連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』17杯目(むぎとオリーブ/東銀座)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。
ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

「プライベートゴチ?」
「今からお2人には、次の店で食べるラーメンを決めてもらいます」そう言って大石田は2人にメニュー表を手渡した。
「特製にするかしないかとか、ご飯つけるかとか、自由にしてもらって良いです。自分の頼んだ分の代金がいくらか予想してください。正解の代金と予想がより離れていた方が自腹です」
「ついに来たな俺の得意分野。ゴチのレギュラーになったら絶対年間無敗達成できるもんね」
「私は蛤SOBAと卵かけごはんで。900円と150円で1050円」
「おい無視すんなよ…いいや、特製鶏・煮干・蛤トリプルSOBAで1500円」
「2人とも、これでSTOP?」
「あ、いや…」迷いが生じるタテル。
「私はSTOPです」
「どうしようかな…1600円、いや、1400円、…やっぱ1500円のままでSTOP!」
「そんなブレブレで勝てる?さっきあんだけ大口叩いていたのに」余裕を見せる京子。

  

「それでは結果発表!肩をトントンされた人が自腹です」
銀座のど真ん中で行われるゴチごっこ。恒例の焦らしの末…

  

「今回は京子さんにゴチになります!」
「えー、嘘でしょ!」
「嘘じゃないよ」
「ちょっと信じらんない。価格教えて早く」
「タテルさんの特製トリプルそばは1400円で、予想が1500円と+100円の誤差、京子さんの蛤そばが1100円に卵かけご飯が300円で合わせて1400円、予想が1050円と-350円の誤差」
「え待って、ノーマルのラーメンが1000円超えて、卵かけご飯が300円?おかしいって」往生際の悪さを見せる京子。
「ここ銀座だよ。普通の値段じゃやっていけない立地」
「立地とか知らない!タテルくん、せめてその歌舞伎メイク落として!」
大負けした時の江角マキコのような不機嫌さを見せる京子であった。

  

GINZA SIXの裏の路地にそのラーメン屋はある。13時だったので10人くらいの待ちであったが、2時間も待った2人にとってはものすごく短いものだ。前の客が戻ってくるタイミングで、京子は渋々2人分の食券を買う。ちなみに八五でもそうであったが、1人客は上手く席が空けば順番をすっ飛ばして入ることができる。シングルライダーは得だ。

  

まもなくして2人は席に案内され、ラーメンがやってきた。タテルの頼んだ特製には豚チャーシューに鶏チャーシュー、味玉、海苔、三つ葉、蒲鉾、山芋、そして貝は…蛤なのか?むしろアサリっぽい。いずれにせよ要素満点で混乱する。
スープには強烈な旨味があるが、それを凌駕するコシのある麺。世にあるラーメン屋の中でもトップクラスといえよう輪郭の濃さである。2杯目であることを差し引いても、重たすぎる。低温調理の豚チャーシューはとろけるものではなく、余計に重さを生んでいる。味玉の絶妙な味加減など光る部分もあるが、要素の多さに頭が追いつかない。半ば残飯処理のように、麺と具を掻き込んだ。

  

「あ、オリーブオイル入れるの忘れた!」店を出てすぐ、京子が叫ぶ。
「そうか、『むぎとオリーブ』だもんな」
「これは失敗。今度また食べに来よう」
「いやいや、それなら店員さんが『オリーブオイルで味変してくださいね』って言うべきだ、って講評すれば大丈夫だ」
「…まあそれでいいか」

  

三ノ輪の基地に戻った2人はいよいよ、初めての動画を投稿する。チャンネル紹介をし、朧月に行った回の動画だ。
「うわぁ、面白い動画になった!みんな観てくれるといいな」感動しそうな京子。
「俺はこの後のステージで宣伝するから、京子もメンバー達に広めてな」

  

その夜、ヨシモト∝ホール。チャンネルを宣伝したステージ終わり、かはず亭の2人が歩み寄る。
「タテル、お前どういうことだよ」
「…え?」
「お笑いそっちのけでアイドルと付き合うなんて、100年早ぇわ!」
「みんなのライヴなのに私的なお知らせぶっ込むんじゃねぇよ!」
あまりの剣幕に、タテルも身震いし出す。
「売れたいんだろ、ちゃんとやれよ」
「アンタの相方は京子ちゃんじゃない、O-JIMAくん」
「ホンモノの相方に迷惑かけるんじゃねぇぞ」
芸人としての心を忘れかけていたタテルを、何とか引き止めようとする仲間たち。芸人でいくのかYouTuberでいくのか、どうするタテル。

  

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