連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』81杯目(琥珀/雑色)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」の元メンバー・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。
セカオワの聖地club EARTHを特別に使わせてもらい、2人は1週間の歌唱合宿をすることになった。ヴォイストレーナー(兼芸人)・菅井ちゃん最恐オンリーワンによる厳しい指導を受けながら歌声を磨き上げる。

  

2日後夜に迫ったライヴに向け歌い込みにも力が入る。一線を越えた2人のロンリー・チャップリンは見違えるほど成長した。相変わらず菅井は褒めようとしないが、良くなったかなっていないか言われたら良くなってる、とは言われた。
しかしこの期に及んで問題が発生する。この日から生バンドを入れた練習が始まったのだが、迫力あるサウンドに2人の声が負けてしまっているのだ。
「おい、今までしてきた練習は何だったんだ」
「…」
「音に救われるようでは未熟だぜ。それじゃ歌とは言えない」
「そんな…」
「なあ、2人とも毎日昼ラーメン食べているんだろ?」
「はい…」
「今日は一緒に行っていい?」
「えっ、でも今日行くところは予約制で…」
「大石田さんの分含め3席とってあるでしょ?大石田さんがいいって言ってくれたから俺が代わりに行きます」

  

信頼はできるが緊張はしてしまう相手とのラーメンウォークとあって、タテルと京子は何を話せばいいかわからなくなってしまう。しかしそこにいた菅井は鬼ヴォイストレーナーの顔をしていない。
「何で黙っているんだい?せっかくキョコってるの2人とラーメン食べられるというのに、これじゃつまらないぜ」
「ごめんなさい、緊張してしまって」
「今の俺は2人の大好きな芸人の顔だ。友達のように接してくれよな。取り敢えず2人の馴れ初め聴きたいな」

  

京急蒲田で神奈川方面へ乗り換え雑色駅に降り立った3人。西口の商店街を抜け、JR線の踏切を越えると間も無く「琥珀」が現れる。予約していた時間の5分前に到着したが、全体的に押していたようで暫く待たされる。
「いつも徳子さんときょんこぉさんに挟まれて大変そうですね」
「大変って…ネタだからそういうものだぜ。でもアドリブ入れられたりすると戸惑うかもね」
「何でこのトリオになったんですか?」
「女子2人が元々『さのブレム』というコンビだった。俺が前のコンビを解散した後事務所のライヴでコラボしてみて、意外とウケ良かったから組むことにしたんだ」
「最近流行ってますよねそういう結成の仕方」
「タテル君の英語覚えようネタ、あれ大好きなんだよな〜」
「菅井さんに褒めてもらえるとは…」
「あれでR-1出たら決勝行けると思うぜ」
「行けますかね?」
「間違いなく行けるよ。勉強になるネタってタテル君にしかできないぜ。極めてほしい」

  

予約時間を5分程過ぎて入店。スープは醤油と塩とある中、この店の武器である蜆を味わうには塩の方が良いと判断し選択した。

  

噂通り、スープには蜆の甘やかな味が詰まっていて、少し柔らかめの麺が蜆の旨味をホールドする。
チャーシューは穏やかな味付けのものと、フルーティだががっしりした肉質のものの2種類。蜆の味わいに集中するためチャーシューはこれくらいの味で丁度良い。
ワンタンは小ぶりですぐ終わってしまう。
また、紫玉ねぎと芽ねぎは蜆の良さをかき消してしまう。避けて食べていたが、最後汁完する時に結局邪魔される。蜆を味わうのにネギは余計に思う。

  

「美味しいラーメン食べさせてくれてありがとう。そうだ、結局2人は付き合っているという認識で良いのかな?」
「はい。昨日もくちづけ交わしてますし」
「グループも卒業したので恋愛解禁です」
「わかった。お幸せにな」

  

合宿所に戻ると菅井は鬼ヴォイストレーナーに戻った。
「タテル殿、俺に続けて発声だ。あなたがい…」
「ま望むなら」
「途中から歌わないで。俺に続けてだ。あなた」
「が今…」
「歌うな!途中から歌うな、と言っただろ!コントじゃないんだから」
「すみません、焦ってしまってつい…」
「タテル殿の悪い癖だ。前のめりだから良いってものじゃないわよ」

  

一方で菅井は秘伝の発声法を2人に伝授する。
「こうグワァーって体を動かしながら発声してみて。馬鹿みたいだけどずべこべ言わずやる」
「アァァ〜!」
「声出ているの、わかるでしょ?喉がどうなっているか、体がどうなっているか、しっかり意識して続けてみなさい」

  

その後はラーメンを食べに行くこともなく練習に明け暮れた。オリジナル曲もしっかり仕上げ、愈々ライヴ本番を迎える。無観客配信ではあるが、菅井と大石田、一部綱の手引き坂メンバー、京子とタテルの両親は現地で見守った。

  

セットリスト
1 炎と森のカーニバル
2 禁区
MC①
3 センチメンタルジャーニー
4 春愁
MC②
5 恋人
6 ゲッダン(promise)
7 ロンリーチャップリン
MC③
8 東京ランデヴー

  

本番直前、2人は互いに背中を叩いて気合を入れる。
「タテルくんいくよ、オンリーワンナンバーワンワンダフル!」
「…力弱いって」
「しょうがないでしょ」
「まあそれでこそ京子だ。じゃ俺からも、オンリーワンナンバーワンワンダフル!」
「痛って、強すぎるって!」
「俺ら、力加減へたっぴだね」
「アハハハ」

  

秘密基地に似つかわしい2曲で特別感を演出する。恋仲の2人はMCもしっかり盛り上げ、ゲッダンでは力強く歌い上げる京子の横でタテルがブレイキン風の動きをして会場を笑いで包んだ。

  

オリジナル曲の東京ランデヴーは、その名の通り東京をデートする男女を描いた曲。今までデートというデートをしてこなかった2人が、今後あれしたいこれしたいと考えていたことを盛り込んで歌詞にした。菅井は涙しながら最大級の賛辞を送る。
「俺の指導は確かに厳しかった。褒めることも殆どしなかった。でも心の中では感心していた。個性を損なわず、心のこもった歌を追求する情熱がしっかりある。貴方達は立派な歌い人です。指導していてとてもやり甲斐がありました、ありがとうございます」
抱き合って感涙する2人。配信を観ていた視聴者達からも好評の声が多く、次はアルバムリリースを、などという声もあった。

  

「ここ離れるの寂しいな」
「俺もだ。ずっと2人きりの時間が続けばいいのに」
「ねぇタテルくん、私たちそろそろ同棲しない?」
「同棲か…そういえば俺の周りの同世代、みんなしてるな」
「でしょ。じゃあ1週間後、必要な荷物持ってきて三ノ輪の基地でね」
「まさか俺が誰かと同棲することになるとは思わなかった。どうなるんだろう、楽しみでもあるし緊張もする」

  

NEXT(第18シーズン)

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です