連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』70杯目(カネキッチンヌードル/東長崎)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。グループ卒業を控えた京子の歩みを振り返り、未来への希望を探しに行く。

  

第16シーズン(70-76):西武池袋線沿線

  

寒さも幾分和らいだ東京。京子のグループ卒業まで2週間を切っていた。
「明日向かうのは東長崎のカネキッチンですね。この店での自腹をかけて行うゲームは、『ほぼ100円ショップ』です!」
「懐かしい!」
「ここに商品を5点用意しました。この内1点だけ高額商品が混ざっています。高額商品を選んだ方がラーメンを自腹、加えて商品買取りです」
「ちょっと待って、負担ヤバくない⁈」
「京子さん、タテルさんの順に1品ずつ選んでいただきますが、最後まで高額商品を選ばなければ2人とも自腹回避、運営がラーメンのお金を出します」
「絶対そっちの方が良い。やってやろうじゃねぇか」

  

ブリキのおもちゃ・サングラス・指輪・レンゲ・箸。
「よし、京子の安全ランキング作ります」
「あったなそういうシステム」
「指輪が一番安全。あからさまに高そうだから逆に安い。次がおもちゃ。古くて高そうだから怪しい」
「逆張りね。わかるわかる」
「サングラスは何とも言えない。そしてレンゲと箸は明らかに安そうだし、ラーメン好きの私達に選ばせたいとスタッフは考えている!」
「そうだそうだ!」
「だから私は指輪でいく!」
結果はお見事セーフ。続くタテルもランキングに従いおもちゃを選択し、セーフ。

  

「サングラスって高そうだな。大丈夫かよ…」
タテルの不安をよそにサングラスをぶっ壊した京子だが、ダイソー商品であったためセーフ。

  

「この箸は輪島塗かな。それともレンゲが有田焼とか?」
「うだうだ言わないで、早く決めて!」
「今ここに輪島塗を置く意義って、結構あるじゃないですか。そうなるとレンゲが安く見える。よし、レンゲで勝負だ!」

  

「こちらの商品は…100円ではありません!」
「アァァ!終わったよ何もかも…」

  

「0円でした〜!2人とも自腹回避!」
「良かったじゃんタテルくん!」京子が抱きついてきた。
「わたくしスタッフ大石田の手作りでございます」
「そういえばそのパターンあったな!心臓に悪いって…」

  

翌日、東長崎駅南口で落ち合った2人。長崎銀座を南下するが、目的の店がなかなか見つからない。
「この路地?違うな…」
「でもここら辺だよね」
「どういうことだ?…あ、2階にあるのか!」
「そういうパターンね。これは気づきにくい」

  

日曜の真っ昼間ではあるが外まで行列は延びておらず、中待ち5人に接続した。
「京子ももうすぐ卒業か。寂しいな」
「まだ実感湧かなくて。どういうお別れになるのか」
「卒コン楽しみだな。アイドルから歌手に羽ばたく瞬間を見られる。幼い頃夢見ていた歌手になるんだね」
「それちょっと誤解かも」
「えっ?」
「小6までは歌手というより女優に憧れていた。劇団で主演もやってたし」
「マジ⁈歌のイメージ強くて全く知らなかった」
「歌は中学に入ってから目覚めた。それまではとにかく女優志望だったね。憧れは長澤まさみさん」
「プロポーズ大作戦じゃん」
「そうそう!タテルくんも観てた?」
「観てないな」
「観てないんかい!」
「山P主演作だとコードブルーは観てた」
「山Pさん好きなの?」
「まあね。俺ずっと思ってたんだけど、京子って藍沢先生っぽくね?」
「どういうこと?」
「声がイケメン。一匹狼でドライに見えて仲間想い。どう考えても重なる」
「言われてみればそうなのかな」
「そうだよ、京子は山Pだ」
「あんま堂々と言わないで。炎上するから」
「ごめんごめん」

  

10分強で席に案内され、着丼を待っている間のことであった。
「そしたら昔の京子に伝えてあげたいね、将来連ドラで主演務めるようになるよって」
「それってもしかして」
「いってみよう。ガンバレルーヤチャンス!」

  

練馬の児童劇団にて主演舞台の稽古に臨んでいた小6の京子。
「泣け!泣けよ早く!」
「全然泣けない…」
「何で泣けねぇんだよ!泣きの芝居もできないような子は劇団には要りません」
「…」
「もっと主演の自覚持て!甘い世界じゃないんだ!」

  

練習終わり、稽古では出せなかった涙に溺れる少女時代の京子。そこへ未来の京子が話しかける。
「京子ちゃん、どうしたんだい?」
「全然上手く演技ができなくて。私女優なんか向いてないんだ…」
「大丈夫だよ京子ちゃん。あなたは立派な女優さんになれます」
「えっ?」
「あなたは15年もしないうちに連ドラで主演を務める女優になる」
「ホントに?」
「私の言うこと信じて。夢なんでしょ、女優になること。日記に書き出したでしょ?夢は信じていれば叶う。未来の私が、それを証明した」
「み、未来の私?」
「そうだよ。だから元気出して、自信持って」
「ありがとうございます。私、頑張る!」

  

現実世界ではラーメンがやってきた。スープは醤油の明るい味が印象的で、チャーシューの近くからは焼鳥のような香りを感じられる。
麺は柔らかく、スープと一体化する。これが硬めの麺だとバラバラになると思うので好判断と言える。

  

「そういえばラーメンを好きになったのもこの頃だな。昔はむしろ嫌いだったし」
「ラーメン嫌いって珍しいね」
「やっぱチゲ味噌ラーメンが神。そこから色んなラーメンにハマったもん」
「こんなにチゲ味噌に熱い人初めてだよ」

  

特製トッピングは豚鶏2種類ずつ、鴨、ワンタンと盛りだくさん。豚は赤身主体のものとバラ肉で、特筆すべき味の特徴はないもののしっとりと仕上がっている。鶏も脂身のあるなしの違いはあるがどちらも柔らかく臭みは無い。鴨肉はなるべく鴨本来の旨味を出しつつ、やはり柔らかく臭みは抑えていた。ワンタンは生姜の味が強かった気がする。

  

「赤味噌の肉飯も新鮮で美味しかった〜」
「そうだね。おまけに昔の京子垣間見れて心が昂ってる。野心家の京子にも弱いところあったんだなぁって」
「野心家って何?」
「大きな夢に向かって、他人に馬鹿にされるくらい頑張る人のこと」
「褒めてるのそれ?」
「褒めてる。京子は面白いくらい夢を叶えてきた。それも苦悩を他人には見せずに、涼しい顔して夢を実現する。その姿がすごく格好良いし感動するんだ」
「タテルくん…」
「ガンバレルーヤチャンス、まだあるみたいだね。楽しみだな」

  

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