連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』18杯目(金龍/小川町)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。
ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

「今日の対決は大喜利!より多くのIPPONを取った方が勝ちです」
「えーやだ、私大喜利マジ苦手…」
「俺は俺で芸人だしプレッシャーがすごいのよ」
「お題は『こんなラーメン屋は嫌だ』。おっタテルが早かった」
「床だけじゃなくて食券機の押すところもヌメヌメしてる」
「IPPON!そしておっとまたタテルだ!」
「カウンターの椅子がどれか1つだけ壊れやすいロシアンルーレット」
「IPPON!」
「レンゲが全体的に薄茶色」
「順番待ちのデブが後ろに立ってくる」
「湯切りする時放送禁止用語を叫ぶ」
「ラーメン評論家が店主と喧嘩してる」
タテルが立て続けに回答を出す一方、京子は沈黙を貫く。漸く答えを出したかと思えば、店主が怖いとか、やたらと食べ方を指定されるなど、当たり障りのない文句しか言わず0本に終わった。
「ということで勝者は4本とったタテル!」
納得のいく答えを出せなかった京子は涙目であった。
「京子、大丈夫か?」
「私なんにも面白いこと言えてない…」
タテルは返しに悩んだ。下手にフォローしても、京子の慰めにはならないだろうと悟ったからである。

  

気まずい雰囲気のまま2人は日比谷線と新宿線を乗り継ぎ、お互いスマホの操作に終始して小川町駅に着いた。今日のターゲットは金龍。キング製麺やにし乃と同じ、小池系列の店である。正午前に到着すると20人くらいの行列。時間がかかると踏んだタテルは逡巡しながらも漸く、電車内で温めていた京子への疑問を吐露する。

  

「京子って、なんでアイドルになったの?」

  

突然の質問に困惑する京子。
「もともと歌手志望じゃなかったっけ?」タテルが続ける。
「そりゃ歌手になりたかったよ!」京子は声を荒らげた。行列にいた者共が一斉に2人の方を見る。
「ご、ごめんなさい、つい…」
やはり不適切な質問だったのか、と反省するタテルに、京子は思いの内を明かした。
「タテルくんの言う通り、最初は歌手になりたかった。色々なオーディション受けたけどダメだった」
「こんな美しい声をもってしても?わからん世界だな」
「そこからアイドルも目指し始めたけど、スズキルムのオーディションは2次落ち。その後も全然縁がなくて…でも榎坂にオーディション仲間の今住がいて、ちょうどひらがなえのきのオーディションもあると聞いたから、これが最後のチャンスだと思って受けたら合格した」

  

席についた2人に間も無く、つけ麺が供される。塩ベースのスープは一見物足りなく感じるが、魚介の出汁が濃い。麺はやわやわとしておりスープとよく絡む。チャーシューもこの系列独特の薄いものであり、あっさりとしたスープと喧嘩することはない。非常にバランスの良いつけ麺である。海老ワンタンの臭みは唯一の減点ポイント。

  

帰りの電車、タテルが京子に優しく語りかける。
「京子は正統派のアイドルやりたいんだ」
「どちらかと言えばそうかな」
「あまりお笑いとか野球に走りたいとは思わない」
「うん」
「それでいいと思うよ」
「え?」
「綱の手引き坂だからといって全員がお笑いに走る必要はない。正統派がいなければもはや芸人集団。京子は純粋にアイドルやってれば十分だよ。大事なのはバランス。笑いを取ろうとして余計なこと考えすぎちゃダメ。たまに見せる自由奔放さが面白いんだから」
「ありのままでいいんだ」
「そう、ありのままで」

  

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