連続百名店小説『MOSO de BOSO! 2』①私は最強(打墨庵 加瀬/安房鴨川)

『MOSO de BOSO!』第1シリーズは食べログよりお読みください!

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宮崎台の駅に降り立った、人気女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」特別アンバサダーのタテル。そこへジャングルグリーンのジムニーシエラが停まる。
「待たせたな!」
「お、今日もご機嫌のポルペッティスズカ。よろしくな」
「楽しみにしてました、よろしくお願いします!」

  

綱の手引き坂、いや、女性アイドルきっての車好きであるスズカ。初めての房総旅および京子との温泉旅行では親所有の車を使用していたが、今回はスズカが自分のお金で購入した、スズカ専用の車で旅をする。
「どうよ、俺っちのクルマ」
「『俺っち』って言い方可愛いな。もう素敵すぎる」
「ありがとうございます!家族以外で誰か乗せるの初めてで…」
「メンバーも乗せてない?」
「そうですね。あまり積極的に誘うの苦手で…」
「スズカって友達たくさんいそうなイメージあるけど、意外と人見知りだよね」
「バレました?」
「インスタ見てても誰かと写ってる投稿少ないし」
「言われてみればそうですね」
「まあ俺も人見知りだから。いいじゃん、『クルマが友達』ということで」
「そうですね。1ヶ月で走行距離1000キロ超えましたし」
「東京から下関くらいか。すごい乗り回してる、親友じゃん」
「ヘヘッ」

  

横浜青葉ICから首都高を経てアクアラインに入った頃には、車内はスズカ自慢の歌で盛り上がっていた。

  

︎〽︎さぁ、握る手と手…
「いいね、ドライブにぴったりだよ」
「テンション上がりますね。歌ってて気持ち良いですし」
「スズカの歌声、相変わらず最強だよ。京子の跡を継ぐのはスズカしかいないね」

  

︎〽︎私は最強〜
高音ロングトーンに合わせアクセルをべた踏みしたスズカ。そこへ覆面パトカーが音を鳴らし接近する。
「海ほたるパーキングエリアに入ってください!」
「…やっちゃった」

  

指示に従い海ほたるへ。初めての青切符を切られたスズカは負け顔を見せる。
「何ですぐ調子乗ってしまうんだろう私…」
「気落ちすんなよ。まあ反則金は痛いけどさ」
「お金とかじゃなくて…」
「へこんでる暇はない。最初の蕎麦屋、早めに行かないと終わっちゃうかもしれない」

  

タテルに唆され旅路を急ぐ。館山道を君津で降り、無料化された房総スカイラインを駆け抜けて安房鴨川駅の約7km手前。12:30過ぎに漸く最初の目的地「加瀬」に到着した。席はそこそこの埋まり具合で、2人は奥の半個室に通された。

  

「良かった入れて。落ち着くねここ」
「…」
「まだしょげてんのかよスズカ。まあ気持ちはわかるけどさ、らしくないよ」
「らしくない、か…」
「明るいスズカをみんな待ってる。俺も待ってる。それにせっかくの旅なんだから楽しまなきゃ」
「そうですよね。ありがとうございます、少し元気出てきたかも」
「そう来なくちゃ。よし、美味しい蕎麦食うぞ」

  

先付けとして玉子豆腐。卵とお出汁が心地よい。

  

と同時に一品料理から豆腐を注文していたタテル。ドロっと濃厚な豆腐を、藻塩で少し変化を加えつつありのままで堪能する。
「スズカも食べてみ?心に響く豆腐だよ」
「いただきます…あっ!いつも食べてる豆腐と違う!沁みますね」
「だろ。何もつけなくても美味いだろ」
「ですね。ひとつ大人になった気分です」

  

そしていよいよ蕎麦の登場。そのまま食べると実の野生味を仄かに感じられる。一方つゆは後述の天たねに合わせた薄口のものなので、江戸前オヤジのようにちょこっとつゆをつけて食べるやり方は中途半端であり、しっかり浸してかけそばのように味わう方が良い。蕎麦の味がちゃんとしているので、つゆの出汁が染みるとやわやわと香りが広がる。

  

「タテルさん、前『蕎麦の違いがわかるのが大人だ』と仰ってましたよね。今日はわかりました。香りが違いますね」
「だろ。つゆつけないでも永遠に食えるのが本物の蕎麦。でも今回はつけても美味しさを保っているからすごい」
「タテルさんの食リポ聞いてると勉強になります。お陰で私も大人の嗜みがわかるようになりました」
「そんな大それたこと」
「でもファッションは相変わらずワンパターンですね」
「それ言うなって…」少し嬉しそうなタテル。

  

蕎麦屋の醍醐味である天たねは海老がたいそうご立派。一方揚げは穏やかで、少し揚がりきっていない部分もあるが、香りが良いので気にならない。

  

「美味しかったな」
「美味しかったです!車も買って蕎麦の美味しさもわかって、大人の仲間入り果たせました」
「いいぞスズカ」
「私もう元気になりました。何でもやれそうです」
「良かった笑顔になってくれて。スズカ100%だ」
「元気100倍、最強スズカちゃんです!」
「ハハハ」
「愛想笑いやめてくださいよ〜」

  

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