グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバー・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。
無事三ノ輪の基地で同棲を再開した2人。離れ離れだった数ヶ月を取り返そうと、夏を全力で楽しもうと考える2人だったが…
店を出た2人の元に、スタッフ大石田が合流した。
「次の対決は…」
「はいはい!電子ルーレットで決めましょう!最初から『π>3.05を示せ対決』に止まる仕様の」
「それ完全にタテルくん有利じゃん」
「絶対王者タテールを召喚!」
「リネールみたいに言わない。次やるのは10m走です」
ミライナタワーのロビーの一角を借り競技を行う。
「どう考えてもタテルくんが有利すぎる」
「俺かなりの鈍足よ。50m10秒以上かかる」
「私もだから。それに私サンダルだし」
「脱げば?」
「嫌。足の裏が汚れちゃう」
「まあそうだよな。京子の可愛い足、汚しちゃダメだ」
「また気持ち悪いこと言って」
「じゃあ京子さん、3mだけハンデあげます」大石田が気遣う。
「ありがたい。これならタテルくんにも勝てるね」
「いやいや、余裕ですね。京子は本当に足遅いから」
「ナメないで。ドラマで逃げ足の速さ見せたでしょ」
「あれ本当は別の人に走らせてる」
「バカ言わないで。マジで私が走った!」
「まあいいや。俺は速歩きでも勝てるな」
いざ勝負してみると、歩きでは走る人に追いつける訳も無く、京子の圧勝であった。
「言ったでしょタテルくん。私だってやる時はやるから」
「くぅ〜!威張るもんじゃないな…」
次に行く店は、ミライナタワーのある新宿駅南口からだと遠く、西口サイドをひたすら北上していく。
「この夏どっか旅行いかない?俺沖縄行きたい」
「いいね行きたい。沖縄そば食べたい」
「俺も沖縄そば大好き。島とうがらしたっぷり入れてさ」
「えーそれは辛すぎる」
「空港着いてすぐ沖縄そばの名店行って、その後宜野座のひらまつホテルでフレンチ食って泊まるんだ」
「沖縄でフレンチ?」
「東京から腕利きのシェフを招聘して、沖縄食材をフレンチに仕立てているみたいよ」
「それは楽しみだね」
「あと三線弾きたいな。カルチャースクール的なとこ行って習いに行こう」
「いいね。綺麗な海をバックに演奏したい」
「動画にしよう。京子の歌声は沖縄の歌に合ってるし、絶対バズる」
「めっちゃ行きたくなってきた」
「沖縄ならこんな酷暑にもならないし、ヴァカンスに最適だ」
都税事務所の交差点から左斜めに入り、大きなコインパーキングのところで左に曲がり進むと「麺屋 翔」は現れた。席数が多いためか、待つことなく入店できた。
「しゃも特製塩ラーメン…」
「お、京子もついに『軍鶏』、正しく読めるようになったか」
「また威張って。普通に読めるし」
「前西荻のRAGEで『ぐんとり』って読んでたからさ」
「そんなことあったっけ?」
「ちゃんと読めるようになって、京子も成長したなぁって」
「ちょっと恥ずかしいけど…褒めてくれてありがとう」
席につきスケジュールを確認する2人。沖縄に行くなら2泊はしたいと云うが、京子は数々の番組やイヴェント出演、それに伴う準備等で忙しく、タテルはTO-NAメンバーと出演するドラマ撮影のため茨城に長期滞在することになっていた。
「ごめんな、俺が長期の撮影入ってるもんだから」
「いいのいいの。タテルくんが売れっ子になってくれてむしろ嬉しい。あ、この3日間いけそうじゃない?」
「俺が茨城から帰ってきてすぐ次の日か…まあでも撮影が巻いて早く帰れる可能性もあるし、大丈夫か」
「じゃあ決まりね。楽しみだな、タテルくんとの沖縄旅行。あでも待って、私飛行機苦手だった」
「そうだったな」
「でもタテルくんとなら大丈夫かも。離陸の時ぎゅっと手を握ってもらっていい?」
「勿論だよ。何なら抱きしめてやる」
「それは恥ずかしい」
「だな。心の中で抱きしめるね」
軍鶏塩ラーメンがやってきた。スープから感じる鶏の味わいは、ベースで1000円を超えるラーメンとしては少々弱く感じる。京子が「軍鶏」を「ぐんとり」と誤読した場で感じたような軍鶏の強さを、タテルは感じられなかったのである。
一方特製にするとチャーシューは多様性を増し、スモーキーなもの、低温調理でしっとりしたものなど変化を楽しめる。総じてもう300円くらい安ければ、タテルも文句無く食べられたのであろう。
「タテルくん、明後日にはもう茨城行っちゃうんだよね」
「そうだね。明日もTO-NAハウスで残りの事務作業しなきゃだし」
「私明日は一日中軽井沢でロケ。2人で長い時間いられるのは今日で一旦最後だね」
「寂しいよ…」
「ねえ、今日の夜夏祭り行かない?」
「夏祭り?」
「去年買った浴衣、着たいからそのついでに」
「京子が言うなら大賛成だ」
すぐさま三ノ輪の基地に戻り、動画撮影・編集をある程度終わらせて浴衣に着替える。去年は着付けを外部の人に任せていたが、関係が密になった今年は互いに着付ける。
「いくよ、せーの!」
「痛い痛い痛い!きつく締めすぎだよタテルくん!」
「悪い悪い」
「力加減バカすぎ!だいたいタテルくん、ペットボトルの蓋もジャムの瓶もきつく締めすぎ」
「ごめんって」
「タテルくん、去年より太ったよね。帯きつくない?」
「別に。余計なお世話だよ」
「茨城から帰ってくる頃には少し痩せるといいね」
「何その言い方。バカにしてるの?」
「痩せたら絶対イケメンだと思うんだけどなタテルくん」
「…これ以上太らないように気をつける」
小競り合いはありつつも無事着付けを完了した2人。屋台の並ぶ参道を、楽しそうに歩く京子と退屈そうに見回すタテル。
「タテルくん、もしかして屋台嫌い?」
「良い気はしないね。外気に晒された食べ物なんて口にしたくないし、屋台って爆発するじゃん」
「爆発?何言ってんのよ」
「でも京子といれば何も怖くない。京子といると俺、心洗われるんだな」
「それならめっちゃ嬉しい。あ、わたがしなら袋入りだから食べれるね」
「いいね。分け合いっこしよう」
心を許せる恋人と食べる綿菓子は、普段食においては贅沢三昧のタテルであっても格別に美味く感じるものである。
「すごいベタな風景だけど、それを味わえるようになるとは思わなかった」
「タテルくんも人に合わせられるようになって、成長したね」
「ちょっと恥ずかしい。けど嬉しい」
こうして2人は、2人で居られる僅かな時間をみっちりと過ごした。
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