連続百名店小説『海へ行こうよ』Second Step:TRUE BLUE(シナモンガーデン/南林間)

売れないグルメタレント・TATERU(25)が、綱の手引き坂46のメンバー・ヒヨリ(20)と共に、小田急江ノ島線沿線を歩きつつ名店を巡る『鉄道沿線食べ歩き旅』。

  

「次の店はすぐそこだ。歩く歩く!」
「これのどこがすぐそこなの?あぁ、気持ち悪い」
甘いものを食べすぎたヒヨリは歩くのがしんどそうであった。
「自分が悪いんだからね。ほら、次は君の好きそうな野菜たっぷりランチプレートだ」

  

1kmにも満たない道のりを、ショッピングモールで休むなどしていたため2時間かけて踏破した。ラストオーダーに近い時間だったため客は疎らであった。
「さ、ここはスリランカ料理の店です。ヒヨリちゃん、スリランカってどこにあるかわかる?」
「知らんし」
「またかよ。わかんなくても何か言えよ」
「興味ない。お腹いっぱいなんですけど」
「いいから注文するよ」

  

薄口すぎるスリランカビールと共に、タテルは3種類のカレーが乗ったおもてなしプレートを注文。豆カレー、チキンカレー、そして日替わりカレーはイカであった。バスマティライスの上には野菜主体のおかずが色とりどり盛られていた。一方で満腹のヒヨリはカレー単品だけ頼み、タテルのライスと野菜おかずを少しだけもらった。

  

ヒヨリの陰に隠れてはいるが、タテルも結構な量のケーキを腹に入れたため食べるのが億劫だった。チキンカレーは日本人好みの炭火焼きっぽい味で食べやすかったが、豆カレーは味つけが薄く重さだけがのしかかる。イカカレーは苦味が出ていた。
「ヒヨリちゃん九州の子だからイカ好きそう。あげればよかった」
「いらないです」
「ヒヨリちゃんって自由奔放だよね。若いね」
「若いでまとめないでください」
「どのちゃんみたいなこと言うな!」
「そんな面白くない。帰りたい。漫画読みたい」

  

全体的に水分の多い野菜おかずはご飯には合わず、腹にどんどん溜まる。ビーツの濃厚な味や香ばしい何かで多少変化はついているが、万全の状態であってもタテルの口には恐らく合わないだろう。
一方で豆せんべいは塩気があってスナック感覚でいただけ、サバコロッケはわかりやすく美味しい。カレー1種類プレートにコロッケ追加というのが最適な注文の仕方なのかもしれない。

  

閉店時間になり外に出た2人。
「もうお腹いっぱいすぎて動けません」ヒヨリは相変わらず体が重かった。
「もうすぐ南林間駅だから頑張ろう。ほら、荷物貸して」
「何でですか」
「重いだろその鞄。持ってあげるから。それだけでも全然違う」
「嫌です」
「言うこと聞けよ!」タテルは遂に激怒した。「企画の趣旨はわかってないし自己管理もできてない。どんだけ俺を振り回したいんだ!」
「…」
南林間駅に着くまで、2人は無言のままだった。タテルはこの後夜になるのを待って南林間のタイ料理を食べ、そこから歩き出して大和駅まで行く計画を諦めていなかった。沈黙を破りヒヨリにその旨を伝える。
「ムリムリ!何言ってるんですか⁈」
「大和駅の方がちゃんとしたホテルあるよ。ね、気持ち変わんない?」
「変わりません。ホテル行きましょう」
結局この日は南林間に泊まることになった。

  

「ヒヨリちゃん、夜ご飯行くぞ」
「嫌です、今日はもう食べません」既にパジャマ姿のヒヨリが出てきた。
「寝る気満々やん…ここで食べないと明日昼まで進めないから。無理してでも行くんだ」
「しつこいですねタテルさん。今日はもう話しかけないでください!」
勢いよくドアを閉められ、タテルはなす術がなかった。追い討ちをかけるように、次の日は豪雨の予報が出ていた。2日で旅を終わらすことは絶望的となり、この調子ではむしろ5日はかかりそうであった。

  

ここまでくると思い悩みそうなものだが、タテルは意外にもケロッとしていた。もちろんヒヨリの言動は自分勝手ではあったが、ゆるゆるさがヒヨリの持ち味であることも知っていた。
「ちょっと怒りすぎたんだな。のびのびやらせてあげた方がいい。明日は終始やさしくしてあげよう」
過酷な帰京ルールを受け入れる覚悟を決め、タテルも眠りについた。

  

ゴール江の島まであと24.6km

  

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