いたしました。ですがやはり強奪というのは良くないかと…」
「うるせぇな!それがアタイらのやり方なんだよ!口出しすんな!」

  

「おいボケット団、ポケンモ返さんかい!」
急に声を上げるヤンキースミレ。
「ヤンキーのふりしても無駄よ。これは私たちのポケンモです!サッチー、ネコドラ、さっさと撤収だ!」
「待って、アザトガールのカビンゴも捕まえてから…」
「カビンゴなんてコイツらに会ったらいつでも捕まえられるだろ」
「次出くわす保証ないでしょ。今できることは今やる!」
「今日こそは確実に収穫を得る!」
「明日やろうはバカ野郎!」
「アタイの言うことを聞け!」
「アタイの言うことが正しい!」
「カビンゴ、軽くなった足でまわしげりよ!」

  

「うそでしょ!」
ケージに囚われていたポケンモは解放され、ボケット団員は出口付近へ吹き飛ばされた。カビンゴは彼女らに近寄って店の外へ追いやり、再びまわしげりを決めて坂の下に転げ落とした。
「いやーんばかーん!」

  

「スミレさん、私の大事なポケンモを救っていただきありがとうございました」
感謝の弁を述べるスタッフ達。
「いえいえ。ポケンモちゃんを守りたい一心でした。…キラリさんのポカチューちゃん、可愛いですね」
「撫で撫でしてあげてください」
「すごい、毛がフカフカで触り心地良い」
「ポカチューちゃんも嬉しそうですわ。スミレさんのカビンゴちゃん、艶が良くて、身のこなしも抜群で憧れます!こんな綺麗なカビンゴちゃん初めて見ましたよ」
「カビンゴちゃんと共にキューティーコンクール優勝して、伝説を残したいと思っているんです」

  

「お言葉ですがスミレさん」サヨコがカットインする。
「貴女のカビンゴは目を見張るほど素晴らしい。ただ優勝を目指すならスミレさん、ヤンキーのお真似だけはよしなさい。キューティーコンクールを志すトレーナーとして相応しくありません」
「失礼いたしました。つい癖で出てしまうんです…」
「ボケット団の蛮行の前でそうなってしまう気持ちは分かりますが、せめて場を弁えてください」
「サヨコさん、いっぱい飛び回ってお腹空いたンゴ。シュークリームとチョコムースをくださいンゴ」
「かしこまりました!」

  

シュークリームはカスタードクリームにもシュー生地にもこれといった特徴がないが、そんなことはカビンゴにとってどうでも良い。

  

チョコムースはカカオがフルーティでbean to barのような意識の高さを感じる。ピスタチオムースはどうしても弱く感じるので無くても良いと思う。

  

「スミレさん、キューティーコンクールを目指すのであれば一緒に修行しませんか?」サヨコが提案する。
「スミレさんと切磋琢磨したいです!」
「キラリさんまで…はい、ぜひ修行させてください!」
「共に頑張りましょうね」
もう一つの夢であるキューティーコンテスト優勝に向け、心強いライバルに出逢ったスミレ。つよかわポケンモマスターへ向かう道のりは遂に開けた。後はただ真っ直ぐその道を歩むだけ、とはなかなかいかないのが常ではあるが、挫けず進め、スミレとカビンゴ。

  

No.25 ポカチュー いなずま派
水色の胴体からは想像できない程強めの電撃を繰り出す。尻尾や頭を雑につまんで持ち上げると致死量の電撃を食らうので注意しよう。

  

NEXT

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です