連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』13杯目(朧月/銀座)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。
ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

三ノ輪の秘密基地の内装が整った。初めての撮影を行う。
「はじめまして!」
「京子です」
「タテルです」
「僕たちは〜キョコってる!」
「いやぁ、始まったねぇ。今をときめくアイドル・京子とこんなことやれるとは思わなかった」
「タテルくんしつこく誘ってくるんだもん。結構悩んだからね」
「いやホントありがたい。あ、ちなみに僕たちは付き合ってるわけではなくてね、ちゃんと裏方さんがいらっしゃるので。カメラマン兼ディレクターの大石田さん〜」
「大石田です、よろしくお願いします」
「京子、広瀬川すずちゃんみたいに口を滑らさないでね。ちゃんと大石田さんリスペクトするのよ」
「やめなさいって」

  

「さて、僕ら『キョコってる』ですが、これから何をやっていくのか、気になってる方も多いと思うので今から説明するね。京子の大好物といえば…」
「ラーメン!」
「みんな知ってるね。そして僕もラーメンが好きです。ということで、ラーメンYouTuberになることにしました!」
「えーそれSURUSURUのパクりじゃん」
「そう言うと思った。差別化はしてるから。まず、食べるシーンは映しません。これは京子のマイルールによるもので、とにかく目の前のラーメンに集中すべきと考えています」
「そう。カメラ回されると気が散るし。喋りも最低限」
「写真だけ撮って、後は僕らの感想トークで魅力を語りまーす」

  

「そしてもう一つ大事なこと。ラーメン代をかけて、毎回ちょっとした『対決』を行います!」
「え、聞いてないんだけど!」
「YouTuberらしいことやってみたくてね。京子は年間1億稼いでるからいいでしょ」
「冗談言わないの!」
「ラーメン解説の後、次行く店でのラーメン代自腹を懸けて勝負。負けた方がもちろん自腹です」
「そう言って、タテルくんに有利な対決ばかりやるんでしょ。クイズとか格付けチェックとか」
「そんなことないって。公平にやりますよ」

  

「じゃあ早速対決に参りましょう。今回ターゲットとなるラーメン店は銀座にある『朧月』さん。そしてわたくし大石田が決めさせていただきました最初の対決は…靴下早履き競争!」
「何それ?」顔を見合わせる2人。

  

「ということで、裸足になりましたね」
「俺の足は汚いから撮るな!京子の足だけ撮ってろ」
「そして目の前に新品の靴下が3足。1足履き、その後また脱ぎます。これを繰り返し、3足目を先に履いたら真ん中にある缶を蹴ってください。先に蹴った方が勝ちです」
「よぉし、望むところだ」タテルは自信満々だった。

  

「スタート!」
「おっととととととと!」片足を上げた瞬間よろけるタテル。
「やめて!こっち来ないで!」
「バランス崩した!わざとじゃないよぉ〜」
片足立ちすらままならないタテルを尻目に、京子は順調に履き脱ぎを繰り返す。
「もういいや。京子の足眺めてよう。可愛いんだよね京子のあんよ」
「やめて恥ずかしい。セクハラですこの人」

  

京子は急いで最後の靴下を履き、缶を蹴った。
「京子ちゃんの勝利!最初の1杯はタテルくんにゴチになります!」
「勝った気がしない。最後まで戦ってよタテルくん」
「ハンデありすぎだよこれ…」苦笑いしつつも、どこか嬉しそうな表情を浮かべるタテル。
「じゃあ早速行ってみよう!」

  

日比谷線に乗り、20分ちょっとで銀座駅に降り立った。東急プラザの裏手の道を南進し、行列を発見する。
「わぁ混んでる…やっぱ向かいの稲庭うどんにしない?」
「ダメ。ラーメン食べるの。自腹したくないだけでしょ」
「すんません…」大人しく並ぶ2人。カップルが特段多く並ぶ中、ちょっと気恥ずかしそうでいた。

  

中に入ったタイミングで食券を購入し、席が空くまでもう少しの辛抱。休日だが雨が降っていたため、全体の待ち時間は20分程で済んだ。
「はぁ、これでまた1軒フレンチを諦めなければならない」
「ウジウジ言わないで、堂々としててよ」京子の物言いに、少しムッとするタテル。

  

L字型カウンターの横棒をなす手前の2席に陣取った。チャーシュー3枚と味玉のついた特製つけ麺。チャーシューは1枚1枚丁寧に炙られ、えも言われぬ香ばしさに恍惚の表情を浮かべる2人。
しかしタテルの右側には厨房への狭い入口があり、店員は身を捩らせながら入っていく。食べている最中に体がぶつかり、集中が削がれる。京子もまた、大柄なタテルの腕がはみ出してきて苛立ちを覚えた。
麺は極太であり、スープの濃厚さはそこに絡むには少し力不足であった。麺を投入した後必然的に上からスープを纏わせることとなり、スープが枯渇する。タテルはペース配分を誤り、最後は麺だけで食べることを余儀なくされた。

  

「不味くはないけど…ちょっと不親切だったな」
「また文句言ってる」
「お金払ってる以上言いたいこと言わせてもらうよ」
「タテルくんはいいよね、好き勝手言えて」
「アンタだって言ってるじゃん」
ザワつく金曜日の枠を狙っているかの如く文句の多い2人であった。

  

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