連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.003:あらわれしボケットだん(聚楽/元町・中華街)

ヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ。ポケンモマスターを夢見て旅を始める。最初の手持ちポケンモになったのは、優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴであった。

  

翌日、スミレは朝9時に起床した。カビンゴは庭でぐっすり眠っており、ちょっと体を揺らすだけでは起きない。通常であればポケンモのオカリナを鳴らして起こすものであるが、スミレは持ち合わせていなかった。
「おはようカビンゴちゃん、朝9時になったよ」
「…」
「起きてる?起きてー!」
「…」
「付き合おう!」
「ンゴ⁈」
「あー起きた!おはようカビンゴちゃん、今日も1日頑張ろうね!」
「ンゴ!ンゴンゴ、ンゴ!」

  

3日目はチャイナストリートを散策し、ほむら派のポケンモを見繕う。その途中、スミレは気になる建物を見つけた。
「占いの館すまいる。マジカル派ポケンモのマリック・セーロ・ゴウンメイが自慢の『みらいよそうず』を繰り出して貴方の運勢を占います、だって。行ってみようかカビンゴちゃん」
「ンゴ…」
「もしかして、ちょっと怖い?」
「ンゴ」
「そっか、みらいよそうずって立派なマジカル派の技だよね」

  

そこへ館の主、マジカル派ポケンモ使いのマオが出てきた。
「ご安心ください。みらいよそうずはトレーナー様に向かって発します。ポケンモ様に直接攻撃する必要はございません」
「それなら安心です」
「ただご希望であれば、直接ポケンモ様に技をかけることも可能です。より正確な占いができます。その場合はダメージを食らった分のラムボールをサーヴィスします」
「どうするカビンゴちゃん?」
「技受けるンゴ」
「頼もしい!じゃあ私とカビンゴちゃんそれぞれ占ってください!」
「ありがとうございます。それでは占ってくれるポケンモを選択してください。20分の占いでお二方合わせまして、マリックだと4400円、進化形のセーロは6600円、最終進化のゴウンメイは8800円」
「じゃあゴウンメイで…」
「スミレ君、スマホイトダだ。ゴウンメイのみらいよそうずは威力が強すぎる。占い中毒者が浴びるように受けるものだ。マリックで我慢した方が良い」
「わかりました…じゃあマリックでお願いします」
「早速やっていきましょう」

  

No.63 マリック マジカル派
てじなポケンモ
ハンドパワーであらゆる物を曲げてしまう。マリックのトレーナーはやたらと派手なメイクをする傾向にある。

  

==========

  

「早速やっていきましょう」
アフレコ現場に中華街で一番の占い師が現れた。
「スミレ役のレジェさん、カビンゴ役のタテルさんをリアルに占ってもらいました。今から占い結果を伝えますので演技に反映させてください。ではレジェさんから」

  

「レジェさんは来年から再来年にかけて持ち前のあざとさが世に知れ渡り、引く手数多の人気タレントとなります。ただこういうぶりっ子キャラには敵も沢山つきます。敵からの妨害に耐え抜くことができれば、28歳の辺りで今度は大人の女性としての魅力が開花し、国民的女優として末永く活躍できます」
「え〜嬉しい!」
「そしてタテルさん。貴方は1人で何かしようとすると失敗するタイプです。他人のアドヴァイスはきちんと聞きましょう。今TO-NA特別アンバサダーとして活動しつつテレビ出演もぼちぼちやっていますが、向こう10年は現状維持を心がけてください。今TO-NAを離れて単体で何か為そうとするとおかしなことになります。大器晩成型ですから、じっくり実力をつけてから自分のことやりましょう」
「なるほど…結構ずっしりきましたね。恐ろしや、みらいよそうず」
「タテルさん!私がおばあちゃんになっても、私のこと守ってくださいね」
「レジェ…悪い気はしないよ」

  

==========

  

「ンゴオォォォー!」
「結果が出ました。カビンゴさんは今後ファイトで活躍できず悩むことが多いでしょう。ですが腐ってはいけません。どっしり構え、ゆっくり上を目指しましょう。はい、ラムボールも良いけど今日はこれも食べて。ジュラクのマーライコーよ」

  

「ンゴ?ふかふかで僕のお腹みたいンゴ。素朴な甘さで美味しいンゴ」
「スミレさんはポケンモマスターになれます。今後多様なポケンモを手にし、強さと可愛さを兼ね備えた唯一無二のトレーナーになることでしょう。ただし今日はポケンモのゲインはしない方が良いです。あと、貴方達の邪魔をする輩がいるのでご注意を」
「邪魔をする人たち…?」

  

ともあれ占い結果は希望の持てるものであり、マリックとマオの導き通り今日はポケンモゲインをしないことにした。マーライコーを売っているジュラクを訪れておやつを購入する。

  

「へぇ〜、こんな小さな店なんだ。ずっとここで暮らしていたのに全然知らなかった」
「ンゴ?ンゴンゴンゴ!」
「中華まん全種類食べたい?いいよ、いっぱい食べて!」
「ンゴォ!ンゴンゴ、ンゴォ!」
「いっぱい食べて可愛いねカビンゴちゃん」
「ンゴ!」
「お菓子も片っ端から買う?」
「ンゴ!ありがとうだンゴ」

  

その中からスミレは紅凌酥という中華菓子を一緒に食べる。上質な油を使っているようで、ミルフィーユのような生地とよく合う。中の白餡も油によりコクが出ている。
「よし、じゃあお家帰ろうか。美味しいプアール茶と共にマーライコー食べて…」

  

「えー、マーライコー売り切れ⁈最悪なんだけど!」
「あ待って、あの人たちマーライコー持ってる!掻っ攫おう!」

  

スミレの持っていたマーライコーが、謎の2人の女により強奪されてしまった。
「ちょっと待って、何するんですか!」

  

「何するんですかって言われたら!」
「答えてあげるが世情なり!」
「ディストピアの中にユートピアを」
「人類みなピースフルであるために」
「不器用でヘタレな悪を貫く」
「ちょっと憎めない敵役」
「ミッチー!」
「サッチー!」
「陸海空を駆け回るボケット団の二人には」
「ヴィンソンマシフ白い明日が待ってるぜ」
「ニャンちゃって!」

  

「おいお前、そのマーライコーをよこせ!」
「はあ?これは私とカビンゴちゃんのおやつよ?渡す訳ないでしょう」
「生意気めが。ならそのカビンゴをよこせ!」
「テメェ舐めてんのか⁈カビンゴはあたいの大事な唯一の相棒だ、誰のものにもさせるもんですか」

  

ヤンキー口調になるスミレ。普段の穏やかで上品な性格からは想像もつかない豹変ぶりに、カビンゴは戸惑ってしまう。

  

「ならファイトしなさい。そのカビンゴと勝負よ」
「ははん。うちのカビンゴちゃんは最強だ。簡単に勝ってみせますよ」
「そう上手くいくかな?アンタまだポケンモトレーナーになって日が浅いでしょ。いくら強いカビンゴでも、言うこと聞かなくて勝てないと思うよ」
「貴方達に何がわかるんですか?私たちは深い絆で結ばれていますけど…」

  

カビンゴはいつの間にか寝てしまっていた。
「ほーら、全然言うこと聞いてないじゃん」
「どんなに強いポケンモ持っていてもコントロールできなきゃ意味ないの」
「カビンゴを手持ちにするなんて時期尚早。さあマーライコーとカビンゴをよこせ!」
「でもどうやってカビンゴを手に収めるニャ」
「それは…ドラネコ、お前がねこまっしぐらで攻撃して弱らせればいい」
「でもちょっと怖いニャ」
「そうよサッチー。進化もしていないドラネコ繰り出すのはさすがに不安よ」
「じゃあアイツ出そう」
「…持ってきてない」
「何で持ってきてないの!」
「今日はマーライコー買いに来たのよ。ファイトなんてしないつもりだったでしょ」
「でも持っておくくらいしなさいよ!準備が悪いわね!」
「そう思うなら自分で用意しろよ。アンタって奴は、いっつも人任せだよね」

  

No.52 ドラネコ アブノーマル派
いたずらポケンモ
魚を見るとすぐ咥えて盗んでしまう。鳴き声もやけに甲高く、愛でてくれる人は少数派。

  

カビンゴにウインクだけして距離を取るスミレ。するとボケット団の元へアオシマーが近づく。
「君たち、何カビンゴを道端に寝かしてるんだ!」
「私たちのじゃないですこれ!」
「道端で眠っているカビンゴを見かけたらすぐ通報する決まりだ。君たちはそれを怠って自分のものにしようとした、これは立派な横領、すなわち犯罪です」
「ミッチーが忘れ物するから!」
「はぁ⁈サッチーがモタモタするからでしょ」
「責任のなすりつけ合いやめろ。署に来なさい!」
「いやーんばかーん!」

  

ボケット団が退散したのを見計らってスミレがカビンゴに近づく。
「午後3時になったよ。そろそろ付き合おう」
「ンゴ⁈ンゴンゴ、ンゴ!」
「やったぁ起きてくれた!じゃあ家帰っておやつ食べよう!」
「ンゴ!」

  

母の淹れたプアール茶と共にアーモンドクッキーを食べる。マーライコーと同じく気泡が入っているから、口の中にアーモンドの香りと油のコクが広がる。
「ママ、今日は未熟さを痛感したよ。カビンゴちゃんと心通じていると思ったけど、まだまだだなぁって思ってさ…」

  

涙ぐむスミレ。
「大丈夫だよ。まだ3日目でしょ、これからよ。たくさんファイトしてゲインして、いろんなポケンモと仲良くなれれば大丈夫」
「そうだよね。そういや占いでも言われたな、貴方はポケンモマスターになれる、って」
「その通りだと思う。スミレならできるよ」
「ありがとう、ママ!カビンゴちゃん、これからも頑張ろうね!」
「ンゴォ!」

  

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