連続百名店小説『独立戦争・下』第9話「優しさの代償」(言問団子/曳舟)

人気に翳りが見えていた女性アイドルグループ・綱の手引き坂46は独立騒動を起こし、プロデューサー冬元は彼女達を追放。「TO-NA」に改名し、墨田区で地域密着型アイドルとして再出発した。新プロデューサー・大久保、特別アンバサダー・渡辺タテルが表立って運営をしている。
冬元は暴露系インフルエンサー集団「GARASO」を編成し、TO-NAの活動を邪魔しようとする。一方冬元と共に綱の手引き坂追放を煽っていた檜坂46(実質的)プロデューサーのカケルは、突如TO-NAを救う方向に寝返る。
さらに惜しまれつつ解散した国民的アイドルグループ「MAPS」のメンバー(風間・朝倉・村上・中村・神山)が再集結を画策し、その過程でTO-NAに接近していた。
人気を取り戻しつつあったTO-NAは八広野球場で野外ライヴを開催。しかし突如照明機材が落下し、タテルの頭部を直撃した。

*この物語はフィクションです。食レポ店レポを除き、実在の人物・組織とは一切関係ございません。

  

騒然とするライヴ会場。タテルは頭から血を流して倒れており、意識を失っていた。この状態でライヴを続けられる訳は無く、3曲目の途中で無念の中止となった。
「タテルさん…タテルさん!起きてくださいよ!」
「ベリナ、あまり揺さぶらないであげて」
「私を庇ったばかりに…私が当たれば良かったんだ!」
「自分を責めないで!起きたことはしょうがないって!」
「…」

  

タテルはすぐ墨田区内の病院に搬送された。重度の脳挫傷と診断され開頭手術が行われる。タテルの両親と大久保に、医師が容態を説明する。
「現時点で命は繋ぎましたが、予断を許さない状況です。このまま意識が戻らない、戻ったとしても記憶が飛んでいる可能性があります」
「そんな…」
「脳は未知の部分が多いので断言はできません。最悪の場合は覚悟しておいてください」
「俺、メンバーのみんなに状況報告してきます。また戻ってきますね」
「大久保さん、無理なさらないでください」
「メンバーの皆さんのケアをしてあげてください」
「わかりました…」

  

TO-NAハウスに戻ったメンバーとスタッフは大半が憔悴しきっており、タテルに庇われたベリナに至っては部屋に閉じこもってしまった。大久保が現状を説明する。
「今のところ処置は済んで死は免れた。ただ意識が戻ってない」
「そんな…」
「このまま意識が戻らない可能性もある。意識が戻っても、みんなのことを忘れている可能性もある」
「嘘でしょ…嘘だと言ってよ!」
「まだわかんないって。無事を祈るしかないよ」
「とりあえず私は病院に行く」キャプテンのグミが声を上げる。「タテルくんの傍にいてあげたい」
「やめとけ。今日のところは休んだ方が良い」
「嫌です。ここにいても心配で眠れないです」
「病院に行っても心配が消える訳じゃ無い。ライヴで体力消耗してるだろうから今日は寝ろ、明日になったら行こう」
「大丈夫かな…」

  

翌朝になっても意識不明のタテル。大挙して行くのは迷惑になるということから、メンバーは代わる代わる見舞いに行くことにした。最初にグミとカコニが病院に行くと、タテルの両親が未だタテルの傍にいた。
「夜通し立ち会っていたんですか?」
「ええ、心配すぎて離れられません」
「ごめんなさい、こんなことになってしまって…」
「そんな謝らないでくださいよ」
「もっと早く機材の異変に気付けていたら…」
「タラレバ語られても困ります。今はとにかくタテルの回復を祈ってあげてください」

  

するとタテルの父がタテルの人となりを語り始めた。

  

タテルは1人でいるのが大好きな人だった。内気で友達付き合いも悪くて、人のために何かしようという気が無い人だった。そんなタテルが、綱の手引き坂の皆さんのために自分を犠牲にするようになった。プライベートの時間を綱の手引き坂のために捧げ、家にいてもいつも皆さんのこと考えていた。それだけタテルにとって、綱の手引き坂、そしてTO-NAは大事な存在なんだ

  

涙を啜るグミとカコニ。
「タテルさん…絶対帰ってきてくださいよ!ここで終わりなんて悲しいですよ!」
「そうだよタテルくん。みんな待ってるよ、早く目を覚まして!」
「こんなに愛されて幸せ者だよ、タテルは…」

  

一方TO-NAハウスで待っているメンバーの元へ、村上と神山、そして風間が訪れる。
「風間さんまで来て下さって、ありがとうございます…」
「TO-NAのことは色々聞いてるよ。せっかくの復活ライヴがあんなことになってしまって残念だね」
「苦難が絶えないです…」
「タテルくん、あれからどうなった?」
「今も意識不明で…」

  

涙で言葉に詰まるメンバーのシホ。
「つらいよね。あれだけみんなのこと大切にしていた人だから」
「タテルくんって誰だっけ?」
「そっか、リーダーは知らないか。このグループのマネジャーみたいな立ち位置で、メンバー一人一人のことをよく見ている人」
「へぇ〜、そりゃ心配になるね」
「俺もライヴ前日一緒に食事してさ、すごい熱い話したんだよね。MAPSが復活したらみんなをMAPS×MAPSに出して、MAPSと人狼をやらせてあげたい、なんて話した」
「MAPSさんと人狼なんて、夢みたいなことを…」
「タテルくんはみんなの気持ちを本当に理解してると思う。タテルくん真っ直ぐな目で俺に語ってくれたんだ、自分にとってTO-NAのみんなは生きる希望だって」

  

涙を啜るメンバー達。
「そうなんだ、タテルくんはみんなの、みんなはタテルくんの精神的支柱なんですね。欠けてはいけないピースの1つという訳だ、そりゃ悲しいよな…」
言葉を発せないメンバーを見かねて口を開いた風間。悲しみで言葉を発せない人たちに対し、どこか他人事のような、でも優しい口調で状況をなぞる。この喋りに人は安心を覚えるのである。
「タテルくん、戻ってくるといいね。俺も祈ってるから、みんなはできることやろう」
「はい!」

  

TO-NAハウスを後にする風間の元へ電話がかかってきた。相手は古巣ジャネーノの後継会社、スカッとエンターテイメントの副社長・黒羽根であった。
「おい、何勝手なこと企んでいるんだ!」
「恐れ入りますが、何の話ですか?」
「とぼけるな!MAPS再結成の話だよ!」
「それがどうしました?」
「わからん奴やな!再結成なんて認めねぇよ!」
「あなたには関係ない話では?」
「関係ありありや!スカッとの運営に影響出るんだよ!」
「でもMAPS再結成はみんなが望んでいることなんです。止めるわけにはいきませんね」
「俺が望んでないことだ。もし再結成しても、圧力で表には出させないからな」
「全然変わってないんですね。何のためにジャネーノからスカッとに社名変えたのか」
「うるせぇ、黙れ!」
「黙るのはあなたでしょう。負けませんからね。さようなら!」

  

村上と神山も険しい表情をする。そもそもMAPS再結成の話はどこにも漏れていなかったはずである。タテル・TO-NAメンバーなどには伝えられていたが内密にするよう言われていて、身内含め誰にも言いふらしていない。そう、あの男を除いて、は。
「あもしもし、stupid CLASHさんですか?暴露系インフルエンサーの関口メンツユーと申します」
「メンツユーさん、見てますよ極悪集団TO-NAの暴露。おかげでコタツ記事を書く筆が進む進む」
「たまには足で稼いでくださいよ。今日はTO-NAじゃないんですけど、とんでもない秘密とっ捕まえてきました。驚かないでください、MAPSが再結成するんです」
「え、あのMAPSが⁈」
「信じられないと思いますので、後で録音ファイル送ります。その後の料理は皆さんにお任せします」
「それはスクープですね。ありがとうございます!」

  

stupid CLASHはネットメディアの中でも悪名高い存在。録音ファイルには「事務所が決まってから公式発表をしよう。圧力かけられて再結成阻まれたら嫌だ」というメンバーの声が入っていたが、目先のインプレ稼ぎに目が眩み、メンバーの意に反して記事を出してしまった。それが即座にスカッとエンターテイメント社員の目に留まり黒羽根に伝えられたのである。

  

「やっぱり漏れてしまったか。ここまで来たのに…」
「おかしいよ、この国の芸能界!何でこんな色々気を遣わなきゃならないんだ!」
「俺たちは負けない。ファンのためにもTO-NAのためにも、ここで終わるわけにはいかない」

  

翌日になってもタテルの意識は戻らない。心配するTO-NAの面々であったが、この日はトモキのダンスレッスンの日である。5日後に因縁のソラマチ4階でミニライヴをやるというのに、メンバーには覇気が無く、ベリナに至っては依然部屋から出てこない。
「おい、一昨日までの熱意はどこいった」
「体も心も限界なんですみんな…」
「お前ら最低だな」
「えっ…」
「全館に流せる放送設備ある?部屋に篭ってるベリナにも聴かせてやりてぇ」

  

あのな、スタッフが命の危機にあるとかいう事情、客には関係無いんだよ。客は常に全力のパフォーマンスをお前らに求めてるんだよ。わかる?Show must go onなんだよ!
俺だって悔しいよ、タテルくんがあんなことなって。でもあれは事故だ。誰のせいとか無いだろ。本当にタテルくんのことを思うなら、パフォーマンスを磨いて、成長した状態で出迎えてやれよ。それがお前らの一番やるべきことだろ!

  

トモキによる熱々の演説はメンバーを奮起させ、ベリナも部屋から出てきた。
「ベリナ…良かった出てきてくれて!」
「このままどっか行っちゃうんじゃないかと思った」
「トモキ先生、私勘違いしてました。自分のせいでタテルさんが、なんて思ってましたけど、それで状況が良くなるわけじゃないですよね。タテルさんに生かされた命ですもん、精一杯生きてやります!」
「そうこなくちゃ。さ、熱い熱い練習するぞ!」
「はい!」

  

次の日になってもタテルの意識は回復しない。するとTO-NAハウスを、朝倉が差し入れを持って訪れた。
「えっ、朝倉さん⁈」
「かっこいい…」
「君たちがTO-NAか。言問団子買ってきた。硬くなる前に食べよう」

  

長命寺桜もちから道1本隔てた先、王さん球場の隣にある言問団子。墨田区に越してきてから、長命寺桜もち・志”満ん草餅と並んでTO-NAの定番おやつとなっていて、朝野球ついでに団子とお茶でいっぷくするのが好きなんだと云う。
「言問団子の店員さんはみんなお優しい方々で、私たちが四面楚歌の状況だった時も応援してくれたんです」
「それは嬉しいね。不当に叩かれてたもんねみんな」
「わかってくれます?」
「勿論だよ。ずっとおかしいと思ってたから」

  

早速3色の団子から戴く。白餡は奥に塩気を感じる穏やかな甘さから、段々と豆らしい味へ移ろう。
茶色の団子は、表面が綺麗に均された小豆餡。小豆の味を強く感じる王道のあん団子である。
黄色の団子は中に味噌餡を含んでいる。外の餅が厚めで餅感抜群。見た目が鮮やかな黄色であるためか、パイナップル味に錯覚する。
「美味いね言問団子」
「ですよね」
「え何、団子?」突如現れた中村。
「中村さん⁈突然すぎますって」
「いいじゃん、うちら友だちでしょ。あ、朝倉くん久しぶり」
「お前相変わらずフランクだな。まそこが中村らしくていいんだろうけど」
「さっきタテルくんの見舞い行ってきた」
「行ってきたのかよ。すごいな行動力」
「トモダチナラアタリマエ、でしょ。あそうだ、タテルくんの両親からノート預かってた。TO-NAのみんなに見てほしい、って」
「見てみますかね」

  

TO-NAは大人数のグループである。だからグループの名前は知ってもらえても、一人ひとりの名前はなかなか覚えてくれない。グループとしてのカラーの中に、沢山の個性的な色があること、誰も知ろうとしてくれない。それが歯痒くて仕方ない。今ここに、その色を書き連ねてみる。

  

シホは青。クールな美貌とは裏腹にアホみたいな喋り方で小学生男児みたいなことを言う剽軽さ。こんな面白い子が何故レギュラー番組を持っていないのだろう。

  

グミは空色と紫。メンバーに笑いを提供しつつも、締めるところをしっかり締めるキャプテンの鑑。抜群のスタイルから繰り出されるダンスのしなやかさといったら。

  

ミレイは黄色。天然でちょっと酔っ払いっぽいところが愉快な子。その朗らかな雰囲気で、特に地方出身メンバーを我が子のように包み込む。

  

マナは桃色と白。私生活が垣間見えない、グループで一番ミステリアスな存在。英語が堪能だから、海外のファンを繋ぐ架け橋になってくれるだろう。

  

アヤは薄紅色と薄水色。美を追求しなくなったら終わり、と言い切ってしまう美容番長。メンバーみんなのことをお洒落にしてくれる頼れるお姉さん。

  

メイは桜色。泣き虫の5歳児だったけど、身体能力の高さと後輩への羽振りの良さでどんどん男前になっている。いつかSASIKOを完全制覇すると信じている。

  

ミクは水色と向日葵色。美的センスに長けていて、エモーショナルなアートを創り出す。TO-NAの美の源である。

  

ヒナは菜の花色と梅色。よくわからないこと沢山言うしヘラヘラしているようだけど、どこか筋が通っている。見る者に癒しを与えてくれる、この透明感を守っていく使命が、俺にはある。

   

ナオは藤色と白。控えめだけど王道の美しさ。優しいムードで傷を負った現代の戦士を癒してくれる。内向的なナオが笑顔でいてくれるだけで俺は嬉しくなる。

  

スズカは菖蒲色。お調子者に思えるけど、誰よりも真面目で努力家。負け顔のイメージが強いけど、歌をはじめとしたセンスの良さに気付いてもらいたい。

  

ニュウは人参色。底抜けの明るさで見る人を皆元気にしてしまう。こんなに優しい子なのに、格闘ゲームが上手すぎるというギャップ。

  

ヒヨリはオレンジとホワイト。やる気無さそうに見えるけど、その脱力感がヒヨリの魅力だ。マイペースでいこう。でもパフォーマンスは熱意込めて。

  

コノは若竹色と桜色。放送作家に弟子入りし、TO-NAのブレーンとしてファンの皆に楽しんでもらえる企画を考える。ラジオスターへの道をまた歩んでほしい。

  

ナノはピーコックブルーとロッソ。独特だけど優しい世界観にハマる人続出。ソーシャルマナーを心得た育ちの良さから放たれるイノヴェーティヴな笑い。

  

カコニはヘリオトロープとマラカイトグリーン。背が高くて存在感があるから、モデルとしても絶対大成する。他のメンバーに隠れてはいるけど、歌唱力と運動能力の高さ、活かしてやりたいと思ってる。

  

マリモはタンジェリンオレンジとコバルトブルー。お嬢様なのに倹約家だし、掘れば掘るほど出てくるぶっ飛びエピソード。お昼の帯バラエティ番組でMCを務める未来が見えている。

  

パルはジョンブリアンとジャスパーグリーン。野球少女で芯の強さがありつつ、大家族の末っ子らしく赤ん坊のように甘えるという落差。先輩後輩分け隔て無く接するコミュ力に感心する。

  

タマキはジャイアンオレンジと静香桜。TO-NAの伝統を受け継ぐ野球大好き少女。他のメンバーにちょっかい出し過ぎないようにね。いや、やっぱもっとやれ。

  

524は紫紺と鉄紺。港町神戸が生んだクールビューティー。まだちょっとぎこちなさがあるけど、磨き抜けばTO-NAの強力な武器となり得る。

  

リオはマンダリンとエメラルド。チアガール仕込みのエネルギーに満ちた元気っ子。持ち前のハングリー精神で積極的に前に出てほしい、あでも少しだけ謙遜はしてね。

  

陽子は橙と紅。その名の通り太陽のように明るくファンを照らしてくれる。ちょっと無理してる感があるかな。鬱になりそうな時は気張らず甘えてほしい。

  

キラリンは紅葉色とレモン色。顔を思いっきり噛まれてもなお尽きることの無い犬への愛。ゴリッゴリの広島弁でいっぱいボケをかましてほしい。

  

ヒラホはマリンブルーとサニーオレンジ。パルと並び鳥取を代表するアイドル。「平砲」は観る者をずっきゅんばっきゅん恋に落とす無敵の武器。

  

クラゲは日本海の青と月の黄色。読書で磨かれた美意識を活かしたパフォーマンス。芸能界の荒波も、クラゲのように軽やかに鮮やかに乗り越えていけるだろう。

  

カホリンは瑠璃色と撫子色。雪国の小動物のように色白で可愛らしく、でも凛とした歌声。そして寝るのが大好きなのんびり屋さん。見るとほんわかする。

  

レジェは菫色と薔薇色。賛否あるかもだけど、魔性のぶりっ子にはいつも蕩けさせられる。一方でハマの番長の顔も持つ、この二面性が興味深くて頭から離れない。

  

ハルハルは南国にある浜の白と海のエメラルド。一般社会にいたら不安になるくらいの天然だけど、ここだったらいくらでも笑ってあげられる。良い居場所を見つけたね、のびのびと活動してくれ。

  

ベリナは紫と桃色。コード・ブルーが始まり、ザ・ばんちがM-1決勝でスベッた頃は未だ生まれて無かった。ワルイコ要素を孕んだあざとさが見え始めていて成長が楽しみだ。

  

これらの個性豊かなメンバーが一丸になった時、一見真っ黒にみえるキャンバスの中に多くの色が輝く。黒へ引き込もうとする波の中で個性を光らせようと踏ん張る、その姿はとても美しくて、見ると自然と「頑張れ」と言いたくなるものである。TO-NAを黒としか見れない人が多い中、いろいろな色を見出せた俺はなんて幸せなのだろう。この幸せを、もっと多くの人に共有したいと思う今日この頃。

  

最中を頬張りながら涙するメンバー達。
「タテルくん、いつものように最中食べようよ。皮が香ばしくて美味しいよ。大きくて元気が出るよ。可愛いよ」
「いつまで寝てるんですか。あなたの大好きなみんながここにいるんですよ!」
「帰ってくる場所はここですよ!あの世になんて逝かせませんからね!」

  

「TO-NAのみんなは本当に幸せだね。令和らしく多様性があって、関わる人みんな優しくて」
「パフォーマンス観たいな。次のライヴはいつなの?」
「日曜にソラマチの広場でミニライヴします」
「ちょうど5人で集まる日じゃん。ライヴ何時から?」
「11時からです」
「昼飯前のちょうど良い時間だ。行くよ」
「ホントですか⁈」
「楽しみにしてるよ。しっかり練習してな、タテルくんのためにもな」
「ありがとうございます!」

  

TO-NAハウスを後にする朝倉と中村。MAPS解散時にあった蟠りは嘘のように消えていた。
「中村、すごかったよなあのノート。メンバーのことが一読しただけでよくわかる」
「ね。メンバーへの愛が伝わってきた。タテルくんは命をかけてでもみんなのこと、守りたかったんだろうな」
「タテルくんの想い、無下にしたくないね。そのためには俺らも一つにならなきゃだ」
「圧力に負けてはいられない」

  

その頃、檜坂プロデューサーのカケルも動きを見せていた。カケルも八広ライヴの事故当時現場に居合わせていたが、機材の落下が本当に偶然に因るものなのか訝しんでいた。というのも警察並の権限を持ち合わせていたカケルは現場検証を行っていて、機材を繋ぎ止めていたネジに違和感を抱いていた。何気なくYouTubeを観ていた時、八広を舞台にした街ブラ動画を見つけた。
「ふるはたチャンネル?まさかとは思うが観てみるか」

  

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