そして新たなる物語へ

アイドルグループ・綱の手引き坂46の特別アンバサダーを務め、数々のメンバーと旅を繰り広げているタレント・タテル(25)。彼はなぜその地位に就いたのか。

プロデューサーの冬元は、IMC48を軌道に乗せて以降数多のグループをプロデュースしてきた。アイドルグループのみならず、劇団や新人女優発掘プロジェクト、バンドに深夜番組の女子大生レギュラーなど幅広いジャンルのグループをプロデュースしており、結果冬元は多忙となり体調を崩してしまった。限界を感じた冬元は、側近の説得を受け嫌々ながらもアシスタントを募集することにした。

一方タテルも冬元のやり方に不満を持っていた。綱の手引き坂46は「ハッピーオーラ」を武器にしており、明るく爽やかな曲が似合うグループである。しかし最近は少し大人びた曲が多く、グループの色に合っていない、あまり耳に残らない、などといった批判の声が上がる。タテルもその意見に同調していた。

タテルは冬元のアシスタントに応募した。食通として知られ、インスタには名店の料理の写真を数多く載せている冬元は、同じグルメであるタテルのことが気になっていた。
結果タテルは最終審査まで勝ち進む。

「最終面接の前に、まずはここにあるおかしを食べてくれ」
そこに並んでいたシュークリーム、チョコタルト、ムース、紅茶ゼリー、生チョコは、どれも飾り気のないベーシックなものだった。他の候補者は遠慮がちで手をつけようとしなかったが、タテルはすぐ手にとって香りを確かめ、口にした。
「んー、シュークリームはよくわからないっすね。コージーコーナーの方がわかりやすくて美味しい」
「何だコイツ。ご厚意の品に平然とダメ出しするなんて」呆気に取られる他の候補者たち。

「おっ、このムースは美味しいですね。グリーンピースみたいなやつが結構プチプチしていて、青さが堪らない」
「それは涙豆。畑のキャビア、なんて呼ばれているんだよ」冬元がタテルに話しかける。
「涙豆!涙が出そうなくらい美味しい」
「そうか。では面接を始めます。最初は高橋くんから、次は山下くんね」

5人の候補者は1人1人冬元との個別面談を受けた。待っている間は他の候補者と生チョコを食べて待っていた。
「うわ、取りにくい」
「軽く触って起こしましょう。ほら、上手く取れた」
「ありがとうございます!…すぐ溶けるこれ!」
「フルーツ水のような綺麗さのものもあれば甘酒っぽい後味を持つものもありますね」タテルのコメントは独り詳らかである。
「しっかし冬元先生、洒落たお菓子よく知ってますよね」
「洒落すぎていて俺にはわからないや」
「その気持ちもわかります。ちょっと日本料理っぽいんですよね。ソースやスパイスで味を決める諸外国の料理と違って、薄味にして素材の味を楽しませるのが日本料理。ここのおかしは日本料理のノリに近いんです」
「タテルさんすごいですね。冬元先生とグルメで張り合えそう」

タテルの順番は最後だった。
「最後、渡辺。渡辺?」
「あ、はい。すみません、苗字で呼ばれるの珍しくて」
「いいから入って」

「どうだい、他のおかしは?」
「紅茶ゼリーが喉越し良くて、味も紅茶以上に紅茶でびっくりしました。チョコタルトもチョコらしさがあって、甘さ控えめだけど重くないですね」
「ほうほう。ちなみに渡辺はいつからグルメになったのかね?」
「高校生の時ですね。『コチになります』を観てたので、学校が平日休みの時なんかは高級中華とかフレンチとか行ってましたね」
「高校生からか。1人で?」
「はい。一緒に行ってくれる人なんていませんし」
「まあそうだよね。で渡辺、君はなんで綱の手引き坂を好きになったんだ?」
「最初は京子さんから入りました。あんなハキハキした声で変なことばっか言うのが面白いなぁって」
「なるほどね」
「で他のメンバーもめっちゃ面白くて、でも良い子そうだし仲間想いだしで応援したくなるんですよね」
「そうか。CDとかどれくらい買ってる?」
「それが、あまり買わないんです」
「ファンクラブは?」
「入ってないです」

「なるほど。じゃあ結果を申し上げる。君は合格だ」
「えっ⁈」
「それくらいの距離感がちょうどいい」
「そ、そうですか…」
「少し離れた位置から見てもらった方が彼女たちのためになると思うんだ。この距離感、忘れないでくれよ」
「ありがとうございます!」

「じゃあ早速渡辺にミッションだ。俺はメンバーのことをよく理解していない。だから渡辺には各々のメンバーと『デート』をしてほしい」
「デートですか⁈」
「安心しろ、その旨はメンバーにも伝える。最終的に全メンバーとデートして、各々の特徴と売り出し方の提案を俺にしてくれ」
「(距離感うんぬんの話はどうした…)」
「いいな。頼んだぞ」
「はい」
こうしてタテルは綱の手引き坂46特別アンバサダーに就任し、スズカとのドライブデート、カゲとのクイズデート、アヤとの横浜王道デートなどを満喫した。京子に関してはあっちの方から歩み寄ってきて、今やコンビでラーメンYouTubeをやる仲である。今度はヒヨリとの江の島ウォーキングデートが待っている。

しかし冬元の狙いはこれだけではなかった。
「弟いるよね?」
「はい。弟のカケルがいます」
「カケル君は何やってんの?」
「全然会ってないですね。海外に行ってしまって帰ってこないんです、『革命家になる』と言い残して…」

「実はね、俺カケル君と会ってるんだ」
「え⁈」
「あまり詳しいことは言えないけどね、頑張ってるよカケル君」
「どういうことですか!連絡先は?」
「持ってないの?」
「変えられちゃって」
「俺からは教えられない。いいから君は綱の手引き坂のために頑張ってくれ」

その頃カケルは綱の手引き坂の姉妹グループ・檜坂46と連んでいた。彼女たちを利用して、この国を変えようと動いていた。
「お前たちが志半ばで諦めてしまったこと、俺と一緒にもう一度やろう」

東京都内の百名店を題材に繰り広げられる、超大型革命ストーリー。不定期連載『世界を変える方法』近日始動。

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