連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』76杯目(井の庄/石神井公園)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエースだった佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。

  

京子の卒コンから1週間。タテルはロスに陥っていた。何をするにも気力が湧かず、時に塞ぎ込んでしまう。そこへ京子から連絡が来た。
「タテルくん、仕事ちゃんとやってる?」
「駄目だ。虚しくてあっけらかんとしてるよ」
「今日綱の手引き坂の後輩ちゃんとかき氷食べに行ったんだ」
「ウソ⁈切り替え早いって」
「一生会えなくなるわけじゃないんだから。タテルくんもしっかりしなさい」
「わかったよ…」
「でもそれだけ私のこと考えてくれるの、嬉しいな。次の日曜、私の家来ない?」
「え⁈いいの?」
「タテルくんの大好きなケーキ、用意して待ってるからね」

  

日曜日、石神井公園駅に降り立ったタテル。そこへ昨年M-1チャンピオンの歯姫ロマンばいく、キングオブコント準優勝のユウカが現れた。
「おいタテル、こんなところで何やってんの?」
「彼女と石神井公園でデートするんです。皆さんなぜここに?」
「練馬会。俺ら練馬区出身だから」
「そういえばそうでしたね」
「彼女さんも練馬出身なの?」
「そうです。小学生の頃石神井公園で河童見たって京子が言ってて、今日は久しぶりに探しに行こうかなと」
「石神井公園で河童⁈タテルだけは仲間だと思ってたのに」慶應大卒のばいくが落胆する。
「俺も地元の郵便局でUFO見たことありますよ」
「あり得ないって」
「あり得ない?あり得ないなんてことはあり得ない」
「出たよ、福山雅治の真似」

  

「タテルくんお待たせ〜」
「京子、会えて嬉しいよ…」
「あ、歯姫ロマンさんとユウカさんだ!」
「知ってくれていた!」
「もちろんですよ。私、こう見えてお笑い大好きですから」
「安心してください、京子の『大好き』、6割くらい嘘です」
「違う違う、マ〜ジだから!嘘ついてない!」
「出たよ、京子の全否定。これがまた愛おしいんですけどね」
「そ、そうなんだ…」ユウカの2人は少し引いていた。

  

2人は石神井公園駅周辺で一番の有名ラーメン店「井の庄」に向かう。カップ麺化もされた「辛辛魚」でお馴染みの店で、外待ちこそ無かったものの、食券を買って6人の中待ちに接続した。
「一度訪れたことあるような気がする。保谷になかったっけ?」
「保谷のはアルファベット表記だったかな」
「そうだそうだ。何か二郎系っぽいの食べたことある」
「鶏のやつね。あれも確かに美味しい」

  

回転は速く、15分もしないうちに着丼まで済んだ。麺は少し透明感のあるピチピチしたもの。

  

いざスープにつけて食べてみると、思った以上の辛さに悶えるタテル。
「やべやべ、辛いなこれ!」
「タテルくん大丈夫?」涼しい顔で食べていた京子が心配する。
「唐辛子一辺倒の辛さだからかな?香り高さとか、花山椒のシビレがあればなぁ…」

  

それでも「辛辛魚」という名前の通り、辛さの茨の先には魚介出汁の旨味がある。とは言っても「辛」と「魚」の比率は名前の通り2:1であり、初心者が美味しさに拘るのであれば辛さは「控えめ」を選択するか、肉増しにして脂の旨味を盾にする方が良いのかもしれない。
「京子、口の中がファイヤーしてたまんない。コンビニ寄っていい?」
「いいよ」

  

同じ建物内のシエラレオネコンビニで飲むヨーグルトを買い口内を鎮火させる。
「卒コンの手紙の場面、感動したけど1箇所だけ爆笑しちゃった」
「部活辞めた話?」
「そうそう。あまりにも真っ直ぐ過ぎて」
「あれはさすがに怒られるよね〜」
「怒った先輩、今の京子の活躍見てくれているかな?」
「わからない。連絡先知らないし」
「京子の言うことはいつも正直だよな。嘘が無いってか」
「さっき私の発言の6割嘘って言ったよね?矛盾してない?」
「身内に関することならいつも正直。お世辞が一切無い。悪いことは悪いと言う、でもその分褒めることも欠かさない。なんてかっこいいんだろう」
「いやいや、そんな…」
「俺は京子を尊敬している。自分も見習わないと、と思う」

  

ちょうど石神井公園に着いたところで、未だ満開の桜に誓いを立てるタテル。
「俺は上手く丸め込んで逃げる人生を送ってきた。今もそうだ。嘘で塗り固めて後で困る。その時ばかりは反省するけどまた繰り返す。でも京子は真っ直ぐで正直。嘘をつくのは人狼の時くらい」
「人狼はそういうゲームだから」
「だから俺は決めた。京子みたいに実直に生きることを」
「えっ?」
「京子と共に真っ直ぐ夢を追い求める。YouTube頑張って、2人で番組持ちたいな」
「やりたいね。日曜ゴールデンとか帯番組とか」
「これからもずっと一緒だよ」
2人は手を取り合い、京子の家へと向かう。

  

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