連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』75杯目(五感/池袋)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。グループ卒業を控えた京子の歩みを振り返り、未来への希望を探しに行く。

  

卒コン5日前。綱の手引き坂46の佐藤京子として食べる最後のラーメンが待っていた。この日も自腹を懸けたゲームは無し、今回はスタッフ大石田が2人分のラーメン代を支払う漢気を見せた。

  

「池袋は私の青春。午前中で学校が終わるとここで夢を見ながらたくさんラーメンを食べてた」
「池袋の雑踏の中で夢見ていた女の子が、今や伝説のアイドルだもんな。なんてエモいんだろう」

  

予約の時間まで未だ余裕があったため、京子がよく遊んでいたというサンシャインシティを訪れる。公園で桜を見たかったが、開花が例年より遅く二分咲きくらいでしかなかった。
「京子、写真撮りたいからここにしゃがんで」
「しゃがむの?」
「辛うじて咲いている花がある」
「…はい、どうぞ」

  

「綺麗な写真が撮れた。桜とサンシャインと佐藤京子」
「いいじゃん。桜が満開だともっといいけど」
「京子の卒コンまで、満開になるのを待ってくれてるんじゃないかな」
「考えすぎだって」

  

時間が迫ってきたので店に向かう。サンシャインシティよりも更に池袋駅から離れた場所、首都高とバス通りが交わる交差点の近くまで行く。京子の盟友・ミレイがドラマで訪れたハンバーガーの名店「No.18」が至近である。

  

Japanese Ramen 五感。あまりの人気で、記帳制からTablecheckによる予約制になった。日曜日の11:00に10〜14日後の予約をするのだが、鉄道における10時打ちの如く素早く入力を済ませないと争奪戦に勝てない。
「ここを押して、読み込んでいる間にサッとスクロール…」
「タテルくん、何のゲームしてるの?」
「『五感を予約したいんじゃ!』というゲーム」
「何それ。聞いたことない」
「一度失敗したから入念にシミュレーションする。クレカの自動入力は…よし、上手くいきそう」
「SASUKEの練習じゃないんだから」
「俺にはラーメンしかないんですよ、的な?」
「ウケる。アハハハ」

  

ゲラに入る京子の横でタテルは努力の成果を見せ、ランチタイムを少し外した13:30に予約をとれた。少し早めに到着したがすぐ中へ案内された。
「憧れの店、ついに入れたね」
「京子の門出にぴったりだな」

  

タテルには一つ気になることがあった。それは京子の見せる「涙」についてだった。
「京子はクールだから涙を見せないイメージが強かった。でも話聞いていると結構涙脆いような気がしてさ」
「わたし涙脆いよ。意外と」
「そうなんだ…」
「でも人前では流さないと決めている。グループに加入した時から決めていた」
「あれ?漢字の榎坂メンバーと対面した時は…」
「いきなり泣いたね。もうルール破っちゃった」
「バンジーの時も、ラジオで大喜利やらされた時も…」
「それも確かに涙したけどさ」
「まあ泣かずにはいられない世界だよな。藍沢先生だって、薄情に見えて記憶失くしたおばあちゃんの前では号泣してたし」
「また藍沢先生。どんだけ好きなのよコードブルー」

  

少々控えめな湯切りを見届け、愈々ラーメンを味わう体勢に入る。

  

着丼して間も無くスープを味わう。鶏油の円やかさ、醤油の香ばしさ、そして貝出汁の旨味が同居する優しい仕上がりである。程よく水分を含んだとぅるとぅるの麺がこれらスープの良さを絡めて上がる。
チャーシューは控えめの量で多種多様。赤身と脂身が交配するレアチャーシュー、火がしっかり入った赤身が脂身を受け止める丸いチャーシュー、身が主体のなか皮目に炭火焼きの香りを感じる鶏チャーシュー、どろっとして野生味がありスープと合わせて味わいたい鴨チャーシューと、一つ一つに個性が光っている。

  

肉めしは豚赤身・脂身、鶏など4種の肉を大きめのサイコロ状にして載せている。下に敷かれた大葉の香りによりあっさり食べられる。

  

粛々と食べ終えたタテルの隣で、京子は涙に目を潤ませていた。
「京子…泣いてるのか?」
「泣いてない泣いてない」
「嘘つくことないだろ」
「良いものに触れると自然に涙が出るんだ」
「そういう涙は我慢しなくていいでしょ」
「そうだよね。なるべく弱いところは見せたくない、という思いがあってさ、悲しいことあってもメンバーやスタッフさんの前では堪えてた」
「格好良すぎかよ…」
「センター曲で紅白出れなかったことは本当に悔しくて、涙涸れるまで泣いてた」
「そんなことがあったとは…」
「夢は口にすれば叶う、とは言ってきたけど、叶わないことだってある。もどかしくて苦しかった」
「そっか…」
「でも私はこれからも夢を口にし続ける。叶うと信じて走り続ける」
「頼もしい。さすが京子」
「タテルくんも応援し続けてね」
「勿論さ」

  

東池袋四丁目から都電に乗り、三ノ輪の基地に戻る。早速コメント動画を撮影し、できるところまで編集を済ませる。
「あ、私の卒業曲のMVがもうすぐ公開だ」
「楽しみ!」

  

「ぐすん、ぐすん…」
涙が止まらない2人。8年の軌跡を詰め込んだ内容になっていて、絵コンテの時点で涙していた京子。撮影の時は今まで以上に泣き、撮影が終わっても思い返すだけで涙に溢れていたと云う。完成したMVを前に、涙を抑えられる訳が無かった。
「曲もめっちゃ良い。こんなに壮大な曲で送り出せてもらえるなんて幸せだよな」
京子は泣きながら微笑み頷いた。

  

物語は一旦卒コンの話へ続く。

  

ラーメンストーリー 76杯目はこちらから

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