連続百名店小説『続・独立戦争 下』HEAT 04「意識を取り戻したグミ! 遂に語られる真相…正義でタテルを救い出せ!」(イルラート/新宿三丁目)

人気女性アイドルグループ・TO-NA。新メンバーを迎え、新章の幕開けの矢先、TO-NA特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)のタテルが、週刊誌の事実無根の記事に心を痛め飛び降りを企てた。あろうことか止めに入ったTO-NAキャプテン・グミが屋上から転落、意識不明の重体に陥る。タテルはグミを突き落とした疑いで逮捕された。
キャプテンを失ったTO-NAはメンバーの多くが憔悴して活動は停滞。グループ解散も視野に入るほどであった。一方でタテルらを執拗に追い込んだ野元は、自身が手がけるガールズグループ「THE GIRLS」が人気を集めており鼻高々であった。
そんな中、前々から野元の動向を怪しむ者がいた。タテルの弟で女性アイドルグループ「Éclune」のプロデューサー・カケルである。秘密裡に野元の行動を追ってみると、タテルとグミの事件に関してある疑いが浮上した。

*物語の展開は実在の店舗・人物・団体と全く関係ございません。

  

何を問いかけても、鳩がいた、としか言わないグミ。幻覚でも見ているのだろうか。それとも脳に障害が残ってしまったのだろうか。意識が戻ったことは勿論嬉しいことであるが、TO-NAの活動は疎か日常生活に支障無く戻ることさえ困難のように思えた。

  

「一時的な記憶障害の可能性もあります。どうか悲観的になりすぎないでください。気休め程度ではありますが、積極的に声かけをしてあげると回復の後押しになるかと思います」
医師の助言を受け、メンバーは代わる代わる病室を訪れてグミに思い出話を語りかける。頷いてはくれていたが、グミから意味のある言葉が発されることは無かった。

  

「野元先生、お疲れ様です!」
「サヤコちゃんじゃない。これからどこ行くの?」
「門前仲町です。天ぷら食べて、富岡八幡宮の本祭行きます」
「天ぷらね。アソコでしょ」
「はい、アソコです」
「アソコは店主が祭り上げられているだけで、タネも技術も大したことない。そのくせ高くて参っちゃうよ。僕に相談してくれれば、良い天ぷら屋教えてあげたのに」
「どこが良いんですか?」
「……無いね。唯一良い店は店主が死んで閉店しちゃったよ。大体天ぷらなんて原価率が低いくせに高い、魚や野菜を小さく切ってちょちょっと揚げるだけで何万もするのはおかしな話…」
「もう!食べる気無くなるじゃないですか!」

  

野元にツッコミを入れるサヤコ。ちなみに同じあしらいを他の所属タレントがやると野元は即クビを切りにかかるので注意である。

  

「そうだ、少し残念な報せをしなければならない。今朝、グミの意識が回復した。殺害は失敗に終わったようだね」
「回復した……そうですか」
「落ち込むことは無いよ。回復したとはいえ、2週間も意識不明だったんじゃ後遺症が残ってもおかしくないね。生き地獄を味わうかもよ。死ぬこと以上に残酷な結末だ。よくやったよサヤカちゃん」
「ありがとうございます。本当はタテルをやるつもりでしたが」
「肉体は残ったが、社会的には殺せたじゃない。ついでにメンバーまで殺しかけた。二兎を追う者は一兎をも得ず、とは言うけど、最初から一兎に絞ればオマケの兎がついてくるものだね。一兎を追う者は二兎以上を得る。僕の新しい座右の銘にしよう」

  

その翌晩、タテル救出を目論むカケルと山本は新宿のイタリアンを訪れていた。伊勢丹から明治通りを挟んだ先の路地、ちょっと先の角を曲がれば末廣亭があるという立地である。

  

「一先ずグミさんの意識が回復したということで、乾杯」
「乾杯。ビールで乾杯って、粋ですよね」
「イタリアンやフレンチでもビールあるの、有難いよね」
「この国は暑いからビール置いてるんでしょうけど、本場では当たり前じゃないですよ。それをたぬき親父は、ビールの無いフレンチに烈火の如くキレやがって」
「野元のこと?」
「そうですとも。あのたぬき、ただレストランに文句言いたいだけ。リスペクトの欠片も無くてうんざりだよ」
「大共感。あんな捻くれた姿勢じゃ食事は楽しめないよね」

  

銚子の鰯を軽く炙った前菜。鰯の脂乗りが良くて素直に美味しいものである。下には輪郭のある豆サラダとエシャロットという、夏に相応しいさっぱりしたものが敷かれている。ここに梅肉とか合わせたくなるのは日本人の性か。

  

「まさか俺がTO-NAの心配をするようになるなんて。敵対していたこと忘れそうになりました」
「敵対することないじゃん、あんないい人達のグループ」
「メンバーは良いですよ。兄貴のことだけは変わらず嫌いですからね。冤罪が許せない、野元が許せない、ただそれだけです」
「まあ野元はわかりやすい悪だからね。それと比べたらタテルくんは寛容だし」
「野元と比べたら、ですけどね。拘りは強いし舌は肥えてるし…」
「それ、カケルくんもだと思うよ」
「ホントだ……」
「自覚あって良かった。似たもの兄弟だね」
「逃れられない運命か……」

  

この店は蛸のキャラクターをマスコットとしていて、蛸を模ったパンが供される。丸パンに、目として黒胡麻、口として黒オリーブを載せ、下にタコさんウインナーを添えている。外側が思ったよりハードではあるが、ウインナーとの相性が良い。隣にはどっしりとしたフォカッチャもあり、食事や飲み物と合わせて食べると美味しいものである。

  

冷たいカポナータにはストラッチャテッラチーズを。存在感はカポナータの方が強い。野菜が細かく刻まれていてサラサラと食べられる。夏に食べる分にはひんやりあっさり。寒い時期にはストラッチャテッラの量が増えても面白いかもしれない。

  

「アパーニュースが中井検事の疑惑を報じてますね」
「読んだよそれ。黒い交際があった、って話」
「驚きましたよ。それが本当なら中井検事は終わりですね」
「検察官適格審査会にかけられて失職は免れない。その過程で、タテルへの不当な取り調べが断罪されるかもしれない」

  

ミネストローネで胃を温める。口にしてみると少しスパイシーさを覚える。こちらも具材は細かめに刻まれており、シャリシャリした食感のものが多い。

  

「でも検察という組織は言い逃れを図るだろう」
「やりかねないですよね。まあアパーニュースの手にかかれば大丈夫です、認めないようなら力づくで撲滅するでしょう」
「えっ?カケルくんはアパーの関係者なの?」
「いえいえ。友人はいますけど私は関与してません」
「犯罪者に対して実験やってるんだよね?」
「みたいですね。でも俺は反対ですよ。ナ○スの残虐な所業、嫌という程学んでますから」
「過激な人と関わると何に巻き込まれるかわからないからね。暴走が過ぎるようだったら手を切ることも考えな」
「わかりました」
「力づくでなくとも仕留めることはできると思うよ。中井が冤罪を作り上げた事実は認められたし、そのうえ闇の交際がバレたら流石に世論も大反発だろう。その過程でタテルへの不適正な取り調べも検証されるかもしれない」
「シナリオ通りに事が進むとは思えないんですよね」
「わかってる。だから臨機応変に対応する必要がある。実力に頼らず平和的に、中井を追い出しタテルを救おう」

  

穏やかに火入れした真鯛の下には複雑性を帯びた蛤の出汁。蛤自体からはクリーミーな出汁が出て、トマトやハーブと合わさると途端にイタリアの空気感になる。これらがフワッとした真鯛の身に染み込み、味の多様性を愉しめる。

  

「魚料理が多いんですねこの店」
「そうそう。1年半前にも来たんだけどさ、前日に昼夜と会食でフルコース食べちゃって、ちゃんと味わえなかったんだよね」
「3食連続フルコースなんて、フランス人でもしないですよ」
「しないよね」
「フランスにおいてもコース料理はご馳走です。特別な日にはコース料理、それ以外の食事は本当に軽く、ですよ」
「だよね。だからタテルくんも変だ、サークルの仲間連れて昼夜フレンチはしごしたんだよ」
「お気楽者が」
「しかも後輩がデザートワゴンでデザート頼みすぎちゃって、タテルくんが残ったやつ全部食べたんだって」
「よく食うな。まあ野元よりはマシか」

  

2人はワインを合わせてもらうことにした。前回も積極的にワインを飲んでいた山本に2種類のワインが提案される。スモーキーな香りに合う白ワインも気になったが、夏にはロゼだろう、というカケルの後押しもありヴェネツィアのロゼワインを選択。クールな印象を最初に受け、ストロベリーのような味わいが染み出す。

  

ビワマスをシンプルに焼いて、真っ白な皿の右上にポツンと配置。オリーブオイルが彩り程度に添えられている程度で、味変要素は粗塩のみという素材勝負の一皿。火はよく通っているが丁寧に焼かれているようでボソボソはしていない。皮は厚く、少し弾力もある。もう少し焦がすと身とのコントラストが生まれてより面白そうではある。

  

「僕もひとつ引っかかってることあってさ。グミさんがずっと『鳩がいた』って言ってるの、妙なんだよね」
「三途川には鳩が棲息しているのか」
「霊的な話じゃない」
「ごめんなさい、グロちゃんのドッキリ観たもんでこの前」
「屋上から落ちた時、鳩を見た可能性があるんじゃないかな。鳩を見てその直後落下、意識を失い2週間して目覚めた時、意識失う前の続きで鳩に言及した」
「でも事件あったの夜ですよ。鳩って居るもんですか?」
「いない、普通は。夕方には巣に戻るから。TO-NAハウスの近くに鳩の巣の目撃情報は無いし、この時間に鳩がいるのは不自然なんだよ」
「まさか、誰かが鳩を送り込んだ?」
「まあ野生の鳩が絶対いない、という保証は無いからな」
「知ってます?タテルもグミも、鳩が大嫌いなんです」
「ああ、聞いたことあるよ。2人とも番組のVTRに映った鳩を見て嫌な顔してた」
「共演者の高松ケンジさんに宥められてたやつですね。観ましたよ、情けないやっちゃと思って」
「敏感だよね2人とも」
「タテルかグミに恨みがある人が鳩を武器にして転落へ追い遣った、という可能性も無くはないのかな、と考えたりしました」
「なるほど。でも随分ピンポイントな犯行だね。どうやって自殺するよう仕向けるのか。仕向けたとて、狙い通りに遂行するのは難しそう。実際タテルくんじゃなくてグミさんが被害受けてるし……」

  

次は肉系のパスタが提供されるため赤ワインを合わせる。トスカーナ州の限られた地域で生産されるイタリアの最上級赤ワイン「キャンティ・クラシコ」。その中でも特に業界関係者からの評判が厚いと云うリエチネは、フルボディながらリッチな口当たりで重さを感じすぎず、後からチェリーっぽいセクシーな味わいが現れる。

  

パスタはタリオリーニ。但馬牛のボロネーゼ、とでも言えば良いだろうか。青唐辛子を使っており、麺を口にすると思いの外その辛さが感じられ口がヒリヒリする。ここでシンプルな青唐辛子のオイルパスタを脳内に思い浮かべ、実際の味との差異を観察すると但馬牛の美味しさが理解できる。

  

「もしかしてタテルがコンビニで絡まれていた件、記事のこと問い詰められてた説ないですか?」
「記者に浮気疑惑を詰められ、かねてよりCLASH砲で精神をすり減らされていたところにとどめを刺された。それで自殺へ?」
「推測ではありますけど、自然っちゃ自然ですよね」
「まあな」

  

重めの赤ワインを好む2人は、次に鹿肉が来ることを確認してプーリア州のゴッチェを選択した。チョコレートを想起させる重さと甘みがある個性的な赤ワインである。

  

「そうなると鳩で殺す必要性なくなりません?タテルが自発的に飛び降りて」
「そのまま落ちてくれればいいけど、いざ縁まで来たら思い止まることもある。自殺を断念し引き返すことがあれば、犯人がタテル目掛けて鳩を放ち、仰け反らせて落とす」
「でも実際はグミが偶々屋上に来てタテルを発見し引き戻そうとした。だからグミを狙った……とは言いますけど、鳩で殺した、って決まった訳じゃないですよね」
「ああ。寧ろ根拠は弱い」
「危うく推測に囚われるところだった。別の説も検討しましょう」

  

鹿肉をペッパーソースで。火入れはレアであり柔らかい。だが噛んでいく内に少し臭みが現れる。そういう時は付け合わせの万願寺とうがらしを噛むと良い。ズッキーニのグリルも軽やかで美味しいものである。

  

鹿肉を食べ終えスマホを確認する山本。大久保プロデューサーからLINEが来ていた。

  

グミは通常の会話ができる状態まで回復しました。記憶障害も無く、メンバーのこともちゃんと覚えていました。タテルくんが逮捕されたことを知るとショックを受け、自分の口から本当のことを説明したいと言っていました。

  

「良かったよ……」
「良かったです。まさかTO-NAのことでウルウルするなんてよ、信じられないっすよ」
「死んでもおかしくない怪我だったからね、メンバーの元に戻って来てくれて本当に嬉しいよ」

  

気分の高まった2人はグラッパを所望した。様々なものがワゴンに載っている中、デザートに合う透明なものをリクエストした。吟醸香のあるもの、兎に角辛口のものも勧められた中、モスカート(マスカット)の搾り滓を使用したマローロを選択。マスカットらしい心地良い香りと果実味があり、喜び相まってぐびぐび飲んでしまう。

  

デザートはパンナコッタとメロン、少しグラニテを載せて。滑らかな口当たりが流行りの類ではあるが、少し硬さというか弾力というものを残してあり軽めの仕上がり。メロンもさっぱりしていて、フルーティなグラッパによく合う。夏という季節柄もあるのだろうが、この店は全体的に軽めで食べ疲れない料理を出しているようである。

  

「でもグミさん、まだ立ち上がることはできてないんですよね?」
「そりゃそうだよ。もう少し落ち着いてからリハビリを開始するらしい」
「元通り踊れるようになるんですかね?」
「わからない。少なくとも数ヶ月はかかるだろうな」
「……Écluneのメンバーが同じ状況になったら、と考えると悲しくなっちゃって。すみません、やっぱり素直に喜べないです」
「まあたしかに全てが解決した訳ではないな。グミさんが状況を説明しても、検察がどう受け取るかわからないし」
「グミさんが仮にタテルは何もしてない、と主張しても受け入れてもらえない可能性ありますよね」
「十分ある。タテルに有利になること言うよう口裏合わせしたんじゃないか、と思われてもおかしくはない。何しろ相手は仁義なき黒縁だ、グミの供述を聞き入れない可能性の方が高い」
「それ以前に聴取をサボるかもしれません」
「流石にそれはできないな。僕からも検察にグミの声を聴くよう依頼してたし、グミたっての希望を無視なんてできないよ」

  

「えっ?グミさんが意識取り戻して、話をしたいって?」
「はい。会話はしっかりできていて、脳に障害も無いので正式な依頼と受け取って良いかと」
「もうちょっと待とうよ。まだ容態は不安定だと思うし。それに話って何だろうね。まさかタテルは犯人じゃない、とか言うんだろ」
「有り得ますね」
「そんなこと言われたら混乱する。聞かなくていい!」
中井検事は疾しいことがあるような口調でグミへの事情聴取を拒んだ。黒い交際疑惑が報じられて以来動揺を隠せていない様子である、と部下も怪訝そうに中井を見ていた。

  

そんな事情を知らないカケルと山本は小菓子を戴く。ドラえもんのキャラクターがびっしり描かれた皿で供されるのがこの店の恒例行事である。甘さ控えめのココアクッキー、卵感のある涼やかなカスタードのシュー。
「グラッパ、もう1杯どうですか?」

  

次は色のついた熟成グラッパを提案してもらう。グレープフルーツめいた味、と説明されたパオロベルタ。王道の味わいでやっぱりぐびぐび飲んでしまう。

  

「8時か。ちょっとグミさんの様子見に行こうかな〜」
「酒入ってますけど」
「少し見るだけ。カケルくんは行かない?」
「俺は行きませんよ、金輪際。TO-NAには会わない、と決めてるので」
「そうかい。まあそれが君なりのやり方なんだろうけど」
「タテルを解放して、犯人がいれば捕まえる。それが終わったら赤の他人です」
「それまでは協力を惜しむなよ」

  

これだけ堪能して会計は2万円弱に収まった。次は上のコースで但馬牛のメインを食べるぞ、と誓い退店する。

  

グミの病室に向かうと医師が待っていた。
「若い検察の方がグミさんに聴取をしたい、でも上司が消極的でどうしようか、と電話してきました」
「やっぱりそうきたか、黒縁」
「門外漢ながら、グミさんが話したいと言う以上聴取は為されるべきだ、とお伝えしました」
「それが正解です。勇気ありますね、ありがとう」

  

「カケルくん、中井検事は聴取を渋ってる」
「やっぱりか」
「でも部下の検事が動こうとしている。はっきりはしてないが、中井に背いてグミの元を訪ねる可能性が高い」
「そんなことしたら、部下は処分されるのでは」
「そこでカケルくんに頼みたい。部下が処分される前に中井を潰したい」
「善処します。それが俺の役目ですから」
「あくまでも平和的にな。よろしく頼む」

  

2日後、若手検事の三木がグミの元へ出向き聴取を行った。
「タテルくんは殺そうとなんてしてません。縁にいたタテルくんを内側に戻し、いざ体勢を直そうとした時、鳩が顔めがけて飛んできて仰け反ってしまいました」
「なるほど。その鳩って、街中にいるような灰色の鳩か、手品で出てくるような白いのか」
「街中の鳩です。夜なのに何故……」
「迷い鳩ですかね。山に帰ろうとしたけど怪我して帰れなかった、とか」
「鳥のセレナーデみたい」
「知らないですそれ。兎に角タテルさんは無実であると主張される訳ですね」
「はい。私の不注意による事故です」

  

さらに2日後、今度は比嘉という若手検事が聴取に来た。
「どうしてタテルさんは屋上に?」
「浮気記事が出て、もう自分は終わった、と言ってました」
「CLASHの記事ですよね」
「はい。でも私はあの記事信じません。タテルくん、CLASHから執拗に下げ記事を書かれて辟易してて」
「CLASHか。確かにあそこは…」

  

「やかましいのぉ!」
中井検事が降魔の相で入ってきた。
「比嘉、こっち来い!」

  

比嘉を廊下にやり、至近距離で脅す中井。すると狙ったかのようにカケルが通りかかった。
「ここは病院だ。Vシネごっこは屋上でやれ」

  

屋上へはカケルも何故かついてきた。
「おい、関係者以外は来るな」
「俺?関係者だけど」
「つばえんな!」
「はっ?何処の国の言葉だ?」
「ふざけんな、だそうです」
「ああ。つばえてんのはどっちかな?」
「邪魔すんな部外者が!」
「比嘉さん、今アレ出せる?」
「はい」

  

出てきたのは鳩の羽根であった。タテルの身柄確保後、警察が回収したものである。
「何故これを隠していた?」
「知らんのぅ」
「グミさんは鳩に驚いて落ちたと言ってる。実際に鳩の羽根が落ちていた。その羽根は矢鱈と綺麗だ。どういうことかわかるか?」
「知らん」
「誰かが意図的に鳩をグミに放ったんだよ」
「へっ。馬鹿な」
「馬鹿はテメェだ。兎に角タテルに殺意は無い。それを一番よく知ってんのはグミだ、テメェが決めるんじゃねぇ!」
「帰れ貴様!」
「そうやってアンタは無実の介護士から12年の月日を奪った。得意の脅しでまた冤罪を作る気か?」
「……」
「そのくせストーカー殺人犯である反社の息子は野放しにして。俺はお前の正義が理解できない」
「理解しなくて結構。君には関係ない」
「俺は厳罰主義者だ。検察の正義を信じる人間だ。その正義が、テメェのせいで揺らいだ!」
「フッ。知るかよ」
「比嘉検事の三木検事の、グミの、タテルの、本当の声を掻き消すな!」
「黙れ!素人が捜査を掻き乱すな!」

  

「下見てみろ。マスコミの群れだ。ここを通らないと帰れないぞ。黒い交際、洗いざらい話してこい。検察の信用に関わる問題だ、さあ逝け!」

  

こうして中井は反社からの収賄、威圧的な取り調べ、証拠隠滅等を問題児され懲戒免職となった。

  

一方のタテルは不起訴となり無事釈放される。建物の外にはTO-NAが勢揃いしていた。
「みんな……」
「タテルさん、おかえり!」
「ありがとう……いいのか皆、俺のせいでグミは…」
「そう思うのなら、まず私達を支えて下さい」
「私達はグミさんの帰る場所を護るためここにいます。タテルさんの手腕で、安心してグミさんが帰れるようにしてください」
「先ずは秋田フェスだ。先方からは是非実施の方向で、と言われている」
「迷惑かけてごめんなさい。今日からまた、一生懸命やらせていただきます」

  

こうしてタテルはTO-NAスタッフに復帰し、グミへの贖罪の日々を歩み始めた。

  

(秋田フェス編へつづく)

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