連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』96杯目(かめ囲/柴崎)

グルメすぎる芸人・タテルと、人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバーで現在は宝刀芸能所属の俳優・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のお話。

  

その後、荒々しいガキから正式に出演オファーが出され、宝刀芸能は京子の出演を受諾、自身の裁量が認められているタテルも勿論受諾した。早速3日後に出演者との打ち合わせをすることになった。

  

打ち合わせ当日は午後一に砧スタジオ集合であったため、午前中は次のラーメン店での自腹をかけたゲームを収録する。
「どうも、与那覇でございます」
「うわ来たよ…」
「タテルくん知ってるの、この人?」
「痛いいた〜い足つぼする人だよ」
「タテルさんご名答。日本一の足つぼマッサージ師ヨナハでございます。今からお2人には私の足つぼマッサージを受けていただき、『痛い』と言うまでのタイムを計測します。早く言った方が負け、次のラーメン2人分自腹となります」
「京子強そうだもんな。足の皮分厚いし」
「それ言われるのなんか嫌。タテルくんだって分厚いよ」
「俺は不健康だから。アヤと足つぼ行った時阿鼻叫喚したもん」
「アビ召喚?誰、アビって?」
「誰とか無いから。悶絶して叫んだ、って意味」
「いいから早くやりましょう。嫌なことは早く片付けたい」

  

先攻は京子。タテルは与那覇と同じ目線に回る。
「足の裏、見てんじゃねぇよ!」
「バレたか…」
「アヤから聞いたよ、足の裏まじまじと見られたって」
「許して。変な癖だってことは自覚してるから!」
「私に隠れてエロいYouTube観てることもバレてるからね」
「もう観ない!観ないから…」

  

*この先しばらくはグルメ小説としては過激すぎる気がする内容のため、文字を背景と同化させております。どうしても読みたい人はコピーしてどっかに貼っつけて解読してください。

富士テレビに向かう際、2人の口数は少なかった。不機嫌な京子の横で、昂りのバブルが弾けたタテルはひたすら不適切な言動を反省していた。それでもベイサイドスタジオに入ると、2人はモードを切り替え、荒々しいガキMCの霜降明け星(そいや・ソロロロ)、ももいろプラネット(松戸・永田)、タカネ(岡山・秋田・柏)にはきはきと挨拶をする。
「僕たちはキョコってるです、よろしくお願いします!」
「よろしくな!」
「午前中ちょっとイチャイチャしちゃって変なテンションかもしれないんですけど」
「何言ってんのタテルくん!」
「それはおもんないなぁ」荒ぶるソロロロ。
「ま、まあ無理はしないで」優しくフォローするそいや。「純粋に楽しんでもらうのが、俺たちの番組のモットーだから」
「そうですよね、大人しく楽しみます」
「今回はかくれんぼに加えて、かくれんぼに次ぐ人気企画『先公はどこだ⁈』にも参加してもらいます!」
「54時間テレビで観た!生徒達がいちいち大袈裟なリアクションするやつ」
「そこはメインじゃない。今回が3回目の実施で、場所は何とラグビーでお馴染み國學院久我山高校!」
「名門!」
「次の土曜日に早速収録を行います。で2人は歌も歌いたいんだよね?」
「え歌えるんですか?」
「観たよ神連チャン。2人ともすごく上手かった。だからこちらとしては是非歌ってほしい」
「タテル君の扮装はオモンなかったけどな」
「やめてくださいよソロロロさん〜」
「歌えるの嬉しい!ありがとうございます!」
「で、かくれんぼの方は日大櫻丘高校で行います。こちらも土曜の放課後実施、終わり次第講堂に生徒を集めキョコってるの歌披露です」
「歌う曲ってある程度決めてる?」
「そうですね、1人1曲ずつと、デュエットソング1曲やろうと思ってます」
「学生さん疲れてるだろうし、3曲くらいがちょうど良いかもね」
「どんな曲歌う?」
「応援歌がいいんじゃない?愛は勝つとか負けないでとか」
「俺ら世代は大好きだけど、学生達が盛り上がるかな…」
「令和の学生にウケる曲の方が良いかもね。とは言うけど
「わかりました、じゃあ私からTO-NAの若手メンバーに良い曲ないか訊いてみます」
「助かるよ。じゃあ2人とも、目一杯企画を楽しんでください!」
「はい!」

  

打ち合わせが終わると、京子はふと花火を観たくなった。
「花火?9月も半ばだけどやってるのかな」
「調布の方でやってるらしい。でも人多そうだし無理か」
「あ、じゃあそっちの方面でラーメン食べに行かない?」
「調布でラーメンというと…柴崎亭かかめ囲?」
「より打ち上げ場所に近いのはかめ囲だね。ちょうど2人で訪ねたいと思ってたし、行こうか」

  

浴衣姿の人で混雑する京王線に揺られ、柴崎駅に着いたのは17:40であった。甲州街道沿いにある店に5分くらい歩いて到着すると誰も並んでいない。5分くらいして次の客が接続し、最終的に開店時に並んでいた人達で丁度席が埋まる具合であった。店主が朗らかに客を出迎える。
「あれ、キョコってるのお2人じゃないですか!」
「そうですそうです!あれ、今日はお一人で?」
「実は6月に第一子を授かりまして。偶然にもこの店のオープン日に生まれたんです」
「それはおめでたいですね!」
「しばらくはワンオペです。ちょっと大変だけど頑張ります」

  

手前のカウンター席に座ると、店の象徴である亀の置物がわんさかとあった。
「1個もらっちゃおうかな」
「ダメでしょタテルくん」
「冗談に決まってるでしょ」
「ごめんなさいね、さすがにあげる訳にはいかないです」
「失礼しました。あれ、店主さんも奥さんも97年度生まれですよね」
「そうです!お2人と同級生!」
「97年カップルどうし、運命感じますね」
「そういえばたしか前も来てませんでした?2人別々で」
「来ました。ブタマミレしかない日でしたね」
「あの時ちょうど大喧嘩中で、年末まで口きけませんでしたね…」
「そんなことがあったとは…」
「でも今はラブラブですよ!今日は2人で定番の醤油ラーメン食べられる、めっちゃ楽しみです」

  

特製醤油ラーメンがやってきた。ワンオペのため1人目であっても着丼まで18分かかる。スープは醤油のコクがありつつも、魚介の出汁がはっきりしていて美味しい。

  

そしてこの店の名物、手打ちのモチモチした麺。旨味を纏い心地よい甘さが顔を出す。待機スペースで待つ人には申し訳ないが、1本1本しみじみと味わいたくなる。

チャーシューはどれも食べ応えがある。特に分厚いバラ肉の脂の支配量がすごい。山椒が効いたワンタンの餡はモンゴル料理のような独特な香りがする。一方で味玉は、卵本来の味を立てる控えめな味付けである。

  

店主の奥さんが仕込んでいたことでお馴染みの四角いメンマは、一見味が濃く思えるが程よい甘さ。柔らかく繊維が剥がれる様も気持ち良い。総じて力強い1杯で、タテルも京子も大満腹であった。

  

「美味しかった!楽しみにしてきて良かった」
「ちなみに店主さんってもう誕生日迎えました?」
「はい。妻も6月に27歳になりまして」
「京子も9月で27歳。となると残りは10月の俺か…」
「タテルくんの誕生日、何してあげようかなぁ」
「俺あまり誕生日祝われたことないから、あまり盛大にやられると照れるかも」
「まあ楽しみにしてて」
「また来ますね!今度は奥さんがいる時に」
「ありがとうございました!」

  

店を出ると花火の上がる音がした。柴崎駅に戻り調布駅方面を眺めてみると、ゴルフ練習場のネット越しであったが大輪の花火を見ることができた。

  

「うわぁ綺麗!結構大きく見えるんだね」
「もっと近づかないと見えないと思ってた。こんな穴場があったとは」
「でもあまり長居はできないね。いくら人の少ない駅とはいえ」

  

各停を1本だけ見送り都心方面へ戻る。後ろ髪を引かれる思いに駆られていると、つつじヶ丘での優等列車の乗り換えまで時間が空いていて、改めて調布方面を見ると、やはり花火が見えた。今度は邪魔する物すら無かった。
「あと15分だけ観ようか」
「そうだね。えすごい、色が変わった。どうなってんだろう」
「多分炎色反応とかいうやつ?京子は知らんと思うが」
「リヤカーなきK村でしょ」
「わかるんかい!」
「それだけは覚えてるんだ。あまり私のことナメないでね」
「たまにあるよな、知らなさそうなこと知ってるパターン」
「私もバカじゃないからね」
「それはどうかな?」
「ねぇ!」
「でもやっぱ良いね、好きな人と観る花火は」
「私もそう思う。来年もいっぱい花火観ようね」

  

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