連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』67杯目(葉月/雪が谷大塚)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。

  

2人それぞれの普段の顔はどうなのか?まずはタテルから。芸人、綱の手引き坂アンバサダーなど多彩に活動する彼の本業は、普通の会社員である。会社員としての仕事は自宅からリモートで行っている。セキュリティの厳しい仕事のため、昼休みの様子を密着することにした。

  

「まあ難しい仕事ですね。今日も失敗して叱られちゃった。落ち込みますよ。上司の方、めっちゃ忙しくしてて。早く戦力にならないと、っていう焦りがありますね」

  

昼は必ず外で食べる。その日食べたいと思ったものを必ず食べる。母親譲りのこだわりの強さがあるというタテルは、少しでも思い通りにいかないと苛立ちを見せたり、時間を忘れて考え込んだりしてしまう。そのせいか胃が痛くなったり、腸の働きが過敏になることもしばしばで、胃薬と整腸剤が手放せないでいる。
「体への負担はものすごいと思います。多分長くは生きられないのかな、ってくらい消耗しています」

  

この日は業務終わり、都内某所にある2人の基地に集合する。基地へ向かうタテルの表情は清々としていた。
「京子と会えるの、楽しみでしかない。僕には京子がいる。京子の存在があるから生きていられるんですよね」

  

中華チェーン店でラーメンを買い基地へ。2人が昔から大好きな辛味噌ラーメンである。
「美味しいね」
「そうだね、安心する味」
「あぁ落ち着く…ってごめん、おっさんみたいな声出しちゃった」
「アハハ。良い画撮れた」
「プライベート感出しすぎかな」
「いいんだよ、それが一番面白いんだから。何気なく京子と過ごせる日常、こんな幸せなこと無いよ」
「タテルくん…急にどうしたの」
「胃がキリキリするような日々、京子がいなければ乗り越えられなかったと思う。京子と一緒にいられる、それが俺の生きる糧になってる」
「そうなんだ。めっちゃ嬉しい…」

  

食後は動画編集に打ち込む2人。1時間ほどして撮影部屋に入り、カラオケで気分転換をする。

  

〽︎おかえり I’m home…

〽︎365日の言葉を持たぬラブレター…

  

「歌うこと好きなんですよね」
「そうそう。タテルくんも上手いんです」
「でもやっぱ京子の歌声は天下一品。永遠に聴いていたい」
「いっつも褒めてくれるんです」
「だって惚れるでしょ、スタッフの皆さん?」
「惚れますね確かに」

  

「そうだ、今度の土曜日高校の同窓会あるんだけどさ」
「土曜って、動画撮りに行く日じゃん」
「お昼動画撮って、そのまま同窓会行ってくる。京子も夜仕事でしょ」
「そうだね」
「京子って同窓会行ったことある?」
「1回だけ行った」
「印象変わりすぎて誰だかわからない子、多そうなんだよね」
「それはあるね。まあ何とかなるよ」
「そう?」
「不安なら同窓会の様子、密着してもらえば?」
「来ます?」

  

来る土曜日。雪が谷大塚駅に降り立った2人。大通りに出ていつものようにラーメン屋の列に並ぶ。
「キョコってるの2人だ!ファンです、サインしてください!」
「嬉しいです!もちろんしますよ!」
「家宝にします!」
ファンサービスを欠かさない2人は間も無く店の奥へ消えていった。

  

「美味しかったね」
「良い店だ。そうだ、ちょっと俺スーパー寄っていい?次の店の順番まだ来ないし」
「いいよ」
1人になった京子にスタッフが訊ねる。
「本人がいないからこそ話せる、タテルさんの印象ってあります?」
「タテルくんって繊細なんですよね。気にしなくていいことを気にするし。でもその分、他の人なら気づかないことに気づける。細かなところまで気が回る。好きなことをとことん突き詰める職人っぽくて惹かれます」

  

再び合流したタテルは、早くもスマホのメモにラーメンの感想を書き連ねていた。

  

4種類の醤油をブレンドしており、直線的ではなく立体的な味になっている
麺は柔らかめで、噛むとスープの旨味が開く
豚チャーシューはカッチリめ
鶏チャーシューは味付けが絶妙かつ臭みも無い最高の仕上がり
ワンタンの餡は茸の香りがする
肉めしは是が非でも食べておきたい。バター味にした肉は絶対に美味い

  

「タテルくん、いつの間に…」
「京子が食べた葉月ラーメンの感想もまとめておいてね」
感動は薄まらぬ内に言語化する。これもタテルのこだわりである。

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