連続百名店小説『ビリヤニ道』६:ビリヤニの抱える問題を考える(シルクロード/西日暮里)

人気女性アイドルグループ・綱の手引き坂46のメンバーであるナノは、在日ビリヤニ協会会長ジャンプールによって「ビリヤニ大使」に任命された。綱の手引き坂アンバサダーのタテルと協力しながら、ビリヤニの布教と美味しいビリヤニ作りに勤しむ。

  

「ビリヤニ審査会の日程が5日後に決まりました」ジャンプールからの突然の報告。
「え⁈もう5日しかないんですか⁈」
「美味しいビリヤニは作れるようになっていますし、自信持って下さいよ」
「ちなみに審査員の顔触れは?」
「それはナイショです。でも7人いる、とだけ伝えておきます」
「ジョプチューンみたいですね。緊張しますよ」
「大丈夫です、私もサポートしますから。それと、2人にちょっと考えて欲しいことがありまして、次はこのお店行ってほしいです」

  

「西日暮里のシルクロード…」
「西日暮里は初めてですね」
「俺は30分弱で行ける。開成高校の近くだね」

  

祝日の11:30、「カレーは別腹。」という看板が目を引く店に、開店時間と同時に到着した2人。食券を買うスタイルであるため券売機に紙幣を入れようとするが入らない。電源自体入っていなかったのである。そこで店内を覗くと、もうちょっとかかるね、と店員に言われた。
「外国人は時間にルースだからな、まあ仕方ない」
「そうですね。そういえば私達に考えて欲しいことって、このことでしょうか?」

  

テイクアウト用の窓の下を指さすナノ。そこにはビリヤニについての解説が書かれていた。

ビリヤニはパエリア・松茸ご飯と並ぶ世界三大炊き込みご飯です。
「そんな括りあるんだ」
「面白いですね」
ビリヤニを出す店は少なく、出していてもジャポニカ米を使っていたり、カレーとご飯を炒めただけのカレーチャーハンだったりしています。
「そんな意識低い系の店あるんだ」
「意識低いとか言わないであげてください」
本格的なビリヤニを提供しにくい理由は、調理の都合上一度に作る量が多くなってしまい、ビリヤニの知名度が低い日本では売れ残ってしまうことを懸念しているからです。

「なるほど、だからビリヤニ布教活動が必要なわけだ」
「一層気が引き締まりますね。あ、券売機の電源入りました!」

  

漸く食券を購入できる。最初にイートインかテイクアウトを選択してから商品を選ぶシステムなので注意である。注文は勿論ビリヤニ。1日10食限定とのことだが真偽は定かではない。具材はチキン・マトン・シーフードの3種類が曜日毎に決まっているようだが、この日は水曜日でチキンであるはずがマトンとなっていた。
「何か色々緩いね。大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。緩い所が面白いんじゃないですか?」
「まあそうだよな。綱の手引き坂も整然とし過ぎていないパフォーマンスに魅力があるわけだし」
「料理はしっかりしていると信じています」

  

期待半分、不安半分のままビリヤニの登場。入りから米がマトンの香りをほのかに纏っている。味付けは全体的に優しめだが、じわじわと辛さが滲み出し、ビリヤニの虜になった2人は夢中で食べ進める。

  

「左のやつ辛いから気をつけてね」店員からの注意喚起。
「確かに辛そうです」
「俺食べてみる。…コクがある感じだけどからぁい!」
「タテルさん大丈夫ですか?」
「結構支配してくるなこの辛さ。ビリヤニの旨味打ち消しちゃう」
辛いソースは早めに処理してマトンを喰らう。肉自体に臭みは無いが量が少ない。ビリヤニ全体が量少なめであり、折角美味しいのだからもっと沢山作って沢山食べさせてほしいところである。
「でも1000円超えてませんもんね」
「そうだった。今まで食べたビリヤニは1000円を余裕で超えていたな」
「俺らが布教活動頑張って、皆がビリヤニを頼むようになれば沢山食べさせてもらえる」
「あ、でもあっという間に満席になりましたね。人気店なんですねここ」
「人々はビリヤニを求め始めている。今こそ布教活動に力を入れる時だ」

  

カレーも少量供されるが、よく煮詰められているようで野菜とスパイスの旨味が凝縮されている。
「カレー出すならこれじゃない?」
「美味しいですよね。野菜の旨味が凝縮されています」
「日本人特有の『煮込み』が大活躍しそうだ。よぉし、ヴィジョンが見えてきたぞ!」

  

ある日、朝テレのスタジオにて。
「あれ、某人気刑事ドラマシリーズ主演俳優さん」
「ホントだ」
「あの〜」
「ナノ、気軽に話しかけるなって」
「初めまして、綱の手引き坂46のナノです」
「あぁ綱の手引き坂のメンバーさんですか。佐藤京子さんがいらっしゃるグループですよね」
「そうなんです!」
「京子さん、面白い方ですよね」
「ウチのナノがすみません!」
「いえいえ!若い方にも私のこと知っていただけているとは」
「ナノは刑事ドラマが好きなんですよ。ちなみに私は某高級グルメ値段当て番組で貴方のことを知りました」
「そ、そうなんですね…」

  

「ちなみにビリヤニってご存知ですか?」
「聞いたことはありますけど、食べたことは無いですね。いただける店少ないですし」
「今2人でビリヤニ布教活動しているんです。是非ご協力お願い致します!」
「そういえば何かビリヤニの仕事が控えていたような…」
「もしかして、えっ…」
「あ、言わない方が良かったでしょうか?」
「ごめんなさい!召集かかったので失礼致します!」

  

「どうしたのでしょう…もしかしてあの2人が、ビリヤニ審査会の挑戦者?」

  

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