連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.004:はつファイト!ケイトクチンのたたかい!(景徳鎮/元町・中華街)

ヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ(cv.レジェ)。ポケンモマスターを夢見て旅を始める。最初の手持ちポケンモになったのは、優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴ(cv.タテル)であった。

  

「カビンゴちゃん、朝9時になったよ!付き合おう!」
「ンゴ!」
ポケンモのオカリナを使わずとも、「付き合おう」の一言でカビンゴを起こせてしまうスミレ。どうやらコイツも只者では無さそうである。この日もチャイナストリートに繰り出し、改めてほむら派のポケンモ捕獲を試みる。
「カビンゴちゃん、ほむら派だと誰が欲しい?」
「ファンキーで熱々のヒーハーりゅうを出してくれれば良いンゴ」
「そしたら四川料理が良いかもね。ケイトクチンクラブに行って、ほむら派ポケンモ捕まえに行こうか」
「四川料理といえばの店ンゴ。楽しみンゴ!」

  

仲睦まじい様子を白い目で見るボケット団。
「やっぱりおかしいわ、トレーナー歴浅いくせにカビンゴを手持ちにするなんて」
「あのカビンゴ、絶対何か秘密隠してるわよ」
「とっ捕まえてやりましょう、あのアザトガール共々」
「どんな手使ってでも倒してやる」

  

ボケット団に追われていることなどつゆ知らないスミレとカビンゴはケイトクチンクラブに到着した。するとスミレのママが友達を連れてやってきた。
「ママ!」
「スミレちゃん!ここでお昼食べるの?」
「そうだよ!カビンゴちゃんが強いほむら派ポケンモ欲しいって言うから」
「スミレちゃん、カビンゴちゃん持ってるの?まだトレーナー始めたばかりなのにすごいわね〜」
「良かったら私たちと一緒に食事しません?3階の個室、まだ入れると思うので」
「いいんですか?カビンゴちゃんこんなに大きな体ですけど」
「全然大丈夫だよ。なんとかなるわよ」
「じゃあお言葉に甘えて」

  

「ケッ。あのアザトガール、親までゆるゆるしやがって」
「私なんか褒められたこと一度も無いニャ!」
「それはアンタがちょっとアホなだけわよ」
「もうちょっと賢く物盗りしないとね、ドラネコ」

  

細い路地にある老舗のクラブであり、建物は若干古め。カビンゴの巨体では階段を昇ることなど不可能である。
「スミレくん、スマホイトダだ。このカビンゴにはアメージングな特殊能力が多数備わっている。例えばな…」

  

「おい待って、カビンゴが宙を舞ってる!」
「バカ言うな、あんな巨体で飛べるわけ…ホンマや!」
「しかも壁を透過していった!」
「どういうことなんだ…」

  

入口近くの席に何とかカビンゴを配置し、スミレら5人は着席することができた。目の前に大きなカビンゴがいる光景は何とも滑稽なものである。
「スミレちゃんのカビンゴちゃん、ちょっとおっきいね」
「そうなんです!しかもマジカル技の使い手で」
「アブノーマル派はどの派の技でも使うからね。いろんな技覚えておくといいよ」
「おばけ派のペロペロイジリーはこまめに技出せるからオススメ!」
「アース派のおおゆらしもカビンゴちゃんに似合ってるわね」
「頑張って覚えるンゴ!」

  

料理長おすすめ特別コース(6380円)は冷菜盛り合わせから始まる。クラゲは味付けが上品で、噛み応えも市井の物より厚く美しい。焼豚は赤身が主体でがっしりとしているが特徴は薄い。棒棒鶏は名店だけあって鶏肉がしっとり。胡麻だれは辛そうな色であるがそこまで辛くない。

  

カビンゴ奪取を狙うボケット団もケイトクチンクラブに入店しチャンスを伺う。
「激辛麻婆豆腐があるニャ」
「これを何かの間違いでアザトガールに食べさせればカビンゴは私たちのものに」
「でもあっちも激辛頼んでるくない?」
「あのひ弱なアザトガールが辛い物食える訳ない。私たちが激辛頼んで、激辛が来たら注文間違えられたことにして3階に送ってもらおう」
「ちょっと無理ないそれ?」
「いいからやるんだよ!ダメだったら力技で襲うから!」

  

一方のアザトガールとママ友集団には海鮮の炒め物が提供された。麻と辣の応酬で早速四川料理の本領が発揮される。
「ああ痺れる〜!」
「ンゴォォォ!」
目をバッテンにするスミレとカビンゴ。
「気をつけなさいスミレちゃん。少しでも気を抜くと花椒を噛んで口の中が麻痺するからね」
「はーい…」
「辛さに隠れてはいるけど、帆立・烏賊・筍などの具材はちゃんとしたものだから美味しいンゴ」

  

続いてフカヒレの姿煮だが磯臭さが目立つ。ただ6000円前後のコースだから贅沢を言ってはいけない。
「スミレちゃんってポケンモみたいだよね」
「え〜?よく言われます!」
「言われるんかい!」
「本当によく言われるよね。スミレちゃんすぐ人の後ついていっちゃうから」
「何派になりますかね私?」
「間違いなくぶりっ子派だね」
「そんなことないですよ〜」
「ぶりっ子派は得よ。ぶりっ子派がいなければ武闘派とウルティマ派がやりたい放題」
「カビンゴちゃんとの相性もバッチリよ。カビンゴちゃんの弱点である武闘派が来たら、スミレちゃんが代わりに戦えばいいんだし」
「技の名前何にする?お母さん決めてあげよっか、口癖は『全然大丈夫だよ〜』だから、だいじょうぶい、なんてどう?」
「古いってそれ。スミレちゃん、寝起きのカビンゴちゃんみたいにポカンとしてるよ」
「でも結構可愛い。採用で!」
「ンゴ!」

  

続いてはシンプルな焼売と小籠包。こういうところの点心はしっかり餡に旨味を含んでいる。
「ねえねえ、廊下にムゲンシャがいるよ!」
「ホントだ!」
「今日カビンゴ様と対戦いただきますムゲンシャです。王道のほむら派ポケンモですが、彼のヒーハーりゅうは四川仕込みの激アツ仕様でございます」
「やったねカビンゴちゃん。熱々のヒーハーりゅうだってよ!」
「ンゴンゴ!」
「おっとナメてもらっちゃ困ります。それなりに強いですから、カビンゴであっても勝てる保証はございませんよ」
「すみません…」

  

「あのアザトガール、すぐ調子に乗りそうね」
北京ダックを美味い美味いと貪るボケット団。
「骨身削って皮に全てを託す。私たちと同じね。それに引き換えあのアザトガールは…」
「身を粉にするということを絶対に知らない。カビンゴは私たちの方についてくるべきだわ」
「だから私たちが奪う、正義の悪で!」

  

No.4 ムゲンシャ ほむら派
おにたいじポケンモ
親を鬼に殺されたつらい過去を持つ。体を纏う紅蓮の炎は鬼への復讐心のあらわれ。

  

エビチリはとにかく身が大ぶり。チリソースは甘みもある、かと思いきや辛さが手出ししてくるものである。

  

そして次はいよいよ麻婆豆腐の登場。ボケット団が作戦を遂行する。
「あのすみません、やっぱり普通の辛さにしてもらいたいんですけど…」
「もう作っちゃってるヨ」
「そこを何とか!さっき3階に昇っていったカビンゴトレーナーの方がたぶん辛いのご所望でしたよ」
「それは私たちが伺うことです」
「追加料金払うので、とにかく普通の持ってきてください!」
「フードロスになります。激辛も食べてくださいね」
「じゃあアフレコ現場に持っていってください!」

  

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「うわ、激辛麻婆きた…」
「どうしたレジェ、辛いの苦手か?」
「苦手です。Cocco壱はいつも甘口です」
「無理すんな。ちょっとだけでいいからな」
「…から〜い!」
「ナイスリアクション!」
「も〜う!口の中大炎上です、アフレコ続けられません」
「これがTO-NAの伝統だからな。まあ休め休め、ゆっくり録っていこうや」

  

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スミレ一行には普通の麻婆豆腐がやってきた。片栗粉のとろみがかなり強いが、肉の味や食感がちゃんとしているため整合性が取れている。

  

激辛麻婆をスミレに回せなかったボケット団の2人はいつものように口論を始める。
「ほら言ったでしょ、どう考えてもお粗末な作戦だよ」
「なら自分で考えなさいよ。人任せにして一丁前に文句だけ言うなんて最悪」
「考えたところで却下するでしょアンタ。センス無いくせに何威張ってるんだよ」
「何ですって⁈」
「喧嘩は止めるニャ!こうなったら力づくでカビンゴを奪うニャ!」

  

ボケット団が襲ってくるなど夢にも思っていないスミレ一行はアワビスープを飲んでいた。こちらも安物のようで磯臭さが目立つ。

  

そして〆の炒飯は梅漬けザーサイの入ったものであり、梅のさっぱりとした味わいがクセになっていくらでも食べられてしまいそうなものである。

  

「ではいよいよファイトを開始します。カビンゴ様、スミレ様と共に廊下の方へおいでください」
「いよいよ初陣だね。一緒に頑張ろうね!」
「ンゴ!」

  

クラブにおけるポケンモファイトは、原則ヴィジターが先攻、クラブスタッフが後攻である。ということで先ずはカビンゴから技を出す。
「カビンゴ、とびのりだ!」
「ウップ!」潰されかけるムゲンシャ。
「ムゲンシャ、ひのわくうや!」
「ンゴゴゴゴ!」のけ反るカビンゴ。
「カビンゴちゃん頑張れ!スミレちゃんも頑張れ!」
「よし頑張ろう。カビンゴ、もう一度とびのりだ!…うそ、躱された⁈」
「同じ手には乗りません。ムゲンシャ、ゴザンオクリビ!」
「ンゴォォォ!」
「そんな…このままではカビンゴが負けてしまう!」

  

「ほらお肉だよ〜、カビンゴの大好きな北京ダック一羽丸々〜」
「ンゴ⁈」
北京ダックをぶら下げて現れたボケット団。大きな網を振り下ろしてカビンゴを収める。
「はーい捕まえた!捕まっちゃったね!」
「何てことするの⁈」

  

「何てことするのと言われたら!」
「答えてあげるが世情なり!」
「ディストピアの中にユートピアを」
「人類みなピースフルであるために」
「不器用でヘタレな悪を貫く」
「ちょっと憎めない敵役」
「ミッチー!」
「サッチー!」
「陸海空を駆け回るボケット団の二人には」
「ヴィンソンマシフ白い明日が待ってるぜ」
「ニャンちゃって!」

  

「またあなたたちですか。嫌がらせは止めてください」
「嫌がらせじゃないね。あなたみたいなひ弱アザトガールにカビンゴは不釣り合いだから貰ってあげるのよ。寧ろ感謝してもらわないと」
「うちのスミレに何ということをするのですか!」スミレママも加勢する。
「とにかくこのカビンゴは私たちがいただくニャ」
「ついでにこのムゲンシャも捕まえて…」

  

ミッチーの手をピシャリとするクラブスタッフ。
「お客様、正規のファイトを介さず捕まえるのは卑怯でございます」
「アァ⁈」
「それにそのダック、店の物なんですけど」
「そんなことくらいわかってるわよ」
「ちゃんと料金払ってもらいますからね。結構高いですけど払えますかね?」
「その口の利き方、腹立たしい!払う気無くしたわ」
「ああそうですか。ならアオシマー呼んでお縄にしてもらいましょう」
「そ、それだけは!」

  

「おいボケット団!」スミレもヤンキー化した。
「謝る対象はクラブスタッフさんだけじゃないだろ!こちとら大事な相棒囚われてんだ。さっさと解放せんか!」
「は、はぁ!」
「カビンゴ、こいつらにムラムラルージュ!」

  

「ムラムラ〜、アァァ!」
酩酊したボケット団は階段から転落した。
「いやーんばかーん!」

  

平和が戻ったケイトクチンクラブ3階。ミルキーな杏仁豆腐が供されると共に、クラブスタッフからスミレへ、ムゲンシャの引き渡しが決まった。
「ボケット団から護っていただきありがとうございました。貴方になら、このムゲンシャを捧げても良いと思いました」
「良いんですか?でもちょっと複雑な気持ちです」
「まあ正式にファイトに勝った訳では無いけど、仲間が増えたのは心強いね」
「そうだね。ムゲンシャちゃん、これからどうぞよろしくね」
「ンゴ!」
「シャー!」

  

初めてのファイトを経験し、新しい仲間を増やすことに成功したスミレ。だがポケンモマスターへの道のりは未だ長い。新しいポケンモを求め、来る日も来る日も旅を続ける。

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