連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』10杯目(にじゅうぶんのいち/東尾久三丁目)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。
ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

「都電、初めてか」タテルが問う。
「うん。でもこの沿線、美味しいラーメン屋いっぱいあるんだよね」
「だから乗りたかったのか。で、次はどこで降りるの?」
「東おく三丁目、ってとこ?」
「それ多分『おぐ』だな。東尾久三丁目?知らないなぁ」

  

東尾久三丁目停留所を降り、住宅街へと入っていく。すると1台の自転車が止まる。
「京子さーん。お疲れ様です」
「誰この子?知人B?」タテルは突然の出会いに戸惑う。
「高嶋の花子ちゃんみたいに言わないでください!綱の手引き坂46の髙橋カコニです」
「そうだ、カコニちゃんだ!」
「京子さん、この方どちら様ですか?まさか恋人…」
「そんなわけないでしょ。友達で芸人のTATERUくん。恋するつもりはない」
「あくまでラヲタ仲間さ」
「ごめんなさい疑ってしまって…京子さんがそんなことするわけないですよね」
「気にしなくていいよ。それより一緒に行かない?私が奢るから」
「いいんですか?じゃあお言葉に甘えて」

  

商店街…とまではいかないが、商店の立ち並ぶ通りに出ると、お目当てのラーメン屋がある。平日の12時にも関わらず客は少なめで、3人連続して座る余裕すらあった。
「メニューが多い…京子さんはいつもどうやって選んでいますか?」
「こういうのは大体、左上を選ぶといいのよ」
「ということは味玉入り塩そばですね。1300円…結構高い。いいんですか京子さん」
「大丈夫だから。特製にしなくていい?」
「普通ので大丈夫です。なんなら味玉もいらないです。ちょっと節制しているので」
「本当は2000円近くするから躊躇っているんじゃない?大丈夫、俺も出すよ」
「それはさすがに悪いですって。普通の塩そばでいいです」
結局3人は普通の塩そばにし、京子は味玉入り、タテルは鴨ロースをトッピングしてもらった。

  

「カコニちゃんも今日は休みか。もしかして地元この辺?」
「そ、そう…ですね。あまり言っちゃいけないか」
「いいんじゃない?私は言ってないけど」
「町屋です」
「ほう町屋か。じいちゃんの墓参りでよく通る。いい焼肉屋あるよね」
「…どこのことだろう」
「正泰苑」
「そこは知らない。有名なんだ」
「めっちゃ美味かった。今度一緒に行こうぜ。京子も来るか?」
「私はいいや」
「なんで?」
「ラーメン以外は一緒に食べに行かない」
「何だよそのルール…」
「たぶん嫉妬ですよ!京子さんそういうのめちゃくちゃ気にするタイプなんで」タテルに小声で忠告するカコニ。

  

ラーメンがやってくる。
「カコニちゃん、食べている時は余計なお喋り禁止。写真撮ったらスマホはすぐしまう。わかった?」
「はい!」
塩ラーメンは味が薄くパンチに欠けることが多い中、こちらは麺の力強さによりコクが生まれ、印象に残る1杯となった。チャーシューは控えめではあるが、ごついチャーシューだと繊細な塩ラーメンの持ち味は消されてしまうから、これくらいでちょうど良いのかもしれない。
タテルは鴨肉を食らう。ビリケンの鴨とは違い、フレンチの皿で供されるべき肉塊。切れ目は入っているが、それでも噛み切りにくい。
「見苦しい姿、見せてごめん」
バルサミコの風味がして面白いが、噛むうちに臭みが目立つ。タテルは麺とスープで洗い流した。

  

「美味しかったです、京子さん。私初めてですこんなラーメン」
「いいでしょこういうラーメン。タテルくんも最近ハマってくれてるし」
「当たり外れあるけどな。自分の好みの方向性、見つけるといいよ」
「あ、ちょうど良かった。カコニちゃん、荷ほどき手伝ってくれない?」
「荷ほどき?どういうことですか?」
「俺と京子で色々やることになってな、三ノ輪に部屋借りたんだ」
「え?本当に?」
「ちょっとやってみたくなってね。いい?私たちは三ノ輪橋の駅にいるから、自転車で来てね」
「いやいや、3人で都電に乗ろうぜ」

  

「へー、ここが秘密基地。いいですね」
「とりま1つやりたいこととして、動画撮ってみようかな、って。だから撮影スペースを確保しつつ物を配置したい。あ、ソファー来た」

  

3人で意見を出し合い、立派な部屋が完成した。
「カコニちゃん、最後にもう1個だけお願い!」
「俺たちのチャンネル名考えてもらいたい」
「え?私が決めるんですか?」
「俺たち2人がどんなことやってるの観たいか、考えながらつけてほしい」
「責任重大だな…でもやっぱ単純に、2人の名前組み合わせて…『キョコってる』ってどうですか?」
「おぉ、良いね!うまく動詞になってる」
「ありがとう、カコニちゃん!」
「はい、俺からお駄賃…」
「いやいや、そこは私が出す。タテルくんが出しちゃダメ」
「なんでよ〜」
「ハハッ、ナイスコンビですね。動画、楽しみにしてます」

  

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