連続百名店小説『海へ行こうよ』Fourth Step:DESIRE(うまいヨゆうちゃんラーメン/大和)

売れないグルメタレント・TATERU(25)が、綱の手引き坂46のメンバー・ヒヨリ(20)と共に、小田急江ノ島線沿線を歩きつつ名店を巡る『鉄道沿線食べ歩き旅』。

  

帰京中のある日、京子はヒヨリを呼び出した。
「ヒヨリちゃん、マブダチだからあえて言わせてもらうけど、タテルくん困ってたよ」
「あ、はい…」
「初対面の人に心開くのは大変かもしれないけど、もうちょっと言うこと聞いてあげなよ」
「…」
「タテルくん、ちょっと変だけど優しい人だから。仲良くしてあげて」

  

ヒヨリの目に涙が溢れた。
「タテルさんに迷惑かけてしまった自分が情けなくて…」
「わかってくれればいいから。次会ったらまず謝るんだよ」
「すみません…」

  

1週間後、1日だけスケジュールを確保して旅を再開する。出会って早々、ヒヨリは京子に言われた通りタテルに謝罪した。
「タテルさんごめんなさい、この前はあんな態度とってしまって」
「いいんだいいんだ。俺も焦りすぎてた。どう考えても2日で終わらせられるわけないもん」
「今日は心入れ替えてきました。サンダルやめてスニーカーにしましたし」
「いいね。今日はガンガン進もう。しかし暑いな、熱中症に気をつけて」

  

前回とは打って変わって、夏の日差しが照りつける晴れの日。今日の目標は高座渋谷にある百名店まで3軒を制覇し、日が暮れ少し気温が下がったところで歩きを加速させ湘南台辺りまで行くつもりだった。早速鶴間駅を出発。線路際に道があるため間違いは犯しにくいが、次の店は線路沿いから少し外れた場所にある。
「この地図を見ると、246と東名の間で右に入ることになるのかな」
冷静に判断して見事に正しい位置で東名を越え、しばらく真っ直ぐ歩くと目当てのラーメン店に到着した。人気店ではあるが、猛暑の平日だったためか客足は鈍っていた。
「どっ豚骨?」
「濃厚系の豚骨ラーメンってことか。ヒヨリちゃん福岡の子だからうるさそう」
ここの豚骨ラーメンは、いわゆる博多ラーメンとは似ても似つかないものであり、むしろ神奈川らしく家系ラーメンに近い仕上がりともいえる。

  

「じゃあ私は細麺でお願いします」少しでも本場らしさを求めにいく福岡っ子ヒヨリ。一方のタテルは、駅から遠いこの地にせっかく来たし、体力もつけておきたいとの思いから、スープを濃いめにしチャーハンまでつけた。
「タテルさんも、よく食べますね」
「暑いときこそたくさん食べておかないと。チャーハン少し食べていいよ」
「ありがとうございます!」

  

「京子さんとのラーメン動画、いつも観てます」
「ありがたいね」
「でも豚骨ラーメンがあまり出てこないですね」
「言われてみればそうだな。魚介豚骨なら何回か食べたけど、豚骨ラーメンの店ってあまり対象にならない」
「そうなんですね」
「ヒヨリちゃんは東京で豚骨食べるとしたらどこ行く?」
「あまり食べないですね。本場のものとだいぶ違う気がして」
「やっぱそうだよね。福岡のはもっと白いはず。食べてみたいなぁ」

  

一方こちらはギトギトの茶色いスープ。確かに濃い。夏だからこそ美味しく感じる濃さである。しかし食べ進めるにつれ、板のようにのぺっとした後味が気になり出すタテル。胡麻を入れすぎてしまったのか?酢で味変してもなお引っかかる。
「濃いめにしない方が良かったかも。普通の濃さがちょうどいいんだろうね」
それでも美味しいことに間違いはなく、タテルは遠慮なくにんにくも投入して濃いラーメンを満喫した。チャーシューは分厚めで、チャーシュー麺なんかにしたら絶対腹がはち切れるだろう。

  

そしてチャーハンは、ラーメン屋のサイドらしく卵が飛び散った薄色の仕上がり。味はこれまた間違いなく病みつきになるもので、チャーシューの柔らかさが絶妙であった。

  

「ヒヨリちゃんどうだここのラーメンは?」
「地元のとは違うけど、これはこれで美味しかったです!」
「それは良かった」

  

大和駅へ向かう道すがらでは、タテルとヒヨリは他愛のない話を交わせるくらいの関係性になっていた。
「ヒヨリちゃんってスタイルいいよね」
「嬉しいです」
「ブログでやってた『日刊ひよリップ』、最近やってないね。あれ結構楽しみにしてるんだけど」
「めんどくさくなっちゃって」
「そっか…ヒヨリちゃんらしいな」

  

大きな大和駅に到着。初日に着いているはずだったがかなり遅れてしまった。酷暑の中、汗に塗れたタテル。一方ヒヨリはほどほどにしか汗をかいていない。
「いいよねヒヨリちゃん、そんな汗かいてなくて」
「でも体はすごく暑いです」
「大丈夫?」
「大丈夫です。遅れ取り返さないとですもんね」

  

ゴール江の島まであと21.5km

  

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