人気に翳りが見えていた女性アイドルグループ・綱の手引き坂46は独立騒動を起こし、プロデューサー冬元は彼女達を追放。「TO-NA」に改名し、墨田区で地域密着型アイドルとして再出発した。新プロデューサー・大久保、特別アンバサダー・渡辺タテルが表立って運営をしている。
冬元は暴露系インフルエンサー集団「GARASO」を編成し、TO-NAの活動を邪魔しようとする。一方冬元と共に綱の手引き坂追放を煽っていた檜坂46(実質的)プロデューサーのカケルは、突如TO-NAを救う方向に寝返る。
さらに惜しまれつつ解散した国民的アイドルグループ「MAPS」のメンバー(風間・朝倉・村上・中村・神山)が再集結を画策し、その過程でTO-NAに接近していた。
*この物語はフィクションです。食レポ店レポを除き、実在の人物・組織とは一切関係ございません。
「何ですか急に?喋り方も変だし」
「いやあ最近ふるはたチャンネル観てましてね、真似したくなったんですよ〜」
「ナメてるんですか?」
「いえいえ。それにしても被害者のタテルさん、意識が戻っていないそうで不安ですね」
「そうですね…」
「やっぱり。今私は嘘をつきました。タテルさんは意識回復しております。後遺症も無いようで良かったですね、それを何故あなたは知らない?TO-NAのスタッフであれば最低限知っているはずですが、やはりあなたはTO-NAに興味が無いのでしょう。まあこれは全然証拠ではありません、証拠はこの映像にあります」
そう言ってカケルは、光藤から送られた動画を見せる。
「この壁を登っているのはあなたですね」
「は?何言ってるし?」
「18:50に脚立を用意し、機材をいじって降りてくるまで僅か4分。これは相当作業に慣れた人でないと無理です」
「それでなぜ俺が犯人になるわけ?」
「十分手慣れでしょう。あなた、地元の『脚立運んで登って選手権』で3連覇を果たしたそうですね。誰もあなたに勝てないから永世チャンピオンの座を獲得して大会を去った。あなたにしかできないでしょう」
「…」
「着ているTシャツもTO-NAの関係者しか着られないものです。随分と詰めの甘いこと。完全犯罪をやるのであれば、せめて着替えてから犯行やってもらいたいものでしたね。古畑の物真似して損しました」
「それはあなたの勝手でしょうが」
「どっちにしても言い逃れはできませんね」
「わかりました、認めますよ…私がネジをすり替えたんですよ!ちょっとした衝撃で崩れるようなボロボロのネジにしました!そんでGARASOはどこ行ったんですか⁈」
「GARASOは追い出しました。この拠点が不当に占有された証拠も出てるんだよ!TO-NA運営から騙しとった証拠がよ!」
「…」
「TO-NAに対するデマを垂れ流したのもGARASOだ。全てはTO-NAを貶めるために行ったことだ。残りのメンバーも直に逮捕されることでしょう」
「そんな…カケルさんはどちらかというと俺らサイドじゃなかったのか⁈裏切りは勘弁だよ!」
「テメェらだって裏切りかましただろ!」
「…」
「圧力かけるようなやり方は許せない。冬元の春も終わりだな」
「何とMAPSの5人がソラマチに突如現れたとのことで、再結成も近いのではと噂されていますが、それを阻む動きもあるようで」
午後のニュース番組「イヤネ屋」では、誰も報じていなかった黒羽根の圧力に言及。コメンテーターのトミザワウメオが吠える。
「MAPSくん、みんな立派な方々ですよ。国民も再結成望んでいるというのに何故それを止めようとするのか。ごく少数の自分勝手を押し付けないでもらいたい」
「全くその通りですよね」
「くだらないしがらみ作りやがって、これだから芸能界は腐ってるって言われるんだ。メディアも何故取り上げない。本当に腹立たしい」
「トミザワさんの意見はごもっともです。我々ももっとおかしいと主張しなければいけなかったと反省しております。あ、速報?墨田区八広で行われたアイドルグループTO-NAのライヴにて機材が落下した事故、警察はネジを抜いて意図的に落下させたとしてTO-NAスタッフの関口與一容疑者を逮捕しました。関口容疑者は警察の調べに対し『冬元先生の指示でTO-NAメンバーを狙った』と供述しているとのことで、今後冬元氏にもメスが入るかもしれません。なお、機材が直撃し意識不明の状態でございました運営スタッフの渡辺タテルさん、意識回復し快方に向かっているとのことです。元NGYのアカリさん、あなたのいたグループのプロデューサーに疑惑の目が向けられていますが」
「本当だとしたらすごく悲しいです。私をNGYのメンバーに選んで下さった恩がありますから…」
涙ぐむアカリ。
「被害者のタテルさん、元々私のファンで。私がNGYとして活躍する姿を見て頑張れた、おかげで東大に受かったって嬉しそうに話してくれて。生きていてくれて良かった…」
「そもそもTO-NAがメディアに出れていないのもおかしいんですよ。その辺も含めて冬元くんにはちゃんと説明してもらわないと。娘を泣かすようなことするな、って話ですよ!」
その後GARASOのメンバーは全員逮捕され、冬元に対しても会見を求める世論の声が高まった。しかし冬元は関与を否定する。当然世間は納得せず、「国民を騙して不当にTO-NAを貶めた」「メディアに圧力をかけ、しまいには実力行使を教唆した」など冬元への抗議がSNSで活発に寄せられた。国民の不満は無視できない程に膨れ上がっており、冬元も手を打たざるを得なかった。
この度はTO-NAの件に関してお騒がせしております。改めて申し上げますが、私が関口氏に指示してTO-NAに危害を加えた、という事実はございません。そもそもTO-NAに対し圧力をかけた、という自覚も無いのですが、無意識のうちに圧をかけていた、という可能性はあるのかもしれません。
私は今手がけている全てのグループのプロデューサー職を辞し、一切の関与を断ちます。断腸の思いではありますが、私の存在が活動の邪魔になってはいけないと考えこのような決断に至りました。私は暫く一線を退きます。作詞業も休止します。このような形での引退は不本意ではありますが、今まで大変お世話になりました。ありがとうございました。
罪こそ認めなかったものの、冬元が身を引く決意をしたことに胸を撫で下ろすカケル。長らく連絡を取らなかった兄のタテルにメッセージを送る。
「良かったね、これでTO-NAの活動も元通りになるんだろうな。相変わらずパフォーマンスは二流だけど」
「一言余計だよなお前」
「俺はTO-NAのことが嫌いだ。冬元のやり方が正義に反すると思ったまでさ」
「協力はしてくれたんだ。ありがとうね」
「別にお礼言われたかねぇ…世界進出とかふざけたこと言うなよ、TO-NAは国内で我慢しなさい」
「残念だね、TO-NAはそういうやり方で行こう、って話していたところだ。全国から満遍なくメンバーが集まっているし、各々の地元にTO-NAを浸透させる方が先決だと判断した。世界は二の次さ」
「強がってるだけだろ。そういうところが嫌なんだよTO-NAは」
「勝手にどうぞ。お前も出過ぎた真似はよせよ」
「してねぇし。俺は正義を守りたいだけだ。雑音の無い平和な世の中を、檜坂と実現したいだけだ」
「くれぐれも檜坂メンバーを危険な目に遭わせることの無いように」
「言われなくてもわかってるから。TO-NAはパフォーマンス磨いてろ。中途半端は許さないからな」
「わかった。お互い切磋琢磨しよう」
「うるせえな。…まあ頑張れよ」
圧力が無くなり、国民からの不信感も払拭できたTO-NA。都心での仕事も解禁となり、今まで以上に各局から引っ張りだことなった。ラジオ番組も軒並み復活し、オールナイトニホンに復帰したコノは復帰初回の放送で5回も涙したと云う。
「みんな、事務所どうしようか?港区に戻った方が良いんじゃないか、って局のスタッフさんから言われてるんだけど」
「ありがたいんですけど、ここの暮らしに慣れてしまいましたからね…」
「墨田区の皆さん優しいから、離れるのはつらい」
「私たちはあくまでも地域密着型アイドル、ですからね」
「俺もそれが良いと思う。墨田区から全国へ、そして世界へ!」
その後も精力的に活動するTO-NA。全国のフェスに積極的に出演する。福島赤べこフェスでは、この春富山から異動した岩倉アナと再会した。
「タテちゃん、心配してたよ!大怪我したって聞いて」
「まさかあんなことになるとは思わなかった」
「無事でいてくれて良かった。TO-NAの皆さんもすごくパフォーマンスが進化していて感動したよ」
「これからも応援してね」
「もちろんよ!」
ある日のミニライヴ終わり、サプライズ発表が行われる。
「墨田区を拠点に活動するなら、ここでのライヴをやらないわけにはいきません!」
「まさか…」
両国国技館2days、開催決定!
「うわぁ〜!」歓喜の涙を流すメンバー達。
「もう大きな会場には立てないのかと思ってた…」
「辞めないで良かった。国民的アイドルへの道、また歩めるチャンスだ!」
「みんな、ここは今まで以上に結果が求められる。プロ意識を確と持って練習に励め」
「はい!」
ある日、タテルはメンバーのキラリンを連れて、押上が誇る名店「おみ乃」を訪れる。そこにMAPSリーダーの風間も合流する。
「よっ!元気かい?」
「はい、おかげさまで忙しくしております」
「キラリンちゃんだっけ?焼鳥食べるんだ?」
「はい、よく1人で食べに行きます」
「若い女の子が1人で?ツウだね〜」
予約したい日付の2ヶ月前の月初め午前10時に予約を取るシステム。予約開始と同時にあっという間に枠が埋まる程の人気店である。乾杯酒は墨田区だからアサヒビールを、と思ったが無かったため山椒ハイボールにした。爽やかな味が、酷暑を潜り抜けた体に染みる。
「今の焼鳥屋ってこんなお洒落なの?」驚く風間。
「最近は様々な部位をこだわって焼く店が多いんですよ」
「さすがタテルくん。キラリンちゃんも良く行くんだ」
「私は赤ちょうちん系しか行かないんですけど…」
「だよね、タテルくんかっこつけすぎ」
「そうですよタテルさん。一流がどうとかうるさいです」
「いいじゃないか別に!」
さっそく血肝からコースが始まる。焼き加減が良くてとろける。レバーの濃厚さに程よくクセが載っている。
「うわすごいね、こんなふっくら焼けるんだ」
「どうです?これが究極の焼鳥です」
「びっくりしたべ。な、キラリン」
「そうです、そう…モス」
「モス?」
「ちょっと舌がもつれただけです!『です』って言いたかったんです!」
「モスバーガー食べたいのかと思った。気をつけてね」
せせり。フレッシュに液状化した脂に纏われ、程よい弾力を楽しむ。
オクラはほんのちょっとの塩で野菜の旨味を立てる。外はがっしりと、中はねっとりと。ここまでコントラストのある個体はタテルにとっても初めてである。
「風間さん大丈夫でした?」
「大丈夫だけど。どうして?」
「野菜苦手なイメージがあって」
「まあこの歳になると野菜も食べなきゃね。少し体調も崩したし」
「あの時は本当心配しましたよ」
「ガンかと思いましたもん」
「心配しすぎ!俺は元気だよ!じゃなきゃMAPS再結成なんて考えもしない」
絶妙な塩の振り加減で旨味を最大限外に纏わせた砂肝。ここでいよいよMAPS再結成の話題に移る。
「俺らの再結成を阻む黒羽根っていう人がいるんだけど」
「聞いたことありますね。ジャネーノ時代からやたらうるさい方だと認識してます」
「その通り。独立した今だからぶっちゃけるけど、ホントにそれ意味ある圧力?って思うルール多かったもん」
鰹節を少し載せたししとうは少し辛みの強い個体であった。
「その黒羽根が、今全然連絡取れないらしい」
「雲隠れですかね?」
「ズルいですよ」
「世論の高まりを無視できなくなってきたんだろうな。八広ライヴ事件で冬元先生が身を引いてから、世論がより一層強権的な業界人に厳しい目を向けるようになったと思う」
「怖くなったんですかね」
「わからない。でもいずれは何かしらあるだろうね」
ここで日本酒を追加する3人。高知市と四万十市の中間らへんにある久礼という町の日本酒。20歳になったばかりのキラリンも美味しそうに飲む。
そこへ厚揚げが登場した。香ばしい皮、薬味の大葉の香り、微量の醤油の儚くも自己を最大限出そうとする心意気で酒が進む。ここに豆のとろける感覚があればより良いのだが、果たしてそんなこと可能なのだろうか。
「でMAPSに関しては再結成…します!」
「良かった…何今の溜め」
「株式会社MAPSを設立した。5人は各々の事務所に籍を置きつつ、MAPSとしての活動はこの会社を通して行う」
「ついに現実になった…嬉しいですね、小さい頃から当たり前にいたグループが再び動き出すのは」
「本当だよ…」涙ぐむキラリンとタテル。
つくねがやってきた。高級店では一塊で提供されることが多い中、こちらは球体3連。しかしここにも旨味たっぷりの肉汁がたっぷり詰まっているし、ところどころにいる軟骨の食感もはっきりしている。
揚げ里芋は酒の入った体に染みる出汁の繊細な旨さが堪らない。
さらにやげん軟骨。フレッシュにしずる脂の串が続いていたが、ここに来てペタッとした熟練の脂みが来た。レモンを絞ってさっぱりさせても美味しい。
「圧力とかは大丈夫なんですかね?」
「それはもう大丈夫だと思う。もうテレビ局とかに根回しはしてあるから。黒羽根が今さら圧力かけるとは思えないし」
「ジャネーノ問題もありましたからね」
「そうそう。うちの事務所のタレントは出さない、とか脅しても意味ないからね。黒羽根も結局は口だけだと思うよ。MAPS×MAPSも復活できるはず」
「楽しみですね!」
うずらの卵。お淑やかな醤油の味付けが半熟の黄身の円やかさを立てる。
マルハツ。生命を支える器官とあってムキムキの筋肉質と快活な脂身。
「心臓丸ごと1個なんでしょこれ?グロいように見えて臭みが無いのってすごいよな」
「高級焼鳥でしか味わえないですよねこれ」
「赤ちょうちんとは全然違う」
硬さのある水茄子。胡麻が旨味を引き出す。
かしわは肉の旨味をじっくり味わうのにうってつけの部位。
「焼鳥って塩かタレかみんな議論するけどさ、こういうの食べたらどうでもいいと思えるよね」
「スーパーの焼鳥とかもう無理です。カチカチすぎて」
「贅沢なことを」
タテルおすすめ、寒菊酒造の日本酒を追加。
そこへ手羽先が来る。こちらも脂たっぷりで美味く、ぜひ手掴みで貪りたい。
とうもろこしを齧りながら、風間はTO-NA公式YouTubeで行われた25.5時間生配信の話をする。感動系企画からお笑い企画まで、TO-NAの振り幅を見せつける内容となっていた。
「みんなすごい面白いよね。ハルハルちゃんの企画なんて何度も爆笑しちゃったもん」
「オニマナーミヤコ先生のマナー講座ですね。よくあの鬼講師の前で怯まず天然ぶり発揮したよな、と思いますもん」
「ハルハルちゃんは裏でもあんな感じ?」
「そうですね。年上なんですけどすごくイジり甲斐があります」
「良いキャラしてるよ。コントやらせてあげたいね」
続いてはスネ肉だっただろうか。食感に特徴は無く、こちらも肉本来の味をじっくり楽しむ類の串である。
ひざ周りは胡麻油をかけた白髪葱と共に2本。身が整然と引き締まっていて、香ばしい皮と共に食らう。
「あとは寝起きドッキリね。想像と全然違かったけど」
「レポーターのエイジさん、早速そこに寝ているメンバーを起こしてください」
「いきますよ〜、おはようござい…え?大きなハート作ってる」
「エイジさん、ラブ〜!」
「どういうことだよこれ…」
「じゃあ次、あちらの襖の先を開けてみてください」
「聞いてないし。開けますよ!…何だこれ」
「財布からちょっくら…」
「犯罪やないか!もうわけわからん」
「まあまあまあ。隣の障子をそっと開けてください。そっとですよ」
「何よ…あぶねっ!刀振り回してやがる!」
「はーい、これがTO-NA流の寝起きドッキリ、又の名をツナモンスリープです!」
「カオスの極み!なんて日だ!」
「あれは凄かったね。やっぱTO-NAは只者じゃない」
「レポーターのエイジさんも楽しかったって言ってくれました。みんなで売れてハワイ旅行行こうね、って」
「エイジさんはMAPSさんのことが大好きなので、TO-NAのみんなと一緒にMAPS×MAPS出してほしいです」
「タテルくんのお友達なんだね。いいんじゃない、連れてきなよ!」
この辺から酔いが回り出した一同。ぼんじりは脂っこさが軽減されて食べやすかった気がする。
コリコリとした食道。噛む度に旨味が溢れ出す。
「キラリンちゃんは出身どこ?」
「広島です」
「仁義なき戦いだ。じゃけぇ、とか言ってそう」
「言ってますよ」
「やめてくださいよタテルさん!」
「キレるとすぐ広島弁になるんですよ」
「俺藤沢だからヤンキーコントやろうよ。他にヤンキーっぽいメンバーいない?」
「レジェはハマの番長です」
「タテルさんだって足立区じゃないですか」
「足立区はマジもんだね」
「ちょ待って、俺も参加するの?」
「やろうよ。絶対面白いもんね」
「…やりましょう」
ここで〆の食事が登場する。鶏そぼろ丼・鶏茶漬けなどの選択肢がある中、今回は親子丼を選択。ここまで沢山の鶏肉を食べたためか、ここには肉は1つしか入っておらず、卵の味わいに集中する。
〆とは言ったものの、串はストップをかけるまで提供され続ける。山芋は微かなネットリと微かな味付けが良い。
「そろそろお腹いっぱいかもしれない…風間さんはどうですか?」
「そうだね。もういいかな」
「〆4種類全部食べてますもんね」
「やっぱね、飯が美味いのよ」
「風間さんらしいですね。何だろう、本当は色々気にしてるけどそれを表に出さずいつも元気に振る舞うところ、それが風間さんの魅力なのかな、って思いますね」
「急にどうしたんだよ」
「アイドルってやっぱそういう存在だと思って。涙を見せても良いけど、それ以上にTO-NAのみんなには笑顔を見せてほしいな、って思うんです」
「それは大事だね。みんなを明るくしてくれるもんね」
「キラリンも思い悩むこと多いと思うけど、応援してくれるファンの笑顔を思い浮かべてやっていこう。上手くできないとか言わない」
「ありがとうございます…」
ちょうちんが出てきたところでストップをかけ、その次の串でコースを打ち止めすることにした。高級焼鳥では人気の高い部位であるが、この日の個体は臭みが目立った。
最後はソリ。最後の最後で再びムキムキの部位。酔いに惑わされそうな脳を切り替えるように噛み締める。
「うわ、1人で25000円⁈」
「20本以上食べてますからね。酒もたらふく飲んだし」
「この後が怖いね」
「3日後胃がぶっ壊れるかもしれない」
「あら。気をつけてくださいよタテルさん」
「粗相しないようにね」
その後、国技館ライヴに向け練習に熱の入るTO-NAのメンバー。その間には念願の徹子の部屋に出演し、TO-NAは今まで以上に世間の認知するところとなった。
両国国技館ライヴは満員御礼。改名当初では全く考えられなかった、大きな会場の客席を人が埋め尽くす光景。そこでメンバー達は全力のパフォーマンスを披露し、会場を熱気に包んだ。
そして最後に披露する曲は、唯一綱の手引き坂時代から引き継いだファンとのアンセム。客席がいくつかのブロックに分けられ、各ブロックで違う色のサイリウムを点灯する。出来上がったのは虹である。
「この光景がまた見れて嬉しい…」
「優しさの結晶だよね…」
「TO-NAになってもこの景色だけは大事にしたい」
メンバーもスタッフも、関係者席にいたMAPS・おえど男子・おかまたち・えり子も皆目を潤ませる。再出発に成功したTO-NA、次に目指す舞台は東京ドームである。
余韻冷めやらぬ翌日、アヤが卒業を発表した。次のステージを想像してみたら、自分はそこにいなかったと云う。
「アヤ…寂しいって!」
「ごめんね、これからもみんなといたかった。でも私は別の夢ができた。どん底からここまで這い上がって来たこと、大きな自信になってる。みんなはもっと輝かしい未来に向かって頑張ってね」
「アヤさんの分まで頑張ります!」
「見ていてくださいね、絶対卒業したことを後悔させますから」
一方のMAPSも無事に再結成を果たし、TO-NAとタテル・エイジはコントの常連ゲストとして出演。風間・キラリン・レジェ・タテルによるヤンキーコント『全日本ヤンキー会議』、中村・ミレイ・マリモ・ハルハルによる『やさしいぶっとびさんたち』が忽ち人気を集め、TO-NAは国民的アイドルに大きく近づいていった。
推しとは自分の心を豊かにしてくれるものである。たとえ世間一般において無名であっても、その推しを一途に応援する権利はある。
だけど人は流されやすい。何でこんな人が好きなの?この人悪いことした人じゃん、それでも推しをやめないなんて変わってるね!とか言われるのが怖くて、結局ただ流行りに乗るだけになったりする。
あいつは終わっただの人気無いだの、外野からのそんな声は気にすること勿れ。ナンバーワン以外は悪なのか?いや違う、たくさんのオンリーワンを取り込んだ方が楽しい。自分の好みは他人には決められまい。自分が愛したいと思った人を愛せばいい、それでこそ人生だ。
—完—