連続百名店小説スピンオフ『多幸感の湧き立つところ』第3話(悟空/東武宇都宮)

人気女性アイドルグループ・TO-NAからニュウが卒業を発表した。多幸感を売りにするTO-NAの中でも特にピュアな性格でファンを癒してきたニュウ。TO-NA特別アンバサダーのタテルは、ニュウの生まれた宇都宮の街を旅しながら、多幸感の源を探す。

  

「あ、悟空の待ち組数58だって。半分まで進んだんだ」
「見立て通り、回転速いですね」
「どうせバーには19時頃行くって連絡入ってるし、待ってみてもいいかもね」

  

香蘭から悟空への道中、ニュウの卒業イヴェントに関する話題になった。
「ニュウは腰が悪いから、フルパワーのライヴじゃなくても良いと思う。でもニュウ自身の意見は聞きたい」
「そうですね、センターの曲もありますしパフォーマンスはしたいです。でもずっと踊る訳にはいかないんですよね…」
「腰は一生物だから、無理なことはさせられないな。カゲの時みたくバラエティパートを設けよう」
「そうですね、前半はお楽しみ会みたいにして、後半に5曲程度ライヴという形が良いかもです」

  

悟空に着いた時点では列の進みがだいぶ遅まり、48組の待ちであった。店の傍にあるスペースにて待機する。待機中も多くの人がやってきたが、整理券の発行は終了しており、それを店員に伝えられると落胆して去っていく。日曜夜にこの店で食べたければ17時までには一度来店して整理券を取る必要があると言えよう。

  

並んでいる間にメニューを見て、注文まで済ませる。餃子のメニューは肉5個・ジャンボ4個・野菜6個・しそ6個の4種類で、組み合わせセットも諸々ある。香蘭である程度お腹を満たしていた2人は、オトワレストランのスタッフお勧めの肉餃子と、タテルが惹かれたしそ餃子を1枚ずつ注文した。

  

「タテルさん、バラエティパートでゲーム大会やりたいです」
「ゲーム大会?」

  

ピュアで優しいイメージとは裏腹に、フォートナイトやストリートファイターなど戦闘系のゲームが得意なニュウ。ゲーム専門番組にも数多く出演し、TO-NAをよく知らない人々からもお褒めの言葉をいただくことが多かった。

  

「いいじゃん、やろうよ。メンバーにもゲーム得意な人いるし、外部からプレイヤーを招聘するのもアリだし」
「いいんですか?有名なゲーマーさんお呼びしたいです!サカモトさんとかタナカさんとか…」
「わからんな…この人は如何にすごいか、俺でもわかるようにプレゼンしてもらえる?」
「もちろんです!」
「TO-NAのこと知らないゲーム界隈の人にもニュウの存在を知ってもらいたい。コロナ禍の時1日十何時間もゲームして、いい歳してママに怒られたニュウを」
「それやめてください!恥ずかしい…」
「面白いじゃん。天然で飾らない面白さがニュウの持ち味だ」
「タテルさん…」
「このままでいてほしい。変な色に染まらないでほしい。ニュウはいつまでもニュウであってほしい…」

  

順番はだいぶ先であったが、席にちょうど空きがあり他の待ち客が店前に見当たらなかったため早めに店内へ通してもらえた。
「良かったですね、早めに戻っておいて」
「だね。なんか8人組のお客さんいるみたいだったよ」
「8人ですか⁈すごいですね…」
「俺の所属してたサークルでも、6人くらいで宇都宮餃子食べに行くイヴェントがあったな。大人数で餃子ツアーというのもおかしな話ではなさそうだね」
「じゃあTO-NAのみんなでまた行きたいですね。さすがに全員だと多すぎるから同期生だけでも」
「良いと思うよ。みんな餃子好きだもんね。俺がいないところでグミやヒヨリがいつも餃子パーティーしてるし」
「楽しいですよ。なんでタテルさん来ないんですか?」
「誘われてないから。口の肥えた俺には食べさせたくないんだろうね」
「そんなことないですよ。今度はタテルさんがいる時に開催しますよ」
「いや結構。俺は店の餃子しか食わない」
「いらないんかい!良くないですよそういうの」
「ハハ、冗談冗談。誘ってね、俺が極上の餃子作ってやるから」

  

餃子が焼き上がった。肉の味をなるべく殺さないようにと、タレは醤油と酢を1:4で配合するのがこの店のお勧め。つまり醤油と酢で半径比1:2の綺麗な二重丸を描けていればOKである。タテルは醤油を入れすぎてしまい、またしても配合に失敗した。

  

まずは肉餃子から。噂通り肉汁が溢れ出す。ただ餃子から溢れ出す肉汁はどうしても味が濃くて、食べ疲れてしまうものである。
一方のしそ餃子は溢れるものが無くあっさりしている。しその独特な味わいが肉の旨味を穏やかに演出し、濃い味に疲れた状況下ではしそ餃子に軍配が上がる。

  

「美味しかった!やっぱ餃子は最高ですね!」
「チェーン店の餃子もいいけど、専門店の餃子は包み方や焼き方が丁寧だよね」
「他の店の餃子も食べたいですね」
「個人的には『和の中』というお店が気になってる。また今度行こうね、その時はメンバーも連れて…でもそっか、ニュウは卒業後メンバーとどれくらい会うつもり?」
「考えてもなかったです。そうですね…」

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