今でこそ綱の手引き坂46の特別アンバサダーを務めるタテル(25)だが、そんな彼が初めて本気で推したアイドルは、元NGY48の菅田アカリ(31)である。高校時代以降のタテルの人生をいつも彩ってくれたアカリ。2人のあゆみを振り返りつつ、タテルはアカリに対して抱くある心残りを解消しようと動き出す。
「冬元先生、おはようございます」
NGY48のプロデューサーでもある冬元のもとを訪れた現代のタテル。
「おう渡辺、どうした?」
「先生は最近、アカリさんに会いました?元NGY48の」
「うーん、会ってないな。どうしたんだい?」
「アカリさんに会いたいです」
「あぁ、そういえば君は菅田のファンだったね」
「NGYとしてのアカリさんにちゃんとさよなら言えなかったんです。だから会いたくて…」
「でももう私の支配下にはないからね」
「そうですよね…」
「会いに行けばいいじゃん。ほら、Mリーグの番組やってるでしょ」
「熱湯Mリーグ」
「あれ外から見れるもんね。行けばいいじゃん」
言われてみれば確かにそうだ。だがタテルは麻雀に興味がない。そんな人が麻雀好きを押し退けてアピールするのは違うと思った。
「自由に外から参加できる番組…そうだ!アレに行こう」
東大入試が終わって2日後、タテルは2度目の握手会に行った。まだ結果はわからない状態だったが、励みになってくれたことへの感謝を伝えたかった。とはいえ結局何を喋ったのか覚えていない。
タテルは大方の予想を覆し東大に合格した。奇跡だった。そしてその奇跡の影には、間違いなくアカリがいた。
高校卒業の記念旅行という体で、タテルはついに愛知県に上陸した。以来毎年1回は名古屋の地を踏むことになるのだが、初めて1人で新幹線に乗るというのはやはり慣れないものだ。
名古屋に着いて初めて向かった先は知多半島の先端・羽豆岬。NGY48の曲の舞台になった、NGY48の聖地である。河和駅から乗り込んだ「海っ子バス」には、メンバーが訪れた際にしたグラフィティが残っている。そこにもちろんアカリの作品もあった。窓際が一番好きな席だと言う。
羽豆岬の展望台を登ると、「私たちの未来」と形容される海は大きく広がっていた。爽やかな春の磯風に吹かれながら、地の果てに夢の始まりを見る。NGY48、そしてアカリは地元民に愛され、さらに大きくなっていくのだろう。そしてタテルにはどういう未来が待っているのか。楽しみになってきた。
羽豆神社に「アカリの総選挙神7入り」「NGY48の紅白復帰」を願って絵馬をかけたタテルは、名古屋市内に戻り劇場公演を観た。その日はアカリはいなかったが、NGYのステージは熱気に溢れていて観る者を虜にする。今度はアカリがいる回に訪れたい。アカリに会いに行くため、バイトに勤しむ日々が始まった。
一方、アカリ卒業発表の日の昼、夢の途中のタテルは栄の商業施設「ラシック」にいた。知多半島の面影を感じたくなり、エビフライで有名な「まるは食堂」を訪れる。久屋大通を眼下に望む、見晴らしの良いカウンター席でエビフライ定食を注文した。本当は刺身付きの定食を頼むべきなのだろうが、この日は純粋に名物のエビフライだけを味わいたかった。
太く長いエビフライが2本。バッキンバッキンと表現すべき身の締まりは名物となるだけある。しかし大きい個体ではどうしても臭みが出がちで、トータルとしてはあまり美味しいと思えなかった。
ただ本店で食べたらまた違う印象なのかもしれない。また知多に行きたい。NGYはかつて美浜町でフェスをやっていた。風光明媚な知多を満喫したくて毎年応募していたが、結局当たらないままイベントは消滅した。知多に行く理由は薄くなってしまった。
東大に入学して2ヶ月、ついに総選挙の日が訪れた。開票の地は新潟。CDを大量買うわけでも、積極的にライヴに参加するわけでもないタテルにとって、わざわざ遠方の大きな会場に行くのは初めてだった。
運命の開票イベント。17位までにアカリは呼ばれなかった。選抜入り確定である。16位に謎の候補者「わんわん仮面」が入ると、笑いの絶えない場面にも関わらずタテルは泣きそうになっていた。その後も名前が呼ばれないまま発表は続いた。
「第7位、獲得票数69159票、NGY48チームY、菅田アカリ」
特光がアカリの名前を呼んだのは7位。選抜を通り越し、伝説の「GOD7」に入ったのだ。この結果にはタテルはもちろんのこと、アカリでさえ驚いた。昨年の悔しさをバネに一致団結したファンの力はとてつもなく強かった。
北川景子や佐々木希などのような、万人が認める「美人」ではないのだろう。それでも人を笑顔にさせる才能が、アカリには備わっている。それは月並みの努力では決して得られない。がむしゃらなアカリの姿に、タテルは間違いなく勇気づけられていた。
総選挙後、そしてタテルにとっては東大入学後初めての握手会。タテルは相変わらず緊張に苛まれ、大学の友達にLINEを送って緊張を紛らわそうとしていた。本当なら「あなたのおかげで東大に受かりました」「総選挙7位おめでとう」と素直に伝えれば良かったのだろうが、お笑いサークルに入ったタテルは何か面白いことをしなければと余計な考えを巡らせてしまう。結果何を喋ったか覚えていない。
GOD7に入ったアカリではあったが、運営からの冷遇は続いていた。本店IMC48の通常の選抜とは相変わらず無縁。アカリが、というよりはNGY全体が無下にされていた。タテルは運営に不信感を抱いた。結局紅白にもNGY48として出ることは叶わず、タテルはグループの勢いが落ちていないか気を揉んでいた。それでも彼は応援をやめない。その気持ちが翌年、奇跡の邂逅を呼ぶ。
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