現代を生きる時生翔(ときお・かける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」の代表「ま○ぽ」を名乗る女性が現れる。翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。
その先に広がっていたのは1982年の銀座三越屋上であった。
「嘘でしょ…せっかくYouTube頑張ろうと思ったのに」
「俺だって明日は学校行かなきゃならないのに…」
「私言ったよね、エスカレーターで上がろうって。何で聞かなかったのよ」
「なら押し通しせよ。今さら言われても困るんだけど」
「翔くんどうにかしてよ、現代に行きたい」
「俺が一番知りたいよ、現代に戻る方法」
エレベーターで地上に降りても、サッポロ銀座ビルが残っている昔の世界のままであった。未来に戻る術を求め銀座中を歩き潰すが見つからず、この日は家に帰ることにした。
「アハハハ!全員集合って面白いね」
「現代っ子の翔くんがこれだけ笑ってくれるの嬉しい。古臭いと思われていないか心配だった」
「いやいや。こんな大がかりなコント、現代ではできないよ。客席を爆笑の渦に巻き込むとはこのことだ。今じゃできないねこのスタイルは」
すると隣の部屋の住人が怒鳴り込んで来た。
「うっせぇんだよお前ら!ゲラゲラ笑いやがってよ!」
「す、すみません…」
「このアパートの壁は薄いんだからな、音には気を遣え!」
「…」
「はっ⁈今どき全員集合観てんの⁈ダッセェな!時代はひょうきん族でしょうが!」
「あそうか、全員集合とひょうきん族は真裏なんだっけ」
「そんなことも知らないのか、男さんよ」
「俺、2024年からタイムスリップしてきたんです」
「嘘言うなよ。俺をナメてんのか」
「本当なんですよ、ナメてませんって!加トちゃんは45歳年下のお嫁さん貰って…」
「話になんねぇ。どっか行けよバカタレが!」
翔はひどく落ち込んだ。昔は昔で、直接的に言葉の刃を振り回してくるものだから辛い。
「昔が良いとか言ってたの、撤回するよ。今も昔も人は醜い」
「人間とはそういう生き物よ。だからこそ、癒しが身に沁みる」
「辛い食べ物の間に甘いもの挟むと美味い、みたいなことか?」
「まあそうだね。人生という戦場の中で傷を癒す存在が、人には不可欠だと思う。翔くんにとってそれは私」
「トキさん…ありがとう、心強いよ」
「困ったらお互い様ね」
♪この都会は戦場だから
未来に戻る術を探すこと丸2日。2人は銀座八丁目の喫茶店「みやざわ」で夕食を摂ることにした。喫茶店とはいうものの、生姜焼きや白身魚フライといったおかず(20時までなら定食にもできる)も揃えているため半ば食事処である。ランチ営業の他、深夜にかけても営業しており、夜勤に向けてのエネルギーチャージとしても重宝されていそうである。
店内はボックス席のみで、煙草を吸わない2人は手前の卓に座った。テーブルは4人席サイズであるが、柱で1人分潰れているため3人席である。
2人はまずヘルシージュースを頼むことにした。わざとらしい甘さは無いが特筆することも無い野菜ジュースである。
メインは名物のミックスサンド。ツナとたまごを1人3切れずつ戴く。味自体は特別なこと無いのだが、どちらも具材の密度が高く腹が満たされる。
店内のテレビでは野球中継が流れていて、客や店員は釘付けになっている。
「昔の人はすごいよね、こんなに野球中継に夢中で」
「たしかにあっちの世界ではナイター中継ないね。この時代は中継あるなしで他の番組の視聴率が大きく変わるんだ」
「現代では視聴率という概念自体が形骸化してる。そもそもテレビが家に無い人も増えてるし」
「わざわざ駅前に観に行っていた時代からは想像もつかないね」
「野球自体は人気あるよ、テレビでやらないだけで。オータニの活躍でこの時代以上に人気かも」
「オータニさんは毎日のように向こうのニュースで見かけるから、私でも知っている。ここにいる人達に話したらびっくりするだろうな」
「タイムパラドックスになりそうだから止めておこう。ま○ぽさんに怒られちゃう」
2人はデザートタイムを楽しむことにした。翔の注文したコーヒーは苦味が主体で、やはり特別なことは無いが元気の出る1杯である。
こちらもこの店名物のプリン。卵主体の懐かしい味であるが、トキはこれが良いんだよというばかりに頷く。
「向こうのプリンは蕩けすぎだからさ、これが一番安心するんだ」
「流派あるよね。俺はミルキーな方が好き。ああ、現代に戻りたい。これ以上学校欠席すると遅れ取り戻せない…」
「それ言われたら、私も早くYouTube撮りたい…」
「翔氏とトキ氏、演出に口出しするものではありませんよ」
「ま○ぽさん⁈」
「オトナ帝国のチャコ風衣装でやって参りました。真空ジェシカ・ガク氏の相方でございます」
「それは川北。大喜利モンスターね」
「私を置いてけぼりにしないでください」
「失礼いたしました」
「ま○ぽさん、現代に戻らせてください。バリスタ学校の授業があるので!」
「だから口出しはよろしくありませんと申しております」
「4日したら戻りますから!学校しばらく休みに入るので」
「仕方ないですね、許可しましょう。ただそのためにはちょっとした儀式を受けていただきます。とりあえず先ずは現代へ」
現代のみやざわにタイムスリップした一行。昔ながらの喫茶店ではあるがキャッシュレスに対応していて、クレジットで支払いを済ませ店を出る。ま○ぽは袋を取り出し、翔の鼻目掛けて開いた。
「くっさ!」
「死にオオカミを踏んだダイゴ氏の足の臭いでございます」
「足の臭いで現代の記憶を甦らすとか要らないから!そこまでオトナ帝国を再現しなくていいです!」
「次はどういった格好で現れましょうか。タイムスリップならいくらでもありますね、同じクレヨンしんちゃんからは戦国大合戦、ドラえもんなら無限にできますが」
「えじゃあのび太の恐竜とか」
トキは独りポカンとしていた。
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