連続百名店小説スピンオフ『とっておきのケーキで年末年始のご挨拶2023-2024』①(リリエンベルグ/新百合ヶ丘)

人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務める芸人タテル。年末の挨拶としてとあるメンバーの家を訪れた。

  

「よっ、スズカ!」
「お疲れ様ですタテルさん!病気したと聞いて心配したんですよ」
「ごめんな。そのお詫びも兼ねてケーキ買ってきた。一緒に食べよう」
「…リリエンベルグじゃないですか!大好きですよ。わざわざ遠回りしてまで買ってきてくれたんですか?」
「そうだよ。大好きなスズカと一緒に食べるケーキはこれしか考えられない」
「ちょっとキザな言い方…でもありがとうございます」

  

足立区から環七と(渋滞する)世田谷通りを経由し2時間弱。行列の絶えない人気店で、手慣れた駐車場整理のおじさんの指示に従い車を停める。人の多い年末ではあったが、20分程で店内に入れた。目の前には生ケーキが並ぶショーケース、奥の階段を登ると焼き菓子コーナー。スズカの両親や兄の分まで思う存分購入したら会計は5000円を超えたため、袋は無料となった。

  

スズカの家に上がるタテル。
「これが噂の洗面所か。ホントだ、蛇口が壊れてる…不便じゃない?」
「不便ですよ。でも神レンチャンするまでは直さない、って決めたんです」
「今の稼ぎなら十分に直せそうなものを」
「それはそうなんですけど、神レンチャンした賞金で直すことに意義があるんです。だから敢えて直さないって、お父さんもお母さんも言ってくれて」
「胸熱だな。俺も毎日強く願ってるよ、スズカの神レンチャン」
「来年こそは成し遂げてみせます!」

  

「大きな箱ですね。冷蔵庫入るかな?」
スズカは冷蔵庫を整理し、大好きで大量買いしていた伊達巻を退けて何とかスペースを捻出した。
「ありがとう!それにしてもすごい量の伊達巻」
「タテルさん伊達巻食べないんですか?」
「好んでは食べない。お節自体気分が上がらないんだよね、出来立ての料理を食べたい」
「タテルさんらしいですね。でも名店のお節とかたくさんありますよ」
「バードカフェのスカスカおせちとかあるからさ、怖いのよ」
「アハハ、ありましたねスカスカおせち」
「やられた人からしたら堪ったもんじゃないけどな」

  

ケーキが十分冷やされるまで暫し歓談するタテルとスズカ。
「すごいよなスズカ、今年は特に盛りだくさんの活躍で」
「色々やらせてもらいました。一つ一つが思い出です」
「堂々とミュージカル務め上げて」
「褒めてもらえて嬉しいです。葛藤もありましたけど、また一歩坂を登れた気がします」
「そしてF1で国歌独唱だもんな」
「緊張しました…でもその緊張感が人を成長させるんだなって思いました」
「スズカはホント立派だよな。努力が報われる人生であってほしいと思う」

  

良い頃合いになったのでケーキを食べることにした。まずは名物ザッハトルテ。ザッハトルテというと外側がただの砂糖の塊であったりスポンジが雑だったりで美味しくない場合が多いが、この店のものはチョコの香りが感じられ、アプリコットジャムが良い塩梅に入り非常にバランスの取れた素晴らしい逸品である。
「タテルさん、生クリームつけないんですか?」
「生クリームもミルク感あって良いんだけど、つけなくても完成してるからね。追加料金払ってまで貰わなくてもいいかな」
「そうなんですね。でもホント美味しい、幸せです」

  

そう言ってスズカはパソコンを取り出し、この1年を総括するブログを執筆する。
「すごい。出演した番組のこと一つ一つしっかり書いてある」
「私にとっては全てが思い出ですからね」
「ただVTR観るだけの番組でも?」
「呼んでいただけただけでも感謝じゃないですか」
「スズカは真面目だな。俺なんて売れてないくせに絶対仕事選ぶもん、その仕事本当に俺じゃないとダメなのかって」
「その姿勢は良くないですよ。どんな番組でもテレビの前の皆さんに楽しんでもらうことを一番に考えるべきだと思っています」
「そ、そうだな…」論破されたじろぐタテル。

  

「ザッハトルテ以外のケーキって食べたことある?」
「あまり買わないですね。タテルさんはよく食べるんですか?」
「そうだね。町田のばあちゃんのお墓参りのついでに寄ってたくさん買うんだ」
「へぇ〜、じゃあタテルさんのオススメいただきます」

  

選ばれたのは「フィグ」。みっちりとしたタルト生地はもちろん、紅茶が染みたドライいちじくがかなり美味い。広範囲に広がる紅茶の味にいちじくの種のプチプチ。地味に見えてしみじみと美味しいタルトである。
「え〜すごい、タテルさんやっぱセンスありますね」
「だろ?あとこれも美味いのよ」

  

そう言ってタテルはナポレオンパイを手に取る。これまた地味に見えるが、サクサクのパイとクリーム、そしてフレッシュな苺の相性があまりにも良い。

  

「タテルさん、よく食べますね」
「言われてみれば変だなとは思うけど、一度にケーキ3個なんて当たり前に食べちゃうね。それに肝臓痛めたから、酒飲む代わりによく食べるよう言われた」
「良い心がけだと思います。私も厚木旅行での件があって以降追い込みすぎないよう気をつけているので」
「寝不足すぎて夢と現実の区別がつかなくなった件ね。懐かしい。まあなんだかんだで楽しかったけど」
「また温泉ラーメン旅行行きたいですね」
「ね。でもその前に、もう一回房総を暴走しないか?」
「房総!楽しかったですこの前の旅。タテルさんと朝日を観たり磯遊びしたり」
「旅情掻き立てられる。もう予定立てちゃおう。アニバーサリーライヴの準備が始まる前、2月辺りに行こうぜ!」
「やったー!私、また鰻が食べたいです」
「いいねぇ。小見川ってところに名店あるらしいから行こう」
「あと成田山も行きたいです。参道グルメ美味しそうで」
「あそこも鰻有名だな。鰻2レンチャンしちゃう?」
「いいですね〜。後はなめろうと焼肉と」
「食べることばっか考えてるじゃん」
「タテルさんだっていつも食べ物の話ばかりじゃないですか」
「ハハハ。お互い様だね。じゃあ鴨川行って、余裕あればシーワールドに入ろう。焼肉は前回もいった今久ね。今度こそハンバーグまで辿り着くぞ!」
「楽しみだ!」

  

去り際に焼き菓子を置いていくタテル。ダックワーズはしっかりめの生地の中にコーヒークリームとレーズンで食べ応え満点。エンガディナーはバターのよく香るクッキーからの野生味あふれる胡桃。ザッハトルテに目が行きがちだが、その他のケーキも焼き菓子もレベルが高いのがこの店の強みである。

  

「皆さん、よいお年をお迎えください。スズカはまた大晦日会おうね」
「今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします!」

  

—連続百名店小説『MOSO de BOSO! 2』2月公開予定—

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です