連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』94杯目+(草風庵/飯能)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバー・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。
無事三ノ輪の基地で同棲を再開した2人。離れ離れだった数ヶ月を取り返そうと、夏を全力で楽しもうと考える2人だったが…

  

かき氷を食べたくなった2人。こんなところに名店は無いだろうと期待していなかったが、検索をかけると飯能の喫茶店にかき氷があることが判明した。
人気店でウェイティングが発生している可能性が高かったため急いで車を走らせる。10分で到着すると、ちょうど2階の座敷が1席空いていたため、急で狭い階段を這い上がり滑り込む。

  

「田舎のお家、って感じするね。めっちゃ新鮮」
「俺も好きだな、こういう空間。都会暮らしじゃ絶対味わえないもんね」
「楽しい夏休みになった。山の夏休みもいいもんだね、虫さえいなければ」
「ホントそう。虫さえいなければなあ」

  

夏休みの終わりとは、大人になっても恋しいものである。明日からは日常に戻り仕事をしなければならない、この運命には幾つ歳を重ねても慣れないものである。
「明日から俺は次のドラマの準備…」
「私も番組収録と演技レッスン…」
「現実の世界も苦ではないけど、この非日常が終わるのは寂しいね」
「そうだね。また自分の嫌なところと向き合わなければいけない」
「どういうこと?」
「お芝居ってやっぱり難しいじゃん。上手くできない自分にイライラしちゃってさ」
「俺もだ。どうしても不自然なセリフまわしになっちゃって、自分を殴りたくなる」
互いに同じ悩みを抱えていることを知り、2人はハッとした。
「わかってくれるの嬉しいな。先輩ばかりの現場だとどうしても相談しにくくてさ…」
「話しかけづらいよね。こんなこともわかんないのか、って怒られそうで」
「それでそのまま本番迎えたらミスして結局怒られる」
「わかるわかる。俺も会社員時代はそれの連続だった」
「どうしたら気軽に相談できるんだろうね…」

  

悩んでいるところにかき氷がやってきた。2人が選んだのは白いちごのかき氷。パウダースノーのように軽い口当たりで、味は引き算に引き算を重ねているが確かにいちごを感じる。普段から調味料をだばだばとぶっかけるような人には理解できないかもしれない、水の良さと素直な苺の味に心がほぐれる。練乳もついてはきたが、かけてしまうと練乳の味しかしなくなるし、そもそも飛べないただの豚が吸うものだと言って全くかけなかった。素朴だからこそ、体にも心にも沁みるものである。

  

少し混雑してきたため、そそくさと会計を済ませ車に戻った2人。
「俺は美味しく食べたけど、京子の口に合ったかな?」
「ちょっとわからなかったかも。でもこれが大人の味なんだろうね」
「そうだね。まあ少しずつ慣れていけばいいよ」
「ありがとう。なんかタテルくんになら何でも打ち明けられる。私すごく不安でさ、今でこそたくさん番組呼んでもらえてるけど、全然気の利いたこと言えなくて…」
人前で泣くことは珍しい京子が声を詰まらせた。
「このままバラエティもドラマも声がかからなくなって、みんなから忘れ去られてしまうかも、なんて考えたら悲しくなって」
「そんなこと絶対無いから。まず俺がそうさせない」
「…」
「京子は無理に喋ろうとしなくて大丈夫。どっしり構えているだけでも画になるし、京子がいるだけで笑顔になる人がいっぱいいるんだから」
「ありがとう…」
「俺だって、京子がいないと鬱になっちゃう。つらくて苦しい時は相談させてね」
「もちろん」
「お互い忙しくしてるけど、最後に帰ってくる場所は三ノ輪の基地。俺はこの幸せを離さないと決めたから」
「傷ついたときはお互い様だね。これからもよろしくね」

  

そして2人は最後に西武園ゆうえんちを目一杯楽しみ、この夏の思い出を充実させた。

  

(第21シーズンへ続く)

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