連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』91杯目(風雲児/新宿)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバー・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。
無事同棲を再開した2人。離れ離れだった数ヶ月を取り返そうと、夏を全力で楽しもうと考える2人だったが…

  

—第20シーズン:新宿&???(91〜94+)—

  

スタッフ大石田が久しぶりにYouTube撮影を取り仕切る。
「今日のキョコってるから、自腹を懸けたゲーム再開です!今日のゲームは『書き順クイズ』です!」
「書き順って、漢字の?」
「なら私めっちゃ得意」
「嘘つけ京子」
「ねー嘘じゃないって!ナメてかかると痛い目あうよ」
「俺も根は真面目だから書き順とかちゃんと守るタイプ。手強いと思ってくれ」
「5問出題して正解数の多い方が勝ち。引き分けならサドンデスです」

  

第1問は「上」。初手から迷わせてくる問題であるが、2人とも縦棒を1画目、短い横棒を2画目とした。
「2人とも正解!」
「だよね。『正』と同じような順番、って覚えておけば間違えない」
「そう?私は何も考えなかったけど」
「フィーリングでいくタイプか。ブルース・リーみたいだな」
「青い木がどうした?」
「ブルーツリーじゃなくてブルース・リーだから。もういいや、早く次の問題!」

  

2問目「母」、3問目「何」、4問目「成」、5問目「臣」も、常人なら頭を悩ます問題だが2人ともあっさりクリア。延長戦に突入してさらに3問、正解だけを重ね続ける2人。
「しぶといな。阿部三四一とガバの試合か」
「何それ」
「オリンピックのジュードーだよ。日本対フランスの」
「ふーん。じゃあ私が三四一さんみたいに勝ちます」
「お、おう…」

  

9問目は「座」。まだれと人の字2つを書き余裕綽綽の2人だったが、8画目に京子が横棒を書いた一方、タテルは縦棒を書くというタックルを決めた。
「おっと、ここでついに割れた!脱落するのは…京子さん!」
「え待って何何何?ズルいってこのひっかけ方」
「ひっかけじゃないでしょ」
嘲笑うタテルは、残り2本の横棒を正しく書き勝利を決めた。
「タックル大成功。俺はガバだ勝者だ」
「え待って、三四一さんは負けたわけ?」
「何も知らないんだね京子。え、じゃあ最終的に日仏どっちが勝ったかは…」
「聞かないで。恥ずかしい…」

  

無知を晒した京子とそれをおちょくるタテルは新宿駅に降り立った。
「えっと、今日行く風雲児って店はどこだ?…ん、どこをどう行けばいいのか」
「しっかりしてよタテルくん」
「新宿駅広すぎてわからないんだよ〜」

  

新宿に不慣れなタテルの代わりに解説すると、南口を出て目の前に横たわっている甲州街道を右(西)に進めば良いだけの話である。南山堂薬局の角を曲がれば店は見えてくる。因みに京王新線・都営新宿線の新宿駅からであれば曲がる角のすぐ近くにある出口へアクセス可能である。

  

平日に来たため、待つことなく入店できた。入口正面のカウンター2席に座る。
「あぁ暑い!こんな暑い中歩き回させないでよ」
「俺だって本望じゃない」
「東大卒が方向音痴だなんて信じられない」
「それやめろって。東大だからって何でもできる訳じゃないんだよ」
「え〜そうなの?」
「…でも京子に言われると悪い気しないな」

  

ここはつけ麺の方がメジャーなようで、京子はつけ麺を選択していたがタテルはラーメンにした。濃厚なスープはややもするとジャンキーに思えるが、鶏白湯と節が主体であり上品さを垣間見る。麺もそれに合わせて強めのものになっており、麺を啜ってスープを飲んで、とすれば丁度良い塩梅である。
得製(券売機にはこう書いてあった)トッピングの肉は少し硬さが目立ち、脂身がほろほろする感覚があると良いと思ったが、豚と鶏で喧嘩になるとか、濃い味に脂身は疲れる、といった反論も考えられる。

  

「思い出すな、東大時代のこと」
「え聞きたい東大の話」
「サークル終わりにみんなでご飯食べようってなったら、井の頭線の線路沿いにあったラーメン屋さんによく行ってた」
「いいなぁ」
「今いるこの店は、その当時の雰囲気をめっちゃ思い出させてくれる。俺が難解なボケを言って同期を困らせたり、先輩にガツガツ絡みにいってヨシヨシしてもらったり」
「まったく。タテルくんって、強がってるくせに意外と甘えん坊なんだね」
「何だよ…」
「でもそういうところが面白い」
「俺、面白い?」
「面白いと思うよ。ていうか、面白いと思うからあの時声かけたんだよ」
「あの時って、初めて会った時のこと?」
「そうそう」
「俺すっごく戸惑ったからね。印象も違かったし」
「ほぼすっぴんだったからね。懐かしいな、なんか今日はやけに出逢った頃のこと思い出す」
「それ俺も思ってた。久しぶりにゲームやって意地の張り合いして、負けた京子が負けを認めなくて」
「タテルくんがよくわからないたとえ持ち出して」
「ヘッ。これぞキョコってる、って感じだな」
「タテルくんに出逢えて良かった」
「俺も京子に出逢えて良かった。京子無しの人生なぞ考えられないよ」

  

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