超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第4章:いじめをノックアウトしよう 1話(パトリック・ルメル/飯田橋)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。フランス帰りの革命を目論む男・カケル(21)に招かれ今再びこの国を変えようと動き出す。カケル率いる「アパーランドの皇帝」の一員(シナジー)として秘密裏で国を動かす。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

速報です。武蔵野市の公立中学校の生徒が自殺をしました。いじめが原因と見られますが、学校側は『いじめは認識していない』との姿勢を示し、生徒の両親は憤りの念を示しています。

  

「友達と呼ばせて…じゃねぇんだよ!気持ち悪いんだよ!」
「どうしたんですかカケルさん?」メンバーのrnrnが訊ねる。
「タテルが出てる相撲ドラマ、見ちまってよ!」
「あぁ、『友に綱を』ですか?すごく泣けました」
「感動すんなよそんなもんで」
「私は感動したんですよ!」
「だいいち相撲が嫌い。ポニーテールの肥満男の格闘技、誰が観たいと思う?」
「サルコジみたいなこと言わないでください」
「柏鳳関だけは認めるけどね。あの人は絶対王者として唯一相撲を盛り上げてくれた」
「でも柏鳳、親方になってから部屋で弟子のいじめ事件が発覚して、角界から追放されそうな勢いなんです」
「いじめしたのは弟子でしょ?親方は関係ない」
「世論も柏鳳を責める雰囲気です」
「相撲部屋は刑務所のような集団生活。上下関係に縛られて、いじめも日常茶飯事。他の部屋でも同じような事件起こっているのに、柏鳳だけこてんぱんに叩かれてる。何故だ⁈」
「現役時代何回も騒動起こしたから、ですかね」
「柏鳳は確かに何度か『騒動』というものを起こしてきたが、そこまで窘められるべきものか?」
「言われてみれば、何が悪いのか納得いく説明はできないですね」
「俺にはただの排外主義にしか思えないんだ。言いたいこと言ったら総スカンくらうもんなこの国は。俺はそういう風潮を変えたくて君達と共に闘っている」

  

そう言ってカケルは冷蔵庫からケーキを取り出す。
「フランスのケーキが食べたくてな。rnrnもきっと食べ慣れているとは思うけど、食うか?」
「じゃあいただきます」

  

まずはピスタチオのスイーツであるシチリア。ムースの色が若干人工的に思え、食べてみてもピスタチオらしい味は感じられず、ベリーの味の方が強い。ベリーを合わせると大体こうなってしまうので、ピスタチオを使うなら単体で勝負してほしいところである。
一方でアールグレイは紅茶の味がしっかり感じられる。桃の味も加わり、重たいものを受け付け難い夏でも美味しく食べられる。
「紅茶がはっきりしてるからフランスというよりはイギリスっぽいですね」
「まあ同じヨーロッパだからいいでしょう。でちょっと気になる事案があってな」
「はい」
「武蔵野市のいじめ事件。これはかなりの胸糞案件だよ」
「ですよね。被害者の無念を思うと涙が出てきます」
「なのに校長は『加害者の未来が…』とか言ってやがる。人の未来を奪った奴に未来なんてあんのかよ⁈」
「落ち着いてください。ちょっと言葉が強いですって」
「失礼。パワハラになるところだった。だからさ、俺動こうと思ってる」
「どうするおつもりですか?」
「学校に介入する」
「それはまずいんじゃ…」
「フランスではいじめは歴とした犯罪だ。法の力で加害者を転校させることができるし、何なら授業中に警察が入って加害者を逮捕したケースもある」
「過激すぎません?」
「さすがにやり過ぎ、という声もあった。でもこれくらいしないといじめという罪の重さは理解されない。フランスの基準を、この国でも適用したいんだ」

  

続いてモンブランを食べる。和栗モンブランとは違う、洋酒の効いた洋栗モンブランらしい味であるが、カシスの濃い味とバニラクリームの豊かな香りが驚くほど栗の味と合う。

  

「でももう被害者は自殺してしまった。こちらはどう救済なさるのでしょうか?」
「これから第三者委員会の調査結果が出て、『いじめは無かった』と言われることだろう」
「そういう傾向ありますよね」
「古典的な嫌がらせでもしようかな。外壁に『バカ校長』とか書いたり」
「しょうもない…」
「一番は校舎の爆破なんだけど、何の罪も無い人まで葬ってしまうのは俺らのやり方ではない。慎重に機会を伺おう」

  

ピスタチオクリームの入ったクロワッサン。こちらはこねくり回していないためかピスタチオの味を感じられる。見た目も映える、この店のアイコンとなる商品である。

  

「檜坂メンバーでいじめに苦しんでいた者はいるか?」
「そういえばmmさんがブログで仰ってました。いじめを受けていて、榎坂の曲に救われた、と」
「どれどれ。あぁ…」
胸が苦しくなるカケル。
「どうしましたか?」
「いじめの解決には、いじめられた経験のある人の力が必要だ。mmにあたってみよう。勿論本人の意思は尊重する」

  

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