グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。グループ卒業を控えた京子の歩みを振り返り、未来への希望を探しに行く。
「今回は江古田にある2軒を訪れます。いつもならゲームをするところですが、今回はタテルさん自ら自腹を申し出たとのことで」
「そうです。京子への卒業祝いということで」
「ありがとうタテルくん」
「友達なら当たり前だよ」
土曜の青空の下、江古田駅に降りた2人。巨大な日大藝術学部の建物を横目に歩くこと5分。麺や金時には10人ほどの行列ができていた。外壁の張り紙によると、10人あたり30分程の待ちであると云う。
「まあまあの混みようね」
「1人だと苛立つけど、京子といれば30分なんてあっという間だよ」
「私も。それにしてもカップルが多いね」
「ホントだ。たまたまなのかな」
「私がグループ卒業しても、タテルくんは側にいてくれるよね?」
いきなりクリティカルな質問を投げ掛ける京子。タテルは少し戸惑ったが、間も無く満面の笑みで頷いた。
「君と出逢えた奇跡、手放す訳ない。これからも夢を叶えていく京子の姿、ずっと近くで見ていたい」
箸にも棒にもかからない日々でも、未来の自分に言われたことを信じ努力し続けた京子。漸く2016年、綱の手引き坂46の前身であるえのき坂46に加入した。それでも一軍の先輩である榎坂46に隠れ日の目を見ない時期が続く。当時NGY48のメンバー・アカリのファンだったタテルも京子の存在を知らなかった。
「46の方は全然興味無かったんだよね。生涯48を推していくつもりだったもん」
「まあ私も46に行くとは思ってなかった」
「2018年の春、たまたま気になってえのき坂の冠番組観たらさ、佐藤京子の名前が連呼されてたんだよ。君の名はそこで俺の脳に刻まれた」
「尻当てゲームね。あれは愉快だった」
「京子、半年後くらいにアカリさんのファンだって公言したでしょ?」
「したした。それで私のことを?」
「そうだよ。そういえば佐藤京子って名前印象に残ってたなぁ、と思って冠番組観たらこの有様」
「また変な言い方して」
「声はイケメンなのにど天然で面白い子だな、ってなって追いかけることにした。そしたらもう愛おしすぎて」
「じゃあかれこれ5年くらい応援してくれてたんだ。ありがたいな」
「京子と深い仲になるなんて信じられなかった。東大でお笑いやってたあの頃の俺に言ったらびっくりするだろうな」
「自分に対してはガンバレルーヤチャンス使わないの?」
「これは愛する人のために使うものだ。自分には使わない」
「そっか。じゃあ今度は私が、タテルくんにガンバレルーヤチャンスを送ってあげられるようになる」
「道のりは険しいよ」
「タテルくんには売れっ子タレントになってほしい。教えて、そのやり方」
「わかった。ありがとうな」
30分弱で入店。扉は少し建て付けが悪く、勢いをつけると店自体が揺れるのでそっと閉める。塩ラーメンが一番人気のようであるが、2人の関心を引いたのは汁なし担々麺の方であった。
「元々私、辛い麺が好きだからね」
「だからチゲ味噌ラーメンが好きなんだ」
「辛ラーメンや酸辣湯麺も好き」
「俺は汁なし担々麺だなやっぱ。ファミマの冷食も良いし阿吽も美味しいし。ここはどうだろう」
金時の汁なし担々麺は、胡麻によるまろやかさを排除した忖度無しの本格派。辛み、山椒の痺れがじわじわと襲ってくる一方、肉の旨味がオアシスとなる。ピーナッツ(より本場志向なら松の実)がもう少し入っていると、ナッツの食感とどろっとした甘味で変化がつくと思う。
「ああ、この辛さ最高」京子も悦に入る。
「目を弓形に細めて味わう横顔、ステキだ…」
「見惚れてないで食べて」
「いけねいけね」
2人が並んで以降しばらく進展の無かった列も、退店時には再び延びていた。連食したいところであったが断念する。
「じゃあ次は駅の反対側にあるつけ麺を…」
「その前にちょっと日藝見ていかない?」
「そうだね。行ってみようか」
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