人気女性アイドルグループ・TO-NA。新メンバーを迎え、新章の幕開けの矢先、TO-NA特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)のタテルが、週刊誌の事実無根の記事に心を痛め飛び降り自殺を企てた。あろうことか止めに入ったTO-NAキャプテン・グミが屋上から転落、意識不明の重体に陥る。タテルはグミを突き落とした疑いで逮捕された。
キャプテンを失ったTO-NAはメンバーの多くが憔悴して活動は停滞。グループ解散も視野に入るほどであった。一方でタテルらを執拗に追い込んだ野元は、自身が手がけるガールズグループ「THE GIRLS」が人気を集めており鼻高々であった。
そんな中、前々から野元の動向を怪しむ者がいた。タテルの弟で女性アイドルグループ「Éclune」のプロデューサー・カケルである。秘密裡に野元の行動を追ってみると、タテルとグミの事件に関してある疑いが浮上した。
*物語の展開は実在の店舗・人物・団体と全く関係ございません。
タテルは警察の苛烈な取り調べを受けていた。事情を具に説明するも、警察は自分達が描いたストーリーに拘りタテルの弁明を聞き入れない。
「俺がグミさんを殺す訳ない!」
「あ゛ぁ⁈じゃあ事故だと言うのか?」
「事故……と言っちゃえば事故です。原因を作ったのは俺なんですけど」
「だろ?自殺を止めようとしたグミを払い除けて落とした。それしか考えられないだろ!」
「払い除けてはいない!説明してますよね何度も」
「お前の話ぶりじゃ画が全く浮かばない。作り話ももっと上手にしてくれよ。東大卒なんて嘘だな、卒業証書見せろや」
「そこはどうでもいいじゃないですか」
「うるせぇ!」
「とにかく、大事なメンバーを殺す訳無いでしょう!こっちだって悲しいんだよ、グミさん失って……」
「失って?誰もグミさん死んだとは言ってないよ?」
「生きてるのか」
「意識不明の重体だよ、アンタのせいでな!」
「謝らせろ!謝らせてくれ!」
「じゃあ認めるんだな?」
「謝らせてくれ!」
「自白ということでいいんだな」
「はい……」
刑事の剣幕とおちょくりに耐えかねて嘘の自白をしてしまった。これは確固たる証拠として扱われ、タテルは高確率で起訴される。そうなるとこの国の司法下では有罪を免れない。TO-NAのメンバーと築き上げた信頼が音を立てて崩れる。悲しいのは自分だけじゃない。メンバーだって悲しいし、そこに怒りや憤りが加わって訳の分からない気持ちにさせてしまっていることだろう。何しろグミの意識が戻っていないこと、戻っても一生癒えない心の傷を負っている可能性があることが心配でならない。それも全て自分のせいである。タテルは途方も無い苦悩に苛まれ、泣くことしかできなかった。
〽︎夜の街に迷い込んだ鳥は そっと手ですくいましょう……
野元は事務所所属歌手・サヤカのコンサートを視察していた。齢四十ながらムード歌謡を強みとする歌手で、芸能界屈指の鳥好きとしても知られる。15年前のデビュー曲『鳥のセレナーデ』は発売年の有線大賞を受賞し、昭和100年ブームにより歌謡曲に注目が集まるとリヴァイヴァルヒットを果たした。紅白歌合戦にもデビュー翌年から欠かさず出演していて、毎年鳥を肩に乗せ歌ったり観客投票の集計作業員に紛れ込むのが恒例であるが、鳥のセレナーデ以外のヒット曲があまり無く、野元のゴリ押しと批判されている。
「野元先生、毎度ありがとうございます」
「謙ること無いよ。君の歌声は素敵だからね、態々聴きに行く価値があるよ」
「恐れ入ります」
「鳥のセレナーデ以外にも良い曲あるのに、世間は何故注目しないのかね。中身の無いアイドル曲が流行って、サヤカちゃんの詩的な歌が流行らないのは不健全だよ」
「それはもう、私の実力不足を恥じるのみです」
「そんなことないよサヤカちゃん。でも今年の紅白は怪しいみたいだね。NHKのスタッフから聞いたよ。指標が上がらないとサヤカは落選、だってよ」
「えっ……それは嫌です!」
「安心しなさい。僕は本気を出すと決めた。泥臭く動いてあげるよ。君のためなら労力は惜しまないからね。その代わり、1つ協力してもらいたいことがあるんだ。君、今でも鳥を操れるかい?」
「はい勿論。鷹でも鳩でもお手のものです」
「話が早いね。コソコソ」
送検されたタテルの元へ弁護士がやってきた。
「こんな形で会いたくなかったよ……」
「山本さん⁈」
「大久保さんに頼まれたから来た。良いよね、俺が弁護人で」
「う、嬉しいです!こんなことになってしまって本当申し訳ないです」
「無実なのに自白させられたんだな。日本の司法の大きな問題だ。取り敢えず今後の取り調べでは頑なに殺意を否定すること。検察にも恫喝してくる奴はいるかもしれないけど耐えてくれ」
「耐えられますかね……」
「耐えなさい。やってないんでしょ?」
「やってないです!」
「なら闘うんだ。さもないとグミさんもTO-NAの皆もモヤモヤを抱えて生きることになる。誤解を生むようなことをした以上、君にはそのモヤモヤを打ち消す責任がある。扱かれても耐えろ。いいな?」
「わかりました。耐えてみせます!」
2日後。カケルは二子玉川絶品フレンチの修業先である店を訪れていた。四谷の北島亭。料理の量が多いことでお馴染みの、古典的なフランス料理店である。入口からそう遠くない席に案内されると、そこには山本がいた。
「遅れてすみません、山本先生」
「いえいえ。こんな良さげな店にお招き戴けるとは」
「山本先生は大事なパートナーですから。早速飲み物選びましょう、ワイン飲まれます?」
「好きです!」
ペアリングは3杯6千円弱、食前酒は含まれない類である。シャンパーニュはグラスで2.2千円であり気が引ける山本。
「でもフランスでは含まれないのが普通ですよ。自分の思い思いの飲み物頼みましょう」
「ビールでも良いのかな」
「全然アリですよ。フランスでも『とりあえずビール』する人います」

一方のカケルは辛口のシェリーを頼んだ。しっかり冷やしてありキリッとしている。本当はトニック割りにすると至高の食前酒となるが、ここの店員にそれを注文する勇気が湧かない。
そして料理はプリフィックス(選択式)スタイルで3品または4品(アミューズ・デザートを除いた品数)を選べる。4品は3品より1千円高いだけであるが、1品1品の量が多いため安易に増やせない。カケルは口コミを予習し、料理が量の割にはシンプルであることを見抜いていた。
「3品でも良いですか?4品だとガチで腹はち切れると思います」
「そんなに量多いんだ?」
「量も多いですし味も濃そうです。抑えた方が良いみたいですよ」
「そうだね。俺も30超えて、全然腹に入らなくなったからな。昔は食べ放題で片っ端から全メニュー食べて黄金伝説ごっこしてたのに」
「黄金伝説は知りませんけど、胃の老化が速いことは察しました。3品にしましょう」

アミューズが2品。まずは枝豆の冷製ポタージュ。枝豆の味がダイレクトに伝わるシンプルな仕上がりである。

もう1品はなんとピザである。豚とラムのミンチに茄子を混ぜ、トマトを載せて焼き上げている。粗めのミンチで、ラム独特の香りもしっかりありこれがシェリー酒とよく合う。パイ生地の軽やかさと折り目正しいトマトの味で爽やかに食べ切ったが、この時点でヴォリュームの多さを実感する。

「普通アミューズは1口で食えるものですからね」
「確かに。えっこれだけ⁈ってなるのが通常運転かと思ってた」
「しかもピザですもんね。クレイジーだよこの店」
「そういやカケルくんってスリムだよね。タテルくんはあんな丸っこいのに」
「自己管理がなってないだけですアイツは」
「確かに自由人だねタテルくんは。えっ、全然会ってないんだっけ?」
「縁切ってますからね。連絡先も知らないですし。まあTO-NAの公式窓口通せば取れるんでしょうけど」
「それなのによく協力してくれるね」
「いくら憎き兄貴とはいえ、不当に拘束されて不当に罪を被ることは許されないので。この世から冤罪を無くす、その使命感の方が上回りました」
「それは素晴らしいと思う。日本の警察や検察は未だ密室で弁護士も入れず取り調べするからね。だからカルロス・ゴーンに逃げられるんだよ」
「ありましたね。世界中の笑いものでしたよ、この国の司法。まあその厳しさで治安は護られてきた、という側面もありますけど」
「難しいよね。でも罪の無い人を不当に痛めつけるのは正義じゃない」
「それは間違いないです」
厳罰主義者アパーランド皇帝としての顔を捨て、カケルは山本と共闘する決意を固めた。

カケルの1品目は、冷前菜からタラバガニのクレミューズ。カニの身がクリームにたっぷり詰まっていて旨味に溢れる。

奥には、これまた蟹が過半数を占めるズワイガニのサラダ。親しみやすいマヨネーズ味ながら蟹の後味は一流店のクオリティである。

タラバをブリニ(小さなパンケーキみたいなもの)に載せるとこれまた堪らない……と言いたいところであったが、いかんせん量が多く、後半は蟹の旨味を感じなくなってしまう。有塩バターをブリニに添える、食感のあるものを一緒に和えるなど変化をつけた方が最後まで美味しく食べられると思われる。
「CLASHと野元の動向も追ってるんだって?」
「はい。先ずCLASHは性格悪いですね。SNSにいる性格悪い輩のコメントに同調して記事に盛り込み、ヘイトをブーストさせる悪徳メディアです」
「それは僕もよぉくわかってる。だってタテルくんの事件、CLASH砲が引き金になっている説あるからね。かねてからタテルくんはCLASHに狙われていた。タテルくんの目立つ言動を全て悪いように曲解し下げ記事を続々出していた」
「今まではタテルざまぁ、と思っていたけど、言われてみると確かに酷いですね。人を玩具にするな、って話ですよ」
「極め付けは、タテルくんの浮気記事が出た時刻。CLASHのHPに掲載されたのが19:30、グミさん転落の推定時刻が20:02」
「間が空いてないですね」
「それに19:41、コンビニの防犯カメラにタテルくんらしき人が映っていて、男達に囲まれてたんだ」
「何があったんですかね?」
「わからない。いずれにせよタテルは19:30以降に希死念慮が爆発し屋上に登った、そこへグミさんが何らかの事情でやってきて、タテルくんを引き戻した時バランスを崩して転落した、というストーリーが濃厚ではある」
「なるほど。あくまで推測ではあるけど、自然な流れだとこうなる訳ですね。でもグミさんに手を加えてない、という証拠は無いですよね」
「屋上に防犯カメラがあればなぁ、もう少し事情がはっきりするのに!」

南仏のロゼワイン。ベリーのような果実味が濃い。

魚料理から、鱸のポワレ。と言いつつざく切りの夏野菜(ラタトゥイユのつもりらしい)がゴロゴロ載っており主役は何処。左にあるバゲットには塩気の強いタプナードが載っており、手前に添えられたアイオリソースはニンニクの味が強くて最早ラーメン二郎である。それでも野菜が生き生きしており、鱸の身はふっくら、揚げ焼きしたような皮目も少しモチモチしていて美味いことに変わりは無い。
「フランスでもニンニク食べるんですね」
「はい、南仏では。今みたいなアイオリソースで」
「部会終わりに東大裏の千里眼行ったの思い出す」
「千里眼?」
「ごめん、知らないよね。太麺と大きな肉、たっぷりの野菜が載ったラーメンがあってさ、そこにニンニクマシマシするのが大学生の嗜みなんだ」
「美味そう。兄貴も食ってたのかな」
「タテルくんは食べてない。上品なものがお好きだから」
「腹立つなやっぱり。デブのくせに」
しかしその何千倍も腹立たしい存在が野元である。今度はカケルが山本へ、野元に関する情報を提供する。
「彼の性格を簡単に言うと、驕傲で偏頗です」
「随分と難しい言葉使うね」
「せめて語彙力だけでも、兄貴には負けたくないので」
「なるほど。驕傲っていうのは何となくわかるよ。カネーの虎での嫌味、ビジネスチャンネルでの極右発言」
「それだけじゃないです。アパーニュースの記者やってる友人から聞いたんですけど、THE GIRLSのメンバー、野元から中々のパワハラを受けています」
友人とはしているが、実際はアパーランドの隊員アツコである。掃除マイスター1級・全日本清掃選手権優勝という輝かしい肩書を持つアツコは、皇帝カケルの指示でDP社清掃員に応募すると、肩書に目のない野元に気に入られ即採用。野元の手下のマネジャーに怒鳴られる所属タレントの姿を嫌という程見ていた。
「おい、何故警備員に挨拶しなかった?」
「すいません、つい…」
「生意気なこと言うんじゃねぇよ!そんなんで芸能界渡り合えると思ってんのか⁈」
そんな調子なのでタレントは清掃員にも皆挨拶してくる。受け流す人が殆どの中、アツコは真正面から受け止め、ことTHE GIRLSメンバーとは会話する仲にまでなった。THE GIRLSに対する野元の悪行はひと通り聞き出せたが、つい先日、世間話している所を野元に発見され、清掃員の分際で所属歌手と仲良くするのは何事だ、と注意されそのまま解雇となった。
「野元は清掃員にまで驕傲なのか」
「自分の悪行がバレるのを防ぐためですかね。まあもう遅いけど。今夜には記事が上がるらしいです」
「少しは効くかな」
「これで野元が大人しくなるとは思いません。それにタテルを救うことには結びつかないですし」
「どうだろうね?野元は2度ほどタテルと対面していて、かなり屈辱的なこと言われたみたいだ。無関係とは断言できない」
「まさか、野元がタテルを狙った……?」

段々真相へと近づいていく2人へ赤ワインが登場。しかし山本は飲む気力が湧かない。
「腹一杯ですか」
「はい。量が多いねやっぱ」
「肉は包んでもらいます?」
「夏場だから悪くなりそう。何とか食べきるよ」

肉料理は黒毛和牛のランプ肉。これまた標準より多めの量で、肉を喰らう喜びを想像できる見た目である。なのに今度はカケルの手が止まった。焼き加減はレアであるが、中の肉質がグジュグジュに思え体が受け付けないのである。もっと濃いめのソースがもっと多くかかっていれば、少しは食べやすかっただろう。

付け合わせで口直しを図るが、茸は重いし青物は青さが弱くダレてしまう。ポテトグラタンも季節のせいか甘みには寄っておらず、中にも肉(こちらの肉質は良い)が入っているから結局重たい。
「山本さん、TO-NAのメンバーとは接点あるんですか?」
「実は昨日初めて会話した。メンバーには心配かけたくない、というタテルくんの意向で関わりは持ってなかったんだけど」
「……そういうところはちゃんとしてるんだな兄貴」
「話聞いてると、皆タテルくんへの恩義を語ってくれた。宿題のわからないところを教えてくれた、人気K-POPグループPRICEのチケット争奪戦に参戦してくれた、お腹壊した時臭わないタイプの正露丸買ってきてくれた、一晩中大喜利の練習に付き合ってくれた、1人じゃ入りづらいラーメン二郎に一緒に行ってくれた」
「二郎行ってる……」
「捕まった人って大抵悪い噂しか出ないのに。それくらい信頼されてるんだよタテルくんは。絶対無実だよ」
「上面では嫌な部分も多いけど、根底では分かり合えるのかな。女性グループを束ねる者同士として」
デザートは7品くらいの選択肢から1つ選べる。ケーキ系は流石に入らないので、真夏にしか食べられない桃のコンポートにした。

その前にライムのグラニテ。いちいち味が濃くて良いものである。
「そうだ、野元の偏頗な部分って?」
「サヤカの件です」
「サヤカって、あの紅白で鳥乗せてる人?」
「そうです。有名なんですね」
「毎年出てるからね。でも最近は鳥のセレナーデばっかり」
「ヒット曲が無いのに出続けるパターン。野元のオキニですもんね」
「やっぱり」
「野元は基本的にタレントに厳しいです。ただサヤカに対しては愛人のようにベタベタ接する。理由は簡単です。野元の掲げる極右思想に賛同しているから。寧ろ野元以上に危険な思想してるみたいです」
「えぐっ。どんな思想なんだ」
「それ暴こうとしたら野元に追い出されて。まあこれに関してはTHE GIRLS経由の又聞きなので様子見です。いずれ明るみには出そうですが」

桃のコンポート。グラニテを添えるあたり、ひらまつのスペシャリテを想起させる。この店のことなら丸々1個出してくると思ったが、2切れ(半個にも満たない?)しかなくて物足りないように感じた。
「でも桃って意外と水分ありますね。腹に溜まります」
「丸ごとじゃなくて良かった。別腹までミチミチになるところだった」

映えとは無縁の焼き菓子が最後に出てきたが、流石に重いため持ち帰りとした。スーパーの惣菜を入れるパックに焼き菓子を詰める可笑しさ。
「山本さん持って帰ってください」
「いいよ。俺多分食べない。満腹すぎちゃって」
「俺もです。Écluneメンバーには今日会わないですし……」
「じゃあ僕がTO-NAのみんなに持っていこうか?」
「それが一番ですね。よろしくお願いします!」
「あいよ。そうだ、カケルくん明後日くらいに面会してきたら?タテルくんに」
「まあ1回くらいは顔合わせしてもいいですかね」
「了解。そしたら手続きしておくから。注意点として、まず僕とは同席できないから1人で接見することになる。その際職員の監視がある。事件の内容について踏み込むと退室させられる。あくまでも励ます程度にな」
「面倒臭いですね。はい、気をつけて臨みます」
そしてその晩、カケルの予告通りアパーニュースからTHE GIRLSに関する記事が出た。
THE GIRLSメンバー激痩せの原因は、所属事務所社長・野元の圧力だった⁈揚げ物・肉類・糖質・脂質は殆ど禁止の過酷な食事制限を強要か
栄養学・医師の監修のもと書き上げたこの記事は注目を集め、世論は野元批判へと傾き始めた。
「ねぇCLASHくん、どうなってるのこの記事」
「我々にもわからないです」
「わからないことないでしょ。アパーニュースは日頃から君達の記事批判してるんだよ」
「クレームは入れていますよ。でも聞き入れなくて」
「そんな弱気でどうすんの。僕の立場に関わるんだよ!」
「す、すみません!」
「僕は何も疾しいことしてない。今日中に反論記事上げなさい!あとTO-NAは新キャプテンの下活動再開するらしいね。僕より身長があって、図体も態度も大きそうな子だね。コイツも下げてやりなさい」
「でもどうやって?悪い噂とか無いです」
「無くても書くんだよ!妄想でもいいから!」
「そんなことしたら世間が許さな…」
「ずべこべ言うな!」
「……」
「書かなかったら君はクビだ。報酬1億も水の泡になるんだよ。書くしかないよね」
TO-NA新キャプテン・カコニに殺人教唆疑惑?グミを引き摺り下ろすために渡辺タテル容疑者を利用か
野元に脅され、根拠の無い犯罪をでっち上げた記者。カコニの生年や出身地を思いっきり間違えるなどお粗末な内容で、普段は味方してくれるネット民も多くがCLASHを批判した。
一方のタテルは、またも検察官の脅しに屈してしまう。
「山本さん、負けてしまいました……」
「まったく、何やってんだ」
「怖いんですもん中井検事」
「中井か……又の名を仁義なき黒縁。ヤクザ口調で相手を落とす怖い輩だ。厄介な奴に当たったな」
「もう終わりだ……」
「諦めるな!TO-NAはカコニキャプテンで再始動した。意識戻ってないけど懸命に生きようとしているグミさんの帰る場所を守るために、必死で足掻いてる。タテルのことも信じて待ってくれてるんだぞ」
「えっ……」
「みんな良い子だよ。そんな子達と関わることができるなんて、タテルは幸せ者だな。その幸せ、捨てていいの?」
「嫌ですよそりゃ」
「だろ。負けるなよ。もう二度と屈しない、いいね?」
「はい!」
更に午後、カケルも面会に訪れる。
「カケル⁈どうして…」
「それ俺の台詞。まったく、困った兄貴だよ」
「弟ぶるな今更」
「北島亭行ってきた。本場を思い出すヴォリューム感で楽しかった」
「関係ないよねそれ」
「肉だけイマイチだった。でももう一回行きたい。こういう店が日本には必要だ。タテルも娑婆に戻ったら行くと良いよ」
「まあ気になってた店だけどさ」
「アクリル板越しの距離感が丁度良いな。いいか?俺はね、いくら縁を切ったとはいえ、犯罪者の弟として生きるのは酷だ」
「それは……謝る。ごめん」
「無実なら無実だと言えよ。誤魔化さず闘え」
「それ弁護士にも言われたんだけど」
「それは知らん。大事なことだから二度も三度も言われるがいいよ」
「まあな」
「もう一度言う、俺を犯罪者の弟にするな。いいな?」
「わかったから!」
「じゃあ帰るぞ。負けんなよ」