人気女性アイドルグループ・TO-NA。かつてはDIVerseという、大物プロデューサーFの手がけるグループであったが、自由な活動を求め2024年夏に独立・改名。2025年にはTO-NAになってから初の新メンバーも加入し、秋田でのフェスを成功させた。個性の衝突とそこから生まれる一体感を武器に、2026年は紅白歌合戦への返り咲きを目指して活動していく。
年の瀬のある日、墨田区内の事務所兼寮「TO-NAハウス」では年内最後の仕事であるカウントダウンチャンネルのパフォーマンス収録に向け最終調整が行われていた。タテルは独りダイニングにて、レッスンルームから戻ってくるメンバー達を出迎える。水分補給にと、マシロから貰った三宝柑ジャムを水で割った特製ドリンクを配った。
「良かったですね、マシロさん治る可能性が出てきて」
「まだわからんけどね。これからが正念場、油断はできない」
「でもまたマシロさんと一緒にパフォーマンスできたら、これ以上嬉しいことは無いですよ」
「それはそう。あ、何食べてんだハル」
「いけない!今日の夜ご飯、焼肉でしたね」
「腹空かせとかないと」
「安心してください。私の胃、ピッチピチなので!」
「良かったねピチピチで。めでたいやっちゃ」
TO-NA公式YouTubeの企画で焼肉争奪はみ出しウマ選手権に勝った4人のメンバーが、タテルと焼肉の名店を訪れる。そのメンバーとは、マリモ・ハル・ベリナ・チカ。昨年の初夏に加入した新メンバーはチカ除き軒並み惨敗、やはりTO-NAは先輩の力が強すぎるグループであるようだ。
阿佐ヶ谷の地に多店舗展開する高級焼肉の名店。その中でも5〜8名の大人数が入りやすい2号店を今回は予約していた。予約は直近でも比較的取りやすい。ちなみに系列店はどこも2名からの予約であり、筆者のような孤独のグルメ主義者にはハードルの高い店である。
コースは手を変え品を変え様々なラインナップで迷う。値段が上がればその分、店の代名詞であるシャトーブリアンはじめ高級部位が入ってくるが、今回はお試しということで一番安いコースを予約していた。それでもシャトーブリアンはブリカツサンドまたはブリメシとしてコースに含まれる。
2階の個室に案内された一行。昨年様々な場所を訪れ美味いものを沢山食べ飲みしたタテルはすっかり丸々としてしまい、2人分のスペースを確保してもなおどこか狭そうにしている。胡麻麦茶ハイを注文して少しでも脂肪を落とす意欲を見せる。

早速挨拶代わりのビーフシチューから。シチュー自体は洋食屋のものとは違うが、肉質がやはり良い。焼肉屋ならではのビーフシチューである。

肉は全て店員が焼いてくれる。焼く前にプレゼンテーションされる肉は見事な赤白のバランスで美しい。誰しもがテレビ等で観て食べたいと憧れる類の綺麗な肉である。焼き上がったら店員が一口大にカットし、お勧めの食べ方(調味料)を案内してくれる。


先ずはタンから。先端と根元の食べ比べをする。分厚めだが中をレアに仕上げておりふわふわ。根元の方が少し引き締まった肉質である。程良い脂っこさに大満足。普段たまにねぎしに行くくらいだと云うメンバー達には新鮮な食体験である。
「そうだ、東テレから東北旅のオファーがまた来てるんだった」
「去年カコさんと行ったやつですか?」
「そうそう」
2025年3月に放送された、JR東日本キュンパスを使った旅番組。タテルとTO-NAメンバーのカコが、DIVerse時代のメンバーであるカゲも交えて北東北や仙台を旅したのだが、パス利用により浮いた運賃分で観光を楽しむ、という基本ルールを無視してただただ豪遊してしまい、視聴者からの評判はあまり良くなかった。
「でもこの企画きっかけであきたフェスの構想が持ち上がった。東テレさんもそれを見込んで第2弾を企画してくれたみたいだ」
「有難いですね。今回もカゲさんはいらっしゃるんですか?」
「わからない。俺とカコは固定だけど、あと1人はゲスト枠になるかもね」
「酒飲みさんだと良いですね」
「高くつくぞ。だから今回はたくさん鉄道に乗る。もうプランは考えてあるんだ。あの震災から15年というのもあるし、意義深い旅にしてみせる」

続いての肉はシンシン。内腿の中心部である。赤身というイメージがあるが、和牛(?)らしく脂もジュワッと溢れ出す。
「めざンモはどうなるんですか?スズさんのポケンモちゃんが手持ちから外れて」
某ふしぎな生き物いっぱいアニメのパチモンでありながら、神奈川県にゆかりのある豪華なゲスト声優が毎回登場し話題を集めるめざせポケンモマスター。メンバーのレジェが主演を、タテルはレジェの手持ちポケンモ・カビンゴの声を担当している。
「少しネタバレすると、レジェは新しい手持ちポケンモを迎える。そのポケンモの声を、また個性的な神奈川出身アイドルに担当してもらう」
「誰だろう」
「スズと同じく歌が上手くてオモロくて、TO-NAのとあるメンバーと友達のアヤツさ」
「ああ、何となくわかってきました。これは面白いことになりそうですね」
「だろ。存在自体がポケンモみたいなもんだからな」
「次回シーズンの軸はキューティーコンテストですか?」
「そうなるね。レジェとカビンゴがどんなパフォーマンスをするかは決まっている。なかなかジワる画が浮かんでるんだ」
「どう映像化されるのか楽しみです」

バラ肉でありながらヒレに近く、赤身と脂のバランスに長けているとされているカイノミ。こちらも脂の割合の方が多く感じた。若いメンバー達は目をキラキラさせて、もっと食べたそうにさえしているが、歳をとったタテル(28)にはハードである。

続いてやってくる牛肉玉ねぎポン酢で胃を休めることにした。
勿論TO-NAにも良い歳になり、卒業を検討するメンバーが増えてきた。2025年は3人を送り出し、DIVerse初期メンバーは愈愈グミ1人となった。現在も数名のメンバーが卒業を申し出ており、送り出す時期と卒業制作(旅行)を調整中である。
「まずはコノ。2月中旬には抜けるから、もう最後のロケ企画をやることになってる」
「またクイズですか?」
「そうだ。しかも今回は他のメンバーも参加する」
「私達誘われてないですね」
「無理だよ。難しくて足引っ張る」
「という訳で正月早々動き出すことになった。場所はコノの地元、京都。修学旅行以来だ、楽しみ〜」

続いてはトモサンカク。シンシンの隣であり、赤身肉の中では脂多めの部位。でもやっぱり赤身がしっかりしていて、これまでのものより痞えない。
「ヒナも今年に卒業を控えている。中国地方出身で平和を願う心優しいヒナに、ぜひ主演ドラマを贈りたい」
「戦争ものですかね」
「勘が良いな。今年は戦後80年というキリの良い数字だったから皆よく向き合ったけど、来年は少しなあなあになってしまうだろうと思って。広島を舞台に、人物は架空だけど背景は史実に沿った物語。過去と未来を繋げても良いかもな。そこでもう1人メンバーを起用して」
「はい!私やりたいです」
「私も!」
「ガツガツしすぎだぞ、ハルとマリモ。積極性は認めるがまだ構想中だ。然るべきタイミングでオーディションを行うから待ちなさい」
「はーい……」

サーロインはサシが沢山入っていて、焼く前のものは桜色のように淡い色合い。まず1/3程度を肉単体で食べると、霜降りの雨霰でタテルにはかなり堪えたようである。残り2/3程はたっぷりの大根おろしとタレを巻いて、おろしの有難みを確と噛み締める。
「うぅ……疲れてきたな。俺の分の肉、食ってもいいぞ」
「いいんですか?やった!」
「おじいちゃんじゃないですかタテルさん」
「あと2年くらいしたらわかるよ、脂の重さはね」
そして晩夏にはふるさとフェスの第2弾を実施予定である。地方の魅力を再発見し地方創生に寄与する、という理念をモットーに毎年開催することになったフェス、2026年の舞台は愛媛県である。
「愛媛って、あれ、どこだっけ」
「おいおい四国だろ。四国の左上」
「みかんでお馴染みのね」
「あと俳句もね。正岡子規、そして夏井先生の地元だ。俺の俳句仲間も住んでる」
「じゃあエスコートしてもらいましょう」
「たぶんカラオケとか行くことに」
「地元感ゼロ」
「まあ2,3軒くらい美味い店教えてもらおう」
さらに間も無く、クラゲが脚本を書いた映画を福井にて撮影する。都会に馴染めない女性が地元福井に帰ってきて心を浄化する。冬の越前の絶景と味覚を描写しエモーショナルな作品に仕上げたい、とのことである。
そしてヒレがやってきた。
「じゃあタテルさんの分をじゃんけんで…」
「やっぱり食うわ」
「何なんですか!期待させといて」
「思ったよりインターバルあったからさ。ごめん、許して!」

すき焼き風に仕立てて、少しの飯と共に戴く。厚みのある肉をサクッと解き白米と掻き込む贅沢。腹一杯でもサラッと入ってしまうものである。
「肉の饗宴もクライマックスだ。大物が来るぞ」
「シャトーブリアンですね」
「この店のアイコンだからな。TO-NAとしても1つ、シャトーブリアン級の大作を撮りたいところだ」
「というのは?」
「TO-NAの全員で学園ドラマやります」
「学園ドラマ!憧れでした私」
「学園と言いつつ、舞台は予備校なんだけどね」
「それはそれで独自性ありますね」
「型破りなチューターが、予備校の経営陣と対立することも厭わず、正しい教育法で親身に生徒を育てる」
「ドラゴン桜っぽいですね」
「ベタな構図ではあるな。ただ予備校マニアの俺が詳細に分析して、よりリアルな内情と指導法を盛り込む。パワフルで生々しい作品に仕上げたいところだ」

さてパワフルなブリカツが仕上がった。手掴みでがぶりと肉に喰らいつく喜び。分厚いがプリッと解れ、粒マスタードで少しさっぱりする。脂は控えめで真っ直ぐな肉の美味さを楽しめる。
「綺麗だけどがっつり肉を喰らう。これぞ高級焼肉だな。若いうちに食べないと、歳取ったら絶対に途中で疲れてしまうからね」
「たしかにこれ以上は入らないですね」
「サーロインにおろしが無かったら終わってたと思います」
「そう?私はあと5周はできるけど」
「マリモさんの胃はブラックホールだから参考になりません!」
「そうだぞ。外れ値も良いとこだ」
「外れ値とは何ですか!……」
タテルに食いかかろうとするマリモであったが、放つ言葉を思いついておらず、ただ変顔を見せつけるだけの時間となった。

〆の食事には牛すじカレーを選択したタテル。牛すじなんてオマケ程度だろう、と見縊っていたが肉の質感が確とあり最後まで大満足であった。
「こうしてプランを洗い出してみると、2026年は西日本によく行くことになるな」
「江戸っ子タテルさんには新鮮ですよね」
「エスカレーターの乗り位置間違えそうだな。気をつけよう。もちろん都内でも、カクテル歳時記作りは続けるしカゲと酒の勉強もするし、加えてひとつ新企画を考えている」
「新企画!参加したいです!」
「だから待ちなさいマリモ」
「最近全然一緒にかき氷巡りしてくれないの、寂しいんですけど」
「腹が冷えるんだよ。新企画はとある街の今昔を探索する少し硬派な作品だ。タマがあんな感じして最近街歩きにハマってるらしくて」
「あんな感じ、とか止めてあげてください」
「たしかに能天気ではありますけど」
「ベリちゃん、口が悪いよ!」
「ハハハ。タマはアド街に出ることが夢らしい。その夢を叶えるための企画だ。第1回は秋葉原を予定している」
「散歩ならお供したいです」
「人数多い方が賑やかではあるのかな。その時が来たら声かけるよ」
ここで時間となったため退店する。一年の指針を口にしたことにより、TO-NAおよびそのメンバーの活動を盛り上げる気概を改めて覚えたタテル。TO-NAと共に歩む2026年のグルメ旅は、去年以上に学びのあるものとなることであろう。