妄想連続百名店小説『彩とLOVE AFFAIR』4.魂の悶絶(悟空茶荘/元町・中華街)

グルメタレント・TATERU(25)が、モデルとしても活躍するアイドル・アヤ(24・綱の手引き坂46)と繰り広げる、夢のような禁断の横浜デート。全7話。

  

「あれれ、+▼☆▲のタケ本さ〜ん。男と2人きりですねぇ。どういうことですかぁ〜?」
黒スーツにサングラス姿の男は、アヤを蔑むような目で睨む。
「+▼☆▲で△×なんてサイアクですねぇ〜。とっとと卒業してくんねぇかな。俺の推しの足引っ張んないでくれる?」
「ちょっといいかな?」アヤの前に立つタテル。
「どいてくんね☆▲?お前じゃなくてタケ本と話したいんだけど」
「君さ、もういい加減素直になりなよ」
「どういうことだよ」
「好きなんでしょ、アヤのこと」
「バカ言うな」
「いや好きだね、本当に嫌いならこんな執拗に+▼☆▲とか言ったりしない」
「は?ふざけんなって」
「わかるよ、好きな子虐めたくなる気持ち。でもさ、天邪鬼はもうやめよう。本当にアヤがいなくなったら寂しいでしょ?好きなら好きと言いなよ、後悔しても知らないよ」
「話通じねぇ奴だな!」
サングラス男はタテルを張り倒し逃走を試みた。アヤは細い腕で懸命に倒れるタテルを支える。そこへ突如韋駄天が走り寄ってきて、サングラス男は公園を抜けた先の細道であえなく確保された。
「暴行罪で現行犯逮捕します」

  

「あれ、もしかして元陸上選手の光藤さん?」
「なんで光藤さんが、警察官⁇」
「は、はやい…一日警察署長が本当に犯人捕まえちゃうなんて」追いついた警察関係者が、息を切らしながら驚嘆する。
「一日署長だったんですか!」
「はい、中華街入口の交番にいました。僕も一度黒スーツサングラスのアンドロイドにここで襲われたことがあって…あれ以来敏感になったんですかね、すぐ駆けつけたくなりました」
「すごい察知能力」
「タレントのタテルさんですか?ケガありません?危ないですよ、犯人に丸腰で立ち向かうなんて」
「地面に体打ちつけるところでした。アヤが助けてくれて良かった。ちょっと無理しちゃいましたね…」
「でも、勇気ありますね。タテルさんもタケ本さんも。お互い素敵なパートナーがいて幸せじゃないですか」
そう言って光藤は一日署長の業務に戻った。

  

「大丈夫か、アヤ?俺重たかっただろ、腕折れてない?」
「それは大丈夫。でもちょっとメンタルやられたな…」
「じゃあ次の夢見に行こう。今度は4000年の夢だ」
「4000年の夢?」

  

関帝廟の目の前で左の路地に入り、悟空茶荘に辿り着いた。入って左手の階段から2階に上がる。
「中国茶か!珍しい、中華食べるときしか飲まないよね」
「でしょ?ここは日本有数の、中国茶専門カフェなんだ」
「面白そう。お茶ならカロリー気にしなくていいし」
「また気にしてる!…でもそうか、見た目商売だもんね。仕方ないか」
タテルは外見至上主義という日本の風潮を嘆いた。結局アヤは暴暴茶を、タテルは構わず東方美人茶とチャーシューまんセットを注文した。

  

準備は店員にお任せ。お茶の淹れ方もレクチャーされ(これが結構難しいのだが)、なかなか本格的な中国茶の店である。

  

「台湾の修学旅行のことを思い出すなぁ」
「台湾、いいね。いつか行きたい」
「3日目のツアーでお茶を飲みに行きたかったんだけど、首狩り族に会わないと飲めないって言われて、泣く泣く諦めたんだ」
「首狩り族⁈それは怖い」
「だからこうやって中国茶飲めるの、めっちゃ楽しみなんだ」

  

「はぁ…落ち着くねこのお茶」
「やすらぐ…涙出そう」
「家にいるような安心感」
タテルにとって8年越しとなる中国茶。道中にはまた、あの時と同じように大きな試練があった。しかし8年前とは違うタテル。勇気と愛でアヤを救い、中国茶という極楽を手にした。
「タテルくん、守ってくれてありがとう」
アヤの感謝の言葉に、タテルは涙を浮かべた。愛する者がいるということ、なんと心強いことか。

  

「やっぱ1人占めするのは気がひける。ちょっと食わないか」
そう言ってタテルは、アンパンマンのようにチャーシューまんを毟りとった。
「あ、ちょっと甘いんだね。美味しい、やっぱ頼めば良かった…」
「じゃあ食べていいよ。俺もう1個発注する」

  

お揃いのチャーシューまんを手に、傷んだ心を温める2人。さらにタテルはデザートも頼んだ。
「あれ、白玉だ。タテルくん、まだ食べるの?」
「うん。中華のスイーツって、杏仁豆腐かマンゴープリンかココナッツミルクくらいじゃん。俺が本当に好きなのは、黒ごま白玉なんだ。食うか?」
「じゃあ1つだけ、口はつけないように…ん!美味しい」
「でしょ?白玉がつるんとしてる。キミの肌みたいに」
「え、嬉しい〜」
「さすが美容番長。ライチ紅茶のシロップも、甘さ控えめで美味しい。まさしくこれは、キミのためのスイーツだ。キミは楊貴妃だ」
「ヨウキヒ?何それ」
「キミはとても美しい、っていうこと。さすがOBK」
「OBKは言わないでくださいよ〜」
「いいんだよ、そこが可愛いんだから」
お湯をおかわりする手も止まらず、2人で大きいポット2杯分を消費した。本格中国茶体験に感銘を受けたタテルとOBK楊貴妃は、1階の売店で茶器と茶葉を購入した。

  

「楽しかった!また来たい」
「中国茶の種類多いもんね。中華スイーツも見たことないものばっかだったし」
「何回でも行きたくなる。飲み比べとかあるといいのになぁ」
他愛のない会話を愛おしく思いながら、関帝廟に到着した。
「ここは商売繁盛がメインだけど、他の願いも叶えてくれるらしい」
「パワースポットだね!私大好き!」
線香を購入し参拝するタテルとOBK楊貴妃。一体何を願ったのか、これは2人だけの秘密にしておこう。

  

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