連続百名店小説『独立戦争・下』第6話「再浮上の兆し」(猫六/曳舟)

人気に翳りが見えていた女性アイドルグループ・綱の手引き坂46。色々あってプロデューサー冬元の手から独立することになり、怒った冬元は彼女達を都心から締め出した。グループ名「TO-NA」に改名し流れ着いた先は墨田区。新プロデューサー・大久保、特別アンバサダー・渡辺タテルのサポートを受けながら、「地域密着型アイドル」として活動を始めた。
冬元は暴露系インフルエンサー集団「GARASO」を編成し、TO-NAの活動を邪魔しようとする。一方冬元と共に綱の手引き坂追放を煽っていた檜坂46(実質的)プロデューサーのカケルは、突如TO-NAを救う方向に寝返る。

*この物語はフィクションです。食レポ店レポを除き、実在の人物・組織とは一切関係ございません。

  

工田に説得されたカケルは、檜坂メンバーにTO-NAを救う方向性を伝える。今まで散々綱の手引き坂を非難していたためメンバーは最初こそ驚いていたが、じきに安堵の表情へと変わっていった。
「カケルさん、やっとわかってくれたんですね」
「俺は工田さんに頼まれただけだ。それ以上の思い入れは無い」
「TO-NAのみんなは元々仲間でした。別々のグループになっても、カケルさんと出会うまでは仲良くしていて」
「そんなこと言ってもTO-NAを好きにはならない」
「でも救ってはくれるんですよね。それだけで嬉しいです」

  

一方のTO-NAは、西の女帝えり子に激怒されたナノがメンタルブレイクして部屋に籠ったままである。残りのメンバーは心配な気持ちを何とか堪えながら、幼稚園・保育園訪問や慈善活動を行う。
この頃になるとおかまたちから始まったGARASOへの抗議が世間にだいぶ浸透し、TO-NAに対して嫌悪感を抱く者も少しずつではあるが減り始めた。地域密着型の活動で着実にファンを増やしている。

  

水曜日の夕刻、タテルはマリモ・カホリン・レジェと4人で向島百花園を散策していた。入場料は150円と良心的で、キャッシュレスも満遍なく対応していて助かる。だが時期が悪かったようで、花は紫陽花が少し咲いているくらいであった。歩き回って疲れたマリモが売店の方に目を遣る。
「あ、かき氷ありますよタテルさん」
「さすがマリモ。かき氷を察知する能力はピカイチだな」
「だって最近あまり食べれてないんですもん。食べましょうよ」
「おいおいマリモ、俺達は花を見に来たんだ。あでも梅紫蘇かき氷がある。京子が美味しいって言ってた味だな、試してみるか」
「じゃあみんなで食べましょう」

  

花より団子のタテルとマリモに促され、カホリンとレジェもかき氷を注文して休むことにした。売店のおばさんが冷凍庫から氷の塊を取り出し、昔ながらの削り機で削る。ある程度削ったところで自家製紫蘇シロップをかけ、再び氷を削り、最後に紫蘇シロップおよび梅ジャムを載せて完成である。

  

「はぁ、生き返る〜」
「紫蘇が氷に溶け込んで、汗かいた体に沁みる」
「今時の削りじゃないところがまた良いですよね。風情もあって和みます」
「あ、器の底にも梅ジャムがいた。酸っぱさ控えめで心地良いね」

  

タテルは併せて甘茶を頼んでいた。アジサイに似た植物の葉を煎じたお茶で、自然由来の甘みは確かに感じられるが薬草っぽくもあり、体に良さそうな味、と言いながら顔を歪めるタテル。
「ジャスミン、藤、菫…みんな本名に花の名前入ってるよね」
「『花』という字が入るメンバーも4人いますね。TO-NAはハナのあるグループ、ですね」

  

涼む4人の近くを、男性3人組が通りかかる。国民的アイドルグループ「MAPS」の元メンバーで、現在は3人で「新たなる海図」として活動する村上、中村、神山である。MAPSは解散したが、3人は未だスター性に溢れていて人を惹きつける。
「おいレジェ、気やすくついていくなって」
「こんにちは、新たなる海図の皆さん」
「こんにちは!」
「すみません、うちのメンバーが突然話しかけて。この子すぐ人の後ついていっちゃうから、『ボケモン』ってあだ名ついてるんですよ」
「可愛らしいですね」
「それにしても国民的スターが何故こんなところに?」
「ちょっと自然に触れ合いたくて、ね」
「そうそう。今ちょうどそういうCMやってて、緑のあるところ色々回ってます」
「なるほど…今の時期、あまり花咲いてないですけどね」

  

「花だけが全てじゃないですよ」
脱力感のあるトーンで芯を食ったことを言う中村。
「木や草も面白いんです。葉っぱの色は緑って一口に言うけど、色々な緑があるでしょ」
「黄色に近いもの、青々しいもの…」
「形も様々ですよね」
「花ばかりに目が行きがちだけど、それを支える葉や茎も素敵。そういうものに趣を見出せると、幸せだなあって感じるんです」
「中村さん、テレビで観た通りの『いいひと』だ…」
「あれ、もしかして皆さんTO-NAの方々ですよね⁈」
「知って下さっているんですか⁈ありがとうございます!」
「実は僕たち、TO-NAの皆さんとやりたいことがあるんです」
「私たちと、ですか⁈烏滸がましいですよ…」
「いや、TO-NAじゃなきゃダメです。ここだとちょっと人多いんで、ご飯食べに行きましょう」
「良い居酒屋見つけたんですよ、是非!」
「でも予約の時間まで1時間以上あるな…」
「じゃあ僕たちの事務所で休んでいきます?」

  

TO-NAハウスにやってきた新たなる海図の3人。国民的スターの突然の訪問に驚くTO-NAのメンバー達だったが、失礼の無いようしっかりおもてなしをする。
「昨日はあのえり子さんも来てます」
「マジっすか⁈」
「沢山楽しんでいただきました。でも最後、ちょっとだけ怒らせてしまって…」
「それは大変でしたね」
「その子はすごく凹んじゃって、今部屋から出て来れない状況です」
「まあそういうこともありますよね。そっとしておいてあげてください」
「お気遣いいただきありがとうございます。そしたらみんな、今からパフォーマンスできる?」
「はい!」

  

えり子にも見せたオリジナル曲のパフォーマンス。かつて天下を獲ったパフォーマーである新たなる海図の3人が、ノリノリで観覧していたことはメンバーの自信に繋がる。

  

「じゃあ新たなる海図の皆さんに質問ある人挙手!」
3人の番組の人気企画に出てくる子ども記者のように質問をたくさん投げかけるTO-NAメンバー。ダンスのコツ、アイドルを志したきっかけ、今までで一番大変だった現場、大物芸能人との接し方など、今後の活動において有益になりそうな情報を積極的に聞き出した。マリモのぶっ飛びエピソードやハルハルの天然ボケ発言に、新たなる海図の3人は心の底から爆笑してくれた。
「個性的な子が多くて面白いね」
「それでいてパフォーマンスは揃っている。愛らしくてすごく良い」
「勿体無いよね、もっと多くの人に見てもらいたいよ」

  

談笑していたらあっという間に予約の時間が迫っていた。酒の場ということで、慎重を期して成人メンバーを同伴させるタテル。新たなる海図とタテル、TO-NAメンバーのスズカ・コノ・ハルハルは曳舟駅すぐそばのスパイスバル「猫六」に潜入する。

  

この店はワンドリンク制で、瓶ビールのヴァリエーションが充実している。日替わりの生ビールもあって、全員で常陸野ネストだいだいエールを注文し乾杯する。
「あ、苦味とかあまり無くて軽く飲めますね」
ビールに慣れていないTO-NAメンバーも満足げであった。ビール大好き神山はあっという間に飲み干した。

  

すぐ出る料理としてアチャール冷奴を注文。大豆の旨味が濃厚な豆腐の上には、少し歯応えのある茄子のアチャール。茄子の旨味とスパイスによる酸味がベストマッチである。薬味は茗荷・パクチーというクセ強め同士の和洋折衷。程よく味に変化をもたらしてくれる。

  

「新たなる海図の皆さんはどうしてこの店に来ようと思ったんですか?」
「前来た時美味しかったからね」
「リピーターでしたか。でもよくここ見つけましたね。テレビ局も近くに無い墨田区の下町ですよ」
「実はこの店で秘密の会合を行ったんだ。そこで話したことを皆さんにも共有したくて」

  

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会合の内容とは、単刀直入に言えば、MAPS再結成の検討である。解散から8年経っても国民からの再結成の望みは根強く、事務所のしがらみも薄くなりつつあったことから、いよいよ再結成に向けた話し合いをしようという流れになった。新たなる地図、個人事務所を立ち上げたリーダー風間が、各々のスタッフも引き連れて猫六を貸し切った。都心および世田谷などの23区西部は芸能関係者が多いため、曳舟という下町を選んだようである。

  

この時期は未だ春の盛りで、3種前菜を頼んでみると桜海老のゼッポリーネ、ホタルイカと筍のスパイス炒め、レバーのコンフィが登場した。桜海老の香ばしさ、スパイスの力も加わったホタルイカ、臭みをスパイスの香りに置き換えたレバーというトリプルパンチでビールが進んだと云う。

  

村上・中村とリーダーが会うのは久しぶりであった。
「リーダー、病気したと聞いた時はびっくりしたよ」
「なんかこのまま死ぬんじゃないかって空気感出してたからさ」
「大げさだよ〜。ちょっと疲れちゃっただけ。それより村上、俺が事務所辞める時全然リアクションしなかったよな」
「ごめんごめん、忘れてた」
「ったく。そういうとこあるよな村上」
とは言いつつ仲良く談笑する4人。これが人々を楽しませ和ませてきたMAPSの空気感である。

  

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「MAPS再結成。嬉しい限りです」
「俺達はMAPSを観て育ってきましたからね。月曜22時は必ずMAPS×MAPS。たとえ次の日が東大入試であっても欠かさず観てました」
「習慣になっていたんですね。有り難い限りです」
「私、ずっと友達と話してたんですよ。ガストロMAPSに出たら何注文しようかなって」
「あるある。私は唐揚げかな」
「私はドーナツ」
「おいハルハル、あまりデザートだけというのは聞いたことない。もっと贅沢言おうぜ、フレンチとか中華とか、あ天ぷらも捨てがたい。食材は三大珍味全部入れてほしいとか、色々あって迷っちゃうよね」
「タテルさんが一番ノリノリじゃないですか」
「ハハハ。楽しそうだね」
「それくらい身近な存在だったんです。MAPSさんがバラエティのできるアイドルという道を開拓してくれた。アイドルの可能性を広げて下さった、偉大な存在です」

  

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再結成の相談をしていた4人に、砂肝マサラがやってきた。「マサラ」というと多種多様な香辛料を混合したミックススパイスのことを指すが、この店ではそれを使った炒め物を指すようである。スパイスにより酸味を含めた深みのある味になっていて、砂肝も野菜も活き活きとしている。カレー用に発注したはずのライスが進んで進んで仕方ない。

  

「リーダーがジャネーノを辞める時、再結成の可能性が0%じゃないって言ってくれたこと、とても嬉しかった」
「たしかに言ったね。0%なんて言ったらみんな悲しむもん。待ってる人はたくさんいると思うし」
「難しいとはわかっているけど、時間も経って少しずつ可能性は出てきたと思う」
「あとは朝倉くんが認めてくれるかだな…」

  

この場にただ1人居合わせなかった元MAPSメンバーの朝倉。解散後も唯一ジャネーノに残り、他の4人とは距離を置いていた。不仲とか何かとか外野が決めつけることではないが、朝倉が首を縦に振らない可能性が高いことは明らかであった。

  

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一方初夏を迎えたこちらでは鮎のコンフィが登場。鮎の味を引き立てるためか、どちらかと言うとナッツ感や香ばしさ主体のスパイス使いである。脂がじゅわっと溢れ出し旨味もたっぷり。キウイやスイカの甘みで口の中をさっぱりさせる。

  

タテルが追加したビールは、誤解を恐れず言えば納豆のような発酵感がある。鮎の苦味が立ったところに流し込むと乙な味わいになる。

  

「見たよ君たちの生謝罪。つらかったでしょ?」
「そうですね…自分の意思とは違うことを言わされて」
「俺らも経験したからな。これからいっぱい笑顔を、とはあの時思えなかった」
「ジャネーさんに謝る機会を〜、とか言うの、良い気はしなかったよね」
「テレビで観てました。おかしな話ですよね、独立を企てたら公開謝罪しなきゃならないなんて」
「それが芸能界の不文律だからね」
「ふぶんりつ?何%ですか?」とぼけるハルハル。
「百分率とかの類じゃない。明確に書いてある訳じゃないけど守らないといけないルール、ってこと」
「そう。今でこそ少し緩和されたけど、大手事務所を独立したら圧力がかかるのはよくあることだったからね」
「でもTO-NAの場合は、ちょっとだけ自由にやりたいと言ったのが独立宣言に受け取られて生謝罪、だったもんね」
「そうなんですよ。誤解を解こうにも耳貸してもらえなくて」
「タテルくんは勇気あったと思う。言いなりにはならない、グループを守ってやろう、という強い意志を感じたよ」
「ついカッとなってしまって。でも結局状況は好転しなかった…」

  

「あれ、猫ちゃんが来た」
「本当だ、しかも三毛猫だよ」
「この前は出て来なかったのに。知らなかった、猫いるなんて」
猫好きの村上は猫を撫で撫でする。どうやら看板猫らしく、人馴れしていて簡単には逃げない。ただタテルの顔を見るとそそくさとバックヤードに戻っていってしまった。
「私たちも触りたかった!」
「タテルさん、余計なことしないでください!」
「そんなに俺の顔怖いのかな。ばあちゃん家の猫が俺の顔見ておもらししたことあるけど」
「やっぱ怖いんですよ。新たなる海図の皆さん聞いてください、事務所でのタテルさんすごい厳しいんですよ」
「へぇ、タテルくん厳しいんだ」
「まあ偶に、ですよ。ケアはしてあげているつもりなんですけどね」
「猫に逃げられるくらいだからやっぱ怖いんですよ」
「険しい顔を見せない方が良いのかもね。色々事情はあると思うけど、タテルくんはメンバーに優しくしてあげる方が性に合っているんじゃないかな」
「そうなんですかね…」
「まあそこはじっくり考えよう。そろそろカレーが来るぞ!」

  

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カレーのラインナップは2,3種類ほどで、日によって様々である。4人での会合時は春らしくキャベツとしらすの入ったキーマカレーを選択した。肉・キャベツ・しらすの味がそれぞれ立っていて、カレーというよりかはおかずとして、白飯と共に食べたい一品である。

  

「再結成したらまず何しようか?踊れるかな俺ら」
「いきなりは厳しいかも。神山くん大きくなっちゃったし」
「大丈夫。歌と踊りは続けてるから」
「アーティストとのコラボもやりたいね。青林檎夫人とか古い日記のオマージュとか」
「IMC48はどうしてるのかな。よく共演したけど」
「今は坂の方が強いみたい。希典坂、檜坂、そして…」

  

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この日はポークとチキンというオーソドックスな取り揃え。ポークは甘味旨味に加え酸味もよく活きていて複雑で深い味わい。赤身脂身のバランスが良い肉が柔らかく煮込まれていて、ご飯が進むこと限りなしである。

  

チキンの方はココナッツの滑らかさが加わったルー。肉質に特筆すべき点は無いが、旨味が甘めのルーに溶け出していてやはりご飯が進む。両方ともハーフサイズで頼んだが、あまりにも美味しくて、神山が頼んでいたようにカレーをレギュラーサイズ、ライスを大盛りにすれば良かったと後悔するタテル。

  

「で今日一番言いたかったことなんですけど、MAPSが再結成したらTO-NAとコラボしたいな、って強く思ってます」
「本当ですか⁈」
「夢みたい…」感涙するTO-NAメンバー。
「烏滸がましいこと言いますけど、綱の手引き坂はいずれMAPSさんみたいな国民的グループになれると思っていたんです。パフォーマンスに磨きをかけつつバラエティにも全力。個性豊かで優しい人達の集まりで、皆に愛される自信があった、3年前までは。だんだんメンバー各々の方向性がズレてきて、グループとしての魅力は無くなってしまった。国民的名曲も得られず、冠番組も内輪ノリしかやらせてくれない。その状況を変えたくて独立したら茨の道が待っていた。でもそれを乗り越えた先で、MAPSのメンバーさんに出逢えた。大きな一歩になるのは間違いないと思います」
「TO-NAのみんなとなら楽しいこといっぱいできそうだよ」
「出逢えて良かった。ここは一つ手を組もう」
「ぜひぜひ、よろしくお願いします!」
「アート自慢の子っている?」
「ミクちゃんオススメです!現役日藝生です」
「いいねぇ、一緒に何か創りたい」
「演技上手い子は?」
「ミレイさんですね。普段は天然なんですけど、芝居のスイッチが入るとキリッとするんです」
「ドラマやりたいね。22時台とか」

  

酸味とレーズンのような味わいのあるビールを飲んでいたタテル。
「甘口ワイン感覚で飲めますねこれ。村上さんにピッタリかもしれません。ちょっと飲んでみます?」
「じゃあ少し。…美味しいこれ。葡萄は使ってないのかな?」
「使ってないみたいですね」
「これ僕も貰おう。おつまみでマサラナッツ追加する」

  

スパイスが上品に香るミックスナッツを嗜む村上とタテル。
「ワイン好きなんだ」
「全然詳しくはないんですけどね」
「今度家来る?良いやついっぱいあるから飲みましょう」
「行きたいです!」
「メンバーも連れて来てさ。お酒好きな子いるかな?」
「沢山飲むのはカコニちゃんとかですね」
「面白い名前だね。気になるなぁ」

  

会計は最年長の村上が全部支払った。新たなる地図とTO-NAのLINEグループを作成し、いつでも連絡がとれる状態にした。
「そのうちリーダーも入ってくると思うから。朝倉くんと連絡取れたらまた報告するね」
「はい!」
「俺たちの番組にも来てね。子ども記者たくさん集めておくから」
「JBCの『あつまれイイコ』ですね」
「でも渋谷区が封じられていて…」
「いや、あつまれイイコはTMCで収録してるよね」
「砧だから世田谷区だ!俺らが仕事できないのは千代田区・中央区・港区・文京区・新宿区・渋谷区だから…世田谷は入ってない!
「抜け穴発見だね。じゃあスケジュール調整しとくよ」
「めっちゃ楽しみだ…」

  

新たなる地図という強力な味方を獲得したTO-NA。加えて一度激怒されたえり子についても、土曜日になってビッグニュースが飛び込んだ。
「タテルさん見てください、えり子さんが今日放送のヌカズケでTO-NAに公開謝罪したそうです」

  

TO-NAのみんな、とても良い子達やった。メディアの噂なんて全部嘘や。なのにちょっとおとなげないことしてしもうたと後悔してんねん。ナノちゃんタテルくんのこと、傷つけてしもうていたら大変申し訳ない。私で良ければ今後もTO-NAのこと応援します。また事務所に伺いますわ、その時は堅苦しく出迎えんと、友達のように接してください。

  

この言葉を聞いたナノはメンブレから復活した。
「えり子さん、やっぱり貴女は懐の深い方です」
「えり子さんの影響力は計り知れないからね、これで風向き変わること間違いなしだ」
「漸くTO-NAが人気を取り戻せる。いや、今まで以上の人気アイドルになれる!」

  

その期待通り、ヌカズケ放送直後からTO-NAスタッフへの志願者が急増する。人手不足に悩んでいたスタッフが、逆に人を選ぶ必要に駆られる。

  

その頃GARASOの面々は焦りを隠せないでいた。えり子が正式にTO-NAをサポートする姿勢を表明し、TO-NAを潰すという目標が一気に遠ざかりそうであったからだ。
「冬元先生、TO-NAの逆襲が始まりそうです。こうなったらもう力ずくで潰すしかないと思うのですが」
「そうだな。だが君たちが捕まってしまったら元も子もない」
「今TO-NAではスタッフを募集しているようです。これからグループが大きくなりそうだからと、取らぬ狸の皮算用みたいなことほざいてますよ」
「タテルと対面したことない者はいるか」
「タテルらを追い払った時、関口は外出してました」
「よし、じゃあ関口が面接受けてこい」
「わかりました」

  

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