連続百名店小説『涙のクイズアイドル』第4問:再会の証にクイズしようぜ!(石谷もちや/富山)

人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(26)は、グループ内で最も賢いメンバー・コノ(24)のクイズ能力を更に高めるべく、1泊2日の富山・金沢旅行に連れ出した。
・旅のルール
百名店を1軒訪問する毎に1問「プレッシャーSTEADY」(略称:プレステ)の問題に挑戦できる。問題毎にその辺にいる人を8人集め、コノとタテル合わせ10人で挑む。3問クリアで金沢を代表する名店の寿司にありつける。

*2024年3月、北陸新幹線敦賀延伸前に繰り広げられた物語です。時系列としては前作『独立戦争・上』より前の出来事となっております。

  

天ぷらを食べ終わった後、本当なら岩瀬浜を訪れたいところであったが、遅い時間で路面電車の本数も少なくなっていたため断念しホテルに戻った。

  

コノの部屋にてジラフで買ったケーキを食べながら、録画していたスズカ出演の神連チャンを見守る2人。スズカとはギターを弾ける者同士ユニットを組むなど親交の深いコノ。1曲目挑戦の時点で既に涙ぐんでいた。その後も画面の中のスズカが連チャンを重ねる度、コノの頬を涙が滔々と伝う。

  

スズカは見事神連チャンを決めた。その瞬間、コノと抱き合うタテルの目にも涙があった。
「長かったよ〜!ついに夢叶ったねスズカ」
「いつも最後で駄目だったから…ホント良かったよスズちゃん…」
「俺、興奮で眠れないかもしれない」
「私もです。ずっと余韻に浸っていたい」

  

大浴場で温泉を堪能する2人。神連チャンの感動に浸りつつも、気にしなければならなかったのはクイズの結果である。3問やって1問しか取れておらず、このままのペースでは確実に寿司にはありつけない。
「俺なんであそこでミスるかな。大塚さんみたいに2択を外さないスペックが欲しかった。知識はあるつもりでも、時の運が足りていない」
「私全然戦力になれていない。カゲさんみたいに突き抜けてクイズできる訳じゃないし、大したことないな、なんてタテルさんに思われてないかな…」
大浴場の湯船の中で、タテルは落ち込み、コノは汗と涙に塗れていた。

  

大浴場外の休憩室に座っていたタテル。そこへコノがやってきた。
「あ、アイスキャンデー美味しそうですね」
「あそこに入ってるから貰ってくれば?ヤクルトもあるよ」

  

「お風呂上がりのヤクルト、最高ですね!」
「やっぱ温泉は良いね。いつもシャワーで済ませちゃうから」
「湯船浸かった方が良いですよ。疲れとれますからね」
「そうだな」
「タテルさん、私ちょっと相談したいことがありまして」
「何でも聞いてあげる」
「小1クイズで3000万取ったのは嬉しかったんですけど、賢いイメージ持たれることがプレッシャーなんです」
「なるほど」
「カズキレーザーさんやロジ原さん、カゲさんの領域には到底及んでいないのに期待されちゃって…」
そう言ってコノは歔欷く。
「みんな勘違いしてるんだよな」タテルが切り出す。
「カゲにも言ったんだけどさ、この世の全てのものを知っている人なんている訳無くて。でも全てのものを知りたいという夢を持つ人がいて、『クイズ王』とはその夢を叶える意志を持った人のことをいうのだと思う」
「はい…」
「でも人は本能的に勘違いしてしまう、クイズ王にわからない問題などない、と。同じクイズでも問題文の作り方や解答システム、勝ち負けを決めるためのルールを変えれば得手不得手は出てくる。Qちゃまを制したカズキレーザーさんもロジ原さんもカゲも、コノが制した小1クイズは制覇していない。これが全てだ。誇りに思いなさい」
「ありがとうございます…」涙の量が増すコノ。
「やるべきことはとにかく知識を増やすこと。次の問題はたぶん英語だと思う。コノにまつわるもの、北陸にまつわるものとか予想しながらインプットしようか」

  

翌朝。朝食バイキングを堪能した2人は、石谷もちやの開店時刻に合わせ9時過ぎにチェックアウトした。中町停留所からアーケードのある商店街に入り、右に曲がれる最初の角を右に曲がると間も無くその店は現れる。
「ちょっと早かったね。月曜だから誰も並んでいない」
「そこまでしないと満足に買えないお団子屋さんなんですか?」

  

「団子よりも苺大福だね。早めに行かないと売り切れるらしい」
「苺大福!綱の手引き坂の楽屋でも流行ってましたよね」
「苺好きのメンバー多いから本当は買って帰りたいけど、今日はメンバーとは会わないよね」
「帰りの新幹線は6時だから、東京に着くのは9時過ぎ…皆帰っちゃってますね」
「どっちにしろ苺大福は1組10個までだから無理だ。実はこの後富山でもう1戦やる。そこでクイズに参加してくれた方々に配って、俺とコノの分も合わせれば10個になってしまう」

  

9時半に開店し、一番乗りで入店する。苺大福10個に加え、団子を数本見繕った。
「それにしてもどこでクイズやるんですか?ここだと10人集まりませんよ」
「中高の同級生が富山で働いているんだ。昨日連絡してみたらOK貰えた。富山駅方面に戻りながら行ってみるぞ」

  

やってきたのはJBC富山。国営放送である。
「JBCということは、まさか…」
「女子アナだ。若手だけど富山県民の多くから愛される看板アナだよ」

  

「岩倉!久しぶり!」
「タテちゃん!遥々来てくれてありがとう」
「俺も会いたかったよ。無茶なお願い引き受けてくれてホントありがたい」
「同級生の誼み、だからね」

  

買ってきた苺大福を頬張りながら暫し岩倉と歓談する2人。
「美味しいですねこれ」
「ですよね!私も差し入れで戴くと気分も上がります!」
「最低限の白餡が苺の甘い味から平たい味までを全て演出してくれる。餡が水分を吸うのでこぼれにくいし、これは理想のフルーツ大福だね」
「タテちゃんも満足してくれたようで、良かった。中学生の頃から高級な店に通うくらいの食通だもんね」
「そうだな。台湾の修学旅行で食べた飯ははっきり不味いと言ったし」
「良くないですよタテルさん。空気読みましょう」
「実はタテちゃんとはあまり接点無いんですよね」
「うそっ、そうなんですか?」
「クラスも一緒になったこと無い。偶に話すくらいだったよな、岩倉」
「そうね。私小学生の頃からずっと芸能活動していて、学校にあまり通えていませんでした。それでもタテちゃんは校内の人気者だったので、噂は耳に入っていました」
「一緒にドッヂボールやったことは覚えてる」
「タテちゃんったら、ボールが当たるの怖くて態と当たりに行っていたんですよ。面白いですよね」
「タテルさん、愛されキャラなんですね」
「照れるなぁ…」

  

岩倉の号令により、知識が豊富そうなアナウンサー・キャスターが集合した。クリアに期待がかかる。岩倉自身も早稲田大学出身ということで、通常コノが担当していた9番手を担うことになった。
「8番手だと少し気が楽でしょ、コノ?」
「そうですね。楽しんでクイズができそうです」

  

第4問の教科は英語。
気象に関する英語を和訳しなさい。
①rainbow
②snow
③typhoon
④cloud
⑤high pressure
⑥fog
⑦mirage
⑧shower
⑨turbulence
⑩hail

「お、俺の予想当たった!」
「でも気象か。対策の範囲外だ…」

  

集まった人々も英語はあまり得意でないようで、コノに回ってきたのは⑦,⑨,⑩であった。
はわかる!富山ならではのもの、ということで対策しました、蜃気楼!やったぁ…」
岩倉はに挑戦する。
「思いつくもの書いてみますね。みぞれ…は違う。じゃあひょう…やった!」
岩倉の超Fine Playによりタテルに見せ場が到来した。
「任せて。これは知らないと難しい。乱気流です」

  

タテルもFine Playを見せ見事この問題はクリア。極上寿司にリーチをかけた。
「良かったぁ!ありがとうございます皆さん!」
「岩倉に任せて助かったよ。コノも対策がハマったね。最高のチームです!」
「私も、最後にこういう形で協力プレイができるとは思っていませんでした」
「えっ?最後ってどういうこと?」
「4月から福島に異動になるんです。富山で過ごす日々もあと僅かです」
「そうか。異動はつきものだけど、寂しいよな…」
「富山の方には4年間本当にお世話になりました。思い出しますね、苺大福食べると。リポートが上手くできなかった時、尺を余らせてしまった時、電話対応で失礼を働いてしまった時、先輩方に差し入れていただいて、励まされたこと覚えています」

  

大粒の涙を流すコノ。
「良い思い出ですよね…」
「そうですね…寂しいですけれど、新天地でも頑張ります」
「いずれは東京に戻ってきてな。目指せ有働さん」
「ありがとう。タテルくんもコノさんも、お元気で」

  

思い出の詰まった富山を後にする2人。
「これが『つるぎ』か。今は金沢行きだけど、直に敦賀行きになるんだろうな」
「北陸の各都市を繋ぐ新幹線となるわけですね」
「新幹線の名前を答えろ、という多答問題でこれ答えたらカッコいいだろうな」

  

富山駅を飛び出す瞬間、コノは目を潤ませていた。一方のタテルはテーブルを広げ団子を取り出す。抹茶団子もあやめ(黒砂糖)団子も、餡の甘さがかなり控えめである。これが抹茶だとしっくりくるが、黒砂糖では脳内を疑問符が駆け巡る。

  

「あ、もう金沢か」
「極上寿司まであと1問、私達も頑張りましょう!」
「力を貸して下さった皆さんの気持ち、無下にはしたくない」

  

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