連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』53杯目(だるま/中野富士見町)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

〜シーズン13:丸ノ内線(中野坂上以西)〜

  

「息子さんは急性肝炎を発症しています」
深夜にも関わらず両親が呼び出されるくらい、タテルの病状は重篤であった。
「ウイルス性、特にB型であれば命の保証はありません。息子さんはお酒をよく飲まれますか?」
「浴びるように飲んでいました。最近は飲めなくなっていて」
「アルコール性肝炎ですね。それはそれは…」

  

昏睡状態が続くこと1週間。勿論綱の手引き坂の現場にもタテルは現れない。箝口令が敷かれている以上、メンバーはタテルが危篤であることを知る由がない。グミとシホは気を揉んでいた。
「タテルくん体調不良だって聞いたけど、1週間何の連絡もないのは心配だよね」
「一言くらい連絡あってもいいのに。タテルくん、サリナの卒業セレモニー楽しみにしていたよね」
「絶対見届けてあげたいって言ってたのに、よほど体調悪いのかな…」
「連絡先わかる?」
「連絡してもダメみたいよ。マネージャーさんとか京子が連絡試みたけど返信ないって」
「京子でさえも無視するなんて…タテルくん、何してるの⁈」

  

2日間にわたるライヴを完走すると、年越しまでは3週間あるが、綱の手引き坂の年内の仕事はクリスマス前の音楽特番1本への出演のみとなった。地方組が帰省してしまう前にパーティをしたいメンバー達。こういうパーティでイベントを仕切るのは京子の役目である。
「何の予定もないクリスマスなんて久しぶり〜」
「京子さん、せっかくだからみんなで人狼やりたいです」
「人狼ね…何かやる気起きないや」
「あれ、京子さんって人狼大好きですよね?」
「あれだけゲームマスターとか言って張り切っていたのに、珍しい…」
「クリスマスは1人でいたい!」
「そ、そうなんですね…」
「クリスマスまでにはきっと…」

  

ある日の昼下がり、京子は中野富士見町駅に降り立った。丸ノ内線の支線にある地味な駅で人通りは疎らであったが、ラーメンの名店「だるま」には行列ができていた。店主曰く、普通のラーメン屋だから並んでまで食べるものではない、とのことだが意に介さず集る人々。京子もその一員に加わる。11時半で中待ち7人の後ろの外待ち6人目。着丼までには40分を要した。

  

「普通のラーメン」と謙遜しているが、不均一な食感を楽しめスープもよく絡む手打ち麺を使う、という選択をする時点で「普通」ではない。一流の一杯を作ろうという気概に満ちている。その気概は上品なスープからも感じられた。チャーシューにも変化をつけているし、これのどこが「普通のラーメン」なのか。

  

普通って何だろう。タテルくんと出逢えたのは普通じゃない。あの日声掛けて、まさか本当に2人でラーメン食べ歩くようになるとは思わなかった。普通じゃないことを普通にできた嬉しさ。
タテルくんと普通に一緒にいて、普通に笑い合って、普通に喧嘩して、普通に励まし合って。でも今はそれが普通じゃなくなった。普通がまた普通でなくなった時、心はこんなにも苦しいんだ…

  

次の店へ向かう道すがら、京子の感情がついに爆発する。
「タテルくん、もう私怒ってないよ。仲直りしたいよ!寂しい思いさせてごめんね、だから帰ってきて!」

  

NEXT

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です