人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテルは、車好きで話題のメンバー・スズカと2泊3日の千葉旅行をする。約1年ぶりの房総ドライブは、前回と同じく波乱に満ちている予感で…
上総湊近くまでは海岸線を走る。先程まで見ていた夕焼けは茜色度合が増していた。生配信を再開し、早速スズカの美声が響く。
〽︎夕陽が沈む空を見ているか…
「IMC48じゃん。スズカも好きなんだ」
「当たり前じゃないですか。私達坂道グループにおいては憧れの大先輩ですから」
「だよな。まだ野郎佳奈さんがいた時代の曲だよねこれ」
「野郎さんバラエティで大活躍ですよね。歌もお上手ですし、私が目指すべきアイドル像です」
「そういう路線がいいんだ?」
「どうしました?」
「いや、なんというか、もうちょっと正統派の歌手目指すのかなって」
「歌手一本で食っていけるほど、今の芸能界は甘くないのかな、と思うんです。京子さんならそれでいけると思うんですけど、私は自信なくて…」
「まあ言ってることはわかるけど」
「自分には何ができるだろう、と考えた時に、バラエティで前に出る姿勢なら負けないと思いまして。野郎さんの姿勢を見習うことにしました」
「しっかり考えてる。なら誰も止めやしないよ。スズカはセンスも良いから絶対やっていける。やっていけなきゃおかしいと思う」
「タテルさん…」
「全力で支えてあげるから。くれぐれも体重サバ読みしてバンジージャンプで着水することのないように」
「したら面白いですけどね」
〽︎見つめるCat’s Eye…
夜の館山道・京葉道路・東関東道を突き進む。
「今日はロングランが多いですね。走行距離がどんどん増えていくのワクワクします」
「わかるその気持ち。車とのなつき度上げていくの楽しそう」
「どんどん愛着が湧いて、車と一体化しそうです」
「進化しそうだね。羽が生えたり」
「したら面白いですけどね。でもこのままがいいですよ」
「イーブイはイーブイのままにしとくのが一番、ってか?」
「でもやっぱシャワーズとかエーフィとかにさせてみたいです」
「俺はブースター派だな。あの尻尾を筆先にして書き初めしてみたい」
「やめなさいって」
〽︎︎子供たちが空に向かい…
カビゴン推しのタテルとルージュラ推しのスズカは国際空港の街・成田に到着した。「脱帽しなかった男」の一味もチェックインを試みたが、当然予約はしていなかったため満室で泊まれない。
「クッソ、飛び込みは無理か」
悔しがる「脱帽しなかった男」のリーダー・ワタル。
「ワタル、いい加減にしない?スズカちゃんのストーカーするの、罪悪感しかないんだけど」
「いいや、スズカのことは許せない。刺し殺してやりたい」
「意味わかんない。それにさっきからずっとスズカに近づくチャンスあったよね」
「様子見したいんだよ。もったいぶってもったいぶってトドメを刺す、これがいいんだよ。頼む、付き合ってくれ」
「えぇ…」
追われていることを知らないタテルとスズカはホテルに荷物と車を置いて、線路沿いにある予約していたブラジル料理の店に入る。成田という土地柄か、外国人の客が殆どであった。
「ブラジル料理ってどんな料理なんでしょう…」
「シュラスコってわかる?肉の塊を切ってくれるやつ」
「ああ、なんか見たことあります」
「ブラジルはとにかく牛肉の消費量が多いんだ。だから今日も肉を食らいます」
「肉!ワイルドですね」
「お酒も飲んじゃおう。カイピリーニャをダブルで」
モヒートのようなブラジルのカクテルであるカイピリーニャ。ライムの果実が沢山入っており、強めの酒であるはずなのに清涼感に押されどんどん飲んでしまう。
合わせて頼んだタラのコロッケからこの店のレベルの高さを窺える。鱈らしい身の感覚を表現できており、程よい塩気で酒が進む。密度も高く大満足である。
「ブラジルって何が有名でしたっけ?」
「リオのカーニバル。サンバ踊る祭」
「ああ、京子さんがよく歌ってますね」
「『ミ・アモーレ』ね。隅田川の花火観ながら2人で歌ったなぁ」
「タテルさんも歌えるんですか?」
「意外と音域低いからね。最近の男性曲よりも歌いやすいと思う」
「いいなぁ。私もタテルさんと歌いたい」
「それはこれから来る飯次第だな。美味しいかどうか」
「美味しくなくても私は歌いますよ」
「美味しくなきゃテンション上がらないって。安心しろ、タラのコロッケ美味いから肉も美味いよ」
運命のカーニバルが始まる。シュラスコテコテコは牛・豚・ソーセージのミックスグリル。近所の店レベルでは肉が硬すぎて食えたもんじゃない、となりそうであるが、ここの肉は程よい噛み応えに強すぎない塩気。原始人のように肉を食らう感覚を味わえる。しっかり焼きが入っているので脂身もしつこくない。
ポークソテーは普通に美味しいくらいである。ソーセージはパリッとジューシーの対極をいくみっちりしたものであるが、これはこれでワイルドさがあって良い。独特の餅感と口当たりがあるキャッサバ(?)フライも異文化体験としてまた面白い。
ブラジルの国民食である豆シチュー・フェジョン。単体で食べたら汁粉ともとれるが、塩気と旨味でご飯が進む不思議な料理である。
〽︎踊り踊らされてカーニバル…
「アモーレ!…やった!タテルさんご満悦ですね」
「めちゃくちゃ良い店やん。某グルメブロガーはチョイスミス。この店で食うべきはこの肉。食べログの審美眼疑うなら看板商品食ってからにしろ、って感じだよな」
「タテルさん、熱すぎますよ」
「だって今日はカーニバルだからね」
「Hey guys, you were singing a nice song!」空間を共にしていた外国人が2人に話しかける。
「Yeah, this is a Akina Nakamori’s famous song. She sings cool songs.」
「Akina Nakamori. Got it! Then, is she your girlfriend?」
「Yes, my amor é.」
「Oh, nice amor é!」
ホテルに戻ってからも2人のテンションは高いままであった。タテルの部屋にスズカが来て生配信を行う。
「美味しいブラジル料理を食べてアモーレしてきました」
「あ…もぅれ!」
「セクシースズカちゃん!いいねぇ」
「今日は激しい夜になりそうです」
「調子乗りやがって、スズカと変な男。どうせこの後おっぱじめるんだろ」成田に泊まることができず苛立つワタル。
「ないよそれは。カップルYouTuberなんてビジネスカップルだから」
「知らねぇ知らねぇ!腹立つな、殴り込みに行こうか」
「落ち着こうよ。行っても不審者だと思われて捕まるだけだよ」
「そ、そうだな…」
「じゃあおやすみ〜」
スズカが部屋を出るのを見届けて生配信を終えたタテル。ときめき果てず暫く眠れなかった。明日もきっと楽しい旅になる、そう信じていた。
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