連続百名店小説『独立戦争・下』第7話「We are TO-NA!」(スパイスカフェ/押上)

人気に翳りが見えていた女性アイドルグループ・綱の手引き坂46。色々あってプロデューサー冬元の手から独立することになり、怒った冬元は彼女達を都心から締め出した。グループ名「TO-NA」に改名し流れ着いた先は墨田区。新プロデューサー・大久保、特別アンバサダー・渡辺タテルのサポートを受けながら、「地域密着型アイドル」として活動を始めた。
冬元は暴露系インフルエンサー集団「GARASO」を編成し、TO-NAの活動を邪魔しようとする。一方冬元と共に綱の手引き坂追放を煽っていた檜坂46(実質的)プロデューサーのカケルは、突如TO-NAを救う方向に寝返る。

*この物語はフィクションです。食レポ店レポを除き、実在の人物・組織とは一切関係ございません。もちろん誰かを批判している訳でもありません。

  

大久保・タテル含め4人だけで回していたTO-NAも、新たなスタッフを10名採用し、活動もより精力的に行えるようになった。一方の冬元サイドは相変わらずTO-NAがライヴで行く先々に、その付近の商業施設に自身プロデュースのグループを送り込んでTO-NAから客を奪おうとするが、そもそもそのグループ自体が人気ある訳では無く、結果作戦は形骸化していた。

  

「関口、TO-NAスタッフ面接、どうだった?」
「大変でしたよ、TO-NAに対する愛を語るの。大嫌いなのに、あるわけないですよ」
「ご苦労だったね。で、結果は?」
「受かりました!」
「お、それは良かった!」
「これでTO-NAの内部情報を知ることができますね。後はどこで裏切りをかますかですよ」
「そこは慎重に、だね。俺が時期を見計らうから、関口は嫌かもしれんが頑張ってスタッフ業やってくれ。くれぐれもTO-NAのこと、好きにならないようにな」
「大丈夫ですよ、自分を見失ったら終わりですから」

  

「聞いてくれみんな、久しぶりに本格的なライヴができるぞ!しかも球場で野外ライヴだ!」
「ついにライヴができる!」
「嬉しくて涙出ちゃうね」
「腐らずやってきて良かった!着実に坂を登り始めている」

  

しかしそう簡単に元通りとはいかない。ライヴ会場となる球場を現地視察して、何も言えなくなるメンバー達。
「タテルさん、ここが球場ですか…?」
「少年野球で使うような河川敷の球場じゃないですか」
「贅沢言うな。やらせてもらえるだけ感謝だよ」
「音響とか照明とかは?」
「多少は東武さんが援助してくれると思う」
「…」
「まあ久しぶりのライヴなんだから一生懸命やろう。ここで手を抜くと茨の道を戻ることになるからな。あそうだ、歌とダンスの先生来てくれるよ、明日から」
「本当ですか⁈」
「成長のチャンス!楽しみです」

  

翌日、まずはダンスの先生が登場した。
「みんな〜、ともきおにいさんだよ〜!きょうはいっぱいおどろうね!じゃあさっそくダンスをみせてもらおう」

  

まるでおかあさんといっしょのように緩く入ってきたともきおにいさんだが、ダンスを見た途端、顔が鬼の形相になる。何を隠そう彼は世界一のダンサー・トモキであり、練習への姿勢に甘さが見られる者に対しては容赦無い鬼トレーナーである。
「君たちさ、どういう想いで踊ってるのかな?」
「人を楽しませたいと思って…」
「これで楽しんでもらえると思う?」
「…」
「君たちのパフォーマンスからは何も伝わって来ない。熱意というものが全然感じられない」
「…」
「何か言おうぜ。自信ないのかお前ら」
「今までたくさん練習してきて、それが否定されたのがつらくて…」
「自己満でしか無かったということだ。いいか、お前らはまだ恵まれてる方だ。世の中にはお前らよりもっと素質があるにも関わらず日の目を見ない奴らがいるわけよ。踊りたくても踊れず、日々を生きるために働かなければならない人もいるわけよ。それでもお前らは、ダンスに打ち込めるこの環境を不遇と嘆くわけ⁈甘ったれるな!」

  

あまりの緊張感に、メンバーだけでなく練習を見守るスタッフ達まで涙目になっていた。
「そのパフォーマンスで何を伝えたいんだ?そのためにはどういう動きをすれば良い?しっかり考えてやってもらわないと観れたもんじゃない。今日はもう結構です。3日後また来るけど、変わってないようだったらもう知らない」

  

自分達の至らない点を指摘され、茫然自失するメンバー達。実力勝負を選んだ者に待ち受ける道は、生半可な気持ちで歩めるものでは無い。曲への理解、練習量、そして覚悟。全てが一流エンタメの求める水準に達していなかった。

  

トモキに挨拶して戻って来たタテルがメンバーに歩み寄る。
「泣きたい気持ちはよくわかる。俺だって泣きたいよ、こんなに魅力的なみんながコテンパンにされて。でもな、本当はこれくらいやんなきゃいけなかったんだ。悔しいと思うけど受け入れてほしい」
「タテルさん、これが本当に私たちの歩むべき道なんですか⁈」
「そうだな…」
「答えてくださいよ!」

  

タテルは迷っていた。たしかに実力勝負ならこれくらいキツいことを言われないと確実に負ける。だがTO-NAの持ち味はハッピーオーラであり、適度な緩さが無いとそれを体現できないのも事実である。MAPSを手本にするなら後者の道が正しいし、TO-NAにナメてかかる奴らを見返すなら前者が適切である。

  

「タテルくん、はっきりしないと」大久保も苦言を呈する。
「わかった。厳しい道で進んでくれ。明日は歌唱レッスンも控えてる。今日はダンスを集中的に鍛えろ。見られ方の研究、しっかり頼む」
「はい!」

  

そして翌日は歌の先生が降臨する。あのユーミンが実力を認める、芸人兼鬼ヴォイストレーナー・菅井ちゃん最恐オンリーワンである。
「久しぶりだなタテル殿」
「会えて嬉しいです。よくぞやってきてくれました」
「俺は表現者として適切か不適切かでしか人を判断しない。容赦はしないからな」
「覚悟はできてます。では早速稽古をつけてください」

  

菅井は全メンバーを集め、歌唱メンバーの選抜を行う。八広ライヴにおいて披露する曲は、(求められるかどうかわからない)アンコールを含めれば10曲。1曲につき1人または2人がヴォーカルを担当する。
「自分は絶対ヴォーカルだ、私はダンサーしか考えられない、とか思わないでくださいね。思ってもみない才能が見つかるかもしれないし、過信もあり得るからね」

  

丸1日かけて自分が参加する全ての曲を1コーラスずつ歌唱したメンバー達。審査終了後、全員が集められた場で菅井がメンバーに問いかける。
「あのさ、これが全力なの?」
「はい…」
「だとしたら一生干されたまま終わりだろうね」
「えっ…」
「明らかに手を抜いてる人いました!歌詞覚えてない人いました!それで全力なんですか!」
「…」
「審査以前の問題なんですよ!本当なら歌唱メンバー無しでいいくらい。歌はAIにでも歌わせておいてあなた達はその音源に合わせて踊れば効率的でしょう」
「それは嫌です!」キャプテングミは強気であった。
「まあ嫌でしょうね。こっちも嫌だけど一応歌唱メンバー決めました。1曲目がカホリン、2曲目がミレイとヒヨリ…」

  

機械的に読み上げていく菅井。最後まで読み上げたところで一同はざわめいた。グループ一の歌唱力を誇っていると評判のスズカが一切呼ばれなかったのである。落ち込んだスズカは1人そそくさと部屋に戻ってしまった。
「スズカさんを歌わせないってどういうことですか⁈」ハマの番長レジェが菅井に噛みつく。
「どういうこと、ってどういうことよ」
「神連チャンも果たしていて、世間でも歌上手いアイドルとして通っているスズカさんですよ。なんなら全参加曲ヴォーカル務めると思ってました」
「分かってないわね。神連チャンしてるってことは、裏を返せばピッチに気を取られすぎってことよ。心を震わせる歌ではありません」
「そんな…」
「まあでも僕に言わせてみれば団栗の背比べです。ヴォーカルに選ばれた人は何百回も泣かされると思ってくださいね。はい以上、お疲れ様でした〜」

  

菅井が去った後、メンバー達はタテルに泣き言を言う。
「やっぱり違いますよこの道。厳しすぎますって!」
「このままだとスズカが辞めちゃう!それでもいいんですか⁈」

  

タテルは返答に窮していた。妥協を許さない道を選ぶと決めたし、ついこの前指導を受けた身として菅井の厳しさも知っていた。それでも心を揺るがす苛烈な物言い。そこへ関口が唆しにかかる。
「あの人達何もわかっちゃいないっすよ。こんなことしたらTO-NAのわちゃわちゃ感が無くなっちゃう」
「そうだよな…」
「トモキ先生も菅井先生も、個性を潰しにかかっているようにしか思えない。TO-NAはTO-NAらしく歌って踊ればいいんだよ」
「一理ある。早いうちに話つけよう」

  

関口のこれは勿論心からの発言では無く、TO-NAから一流講師を引き離そうとする冬元サイドからの攻撃である。
「2人ともJ0Iや1N1のオーディションに関与した超一流講師です。TO-NAには贅沢すぎます」
「だな。TO-NAには一生学芸会レヴェルのパフォーマンスしてもらわないと」
「噂通り超厳しい指導でしたよ。こっちまで泣きべそかきそうになるくらいでした。おかげで容易く2人を手放してくれる雰囲気になりました」
「押しが肝心だ。最後まで気を抜くな」
「かしこまりました」

  

次の日、タテルは菅井を食事に誘いゆっくり話すことにした。歌唱指導の時は鬼ヴォイストレーナーであるが、普段はホスト風の芸人である。
「タテル君が選んでくれた店でランチ、楽しみだなぁ」
「結構並びますけど大丈夫ですか?」
「タテル君おすすめの店なら何時間でも並ぶさ」
「ここなんですけど…」
「ここ⁈こんな狭い垣根の間並ばせるんだ?」
「やっぱり良くないですよね、違う店にしま…」
「何を言う。ここで良いだろう」

  

よく口コミを調べると、回転は決して良い方でなく、垣根と公道の境目くらいから並び始めた場合1時間半は待つ羽目になる。前後に人はいるが、垣根に挟まれた収まりの良い場所なので話はしやすいかもしれない。
「それにしてもライヴ会場、独特だよね。やつひろだっけ?」
「やひろ、です。まあ確かにやつひろ、って読みたくなりますけど」
「あんなところに人集まるのかな?」
「何も無い街、って聞いてます。京成線の各停しか止まらない駅ですし」
「まあでもやれるだけ感謝だぜ。それにしてもメンバーの子たち良い曲作るよね。特にアンコール前ラストの曲、どっしりして迫力あるサウンドだ。あれは誰が作った?」
「あの曲作ったのはスズカですね」
「スズカなんだ。へぇ〜」
「今朝はすごく落ち込んでました。いつも朝は面白いこと言って盛り上げてくれるのに…」
「まあ悔しいだろうな、昨日の結果は。タテル君はどう思うんだ」
「俺も衝撃受けましたよ。スズカは誰よりも頑張り屋で、神連チャンのために真剣に歌い込んで」
「タテル君わかっているよな、努力の過程を見てもらおうなんて考え、プロの世界では通用しないこと」
「そう言う人いますよね…」
「何も知らない俺からしたら、前に出て歌うレヴェルではないと判断した。だがタテル君はどうなんだ」
「俺は…大好きですあの歌声」
「ならそう主張してくれよ」
「…」
「正直言ってタテル君には憮だよ。流される人じゃないと思っていたのに」
「流される人?俺がですか?」
「一度決めた道に迷いが生じている。さっきも人を長い行列に並ばせることを躊躇っただろ。そんなブレブレの姿勢じゃ、ついていく人も不安になる」
「菅井さん…」
「昨日やった俺の選抜、受け入れるかはキミシダイだ。強制はしない」
「考えさせてください」
「わかった。正直言うと、歌とダンスを厳しく鍛えるせいでギスギスしないか心配だ。それに一切バラエティをやっていないから、息抜きの場すら無い」
「バラエティやりたいんですけど、それは同時にTO-NA凋落の原因でもあって」
「俺はTO-NAの冠番組、いつも楽しく観てたんだけど。何が引っかかる?」
「メンバーだけで集まると、グダグダになりがちなんです。しまりがないというか」
「じゃあタテル君がブレーキ担当になれば良いじゃない。曲がりなりにも芸人だろ。タテル君のキレのある一言で纏まりが生まれる。今まで以上に面白い笑いができると思うのに、勿体無い」
「世間の評判、気にしすぎなのかな…」
「わかってるじゃないか。何もわかってない自称評論家、芸能人を虐めて金儲けするコタツ記事ライターの言うこと聞いていたらつまらない世の中になる。そういうのに抗ってこそプロだろ」
「そうですよね」
「よく考えろ、何が彼女達のためになるか」

  

1時間以上並んでようやく椅子が現れ、メニューが見える位置まで来た。どうせなら最初からメニューを見せてくれれば良いのに、とも思ってしまう。カレーを1種選ぶと1300円、2種選ぶと1600円、この間の差額は300円。そこからは1種増やす度に550円と差額が跳ね上がるため、店としては2種での注文を標準としているようである。

  

そこからさらに10分してやっと入店を果たす。民家の1階を丸々利用したような店で、席数は少なくないように見えるが回転が悪い。

  

タテルは1杯だけ引っかけることにし、グラスの赤ワインを注文した。酸味が最初に感じられる若々しいものであったが、段々と果実のふくよかさに包み込まれる。ちなみにビールを頼んだ人には豆菓子がついていたが、ワインにはつかなかった。そういうシステムなのか忘れられただけなのか、モヤモヤはしたが訊けないタテル。流されがちな習性は簡単には抜けない。

  

間も無くして料理がやってくる。まずはライスと色彩豊かな副菜4種が登場する。野菜はなかなか米と合いにくいのだが、どれもご飯が進む味付けで、野菜嫌いな子供でもモリモリ食べてしまえるくらいである。黄色の豆ペーストは特に滋味深く、これはこれで1種のカレーと言える。

  

「タテル君が選んだの、全部肉じゃん。欲張りだね」
「そういう菅井さんだって野菜ばっかじゃないですか。値段変わらないなら肉の方が良いっすよ」
「俺は流されないからな。食べたいものを食べる」

  

ポークビンダルは、カレーにしては珍しい黒酢の酸味とまろやかさが最初に感じられ、後からスパイスが追いかけてくる。ライスと合わせるよりかはそのまま食べた方が味を理解しやすいだろう。

  

ラムキーマは初手からラム独特の香りが押し寄せ、間も無く花椒と生姜の香りで整えてくれる中華風のカレーである。

  

ガーリックチキンはとてもわかりやすい美味しさ。チキンがどうとか、ガーリックがどうとか語るのが面倒臭くなるくらい夢中になってしまう。行列はとても長いが、その分満足度は高いカレーであった。

  

「俺、決めました。TO-NAハウスに戻ったらみんなに伝えます。そして1つだけ、菅井さんの決定を覆させてください」
「どうぞ」
「スズカが作曲したアンコール前ラストの曲だけは、スズカに歌わせてください」
「…好きにすれば良い。俺は文句言わないよ」

  

TO-NAハウスに戻り、待ち構えていた全メンバー・スタッフの前で想いをぶつけるタテル。
「まずは、導くべき我々スタッフが迷いを見せ皆を不安にさせてしまったこと、大変申し訳なく思っている。でも俺は決めた。皆には厳しい道を進んでもらいたい。菅井先生、トモキ先生の指導を受け続けてもらいたい」
「待ってくださいタテルさん!俺はやっぱり…」
「関口くん、話は最後まで聞いてほしい。厳しい道を進むのがどれだけ大変なことかは分かっている。だからその姿勢を作る必要がある。皆にはこのグループにかける『熱意』を語ってもらいたい。準備できた人から話してくれ」

  

「…はい」

  

私は小さい頃から友達の輪に入ることが苦手でした。そんな自分を変えたくて、えのき坂に入った。アイドルとして活動する私を見て、私と同じように引きこもりだった人が一歩踏み出す勇気を貰ったと聞いた。これからもそう言った境遇の人が前向きになれるよう頑張りたい。

  

自分の素を出して嫌われ、自分を隠して生きる日々。そんな時綱の手引き坂の楽曲に触れ、ここなら輝けるかもしれない、と考え思い切って応募しました。メンバーの皆さんは自分の素を受け入れてくれた。すごく嬉しかった。

  

綱の手引き坂は見る者に幸せを与えてきた。その幸せがあるからこそ、今日を明日を生きられる人がいる。その人達のことを一生幸せにする義務が、私達にはある。

  

アイドルになるという夢を叶えられないまま社会に出て、でもやっぱ諦められなくて、最後のチャンスをものにしてここに入ってきた。お荷物だったかもしれない私が輝ける場所、ようやく見つかった。

  

藤井聡太さんやAdoさんみたいに、同年代の誇りに思ってもらえるような人物になりたい。

  

TO-NAの楽曲の中には世界平和を願うものもあります。TO-NAが世界中で愛され、戦争の無い世界を実現できたらいいな、なんて思っています。

  

綱の手引き坂時代に得た信頼を、独立騒動で大きく失ってしまった。失った信頼を取り戻すことは簡単じゃないことは知っている。でもまた皆を振り向かせたい。頑張っている私達を見てもらいたい。このまま終わりたくない!

  

ここでは全て書ききれないが、最終的に全員が自分なりの「熱意」を語った。

  

「自分に向かうもの、誰かに向かうもの、色んな『熱意』がある。もし厳しい練習について来られなくなったら、今語ってくれた『熱意』を確と思い出せ。その『熱意』は自分を奮い立たせてくれる。そして『熱意』を持ったもの同士のことを『仲間』と呼ぶ。『仲間』どうしで高め合い、『仲間』が倒れた時は助け合う。それができてこそ『チーム』ができる。TO-NAは『熱意』ある『仲間』が集まった最強の『チーム』だ。まずは2週間後の八広ライヴに向かって、気合い入れていくぞ!」
「よし、じゃあ円陣組もうか!」

  

青天を衝き白雲を穿つ、仲間と共にあの頂へ!我ら世界のTO-NA!

  

「はい!」
「素晴らしい信念だ。だが練習は手加減しないからな。わかったら早速歌練やるぞ。スズカも来なさい」
「えっ⁈私、今回は歌わせてもらえ…」
「俺がお願いした。スズカ作曲の曲だけでも歌わせろって」
「良いんですか?」

  

大きく頷くメンバー達。
「スズカさんが元気になるならそれで良いです」
「TO-NAにはスズカの歌声が必要不可欠だよ」
「みんなありがとう…」
「泣いてる暇は無いぞ。上手く歌おうとするな。多少音外してでも、その曲の世界観をありありと描き出せ」
「はい!」

  

翌日のダンスレッスン。トモキは初っ端から目を見張った。
「見違えたように良くなってる。熱意に溢れてるじゃん!」
「昨日全員に、TO-NAとして活動する『熱意』を語って再確認してもらったんです」
「だからか!やっぱ熱意は明確にしないと、だよね」
「はい!」
「でも今のままでは当然世には出せません。一人ひとりの持つ『熱意』を最大限に引き出してみせるのが俺の仕事だ、ついてこい!」

  

その頃六本木の朝テレでは、MAPS元メンバー朝倉が主演ドラマを撮影していた。そこには檜坂46のmrhも出演する。この日は初めての顔合わせということで、檜坂実質プロデューサーのカケルも同席してmrhは朝倉に挨拶する。
「朝倉さんだ!本当にいらっしゃる…」
「そんな神みたいな扱いしなくていいじゃん。朝倉です、よろしくね」
「mrhです!たくさん勉強させていただきますよろしくお願いします!観てましたよガストロMAPS」
「ありがとね。もう8年前になるのか、終了してから」
「私だったら関西出身なのでお好み焼き頼むかな。ああ、またやらないのかな」
「おい待てmrh、その話はセンシティヴすぎるって!場を弁えて…」

  

朝倉はそっとグループLINEを見せてきた。そこにはMAPS元メンバー全員が入っていて、グループ名は「MAPS再結成検討会」となっていた。
「ほほほ、本当ですかこれ⁈」
「本当だ。ただくれぐれも内密にな。漏れると色々やばいことになって破談もあり得る」
「わっかりました…」

  

さらにもう一つのグループLINEを見せる朝倉。タイトルは「MAPS & TO-NA」であった。
「つつつ、TO-NAと手を組んでる…」
「村上・中村・神山がTO-NAのメンバーにばったり会って意気投合したらしい」
「すごいことになりそうだ…」

  

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