連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』82杯目(かしわぎ/東中野)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」の元メンバー・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。
三ノ輪の基地(マンションの高層階の一室)でついに同棲を始める2人。

*時系列は『独立戦争・上』第2話と第3話の間です。

  

—第18シーズン:東中野&高円寺(82〜85)—

  

「おかえりタテルくん」
「ただいま。幸せだなぁ、『おかえり』って言われるの…」
「何ふけってるの。ほら、スーツケースはそっちに置いて」
「はーい」
「今日は遅いからもうお風呂にしようか」
「一緒に入る?」
「ふざけたこと言わないで。まだ早いでしょ」
「冗談だよ。じゃあ京子先入って」

  

「あ、キングサイズのベッド買ったんだ」
「部屋に入れるの大変だったんだからね。一緒に寝よ」
「寝る前のキスは?」
「それもまだ早い。疲れてるんでしょ、早く寝なさい」
「はーい」
「まあ子守唄くらいなら歌ってあげてもいいけどね」
「やめて。京子の歌は聴き入っちゃうから眠れない」
「じゃあ普通におやすみなさい」
「はぁ、これが同棲か。嬉しいような、ちょっと恥ずかしいような…」

  

「タテルくん、いつまで寝てるの!」
「えぇ、まだ6時じゃん…始業ギリギリまで寝ていたいんだけど」
「ダメ。早く起きて朝ご飯食べる」
「朝は食べないよ…」
「目玉焼き、今日は上手く焼けたんだ。一緒に食べよう」
「わかった、食べるよ」

  

どちらかと言うと京子の尻に敷かれるタテル。自分のやりたいことを制限されるから、同棲や結婚など忌み嫌っていた。だが京子に支配されるのだけは悪くないと感じていた。それくらいタテルは京子に心を許していた。京子無しの人生など考えられないでいたのである。

  

同棲してからもラーメンYouTubeの活動は変わらず行われる。同棲3日目には東中野のラーメン店「かしわぎ」を訪れていた。東口から通りを南下する。
「眠そうだね」
「他人事みたいに言わないで。タテルくんの寝相最悪なんだけど」
「悪かったよ…」
「私のゾーンに入ってきたのはまだしも、抱きつこうとしてきたよね⁈あれマジで迷惑なんだけど」
「無意識なんだよ。どうにもならないんだって」
「次抱きついたりキスしようとしたらアクリル板置くからね」
「俺はフトーフロか?大丈夫、殴ったりはしないから」
「当たり前でしょ」

  

開店前に到着したためか、待つことなく入店することができた。いつもなら多様なチャーシューの載る特製を選びがちだが、この日はシンプルに麺とスープを味わいたい気分であった。券売機左上にある塩ラーメン780円を選ぶ。

  

「なんかちょっと緊張感あるね」
「たしかに。背筋伸びる感覚久しぶりかも」
「威圧的、という訳では無いけど和を乱したら怒られそうな雰囲気」
「普通にしてれば大丈夫だよ」

  

間も無くしてラーメンがやってきた。少し苦味のある塩スープは力強く、麺と合わせるとちょうどいい濃さになる。
「チャーシューとか味玉とか載せなかったから、スープの良さがよくわかる。初心を思い出すね」
「初心ね。もしちょっとお互い嫌になったら思い出したいやつ」
「いきなりどうしたのタテルくん」
「ごめん、同棲始めてから西野カナのトリセツが頭から離れない」
「タテルくん、西野カナさんの曲わかるんだ」
「中学高校どストライクだからね。よく聴いたもんだよ」
「私ももちろん好き。これからもどうぞよろしくね」
スープも良いが具材も結局良くて、チャーシューはスモーキーっぽさがある程よい硬さ。黒胡椒を効かせたメンマはおつまみにも最適である。

  

「そうだ、最近綱の手引き坂の活動は順調?」
その言葉を聞いて、夢見心地から醒めるタテル。京子の抜けた穴は大きく、綱の手引き坂の人気は下降の一途を辿っていた。
「順調とは言えないね。だからちょっと動こうとしている」
「何するんだろう…」
「詳細は言えない。機密事項だから」

  

NEXT

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です