連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』65杯目(味噌っ子 ふっく/荻窪)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。今宵、人気番組『浜千鳥の神連チャン』に出演。

  

神連チャン、そして浜千鳥OUTキョコってるINまであと1曲

  

〜LEVEL10〜
①本能/椎名林檎
②命に嫌われている。/初音ミク
③ゲレンデがとけるほど恋したい/広瀬香美
④花束を君に/宇多田ヒカル
⑤群青/YOASOBI

  

〜〜〜〜〜

  

収録2日前、休日の荻窪。環八を越えた先にある味噌ラーメン店を訪れた2人。駅から遠めであるにも関わらず30人程の並びがあった。
「タテルくん、また上着着てこなかったの⁈」
「駅から距離あるから、すぐ暑くなると思って」
「こんな真冬で暑いなんて、信じられない。寒くなっても知らないからね」

  

並び始めて5分もしないうちに店員から指示を受け食券を買わされる。早い段階で退路を断たれるため覚悟を決める必要がある。
「それにしても京子、10曲目何選んだ?俺の前で歌ってるとこ見たことないんだけど」
「ヒミツ。10曲目まで行ってからのお楽しみ」
「そんなこと言わないでよ、水臭い」
「タテルくん臭いに敏感すぎ。東京の水道水は美味しいんだよ」
「いやいや、水が臭い臭くないの話はしてないって…まあでも予想はついてる。当ててやろうか」
「どうぞ」
「ソロライヴで歌った『本能』か番組で歌った『ゲレンデ〜』、あでもボカロの歌唱にも定評があるから『命〜』もあり得る」
「ブレブレじゃん。どれか1つに絞って」

  

「やっぱ寒いや」
「言わんこっちゃない。カイロないの?」
「忘れてきちゃった…」
「仕方ないわね…」
そう言って京子はコートをタテルに着せる。
「えっ…いいのかよ?」
「10分だけ」
「ありがとう」
「まあ私も、楽屋の暖房を冷房にしてもらうくらいには暑がりだから」
「俺もそう。やっぱ気が合うね」
「ハハハ」

  

70分待って漸く入店。八五などのようなシングルライダーシステムも無いし、席に着いてもすぐラーメンが出てくる訳ではないので回転効率は悪めである。

  

味噌はまろやかかつ香味野菜の香りがして期待値を上げてくる。もやし炒めもシャキッとしていてしみじみとした味わいをしており、大盛りにすれば良かった。
しかし上がりに上がったハードルを越えるのは難しく、麺とスープのシンクロ率が思ったより低い。また、チャーシューは脂の部分は流石美味しいのだが、赤身が少しボソッとしていた。並びが短ければ何の文句も無いのだろうが、色々惜しい一杯である。

  

「私もそろそろ新しい自分を見せないとだね…」
「新しい自分?」
「タテルくんにも新しいタテルくん見せてほしいって言ったじゃん。だから私もNEW京子出さないと」
「NEW京子って…」
「実はね、私…やっぱいいや」
「何言おうとしたのよ」
「それもレベル10行ってからのお楽しみ」

  

〜〜〜〜〜

  

京子「いやあどれも難しいけど…今回は宇多田ヒカルさんの『花束を君に』でお願いします」

  

大吾「どこかで聴いたことあるなぁ(棒読み)」
ドアノブ「大体そうやろ。あれだ、朝ドラの『花子とアン』」
山家「違います、『とと姉ちゃん』です」
ナレーション「1文字で何音にも揺れる箇所多数!正確に音程を捉えるのは至難の業!」

  

〜そわそわする京子〜
京子「タテルくん、レベル10まで来たら言いたかったこと、話すね」
タテル「何か神妙な面持ち…」
京子「昨日メンバーには伝えたんだけど、私佐藤京子は、綱の手引き坂を卒業します」
タテル「え…」

  

濱内「突然すぎません⁈」
ドアノブ「これって公式発表されてるん?」
天の声「2人の挑戦の次の日にニュースになった。どーも剛くんとかなこぉちゃんの結婚で霞んだけど」
大吾「タイミング悪かったね」

  

タテル「そんな、嘘だと言ってよ!俺どうすれば…」
京子「グループにいたい気持ちは強かったんですけど、去年から卒業を意識し始めて。前向きなお別れだから受け入れてほしい」
タテル「そっか…」

  

ナレーション「2016年、18歳でえのき坂46に加入してから8年弱。先輩グループの陰で日の目を見なかった時期もあった。歌で勝負することを諦めた時期もあった。そんな日々の中、大事にし続けていたことがあるという京子」

  

京子「夢を口にし続けるのって大事だな、と思いました。グループの単独デビュー、ドラマ出演、ソロライブ開催。人に笑われるような夢でも、言い続けていれば本当に叶うんだなって。その過程で仲間の大切さも知りました。1人が好きだったけど、人狼や心理ゲームを一緒に楽しむ後輩ができた。そして、YouTubeを一緒にやるパートナーもできた。たくさんの方々に支えられ前を向いて歩んできた8年間は最高のひとときでした」

  

タテル「ぐすん、ぐすん…」
大吾「めっちゃ泣いとる」
タテル「俺も5年前から京子のこと推してきたんですけど、夢を語ってそれを次々叶えていく京子が格好良くて感動する。向こう見ずで真っ直ぐすぎて、ちょっと阿呆の一面もあるけど、そういうところも全部含めて堪らなく愛おしいんですよ。東大出の理屈臭い俺が、他人のためにこんな涙を流せるようになるなんて。本当にすごいよ京子は」

  

京子「ぐすん、ぐすん…」
ドアノブ「京子ちゃんも泣いとるやん」
山家「歌う前に泣かせるなって!」

  

ナレーション「歌手を夢見るも鳴かず飛ばずだった学生時代、不遇のアイドル駆け出し時代を乗り越え、冠番組にドラマの主演、ソロライブを開けば1万人以上の観客を集めるカリスマアイドルとなった京子。アイドル人生の集大成として、レベル10・宇多田ヒカルの難曲、クリアなるか?」

  

ドアノブ「頼む、MC交代だけは勘弁してくれ」
濱内「行っちゃいますよ、京子ちゃん最強ですから」
〽︎世界中が…
濱内「味ある。これが染みるということか」

  

〽︎今は伝わらなくても…
大吾「いい歌だな」

  

〽︎花束を君に贈ろう…
ドアノブ「行っちゃうなこれ」

  

〽︎君をぉ
MC陣一同「あぁ!」
濱内「もうちょっとだったのに!」
山家「外れてた⁈」
〜紅に染まる京子〜
京子「うそ…」
タテル「マジか…」

  

京子「あぁもう油断した!イケたのに…」
〜号泣する京子、タテル〜
京子「悔しい…」
タテル「よく頑張ったよ。2人でここまで来れて嬉しい」

  

天の声「おかまたち軍、9連チャン!」
濱内「いやぁ、俺まで泣きそうになった」
山家「何だかんだ言って素敵な2人だと思いますわ」
大吾「どこがやねん。ワシらハブられるとこやったんやぞ」
ドアノブ「京子ちゃんはまだええねん。タテル、アイツ何?腹立つことばっか言いよる」
濱内「いいじゃないですか別に」
大吾「嫌な男やんな。これからの京子ちゃんの人生に悪影響及ぼす」
濱内「タテルくん優しかったじゃないですか、最後ちゃんと励ましてあげて」
大吾「優しいとは思うけど、お笑いのセンスはゼロ」
ドアノブ「京子ちゃんも何であんなしょうもないボケ解答で爆笑するかね」
大吾「林家ペーパー師匠みたい」
ドアノブ「大相撲中継みたらいるかもねあの2人」
大吾「お互いピンクの服着て」
ドアノブ「タテルがどうでもいいこと言って京子ちゃんが『ハッハッ!』って手叩いて」
大吾「迷惑な客やな」

  

天の声「さあ次が最後のチャレンジャーです」
おかまたち軍 11P vs 浜千鳥軍 17P
天の声「7連チャン以上でおかまたち軍勝利」
濱内「するか!歌のイメージ全くない!」

  

おかまたち軍 山田勝己

  

〜7曲目『女々しくて』クリア〜
山家「ごめんなさい、7連チャンするわけないと言ってしまって」

  

〜10曲目『僕のこと』クリア、神連チャン達成

  

〜〜〜〜〜

  

収録後のタテルと京子。
「ああ本当に悔しい!今日は眠れないかも」
「そうだよな…でも俺らよく頑張ったよ。美味しいもの食べて帰ろう」

  

ダイバーシティ東京のラーメン店で夢中になってラーメンを啜る2人。京子はまたもや号泣していた。
「こんな泣く京子初めてだよ…相当悔しいんだね」
「悔しいよ…」
「京子って向上心すごいよな。羨ましい」
「当たり前だって…」
「卒業しても絶対やっていけるよね。正直めっちゃ寂しいけど、頼もしくもある」
「私もっと頑張る。芝居もだけどやっぱ歌がいちばんかな」
「楽しみにしてる!これからもよろしくね」
「うん。でもやっぱ寂しいな、今日は朝まで2人きりでいよう」
「そうしよう」
こうして2人は初めて、三ノ輪の基地で一夜を共にした。

  

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