かつてほどの人気を失いつつある女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」。その特別アンバサダーを務める渡辺タテルは、メンバーの自主性を認めるようプロデューサーの冬元に要請しようとしたが、弟でライバルグループ「檜坂46」を支配するカケルの手により「冬元の手から完全に離れる」と捻じ曲げられて伝えられ、独立騒動に発展した。結局独立を余儀なくされる雰囲気になったのだが、納得しないメンバーもいて綱の手引き坂は分裂の危機に瀕していた。
*この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。実在の人物・団体とは一切関係ありません。大事なことなので2回言いました。実在の人物・団体とは一切関係ありません。不安になったのでもう1回言いました。
翌日、タテルは謹慎中のグミとコノを除く先輩メンバー全員を召集し、独立する方針を打ち明けた。冬元への不信感、グミとコノを戻したい、鳥籠の中で終わりを迎えて欲しくないという想いを確と伝え、何とか全員を納得させることに成功した。
「後は4期だな。ここが一番根深い」
「タテルさん、トルコ料理食べに行った時私たちに言ってくれたこと、覚えていますか?」
「何だっけ…」
「美味しい料理は不安な心を癒してくれる、です」
「そんなこと言ったっけ?」
「まったく…私が言いたいのは、4期生みんな集めて食事会開いたらどうか、ということです」
「いいねそれ。いくらいがみ合っていても、美味しい料理の前では笑顔になれるんだった」
「そうですよ。どこか良い店ないですか?」
「麻布で大人数OKで一流店といえば、芸能人御用達の中華、富麗華だな。丁度良かった、個室を予約してあったんだ」
「準備良いですね」
「たまたまだよ。人気店だから1ヶ月前には予約しておくのが安全なんだ。1週間前でもタイミング合えば取れるらしいけど」
「へぇ〜、私たちも行きたいですね」
「みんな入れるよ」
「ウソ⁈」
「一番大きい宴会場を予約した。その代わり、目一杯楽しんでくれよな」
「はい!」
そしてタテルは、謹慎中のコノとグミに電話をする。
「コノ、調子はどうだ?」
「虚しいです… 夢だった生ラジオのパーソナリティ、漸くできると思ったらこれですよ。何で放送禁止用語を言ってしまったんだろう…」
電話口からは明らかに泣いている様子が伝わる。
「何も悪いことしてないじゃないか。あれは言わされたんだ。松本明子事件から何も学んでない芸能界の方がおかしいよ」
「…」
「コノにはこのまま終わって欲しくない。だが何もしなければ干されたままだろう。だから今みんなで、やっぱり独立しようという考えになった」
「独立、ですか…」
独立の訳を話すと、コノは納得してくれた。そして食事会にも連れ出すことに成功した。
「グミ、あなたのキャプテンシーが必要だ。あなたがいなくなってから綱の手引き坂はめちゃくちゃになってしまった」
「どういうことよ⁈」
「独立を望むメンバーが出てきて、現状維持を望むメンバーが怒った」
「独立⁈」
「実を言うと俺も独立した方が良いと思ってる…」
理由を話すタテルだが、グミは答えに窮した。
「私のためを思ってくれてるのはありがたい。でも簡単に独立なんて決められないよ」
「わかった。じゃあ今度の木曜19時にメンバーみんなで食事会やるから、その時までに決めて」
「食事会?…私もう外に出るのすら嫌になっちゃってさ」
「そうか…無理にとは言わない。結論だけ教えてくれればいいから」
「ごめんね、こんな私で…」
「謝らないでよ。むしろ俺が悪いんだって」
そして運命の木曜夜。先輩メンバーは初めての一流中華に心を弾ませていた。そこへコノが合流する。
「コノちゃん!」
「みんな…」案の定涙するコノ。
「会いたかったよ!」
「髪伸びちゃって。ずっと家にいたの?」
「そう。一歩でも外出たら叩かれるだろうと思って」
「寂しかったよね…」
抱きしめてあげるスズカ。一方で4期生はそれに目もくれず、解散前のMAPSのように死んだ表情をしていた。
*このあと大宴会の描写となりますが、実際は筆者おひとりさまで訪ねております。宴会の立ち回りについては私は「電話じゃないと予約できない」こと以外存じ上げないので店に問い合わせてください。ちなみにコースは2名〜となっていますが、北京ダックを2人分(2本)食べられるのであれば1750円を追加で払い1人でもコースを注文できるそうです。
飲み物はワイン・紹興酒はボトルが中心で、それ以外は数種類のグラスワインとハードリカー、日本酒や果実酒と浅く広くのラインナップ。タテルは家では飲めないようなものをと、苺酒のシャンパーニュ割りを成人メンバーに提案した。苺の濃い味わいとシャンパーニュのふくよかさを同時に味わえる贅沢。
先輩メンバーと4期は卓を分け、スタッフからはタテルのみが4期卓に着いた。相変わらず暗い雰囲気の4期を盛り上げようと乾杯の音頭を取るタテルだが、逃走中のハンターのように無機質な面々。
「あのさ、何があったの?」
「…」
「話してくれないと何もできないよ。このままで良いと思うのか?」
「思いません!思いませんけど…」
ようやく口を割ったのは非選抜メンバーのZ美(フィクションではあるがプライバシー保護のため名は伏せる)。決して不人気の部類に入るメンバーではなく、タテルも真っ先に惚れた4期生であるが選抜はされなかった。
「なんであの子が選ばれて、私は選ばれなかったんだろう、って思いは正直あります」
「結果が全てじゃん。受け入れなさいよ」A美が容赦無く反論する。
「待て待て、落ち着けって。Z美、そう思うのは必然だ。口に出して良いと思う。でもそこから抜け出す方法も考えよう。人を羨むだけじゃダメだ」
「はい…」
「あとA美、その口の利き方良くないぞ。どうしていがみ合わなければならないんだ」
「それは…」
「調子乗ったら次は落とされる。そういう世界だ。自分を高めることに専念しなさい」
「…」
説教ムードの中戴く5種前菜。チシャトウはきゅうりのような見た目とは裏腹に、野菜の甘みと中華らしい味付けが強く感じられ驚く。
くらげにはにんにく味が染みている。細切りのものが一般的な中、ザラザラした面があったりぶつ切りだったりしてひと味違う弾力を楽しめる。
皮付き豚バラ肉のこんがり焼き。上部が煎餅のように硬く焼かれていて香ばしい。一方豚肉の旨さは隠れがちで、手前にあるソースやマスタードにより引き立たせる必要がある。このポーションでは堪能しにくい。両方の味付けを試すためにも1人2〜3個は欲しいところである。
その隣の肉は、詳細はよくわからないが食べ応えがあり、高級中華らしい濃さである。
ピータン豆腐は玉子豆腐を中華に昇華させたものと考えても良いだろう。卵の味に加え、ちょっとしたピータンのクセを味わえる。
「あとB美さ、グミに何か恨みあるの?楯突いたのすごい腹立ってるんだけど」
「はっ?タテルさん全然わかってくれないんですね」
「わかる訳無いだろ。グミはおちゃらけやりつつも締めるところは締める、俺ら自慢のキャプテンだろ」
「そうやって肩持つんですか⁈あんなおばさんの…」
その言葉が響き渡った瞬間、先輩メンバーが全員4期の方を見てくる。あまりの怒り憤りに誰も言葉を発せない。
その状態で点心がやってきた。右下は海老餃子、左下はキノコ餃子、奥は海老ニラ餃子。やわもち食感の皮、そして海老の臭みが一切無い点が一流たりうる所以か。
「私すごく悲しい!」
珍しく声を上げるナオ。普段は寡黙で自分から前に出ることの無いナオがブチギレる程今は非常事態である。
「あなた達は加入して未だ日が浅いからわからないかもしれないけど、グミさんはとっても偉大な人なんだよ。私が押し潰されそうになった時はいつも連絡をくれた。綱の手引き坂のモットーを常に忘れずみんなを纏め、仲間が倒れた時は背負ってくれる自慢のキャプテンなんだよ。なのにどうして…」
「ナオさんの言う通りだよB美。酷いこと言わないでよ!」Y美も同調する。
「うるさいなぁ!グミさんは私たちみたいな若手を全然フォローしてくれない!野球とか大喜利に走ってアイドルらしく無いことさせられるのも、楽屋弁当がヘルシーすぎるのも、全部グミさんの意向ですよね?私嫌なんですそういうの!」
「それは違うだろ」
「タテルさんも非選抜メンバーとばかり食事行ってますよね?選抜メンバーを大事にしてくださいよ」A美が再びタテルを攻撃する。
「あのさ…」
「4期のことももっと興味持ってください!私たちの魅力、全然引き出してくれない!」
「ああもう!食事の場なんだから揉めるのやめろ!次の料理来たから一回黙って!」
さざえとフカヒレのスープ。熱いのでゆっくり啜る。
この手のスープではアワビが使われることが多いが、サザエも旨味の面では負けていないと思う。高級中華に慣れていない面々は上品すぎて美味しさを感じ取れなかったようだった。
紛糾する食事会の渦中で、かつてスタッフがやけになって叫んだ「新人なんて入れなければ良かった」がフラッシュバックするタテル。いっそのこと4期だけ残して先輩メンバーだけ独立させよう、とも思ってしまうが、4期のことを見捨てることになり綱の手引き坂のモットーに反する。そんなことを考えていた時だった。
「ねえみんな、もっと仲良くしようよ!」
「グミさん⁈」
「来てくれたのか…」
「タテルくんから聞いたよ。私のことで大揉めになってるって」
「…」
「本当に申し訳ない。みんなの悩み聞いてあげられなくて」
泣きそうになるのを堪えながらグミは謝罪した。
「いつものメンバーとばかりイチャイチャして壁を作ってしまったこと、本当に反省している。キャプテンとして寄り添ってあげられなくて本当にごめんなさい…」
「グミがこう言ってることだし、どうか許してほしい。俺も申し訳ない、みんなのことちゃんと見れてなくて…」
B美は号泣し謝罪の弁を述べる。
「グミさんタテルさん、そしてナオさん…私間違っていました。アイドルとして、チームとして大事なもの、忘れかけていました」
「わかってくれればいいんだよ」
「今日からまたいっぱい、みんなと笑顔作ろう」
「はい!」
「さあ次は名物北京ダックだ!ダックとは言いつつ肉は食べない。皮だけを楽しむ贅沢な料理だ」
甘めの味付けとなる北京ダックには少し甘めの日本酒が合うと考え、タテルは新政の貴醸酒「陽乃鳥」を選択した。心地よい甘やかさに酔いしれる。
皮がたっぷり入った、程よい脂加減が心地良い北京ダック。ただネギが入っていて新政の味わいを邪魔してしまったのはタテルにとって誤算であった。
「美味しいよ〜」4期の表情は漸く明るくなった。
そして、B美を初めとした4期に蔓延っていた不協和音の原因が思いついたタテル。
「B美、エゴサしてるだろ」
「してますけど」
「愚痴垢に囚われていないかい?」
「…」何も言い返せないB美。
「俺もチェックしてるからわかるんだ。4期は歌もダンスもできない、ヴィジュアルもいまいち、なんて言われてる」
「そうなんです…そうなんですよ!」B美は号泣した。「悔しくて悲しくて、もうめちゃくちゃになって…やっぱ私たち、入ってこなければ良かったのかなって」
「本気で受け取っちゃダメ!」泣き叫ぶグミ。「確かにパフォーマンスは未だ発展途上だ。だけど自分たちだけでショーを成功させた。楽しんでくれてる人もいっぱいいるんだよ」
「そうだそうだ。何も成し遂げてない、外面しか見れないノータリンに心持ってかれるなんて最悪だよ!応援してくれる人の顔だけ思い浮かべれば、それで十分だろ…」
「私たちも最初の頃は同じように苦しんでいた。でも自分を忘れたら終わりだと、自分を奮い立たせてきた。そうしたらすごく良い景色に出会えた。支えてくれる人がたくさんいて虹を架けてくれる。他では味わえない経験を綱の手引き坂ではできるんだよ」
「私たちはこれを守っていかないといけない。そういうことですよね」
「Z美、その通りだ。わかってくれてありがとう」
続いて魚料理、ハタの香り揚げ。身の詰まったハタは確かに美味しい。だからこそ1人分の量はもう少し多めにしてほしい気もする。梅醬や赤酢で甘酸っぱく味付けしてあり、寧ろこれが新政によく合う。
ロゼワインは食事と合わせると味わいが出てくるものである。
「悩み、何でも聞いてあげる」
すると非選抜メンバーのX美が口を開く。
「私、もうどうしようもないところまで落ちてしまった気がするんです」
綱の手引き坂には明らかな不人気メンバーがいる。歌やダンスに長けている訳でもなく、冠番組でも個性を発揮できておらず浮上の目がみえない。X美はそれに該当しかけていたのだ。
「一番はヴィジュアルなんですかね。みんなより脚太いし顔も丸いし…」
「そんなことないよ。みんな可愛い。X美ちゃんはお肌綺麗だし、みんなから愛されるキャラクターしてるし」グミがフォローする。
「グミさんは何でそんな脚細いんですか?」
「毎晩お風呂上がりにしっかりマッサージしてる。足の裏から太ももにかけてしっかり揉んであげるんだ。ほら、この動画参考にするといいよ」
「ありがとうございます!」
さらに先輩メンバーも挙って顔マッサージやメイクのアドヴァイスをする。
「良いチームに戻ってきたじゃん。これが俺の見たかった綱の手引き坂だ」
もち豚黒ニンニク炒め。肉自体に甘みがある一方ソースが絡みにくい。黒ニンニクはある程度ほぐして初めてニンニクらしさが出るため、肉に載せた後箸で何度か押してあげると効果的に味を載せることができるだろう。これももう1.5倍〜2倍量で食べたいところである。
「東大の後輩が言っていたんだけど」頭をフル回転させていたタテルも助言を送る。
「見た目は大事かもしれないけど、浅はかなネット民の描く『美人』ってものすごく画一的で、少しでもそこから外れればブス扱いされる。それって個性とかを認めない、戦時下の全体主義みたいな考えなんだよね。そんなものを追求するくらいなら、自分なりのナチュラルな可愛さを引き出す方が誇れると思うよ」
感極まるX美。周りで聴いていたメンバーも思わず感服してしまう。
「グミさんもタテルさんも、ここにいる全員が、綱の手引き坂になくてはならない存在です」
「ありがとうな」
「誰も見捨てないって、改めて誓う」
紫蘇と帆立の炒飯。紫蘇の香り高さが炒飯によく合うのは既知の事実である。卵白だけの炒り卵はふわふわで食感の多様性に寄与している。胡麻の香りも良い。一方帆立の味は感じ取れない。ある程度身をほぐして外界との接触面積を増やしてあげた方が旨味をより感じられると思う。
漸くチームが1つになったところで、タテルは改めて独立の意義を語る。
「もちろんここからは実力勝負になる。良いパフォーマンスができなくなれば当たり前のように歌番組に出ることはなくなる。でもそれくらい追い込んでやった方が真の実力がつき、一生芸能に携わっていられる。鳥籠の中で終わりを迎えるのはごめんだ。みんなの自由と未来のためにも、ここは一つ大勝負賜りたい」
「偽の独立騒動で本当に独立することになるとは思わなかった。でも今はそうするしかないですもんね」
「改めてライヴ最強アイドルになってやる!」
「世界中の人に愛されるアイドルになる!」
「ありがとう。綱の手引き坂の未来は明るいぞ」
デザートはマンゴープリン。プリン自体がマンゴーという訳ではなく、マンゴーソースをかけたミルクプリンというイメージである。こうすることによりプリンの滑らかさを残しつつマンゴーを味わえる。
「晴れてコノとグミも復帰だ。グミ、グループを代表して、改めてこれからの所信表明を!」
「はい!」
榎坂46の二軍グループ「えのき坂46」として暗闇の中を進んできた私たちは、3年走り彷徨い続け、「綱の手引き坂46」として独立しデビューすることができました。その勢いを絶やすことなく走り続け、憧れの東京ドームにも立つことができました。あの時はどこまでも高みを目指せると思っていましたが、現状は印象に残る曲を貰えず、紅白にも落選してファンもじわじわと減ってきています。このままで終わるわけにはいきません。だからこそ今、私たちは変わるべきです。自分たちで作詞作曲、振り付けまでやり、自分たちの力で東京ドームに立つ。私たちには最高の仲間がいます。誰一人見捨てることなく、トップアイドルの座を獲得して、応援してくださるみなさんに活力を与えます。
「じゃあみんな集まって、円陣組むよ!」
一流中国料理店に響く綱の手引き坂決意のかけ声。その場にいた店員も拍手喝采を送る。
「今度来れた暁にはアラカルトから好きなだけ頼みたいね」
「北京ダック3羽くらい並べちゃって」
「フカヒレの姿煮もどーんと載せちゃいましょう!」
「いいね!みんななら絶対できる。もちろん俺も全力でサポートするよ」
翌日、メンバー全員が集まり冬元に独立の旨を伝えた。
「ああ、君達の動向は掴んでいたよ。今更驚きはしないね」
予想外の平然な振る舞いに戸惑う綱の手引き坂サイド。
「本当に独立するのかね?実は君達にチャンスをやろうと思っていたのだが」
「チャンスとは何でしょう?」
「新しい運営スタッフを用意して、何事もなかったように元の活動量に戻してあげようと思っている。当然圧力なんてかけない。シングルも出せるし歌番組にもバラエティにも従来と同じくらい出れる」
「それはそれは」
「ただし条件がある。今いる5人のスタッフは捨てろ」
「えっ…」
「特にタテル。コイツは私が授けた恩を仇で返しやがった。テレ日に抗議文を送りつけ報道操作をしたのもタテルだよな」
「報道操作したのはアンタらの方でしょ⁈」
「タテル含め5人は私に逆らう厄介者だ。ついて来られては困る」
究極の選択を強いられたメンバー達。タテルは固唾を呑んで見守る。
「私達は…タテルくんのことを見捨てません」グミがきっぱり断った。
「何だと」
「私達は仕事が無くなること、一からやり直すことを覚悟しています。仮にタテルくんを見捨てて貴方達に身を委ねるとしても、本当に従来通りの待遇になるのでしょうか?なりませんよね。どうせ圧力かけて、今以上に低調な活動を余儀なくさせると思います。同じ不自由なら、信頼できる人と、しがらみ無く自分を出せる道を選びたい。あなたの力はもう必要ないのです!」
「ああそうですか。わかりました。そう言うと思ってこっちも条件考えてきたから。まあまずはこれを見ろ」
綱の手引き坂の頂上にあるビルの映像が流れる。本来はここに、綱の手引き坂の新事務所が入居するはずであった。
「あれ、なんか色々置いてある…」
「俺たちの荷物じゃないぞ!」
「ここには私の息がかかっている。悪いが私に背くようなら出て行ってもらおうか」
「はぁ⁈」
「タテルを見捨てていればこの荷物はどかしてやったのにね。独立するならここは俺の手がける新しいグループ用にとっておく。君達よりもずっと未来のあるグループに、な」
「こんちくしょう…!」
「あと綱の手引き坂という名前は変えてもらおう。坂とかつけないでもらいたい。シングルやアルバムのリリースも自分達の金でやりなさい」
「まあそれは覚悟してますとも」
「あとはこれだな」
そう言って冬元はモニターをつける。
「千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区・文京区。この6区、何かわかるか?」
「マツコさんはこの6区でしか生活をしていない」
「とれたてを食べさせてあげたい件、じゃねぇよ。相変わらずボケたがりだなグミは。これらはこれから、あなた達が仕事をしてはいけない場所です。在京テレビ・ラジオのキー局は全てこの中にあるね、だから今後一切メディアには出れません。冠番組も個人のラジオ番組も全部喪失だね」
「そんな…」
唖然とする綱の手引き坂サイド。独立して明るくやっていこう、という算段は儚く崩れ去っていった。
—『独立戦争・下』 へ続く—